ニュース
TDK、小型光電融合素子「スピンフォトディテクタ」説明会 光に反応する磁気デバイスの動作実証に成功
2025年4月16日 13:52
- 2025年4月15日 発表
TDKは4月15日、波長 800nmの光を20ピコ秒という超高速で光を検知できる素子「Spin Photo Detector (スピンフォトディテクタ)」を開発し、日本大学と共同で世界で初めて原理実証に成功したと発表した。
これは従来の半導体を用いた光検知素子と比較して10倍以上の反応速度となり、AI進化によるデータ処理速度が10倍に向上することや、さらに消費電力削減という社会課題の解決が期待されている。そのことから光電融合の分野において、スピンフォトディテクタは重要なデバイスとして応用可能であるという。
4月15日に都内会場にてスピンフォトディテクタに関する説明会が開催され、説明会ではTDKから技術・知財本部 応用製品開発センターゼネラルマネージャーの榎戸靖氏とTDK 技術・知財本部 応用製品開発センター 次世代電子部品開発部 室長の福澤英明氏が解説を行なった。
榎戸氏によるとTDKは90年にわたる歴史の中でオーディオやビデオ、PC、スマートフォンなど時代に対して欠かせない製品を提供することで社会の変革に対して貢献してきた企業とのこと。そして社会は今後もAIを始めとしたトランスフォーメーションにより一層加速し進化していくことが求められているが、TDKではその中で使用される電子部品も一層の進化が必要とされるとともに、新たな原理であるとか、新たな手法などが必要になると考えているそうだ。
そしてTDKは2024年の中期経営計画にて「TDKがありたい姿」として長期ビジョン、TDKトランスフォーメーションを策定。この長期ビジョンには社会のトランスフォーメーションへの貢献をしつつ社会からもフィードバックを受けて、TDK自体がトランスフォームし続けていくという意味のあるものとのこと。そしてこのサイクルを加速させることでTDKはサステナブルな未来に貢献していきたいということだった。
なお、世の中で消費される電力のうち、非常に大きいのがデータセンターのデータ処理に関わるもので、今後、AIの普及が進んでいくと負荷はさらに膨大になっていくことになる。
そこで求められる新技術として「さらなるストレージ増大のための記録技術」「データ通信の高速化のための光電変換技術」「演算そのもの高速化効率化のための高性能サーバー技術」「熱問題を解決する液浸冷却を含めた熱マネジメント技術」などが重要になっていくという。
1935年に設立したTDKはフェライトのインダクターを作ることからスタートした会社で「磁性に関してはどこにも負けない」という気概を持って研究開発と製品化を進めてきたという。そしてその1つがハードディスクドライブ用の読み取りや書き込みに使用される磁気ヘッドの技術だ。
磁気ヘッドに用いられる時期抵抗の効果はスピントロニクスの基礎となる現象で、一般的な磁性製品や磁性部品は磁性そのものの制御や、磁気によって電気を制御するといった使い方をしているが、スピントロニクスは電子の電気的性質と磁気的性質の両方を同時に使用する技術になる。スピントロニクス技術を極めることで、TDKがいままで製造していたハードディスク用のヘッドだけではなく、さまざまな製品にこの技術を応用展開していけるようになるとのことだった。
そして現在、スピントロニクス技術を進化させることで光のセンシングを行なうことに成功。榎戸氏によると「これは言うなれば光電磁融合を可能としたデバイス」とのこと。
このような光電変換を行なう既存の装置としてはフォトダイオードがあるが、今回発表されるTDK独自の光検知素子、スピンフォトディテクタはそれとはまったく異なる動作原理があり、既存のデバイスにない多くのメリットがあるという。そのメリットについては技術・知財本部 応用製品開発センター 次世代電子部品開発部 室長の福澤英明氏より説明されることになった。
福澤氏がまず取り上げたのが光通信、光配線といった技術が、データセンター、とくに生成AIで必要とされていることだ。
生成AIではその性能は半導体で決まるものと思われているが、現在、生成AIにおいて複数使用するGPU間の電気通信配線がボトルネックになっていて、電気では限界が来ているといわれる。そこで電気の代わりに光を使うという大きな変化の必要性が議論されているそうだ。そしてキーワードとして挙げられているのが光電融合という光と電気の融合。これがメガトレンドとして、いろいろなところで協議されている。
この流れに対してTDKでは、独自のものとして「光、電気、磁気」のすべてを融合した光検知素子を提案し、これを光電融合の「スピンフォトディテクタ」と名付けている。
スピンフォトディテクタはエレクトロニクス、フォトニクス、スピントロニクスの融合技術であり、特徴としては20ピコセコンド(ピコは10のマイナス12乗)という超高速の光応答を検知できるもので、実際に日本大学との共同の超高速の測定実験によりその原理実証にも成功している。
また、スピンフォトディテクタでは基板を選ばずに作成可能なことも特徴で、それを生かすことで超コンパクトな光トランシーバー実現ができるようになるという。ちなみにTDKは2024年に光送信技術として「TFLN(Thin Film LiNbO3)」をリリースしているので、これを光受信のスピンフォトディテクタと合わせることで送受信一体の超コンパクトトランシーバーの実現が見えてくるとのことだ。この光の送信デバイスと光の受信デバイスの両方を手掛けているのはTDKの特徴であるということだった。
そして今後はスピンフォトディテクタの基板を選ばないという特徴を生かし、光の送受信装置を一体化させることで、非常にコンパクトな光トランシーバーを実現するというビジョンがあるという。
動作原理ついての解説はまず現在、TDKが得意としているハードディスクヘッドなど磁気センサーの動作原理から説明された。センサーの磁性膜に磁界が近づくと磁界の向きが変わる。それに応じて電圧が発生して、その電圧で検知するのがハードディスクのヘッドであり、いまの磁界センサー。
それに対してスピンフォトディテクタは非常に類似していて、磁界を近づけると電圧が発生するという素子となっている。ただ、スピンフォトディテクタは光を使うもので磁気ではなく光を当てると磁界が変化して電圧で検知できるものとなる。磁界磁気デバイスであっても光で反応するということだ。そしてこれはTDKが得意とする評価技術や知見がすべて生きるものになっているとのことだった。
さて、現在、広く使われている光検知素子は基本的に半導体であり「光検知といえば半導体」がいまの常識となっているが、スピンフォトディテクタは光検知の半導体の代わりになるものだが半導体ではないところがポイント。スピンフォトディテクタは基板を選ばないし、高温にもならない。そして磁気センサーと基本的に同じ特性なので極めて融通が利くという電子部品であるという部分は抑えておきたいところだ。
今回の説明会ではスピンフォトディテクタは、データセンター、生成AIの光通信、光配線の光トランシーバーとしての活用について説明されたが、そのほかにもさまざまな応用先があるという。そこで例として挙がったのがAR/VRスマートグラス、航空宇宙、メディカルヘルスケア、イメージセンサーというもので、AR/VRスマートグラスでは可視光でも高速に検知できることからAR/VRのモニター素子としても使える。
そして航空宇宙の分野。磁気デバイスは原理上、宇宙線への耐性が強いと一般論として言われているというため、光検知素子を露出させることで航空宇宙でもいままでできなかった高速の光検知ができる可能性もあるという。ちなみに半導体が宇宙線にたいして弱い面があると言われているので、CPUなどは例えば金属でシールドして宇宙線が来ても透過しないようにしているようだ。
次にヘルスケア、メディカルヘルスケア。現在、検体検知に関しては検体に光を当てて反射などから認識するといったように、光による検知は一般的なものではあるが、やはり検知装置にもいろいろ限界がある.そこに対して新しい素子による検知ができると検体検知の方法、考え方も変わるのではないかということだ。
そしてイメージセンサーへの活用だが、フォトディテクタは超高速で検知できるので、原理上では超高速なカメラとなるということだ。



















