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TDK、スマートグラス用可視光フルカラーレーザー制御デバイスを開発 「CEATEC 2024」で公開
2024年10月11日 09:05
- 2024年10月9日 開催
TDKは10月9日、AR/VRスマートグラスにおいて4K解像度を実現するスマートグラス用可視光フルカラーレーザー制御デバイスを開発し、動作を公開した。このデバイスはニオブ酸リチウム(LiNbO3)薄膜を用い、レーザー光の強度を高速に制御し、4K以上の映像解像度を可能にする。量産を視野に入れた開発をしており、2025年にサンプル出荷、3~5年後には量産を開始する予定だ。
可視光レーザーを高速制御して高解像度フルカラーを実現へ
現在のディスプレイは、1点ずつ順番に点灯させて画像を表示するため、高解像度になるほど点灯速度が必要となる。これまでのレーザー光制御は、レーザーの光強度を電流で制御しており、その変化速度は1GHzが限界だった。
しかし、今回開発された新開発したニオブ酸リチウム薄膜を用いたスマートグラス用可視光フルカラーレーザー制御デバイス(以下、新開発デバイス)は10GHz以上の速度で光の強弱を制御できる。
電圧変化で通過する光の量を調整できるため、レーザーの光を一定とし、新開発デバイスを通して光の強弱を付けることで高速にレーザー光を制御し、結果的に高解像度の表示が可能で、4K以上の映像解像度に対応できることになる。
また、レーザー光を直接制御する場合は電流で制御していたが、新開発デバイスではデバイスにかける電圧で制御するため、微弱な電流しか流れず低消費電力化にも期待ができるとしている。
網膜に直接投影するスマートグラスを想定
新開発デバイスは、網膜走査投影(DRP)技術により、非常に弱いレーザー光を直接網膜に当てて、人間に映像として認識されるスマートグラスで利用することを想定したものとなる。
機能検証はTDKと網膜走査投影技術があるQDレーザが共同で行なったもので、実際に高解像で映像が見える様子が公開された。
赤、青、緑の光の3原色のレーザー光を、新開発のデバイスを通し、3原色のそれぞれの強さを制御することで、フルカラーを表現することにできた。なお、今回はニオブ酸リチウムを使って可視光フルカラー用途へ展開できることを実験確認した段階のため、見ることができるものは色を表現するにとどめている。
TDKは量産メーカー、量産にこだわり
ニオブ酸リチウムを使ったデバイスは従来、バルクで基板にボンディングして製造すること検討していることが多かった。ところが新開発デバイスは、TDKの技術で基板にスパッタリング(基板に製膜する技術で製造)して量産しやすくしている。さらにTDK独自の薄膜作成技術により結晶性の課題も克服している。
新開発デバイスの発表会では、TDKの技術・知財本部 応用製品開発センター 次世代電子部品開発部 第1開発室室長の福澤英明氏が「TDKは量産メーカー」と強調し、新開発のデバイスについても量産技術にこだわっているとした。
福澤氏によれば、ニオブ酸リチウムを利用する気運は高まっているものの、スパッタ法に取り組んだのは主にTDKだけ。ただし、今後はスパッタ法を採用するところも多くなることが予想され、現在は先行しているTDKだが先を越されないようにするとした。
ARに適した特性のある網膜走査投影技術、眼球の動きに追随する技術も開発
新開発デバイスを活用することになると想定されるスマートグラスで人間に映像を届ける方法は、レーザー光線による網膜走査投影(DRP)技術レーザーがある。
今回、共同開発したQDレーザから視覚情報デバイス事業部 VISIRIUM最高技術責任者(CTO)同部 先端技術開発グループ長の鈴木誠氏が網膜走査投影技術について説明した。
網膜走査投影技術は、直接レーザー光を人間の網膜に投影する技術。ARに応用した場合は、目の正面に見えているものに目のピントがあった状態でも、網膜に届けられた映像は目のピントの状態に関係なくはっきり見え、ARを実現する際には大きなメリットとなる。
現在のデメリットとして視線をずらす(眼球が回転)と光線がケラれて画像が消失するなどの問題があり、眼球の回転に画像投影光が追随するアイトラッキングシステムの開発を進めている。
また、鈴木氏は、AR実現のほか、現在、問題になりつつある若年齢者がスマートフォンを近くで見て近視になるこのとの抑制にも期待できるとした。
CEATEC 2024では、新開発デバイスの動作や網膜走査投影のARグラスを試せる
今回発表した新開発したデバイスであるニオブ酸リチウム薄膜を用いたスマートグラス用可視光フルカラーレーザー制御デバイスは、10月15日から幕張メッセで開催されるCEATEC2024のTDKブースで展示する。実際に新開発デバイスで色の変化を見ることができる。
また、QDレーザのブースには開発中のアイトラッキング技術を搭載した網膜投影型レーザアイウェアを展示、実際に体験することができる。
こちらには新開発デバイスはまだ搭載していないが、網膜走査投影技術の体験とともに、ARの可能性を感じることができる。今回、発表会場で展示されたデモ機では、後ろのものを同時に表示するようしていた。
今後、どのように実用化されるかは実際の機器メーカーによるが、ARを使って後方確認をしやすくするほか、危険情報を人間に知らせるようなことをすれば、車載デバイスとしても活用できる可能性もあるという。