試乗インプレッション

トヨタの新型「スープラ」3グレード、「Toyota Technical Center Shimoyama」で試す

6気筒or4気筒、どれがベストバイ?

 5月17日、2002年の生産終了から実に17年ぶりに復活を遂げてみせた5代目「スープラ」。すでに2019年分は売り切れというほどの人気ぶりだが、「いいクルマをつくろう」という豊田章男社長の発言のもと、今変わろうとしているトヨタ自動車の魂が息を潜めるスポーツクーペとして、注目すべき存在だ。

 激動の変革期を迎えている現代。自動車メーカーがこれまででは考えられないスピードで変化していく時代に、ユーザーの心を捉える魅力的な商品を送り出すためには、意思決定を迅速に行なう組織が必要だ。トヨタはすでに仮想カンパニー制をとって商品づくりを行なっているが、スポーツカーに至っては、これまで世界各国でさまざまなカテゴリーのモータースポーツ活動に取り組んできた「TOYOTA GAZOO Racing」が展開する「GAZOO Racing(GR)カンパニー」によって手掛けられる。

 GRの商品群は、ピラミッドの頂点にスポーツ性を極めたストイックなモデルが君臨し、そのエッセンスを取り入れたGR SPORTといったカジュアルに楽しめる仕様までが用意されている。それぞれのユーザーの使い方に合うモデルを通じて、GRが描いた世界観に触れられるというワケだ。これまでもGRのネーミングは商品のラインアップとして存在していたが、GRカンパニー初のグローバルモデルに位置付けられたのが、まさに今回登場したスープラとなる。今後のトヨタのクルマづくりを占うことに繋がるモデルであることは間違いないだろう。

まずは一般道と高速道路で試乗

地下駐車場にズラリと並んだスープラとご対面。まずは公道でその実力を体感

 そんな、今最も注目度の高い日本車のスポーツカーであるスープラだが、市販バージョンとして初となる公道試乗は名古屋からスタートした。私たちは名古屋駅前にあるオフィスに集合し、地下駐車場にズラリと並んだスープラと対面。ここから自走で一般道と名古屋高速道路、伊勢湾岸自動車道などを経由して1時間ほどの場所にある「Toyota Technical Center Shimoyama」に向かう。ドイツのニュルブルクリンクを彷彿とさせる多種多様な世界の道を再現したという、できたばかりのテストコースも気になるところだが、まずはスープラの走行フィールが一般道でどんなパフォーマンスで魅せてくれるのか気になるところだ。

 私が乗り込んだのは、直6ターボエンジンに8速ATを組み合わせた最上級モデルの「RZ」。幸運にも、2019年度に24台限定で販売される「マットストームグレーメタリック」のボディカラーをまとった仕様だ。鈍い光は、筋肉質なプロポーションをいっそう妖しげな雰囲気に映し出すもので、光の加減で違った表情を見せてくれそうだ。

 さっそく乗り込んでみる。ドアの開閉は節度があり、ボディがしっかりしている印象だ。アルカンターラとレザーのコンビネーションシートに座り、シートスライドとステアリングホイールの位置を調整。身長162cmの筆者としては、もう少しシートが前寄りにスライドしてほしいところだが、足りない分は座面を上げることでしのいだ。ドライバーのアイポイントが上がれば、自車直近の死角が減らせるメリットがあるが、スポーツカーであることを考えると、もう少し低い位置に座りたい気持ちもある。

 そのあたりはある程度の妥協が必要なのかもしれない。ロングノーズで古典的なスポーツカーのスタイルで描かれたスープラだが、駐車場でらせん状の通路を走るときは、ドライバーが後輪寄りに座っているせいか、前輪を切りこむタイミングが遅れないように気を遣う場面もあった。走っているうちに慣れるところもあるが、最初にハンドルを握るときは特に注意したほうがいいかもしれない。

 駐車場を出て、周辺の道路に差し掛かると、道を行き交う歩行者たちが立ち止まり、スープラに熱い視線が注がれていることに気付く。トヨタのお膝元である名古屋ということを差し引いても、スープラは待ち望まれていた「日本の宝」であることを実感せざるを得ない状況と言えた。スポーツカー人気は低迷していると言われるが、やはり必要な存在だと実感した瞬間だった。

 試乗車は19インチのホイールにミシュラン「パイロットスーパースポーツ」(フロント255/35ZR19、リア275/35ZR19)を装着していたが、さっそく走行時の乗り心地のよさに驚かされてしまう。工事区間で路面のギャップを乗り越えても、音は聞こえど突き上げを感じにくいのだ。直進性も優れていて、無駄な動きにハンドルを取られるようなこともない。スポーツカーながら、至って安定して走っていける感覚は、GTカー的に長距離を流すような乗り方をしてもストレスが少なそうだ。

 高速道路のJCT(ジャンクション)では、ブレーキ後にカーブに向けてステアリングを切り込んでいくと、思い描いたラインをスムーズにトレースしていける。着実にタイヤが路面を捉えて走れる感触は、まるで路面に吸い付いているかのようだ。後輪駆動のモデルではあるが、終始車体の動きは安定していて、ピーキーな動きをみせる場面はなかった。BMW製の直6 3.0リッターのツイン・スクロール・ターボエンジンは340PSを発生するもので、500Nmという最大トルクも圧倒的。踏み込めばリアタイヤがゆとりをもって車体を前に押し出し、太く轟く直6サウンドを響かせていく。車速が達すれば、あとは低回転で流すことができる。普段はゆったりと、走りたい気分のときは加速のインパクトをもって楽しむといった具合に、乗り手の気分についてきてくれるあたりも大人な性格と言える。

Toyota Technical Center Shimoyamaで3グレード試す

 そんなことを感じ取りながら走っていると、いつの間にか田んぼや畑に囲まれたのどかな田園風景が広がっていた。「Toyota Technical Center Shimoyama」の入口に到着だ。

 クルマの開発は電動化、自動化などに移行しているはずなのに、今さら3000億円もの投資を行ない、2023年には3300名もの従業員数になる予定の新しいテストコースを建設しているトヨタ。2019年4月に一部運用が開始されたのは、車両実験の活動拠点となるカントリー路で、今後は順を追って運動走行性能の信頼性と品質を造り込む巨大なテストコースエリア、愛車ビジネスを牽引する企画・設計拠点のエリアを2023年にオープンする予定だという。

Toyota Technical Center Shimoyamaには直列6気筒 3.0リッター直噴ターボエンジン(340PS/500Nm)を搭載する「RZ」(690万円)、直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジン(258PS/400Nm)を搭載する「SZ-R」(590万円)、直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジン(197PS/320Nm)を搭載する「SZ」(490万円)の3グレード全車が用意された

 今回は新しいカントリー路で新型スープラの3つのグレードで走らせてもらえたのだが、驚かされたのは「どのエリアも撮影OKです」と言われたこと。通常、車両開発の現場は機密を守るために撮影は厳禁だが、こうした場所でそんなオープンな言葉をかけられたことに取材陣一同は驚かされてしまった。GRカンパニーはどうやらこれまでの業界の常識を覆すだけのエネルギーに満ちているようだ。ギリギリまで社内で議論した末に出した「撮影許可」の言葉には、トヨタが今後、クルマを鍛える評価路を多くの人に知ってほしいという思いと、今後「もっといいクルマ」を送り出したいという覚悟が感じられた。

4月に運用を開始した総延長5.385kmの「カントリー路」で新型スープラに試乗

 カントリー路は彼らがニュルブルクリンクの活動で得た体験から、ニュルと似た挙動がクルマに現れるコースを作り上げたという。まずは名古屋からハンドルを握ってきた最上級仕様のRZに乗り込み、編集担当者と私の2名乗車で試乗を行なう。コースインすると、本線に入ってすぐに下り坂のキツいカーブが連続したかと思えば、目の前に立ちはだかる丘の起伏を乗り越える。さらに、荒れた路面を通過したかと思えば、カーブの奥でさらに深くハンドルを切り増すレイアウトになっているなど、タイヤが路面を離してしまいそうな場所さえ存在するのだ。ゆっくり走れば一般道の峠道にも近いが、それなりに速く走れば先が見えないブラインドコーナーも多く、思いもよらない挙動が生まれる厳しい環境が作り上げられている。

 直6ターボエンジンは、踏み込めばリアタイヤが路面を蹴り出す迫力が感じられるもので、車速が高めでカーブに突入するシーンでもリアが唐突に流れ出すような不安感とか、凹凸を乗り越えた時にタイヤの接地感が薄れてヒヤリとするようなことも少ない。もちろん、オーバースピードで突っ込めばタイヤの限界を超えるが、想定の範囲で走っている分には実に操縦安定性に優れた走りを披露してくれる。ホイールベースは「86」より100mmも短く、トレッド幅はこのクラスとしては広く構えたレイアウト。RZは直6エンジンを搭載し、車重1520kgで4気筒のモデルから70~110kgほど重たくなるが、86よりも低い重心高と前後重量配分50:50というバランス感覚のよさが相まって、適度な重さは落ち着きという形で現れてくれていた。

新型スープラ「RZ」のボディサイズは4380×1865×1290mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2470mm。SZ-R、SZでは全高が5mm高くなる。搭載する直列6気筒 3.0リッター直噴ターボ「B58」型エンジンは最高出力250kW(340PS)/5000rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1600-4500rpmを発生

 次に中間グレードとなる直列4気筒 2.0リッターツイン・スクロール・ターボエンジンを搭載した「SZ-R」に試乗。最高出力は258PS、最大トルクは400Nmの仕様になっている。タイヤはRZと同じ銘柄のミシュランのパイロットスーパースポーツだが、ホイールはデザインが異なる18インチが標準装備される。タイヤサイズはフロントが255/40ZR18、リアが275/40ZR18となる。

 6気筒と比べてしまうと4気筒は迫力不足では? と思いきや、いい意味で予想を裏切ってくれたのがエンジンの始動音。雄々しく響く音はなかなか男前なものだ。ステアリングホイールの形状がRZと異なり、少し径が細身のものが採用されている。どこか日本車的でホッとする握り心地もわるくない。

 乗換場所から動き出して、すぐに違いを感じたのは出足の軽さだ。車重自体はRZよりも70kg軽いが、アクセルを踏み込むと伸びよく回っていく感覚が得られて、4気筒でも想像していた以上に力強い走りをみせる。旋回性能と安定性を高めるアクティブデファレンシャルはRZと同様にSZ-Rにも標準装備されているが、ハンドルをわずかに切り出すあたりの車体の動きには少し粗っぽいところがあったりして、安定性とステアフィールの面では6気筒のRZの方が自然で、全体的にひとクラス上の乗り味が得られていると感じた。

SZ-Rが搭載する直列4気筒 2.0リッター直噴ターボ「B48」型エンジンは最高出力190kW(258PS)/5000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1550-4400rpmを発生

 最後はベースグレードの「SZ」。こちらも直列4気筒2.0リッターツイン・スクロール・ターボエンジンだが、パフォーマンスの面では197PS、320Nmと控え目なものだ。ホイールは17インチのアルミホイールが標準装備だが、試乗車に装着されていたタイヤはコンチネンタル「CotiSportContact 5」のランフラットタイヤで、サイズはフロント225/50R17、リヤが255/45R17だ。

 1410kgという軽量な車重は100km/hあたりまでの加速が至って軽快。それ以上に車速を高めようと踏み込むと、さすがに頭打ち感が目立ってくる。上のグレードと比較するとパワー不足に思えるが、スポーツカーの楽しさはクルマと一体感を得て駆け抜けることだと考えれば、私はむしろ4気筒ならあえてベースグレードのSZを選びたいとさえ思った。

 理由は公道での常用域で感じられる軽快さと意のまま感。8速ATは賢い制御をみせるもので、ブレーキ後のシフトダウンなど最適なギヤを即座に選択。必要なトラクションを引き出せるから、結果的にそれが車速のコントロール性のよさに結び付く。86の約2.5倍とも言われるボディ剛性の高さもさることながら、まさに開発陣が口にしているように「素性のよさ」を磨いた恩恵を、「軽快さ」というピュアスポーツカーにとって大切な要素が加わることで、6気筒とは異なるストイックな一面を見せつけられた気がした。

SZが搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「B48」型エンジンは最高出力145kW(197PS)/4500rpm、最大トルク320Nm(32.7kgfm)/1450-4200rpmを発生

 3つの仕様が用意されると、つい中間グレードを選びたくなりそうだが、このクルマを購入することを考えるなら、3つのグレードすべてに試乗して検討することをお勧めしたい。そして、自分の走る環境などを想像しながら、これだと思えるモデルに出会ってほしい。クルマは走らせるシチュエーションで受け取る印象は変わる。今回の試乗を通して、スープラに至っては今後さまざまな環境で走って、トヨタのクルマづくりへの思いを探ってみたい衝動に駆られてしまった。

Toyota Technical Center Shimoyama 新型スープラ走行イメージ(6分13秒)

藤島知子

幼いころからクルマが好きで、24才で免許を取得後にRX-7を5年ローンで購入。以後、2002年より市販車のレーシングカーやミドルフォーミュラなど、さまざまなカテゴリーのワンメイクレースにシリーズ参戦した経験を持つ。走り好きの目線に女性視点を織り込んだレポートをWebメディア、自動車専門誌、女性誌を通じて執筆活動を行なう傍ら、テレビ神奈川の新車情報番組「クルマでいこう!」は出演12年目を迎える。日本自動車ジャーナリスト協会理事、2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。