インプレッション
ジープ「コンパス」(車両型式:ABA-M624/公道試乗)
2017年11月17日 00:00
プレミアム感が高まった新型コンパス
かつて、こんなにも長く丁寧にデザインのプレゼンテーションをしたジープモデルがあっただろうか? そう感じるほどに、本国から発表会のために来日したデザインマネージャーのクリス・ピシテリ氏は熱のこもった言葉を次々と繰り出した。実際、目の前にした新型「コンパス」はとてもプレミアム感が高まり、実寸よりも堂々と大きく見え、それでいてジープらしいタフさも感じさせる、かなり魅力的なデザインだ。
「グランドチェロキーのベイビーを創ろう」とスタートしたという新型コンパスのデザインは、意図的にプレミアム感が強い方向性に振っている。それはやはり、初代が登場した2012年当時にはなかった、「レネゲード」というエントリーモデルの存在が大きい。4400×1810×1640mm(全長×全幅×全高)というサイズは、レネゲードの4255×1805×1695mm(全長×全幅×全高)より大きいことは確かだが、その差はわずか。そのため、キャラクターを明確に分ける必要があった。そしてもう1つは、「コンパクトなモデルだからといって、安っぽい、品質が低いという思い込みを払拭したかった。そのためには、デザインがとても重量な役割を果たすと考えたのです」ともピシテリ氏は語った。
そのデザインでとくに印象的な部分は、まずルーフライン。これは「ズラリとクルマが並んだ広い駐車場で遠くから見ても、ひと目で新型コンパスだと分かるように」という意図が込められ、サイドミラーを起点に一筆書きで太く力強く、それでいてエレガントさも兼ね備えたラインだと感じる。正面から見れば、深く傾斜したAピラーでフロントマスクからの奥行きが際立ち、ドンッと迫力あるフロントビューを印象づける。そしてサイドから見ればCピラーまで伸びやかで、自由で開放的なイメージが湧き上がる。私が実寸よりも大きく感じたのには、そう意図したデザイン上のテクニックが駆使されているからだとピシテリ氏は言う。ホリゾンタルラインと呼ぶ横のキャラクターラインを多く入れることで、高さよりも長さが強調されるのだ。また、「Sport」「Longitude」「Limited」と3つあるグレードのうち、Longitudeには初めてブラックペイントルーフを採用しており、ボディカラーとのコントラストがとても斬新。その下の太いメッキラインとの相乗効果で、これもボディを長く見せることに貢献しているという。
もう1つ特徴的なのは、瞳をイメージしたというLEDヘッドライト。白いトリムラインがぐるりとライトを囲み、黒目と白目のようになっている。見るたびに、愛着が湧いてきそうな演出だ。
そして、私たちに「これぞジープの一員」と思わせる、7スロットグリルやクラブシェルタイプのボンネット、台形のホイールアーチといった伝統のモチーフも健在。これらは1941年以降のジープモデルのほとんどに採用されているモチーフだが、新型コンパスでは7スロットグリルの1つひとつに黒い縁取りを施したり、台形モチーフをインテリアのセンターパネルにも表現したり、「こうきたか!」と思わず微笑んでしまう楽しいスパイスとなっている。ピシテリ氏は「私たちデザインチームは少ない人数なのですが、誰もがジープ愛、コンパス愛は負けないと思っているんです」と教えてくれたが、まさにそんな愛が生み出した、新世代ジープの魅力にあふれたデザインだ。
FFでもジープらしさに溢れる乗り味
さて、新型コンパスのプラットフォームには、FCAグループの「スモールワイド4×4アーキテクチャー」が採用され、フレーム一体式のモノコックボディ構造となっている。高張力鋼板を全体の約70%に使用し、軽量化しながらボディ剛性をアップ。もちろんこれはジープらしい悪路走破性を考慮したものだが、初代から「都会派ジープ」と表現されてきたコンパスだけに、市街地走行での快適性も十分に考えられたものだ。世界100カ国以上で販売されるため、パワートレーンは全部で17通りあるというが、日本仕様にはすべて2.4リッター直4マルチエアエンジンが搭載される。初代に搭載されていた2.4リッターは170PS/220Nmだったが、今回は175PS/229Nmとどちらも向上しつつ、燃費は11.9km/Lと初代の2.0リッターモデルを上まわっている。トランスミッションは2WD(FF)となるSportとLongitudeが6速AT、4WDとなるLimitedが9速ATだ。
まずはFFモデルのLongitudeから試乗してみた。ステージのメインは市街地だが、近くの牧場を目指して走り、ほんの少しオフロードも体験してみることにする。舗装路では発進時に重さを感じることもなくスムーズに走り出し、6速ATの制御も自然で市街地のストップ&ゴーが扱いやすい。幹線道路の直線も穏やかな加速フィールが続くが、どうも中速あたりでエンジン回転の上昇がややシブいような感覚が気になった。メーターを見るとまだ600kmほどしか走っていない、下ろし立て同然の個体だったので、おそらくもっと慣らしていけばなめらかになるのだろう。
でもアップダウンの多いシーンでも適度な力強さがあり、ハンドリングはおおらかで、肩の力を抜いて走れるのがとてもジープらしいと感じさせてくれる。同クラスのライバルと比較すれば、やや大きめにエンジン音やロードノイズが室内に入ってきたり、高速域での微振動が気になるとは思ったが、ひとたびオフロードへ入れば、路面のギャップをうまく逃しながら思った方向へ導き、それでいて安心感も高い乗り味はさすが。FFでもそうしたジープらしさに溢れているのは嬉しいところだ。
剛性感、静粛性に優れるLimited
次は、ジープ・アクティブドライブ4×4システムを搭載するLimited。これは通常はFFで走行し、必要なときだけ四輪駆動に切り替わるオンデマンド方式だ。こちらは走り出した瞬間から、Longitudeとは明らかに違うドッシリとした剛性感が伝わってきた。ステアリングはやや重厚感が増し、静粛性も高まっていると感じる。新型コンパスの外観からイメージする「プレミアム感」とのギャップが小さいのはLimitedかもしれない。そして加速フィールは低速でも不足はないが、中速以降の方がよりパワーの盛り上がりを感じさせてくれる。身のこなしはこちらもおおらかさがあり、ビタッと路面に張り付くコーナリングというわけにはいかないが、それでも楽しめてしまうのは、ジープという世界観がしっかりあるからだろう。
室内はほどよい広さで、前席はアップライトで見晴らしがよく、後席はすっぽりと包まれるような座り心地。シートは厚みのあるクッションで、身体を優しく支えてくれるような印象だ。収納もたくさん入るグローブボックスや飲み物が固定されるドリンクホルダー、助手席のシート下のポケットなど豊富に揃い、USBジャックや12V電源ソケットなども備わる。また、ラゲッジスペースは大きな開口部とフラットなフロアはもちろん、左右のポケットなど細々した物が迷子にならない工夫も。後席はSportとLongitudeが6:4分割、Limitedが4:2:4分割で前倒しでき、ほぼフラットで広大なスペースになる。助手席の前倒しもできるので、サーフボードなど長い荷物の積載もOKだ。
最後に後席にも座って試乗してみた。やはりロードノイズや微振動などが気になるものの、座面や背もたれのゆったり感がとてもよく、快適。ちなみにSportは16インチ、Longitudeは17インチ、Limitedは18インチタイヤとなり、一般的には乗り心地重視なら16インチか17インチを薦めるものだが、新型コンパスでは18インチがベストだと感じた。
熱いジープ愛が創り上げた素晴らしいデザインと、ほかのクロスオーバーSUVでは味わえない走り。これが全長4.4mというサイズで手に入る新型コンパスは、平日は市街地で買い物などに使い、休日には海へ山へとアクティブに出かけるファミリーにピッタリだ。レネゲードではさすがにファミリーユースはキツいかなと感じていた人にも、ぜひ試してほしいコンパクトSUVだ。