試乗インプレッション

ジープ「コンパス」「ラングラー」なら雪道も安心! 北海道の冬を満喫

星野リゾート トマムでウィンターアクティビティを堪能

冬の北海道をジープ「コンパス」「ラングラー」で楽しんだ!

 40年以上スキーを楽しんでいる筆者にとって冬は特別な季節だ。小学生の頃に自治体が主催する夜行ツアーバスで向かった旧・燕温泉スキー場や、親戚一同で訪れた蓼科東急スキー場はいずれもよき思い出。4輪免許を取得してからは学生時代の仲間と夜通し下道を走り、八方尾根や五竜など白馬方面へと都内から遠征したり、新潟方面での合宿を楽しんだりした。時はゴム製タイヤチェーンの出始めで“簡単装着”と謳われながら微妙にサイズが合わず、男3人でようやく装着できた、なんて過去もあった。

 観光庁が発表した統計データによると、スキー&スノーボード人口はピークの1998年の1800万人(スキーだけのピークは1993年の1860万人)だが、それが2017年では580万人と約32%にまで大きく減少。細かくはスキー人口が全盛期の25%以下にまで減って、スノボ人口は50%以下になり、ここ数年はともに微増微減が続いている。

 とはいえ、日本には世界のスキー場(約5100か所)の約11%近い約600か所(数値はいずれも2015年JMAR発表値)があることから、近年はスキー場そのものも減少傾向と言われながらも未だ“スキー&スノボ天国”であることに変わりない。良質な雪に惹かれ、中国や欧州、豪州などから観光客が押し寄せている現状にも納得だ。

 さて、今回はジープだ。世界的なSUV人気にあやかりジープも順調に販売台数を伸ばしていて、2019年は日本で1万3360台を記録した。ボディサイズと車両価格順に下から、「レネゲード」「コンパス」「チェロキー」「ラングラー」「グランドチェロキー」と5車種をそろえるジープブランド。1941年から続くタフでマッチョな男臭いイメージがウケているのかといえば、必ずしもそれだけが理由ではないらしい。

ジープブランドは年々日本での販売台数を伸ばしている

 ボディサイズが小さく取りまわしがしやすいレネゲードの女性ユーザー比率が28%と高いのは素直に納得できるが、個人的に意外だな、と思えたのがラングラーの16%という高めの女性ユーザー比率。ちなみにコンパスは17%、チェロキーは6%、グランドチェロキーは13%といった具合だ。さらにユーザー平均年齢層に至っては5車種中でラングラーが最も若い38歳(セグメント平均は48歳)。また、FCA広報部によると、ジープのタフなイメージそのままの外観デザイン、そこからくる所有への憧れ、ほかにはない特有のキャラクターが人気の秘密であるという結果も出ている。そこで今回は北の大地、北海道十勝地方でジープの主力車種であるラングラーとコンパスの2車種に試乗、その魅力に迫った。

今回試乗したコンパス Trailhawkのボディサイズは4410×1810×1665mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2635mm。最低地上高は205mm、最小回転半径は5.7m。タイヤはミシュラン製スタッドレスタイヤ「X-ICE3+」を装着。タイヤサイズは225/55R18
最高出力129kW(175PS)/6400rpm、最大トルク229Nm(23.4kgfm)/3900rpmを発生する直列4気筒 2.4リッターエンジンを搭載。トランスミッションには9速ATを組み合わせる。JC08モード燃費は9.9km/L
もう1台の相棒となったラングラー Unlimited Sport。ボディサイズは4870×1895×1840mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは3010mm。最低地上高は200mm、最小回転半径は6.2m。グッドイヤー製スタッドレスタイヤ「ICE NAVI SUV」を装着。サイズは265/70R17
ATシフトレバーの左に手動でレンジを切り替えできる「セレクトラックフルタイム4×4システム」のレバーを配置するラングラーの特徴的なインテリア
最高出力200kW(272PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせる。なお、現在はV型6気筒 3.6リッターエンジンに換装されている

ジープが雪道でも安定して走れる理由

 羽田空港から1時間30分あまりで到着した「とかち帯広空港」から目的地まではコンパスに乗る。グレードは直列4気筒 2.4リッターエンジンに9速ATと「Jeepアクティブドライブ」を組み合わせた「Trailhawk」だ。今シーズンは雪不足が騒がれているがそれは北海道も同じ。取材は1月19日~20日にかけて行なわれたのだが、降り立った19日は天候こそよかったものの、空港周辺の幹線道路は積雪がほぼゼロの状態だった。

 今回の目的地は空港から約80km離れた北海道勇払郡占冠村にある「星野リゾート トマム」。スキー場をはじめスノーモービルや白銀の世界での乗馬、さらにはスノーシューでの散策などが楽しめる一大リゾート施設だ。乗馬経験があり、「ヤマハスノーモビルライセンス」を持つ筆者は、“現地で馬と戯れスノーモービルやスキーを楽しもう”とあれこれ考えながら、帯広広尾自動車道から道東自動車道の道中はACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使い制限速度に従って淡々と走らせた。この間、車載の燃費計は18km/L台を示し続ける。2.4リッターのゆとりと9速ATの細かく配分されたギヤレシオのおかげで、頻繁に遭遇する上り勾配でもギヤ一段分のシフトダウンに伴うわずかなエンジン回転数上昇のみで大抵は上り切るからキャビンは静かだし、割と急な下り勾配でも2段分のシフトダウンで速度は安定するので安心して運転できた。

雄大な景色を眺めながら、道路にほとんど雪がなかったとかち帯広空港の周辺や高速道路を抜け、星野リゾートトマムの最寄りICに向かう

 しかし、その安心も束の間……。トマムIC(インターチェンジ)を下りた途端にツルツルの凍結路面へと様変わりしたからだ。前日に解けた雪が寒さ(早朝の外気温は-18℃)で凍ったためで、急が付く動作はもちろんのこと、外側へと緩い傾斜がついた急カーブではじんわりとしたスローなステアリング操作であっても外へふくらみかける。

 そうした状況では、コンパスが搭載するシャシー統合制御機構「セレクテレインシステム」と、前輪駆動と4輪駆動を自動的に切り替えつつトルク配分を目的としたブレーキ制御まで行なう「Jeepアクティブドライブ」が頼もしい。セレクテレインシステムでは用意されている4モードのうち今回は終始「SNOW」モードを選択。よかったのは凍結路面での駆動力制御とABS制御で、豪雪覚悟で履いてきたスノーシューズにより普段よりもやや大雑把なペダル操作になりがちな状況でも、ラフな車両挙動に陥ることなく、凍結路面でも安心感を取り戻すことができた。

「AUTO」「SNOW」「SAND」「MUD」から走行モードを選べる「セレクテレインシステム」は、終始SNOWモードを選択。雪道でも安定して走行できた
今回試乗したコンパス、ラングラーともに、悪路での走破性能が認められたモデルを示すジープの独自規格「Trail Rated」の称号が与えられている

 翌日試乗したラングラーは、直列4気筒 2.0リッターターボエンジンに8速ATと「セレクトラックフルタイム4×4システム」を組み合わせた「Unlimited Sport」。ちなみに現在販売されているUnlimited Sportのエンジンは2.0リッターターボからV型6気筒 3.6リッターへと換装され、2.0リッターターボは装備を充実させた上級グレードの「Unlimited Sahara」を中心に一部の特別仕様車が搭載する。ラングラーの強みは見た目通りの悪路における高い走破性能で、これについては過去のCar Watchでも紹介済み。

 朝から降り始めた雪に気分は高揚するものの、新雪の下は部分的に凍結しているので実は滑りやすく慎重な運転が求められる。それが坂道ではなおのこと、上り、下りともに気を遣うのだが、ラングラーと走る雪道は悪条件を前にしても平穏無事に過ぎていく。悪路でのトラクション性能確保を考慮した8速ATのギヤ比は滑りやすい路面になればなるほど効果的で、いつも通りのアクセルペダル操作でスッと走り出し速度をのせる。その際、トラクションコントロールなど電子デバイスの介入は一切なし。ブレーキペダルにしてもたっぷりとしたペダルストロークが採られているので踏力コントロールがしやすく、減速度が立ちすぎてヒヤッとしてしまう場面はなかった。

 搭載するセレクトラックフルタイム4×4システムには、ATシフトレバーの左に副変速機シフトレバーが設けられ、そのレバー操作で後輪駆動と4輪駆動を任意に選択できる。それだけでなく、常時4輪駆動の「4H AUTO」にシフトを切り替えると前後輪の駆動トルクが走行状況によって自動的に配分され、走行安定性がさらに高まる。

 もっとも、走行中はそれを意識することなく、ともかくリラックスした状態でハンドル操作と周辺や路面の安全確認に意識を向けることができるから、結果的に疲れが少ない。実際、到着日は空港から凍結路面を経由して雪道を探しながら長時間の試乗を行ない、翌日も早朝から試乗と撮影を行なった後に、スキー、スノーモービルなどを体験して空港へと戻ったのだが、雪道走行後に実感する疲れが非常に少なかった。

星野リゾート トマムに到着した当日の夜は、冬の時期だけオープンしている「アイスヴィレッジ」で非現実感を味わった
翌日は早朝から運がよければ雲海が楽しめるという「雲海テラス」へ。冬は雲海を見れるチャンスはあまりないとのことで、霧氷が楽しめる「霧氷テラス」に名前が変わる。この日は残念ながら霧氷は見られなかった
霧氷テラスにある「てんぼうカフェ」で、雲の形のマシュマロが付く「雲海ココア」をいただく
巨大な棒付きマシュマロも売っていたので、外の焚き火でマシュマロを焼く
足下に大展望が広がる「クラウドバー」や「クラウドウォーク」を堪能。高所恐怖症の方はご注意を……
雪のため雪上での乗馬はできなかったが、スノーモービルを体験。星野リゾート トマムで体験できるスノーモービルは、16歳以上であれば特別なライセンスなどは不要で運転を楽しめる
リゾナーレトマムのホテル内にあるレンタルショップでスキーを一式借りてゲレンデへ。きちんとメンテナンスされた板で、存分にスキーを楽しむことができた

 筆者は現在、後輪駆動のステーションワゴンにスタッドレスタイヤを履かせてスキーに出かけている。ただ、季節の変わり目に遭遇するドカ雪や、凍結した上り勾配路では歯が立たなくなってしまうこともしばしばで、目的地に着くころにはどっと疲れが出る……、なんてことも多い。なので筆者のライフスタイルこそジープがうってつけなのではないか、とも考えた。

 いずれにせよジープが受け継いできた悪路での高い走破性能は、単に極限状態を乗り越えるためだけにあるのではない。多くのドライバーが遭遇する今回のような雪道や凍結路面でも、普段と変わらずリラックスしたまま運転できるよう仕立てられているところからも見出せる。「極限状態をクリアするのだから難易度が下がれば当然」と言われてしまいそうだが、その道のプロから初心者まで万人が持てる性能を発揮できる道具はそうそうにないように思う。冬の北海道試乗を通じ、ジープが日本でも支持される理由が分かった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。