試乗インプレッション

トヨタ「スープラ」、BMW「Z4」、ポルシェ「718 スパイダー」。ピュアスポーツカー3車を乗り比べ

トヨタ自動車「スープラ」(中)、BMW「Z4」(右)、ポルシェ「718 スパイダー」(左)を乗り比べ

 毎年春に開催されるニューヨーク・モーターショーで表彰式が執り行なわれる、ワールドCOTY(世界カー・オブ・ザ・イヤー)のイベント。そこに向けたプログラムのハイライトの1つは、ロサンゼス・オートショーのタイミングに合わせて実施される、多数のノミネート車を一堂に会した大規模な試乗会。

 数えて6回目の開催となった2019年のイベントには、全23台の試乗車が集合。各国から参集した50人の選考委員数と共に、その規模は「過去最高」を記録することになった。

 そんな今回のテスト車中でも特に目を引いたのは、トヨタ自動車「スープラ」やそれと共通のDNAを持つBMW「Z4」。さらには、ポルシェの現行ミッドシップ・モデル中では唯一の6気筒エンジンを搭載する「718 スパイダー」といった、いずれも“一家言”を備える最新の2シーター・スポーツカーだ。

 厳しさを増す一方の燃費規制や騒音規制、そして世界のマーケットで猛威を振るうSUVブームなどの中にあって、今や日本に限らず欧米地域でもピュアスポーツカーは貴重な存在。

 そこで、せっかくの機会ということもありそんなスポーツカー3車の乗り比べを敢行。すると、それぞれが固有に備える特徴的なキャラクターが、より鮮明に姿を現わすのを教えられることになった。

ロサンゼス・オートショーのタイミングに合わせて実施された試乗会。日本からは筆者を含めて6名のジャーナリストが参加した

スープラとZ4、違いは?

日本仕様の「Z4 M40i」(851万円)、「スープラ RZ」(702万7778円)はともに最高出力250kW(340PS)/5000rpm、最大トルク500Nm/1600-4500rpmを発生する直列6気筒DOHC 3.0リッターターボエンジンを搭載する

 国籍とブランドは異なるものの、共にBMW製のメカニカル・コンポーネンツを用い、組み立て工場も同一であることが知られている一卵性モデルのスープラとZ4。いずれもFRレイアウトを採用し、トップグレード車に搭載されるのは直列6気筒エンジン。日本仕様車の場合、ターボ付きの3.0リッター・ユニットは最高出力340PS/5000rpm、最大トルク500Nm/1600-4500rpmと、こちらも同一のスペックだ。

 ただし、今回テストドライブを行なったアメリカ仕様の場合、Z4用ユニットの出力スペックは382bhp/5500-6500rpmと368lb-ft/1850-4500rpm。すなわち387PS/518Nmと、日本仕様から変更のないスープラ用ユニットのスペックを大幅に上まわるのが特徴だ。

 一方、ターボ付きの4気筒化が図られた他のグレードと同様の“718”という名称が与えられているものの、シリーズ中唯一となる自然吸気の4.0リッター6気筒ユニットをシート背後に搭載するのが大きな見どころとなるのが718 スパイダー。

 オープンボディではあるものの、Z4や通常のボクスターとは異なりルーフの開閉は手動式。3車中で随一の軽量指向の持ち主であることは、スープラ/Z4がステップ式の8速ATを搭載するのに対して、組み合わされるトランスミッションがMTに限定される点にも象徴されている。

 まずはお互いに色濃い血縁関係を備えるスープラとZ4を、ロサンゼルス郊外のフリーウェイやワインディング・ロード上で乗り換えつつチェック。すると、前述のように基本的にはそれぞれ共通のランニング・コンポーネンツを採用しながらも、実際にはなかなか興味深いテイストの違いが感じられることとなった。

 前述のように、アメリカ仕様の場合にはスープラより50PS近くも高いエンジン出力が与えられこともあり、当初はピュアなスポーツカーらしいキャラクターをより鮮明に実感できるであろうと予想されたのがZ4。ところが、実際にスープラと乗り比べるとむしろこちらの方が全般に穏やかな印象。よりコンフォート寄りの狙いどころを味わわされることになった。

 例えルーフを閉じた状態でも、クーペ・ボディの持ち主であるスープラの方が、やはりボディの剛性感が上まわって感じられたのは確か。実際この2車の場合、例え厳密な測定を行なったとしても“感”に留まらず実際のボディ剛性値が高いのはスープラであることは間違いない。

スープラ RZのボディサイズは4380×1865×1290mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2470mm

 ところが、そんなボディ構造に起因する差異は別としても、演出という点でもよりハードコアな雰囲気を意識していると思えたのがスープラの走り。ステアリング操作に対する応答性はZ4よりも明らかにシャープで、路面凹凸のいなし方も「サスペンションの設定そのものがこちらの方がハード」と実感できたのがスープラだったのだ。

 それゆえ、ワインディング・ロード上でのハンドリング・マシンとしての振る舞いは「Z4よりもダイレクトで玄人好み」と受け取れた半面で、フリーウェイ上のクルージングがより快適だったのはZ4だった。特に、アメリカのフリーウェイで頻繁に遭遇するコンクリート舗装の継ぎ目の間隔によっては、時にかなり強いゆすられ感に見舞われることのあるスープラに比べると、ラゲッジスペースが限定されるというハンディキャップがありながらも、むしろGTカー的なキャラクターをより色濃く感じることができたのはZ4の方であったのだ。

Z4(日本仕様)のボディサイズは4335×1865×1305mm(全長×全幅×全高)

より濃厚な低重心感覚と接地感が味わえる718 スパイダー

 一方、そんなZ4から718 スパイダーへと乗り換えると、今度は同じオープンボディの持ち主ながらも、人とクルマの一体感がグンと高いことに驚かされることとなった。

 もちろんZ4も、ドライビングの自由度が高いモデルであることは間違いない。ステアリング操作に対するターンインの挙動は適度にシャープ。さらに、コーナリング中盤からコーナー脱出に際して徐々にアクセルの開け方を大きくしていくと、まさにニュートラル・ステアという表現がピッタリの、後輪が軽く外側へはらむ気配を感じながらそれに合わせてステアリングを徐々に戻していくという、いかにもよくできたFR車らしい操作が何とも小気味よく決まるのが、このモデルのハンドリング感覚だ。

 ところが、そんな好印象を抱くことができるZ4と比べても、ステアリング操作に対してよりフロントの動きが軽快かつシャープであると同時に、アクセルONと同時に後輪側がグッと沈み込み、より濃厚な低重心感覚と接地感を味わいながら強靭なトラクション能力を実感させてくれたのが718 スパイダーの走り。

日本では2019年7月に発売された「718 スパイダー」(1237万5000円。左)。新開発の水平対向6気筒 4.0リッター自然吸気エンジンを搭載し、最高出力309kW(420PS)/7600rpm、最大トルク420Nm/5000-6800rpmを発生。ボディサイズは4430×1801×1258mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2484mm

 そしてもちろん、加速シーンでは8000rpmまでストレスなく回る高回転型自然吸気ユニットならではのフィーリングと、フラット6エンジンならではの咆哮も大きな魅力のポイント。さすがのBMW謹製による直6エンジンのバランスのよさも、この前ではいささか霞んでしまうと同時に、「これでは大英断の末に4気筒エンジンを搭載した標準モデルの評価を、この期に及んで押し下げることになってしまうのではないか」と、そんな自身のモデルに対する影響すら抱かされてしまったほどだ。

 もちろん、そんな今回のモデルたちは、立ち位置も違えば価格も大きく異なるので、単純に優劣など付けられないのは当然のこと。いずれにしても、さまざまな規制や世界のユーザーの好みの変化を前に、ピュアスポーツカーの先行きに暗雲が垂れ込めているのが今という時代の現実。だからこそ「こうした走りの楽しいモデルは、ぜひとも今後も生き抜いていってほしい」と心底思えたという点では、共通の“三車三様”だったのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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