インプレッション

ジープ「コンパス」(車両型式:ABA-M624/タスマニア島試乗)

1輪が浮くようなガレ場で日本未導入の「Trailhawk」にも試乗

 2017年12月に日本国内で発売が始まった2代目のジープ「コンパス」。4400×1810×1640mm(全長×全幅×全高)の使い勝手を重視したコンパクトなボディサイズながらも、内外装の質感や作り込みはプレミアムの領域を目指したものになっていて発売開始から人気を集めている。すでにジープブランドでは、コンパクトSUVの「レネゲード」が2015年から日本国内で販売されているが、こちらの外装デザインは類いまれなオフロード性能を誇るラングラーの流れを汲んでいるのに対して、コンパスはフラグシップモデルとなる「グランドチェロキー」のDNAを取り入れている。

 100カ国を超えるグローバルで展開される新型コンパスは、地域に合わせて合計で17種類のパワートレインが用意される。国内のラインアップは「Sport(スポーツ)」「Longitude(ロンジチュード)」「Limited(リミテッド)」の3つのグレードで、全車が直列4気筒 2.4リッターマルチエアエンジンを搭載。エンジンスペックは、最高出力129kW(175PS)、最大トルク229Nm(23.4kgm)を発揮する。組み合わせられるトランスミッションは、SportとLongitudeが6速ATで、Limitedは9速ATとなっている。

ジープブランドの日本国内の販売台数は年々増加していて、2017年は1万台をセールス。前年対比でも7.6%の向上となった
ジープブランドはグローバル展開を行なっていて、工場は北米、南米、インド、中国と4カ所に設けられている
「コンパス」は同じシャシーを採用する「レネゲード」に対して、全長、全幅、ホイールベースともに拡大されている
高いオフロード性能を併せ持っているコンパス

 このように各地域でさまざまなモデルが販売されている新型コンパス。その中で、アジアパシフィック向けの試乗会がオーストラリアのタスマニア島で実施された。主催したのはFCA オーストラリアで、アジアパシフィックとして参加したのが日本とインド、ニュージーランド、オーストラリアの4カ国だった。本社が主催する国際試乗会はこれまでも開催されてきたが、アジアパシフィックのみのリージョンで区切った試乗会はブランドとして初の試みとなったそうだ。

 我々の日本メディアは、成田からオーストラリア南部の大都市となるメルボルンまで深夜便で飛び、そこから国内線へと乗り継いでタスマニア島の州都となるホバートを目指した。成田を出発して15時間ほどで到着したホバートは、20万人ほどが住むタスマニア島の主要都市で、オーストラリアではシドニーに次いで歴史を持つ古い町となる。ハーバー沿いに建てられたホテルでプレゼンテーションを聞いて1泊し、いよいよ試乗がスタートした。

試乗会が行なわれたのは、タスマニア島の州都となるホバート。宿泊したホテルはハーバー沿いに建てられていた

 日本のメディアに割り当てられた試乗車は、日本国内で発売されているLimitedと同様のもの。同日に試乗が行なわれたニュージーランドとインドチームは、日本国内ではラインナップされていない「Trailhawk(トレイルホーク)」のガソリンモデルとディーゼルモデルとなっていた。オフロードの一部ではトレイルホークに乗ることもできたので、その性能についても触れてみたい。

日本メディア用に用意された「コンパス Limited」。スペックは国内で販売されているものと同様になる
コンパスのボディサイズは4400×1810×1640mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2635mm
最高出力129kW(175PS)/6400rpm、最大トルク229Nm(23.4kgm)/3900rpmを発生する直列4気筒 2.4リッターマルチエアエンジンを搭載。組み合わせられるトランスミッションはSportとLongitudeが6速AT、試乗したLimitedは9速ATとなる
コンパス Limitedのインテリア
ジープ・アクティブドライブ4×4システムを採用して、セレクテレインシステムで「AUTO」「SNOW」「SAND」「MUD」「4WD LOCK」の5つの走行モードを選択可能

 まず、タスマニア島が舞台となったことについて、FCA オーストラリアの担当者は、「タスマニアは、タフなオフロードや大小の岩が織りなすガレ場などが豊富にあり、コンパスの乗り心地や俊敏性を試すことのできるワインディングもたくさんあります。その2つのシチュエーションが近いことも、このタスマニアを試乗の場所として選んだ理由になります」と語っていた。

 3カ国のメディアが分乗したコンパスのキャラバンは、ホバートの町を出てワインディングを走行する。制限速度は70~110km/h程度となっているので、それなりのハイスピードで丘陵地帯を疾走。コンパスは、レネゲードなどと共通となるモジュラープラットフォームの「スモールワイド4×4アーキテクチャ」が採用されている。トレッドやホイールベースは、レネゲードに対してコンパス用に延長されているが、軽量かつ高剛性なシャシーの印象は変わらない。サスペンションのストローク量も余裕があり、アンジュレーションのある道路でもしっかりと路面にタイヤが接地していて、車体が跳ねることもない。トランスミッションは9速ATなので、速度域やドライバーが求めるアクセル操作に対して適切なギアが選択される。2.4リッターのマルチエアエンジンはレブリミットが6500rpmほどなので高回転を常用するタイプではないが、中低速域からトルクを発生させるので低回転域からでもしっかりと加速感を得ることができる。

 ワインディング路を1時間ほど走ると、今度は舗装されていない細かい砂利のオフロードが現われる。Limitedはジープ・アクティブドライブ4×4システムを採用していて、セレクテレインシステムで「AUTO」「SNOW」「SAND」「MUD」「4WD LOCK」の5つの走行モードを選ぶことができる。オフロードをAUTOで走っていると、スピード域によってはリアタイヤが滑りだすこともあるが、滑り出すと4WDシステムが車体を安定方向に制御してくれる。SANDやMADなども試したが、4WDのロック量が多少変わるようだがクルマの挙動としてはそれほど差がない。安定性を求めるならば4WD LOCKを選ぶのがよさそうだ。

 そうこうしている間に、砂利のオフロードから大小の岩が織り重なるガレ場となった。ところによって段差が激しく、フロア下を擦ってしまうのではと思うほどの路面。それでもコンパスは30度のアプローチアングルと33.6度のディパーチャーアングルを持っていて、本格的なオフロード性能も併せ持っている。想像以上に深い段差でも難なく走破していき、きつい上り坂でも4WD LOCKモードを使えば誰でも走行できるほどの安心感を持っていた。

 このガレ場のコースで、少しだけTrailhawkに乗る機会も与えられた。TrailhawkがLimitedと異なるのは、専用のフルタイム4WDシステムを装備しているところ。また、より本格的なオフロード走行も視野に入れているため、フロア下のエンジンカバーやリアメンバー付近などにスキッドプレートが装着されている。

ハイエンドモデルとなる「Trailhawk」は、専用の4WD制御システムやオフロード走行に適したスキッドプレートを装備する。エンジンは、2.4リッターのガソリンモデルと2.0リッターのディーゼルモデルを用意
Trailhawkに搭載されたディーゼルモデルのエンジンルーム
Trailhawkのインテリア
Limitedと同様の作りとなっているが、4WD制御システムが異なっている
Trailhawkのエンブレム

 ガレ場のオフロードは奥に進むほど厳しいコースとなり、ときには1輪が浮くほどのシチュエーションもあった。Trailhawkは、「ROCK」と呼ばれるガレ場に合わせた4WD制御のモードもあり、ROCKを選択して走行すると、浮いたタイヤをものともせずに前進していく。フロア下を擦るほどの段差もあったのだが、それでもドライバーのアクセル操作に呼応してスタックすることなく走破した。Limitedにはここまでの走破性はないが、それでも国内のオフロードならば、どんな環境でも走行することができるはず。

 オフロードやワンディングを中心とした、わずか半日の試乗だったが、それでも新型コンパスの本格的な性能や使い勝手、快適性は十分に堪能できた。気になるTrailhawkの国内への導入だが、まだ決まってはないそうだ。だが、レネゲードのグレード展開を見てもTrailhawkが導入されていることを考えると、そう遠くない時期にお披露目されるかもしれない。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。