試乗インプレッション

至れり尽くせりのフラグシップSUV。ボルボ「XC90」に追加されたディーゼルモデル「D5」でロングドライブ

優雅で上質なツーリングカーを堪能

 手のひらに乗るような小さなドローンだってあれほど騒々しいし、ヘリコプターが離着陸すれば、その周辺にはとてつもない砂塵が巻き上がる。だから、例え技術的な目途は付いているとしても、騒音や風害が発生をしない“新しい飛行原理”を見つけない限り、「空飛ぶクルマ」なんて実用化出来るわけないでしょ!! ……と、昨今やかましい「空飛ぶクルマ」に関する前のめり過ぎる報道に、思わずそんなことを口走りたくなる(?)今日この頃。

 加えれば、「自動運転」や「電動化」にまつわるニュースに関しても、やはり“前のめり”の感が過ぎる印象大。

 確かに、ヨーロッパを中心にかつてなく危機感が高まる地球温暖化への懸念に対し、温室効果ガスであるCO2を可能な限り減らそうという観点から、「物を燃やすことは悪」という認識すらが一般的になりつつあるのが昨今の状況。

 これを踏まえれば、少なくともパワーユニット電動化という動きに関しては、それがこの先ますます加速されていくのは確実と、そのように考えるべきだろう。

 一方、「乗り込んでボタンを押せば、あとはどこの目的地にでも勝手に連れて行ってくれる」というのが真の“自動運転”だとするならば、そんな結構な乗り物ができるまでには、まだまだ2桁年数単位の時間がかかる……というのが自身の見立て。

 かくして、空を飛ぶどころか、まだまだ当分は自らで操る必要から解放されることはないであろう現代の自動車の中にあって、このところその存在感を急速に高めているのがボルボの作品だ。

 デザインやエンジンのみならず、シャシー/ボディ骨格や、さらには生産設備までを刷新するという、文字どおりのフルモデルチェンジを行なった“新世代ボルボ車”が、初めて姿を現したのは2014年のこと。そう、このタイミングで登場した、実に12年ぶりとなるモデルチェンジを図った現在の「XC90」こそが、その後ヒットを連発させることになる新世代のボルボ車の皮切りとなった1台だったのである。

 日本では2016年に発売をされたそんなXC90に、ここに来て大いに魅力的なモデルが追加設定されることになった。テールゲートに新たに「D5」のエンブレムを貼り付けた、要は日本に導入されるXC90で初めてとなる「ディーゼルエンジン搭載モデル」がそれだ。

撮影車は「XC90 D5 AWD Inscription」(944万円)。ボディサイズは4950×1960×1775mm(全長×全幅×全高。エアサスペンション装着車は全高が1760mm)。搭載するトランスミッションは8速ATで、駆動方式は4WD
前後バンパーには先進安全機能「インテリセーフ」で用いられるセンサー類を搭載。ボルボのデザインアイコンとなっているLEDヘッドライトのトールハンマーモチーフはXC90から採用が始まった。
「D5」のエンブレムをリアゲートに装着。テールランプもLED
Inscriptionのアルミホイールは10スポークタイプ。組み合わせるタイヤはコンチネンタルのスポーツタイヤ「ContiSportContact 5」で、サイズは275/45R20
「360°ビューカメラ」「パーク・アシスト・パイロット(縦列・並列駐車支援機能)」といった機能を活用するため、フロントグリルのエンブレム付近と、左右のサイドミラーカバーの下、リアに計4つのカメラを搭載

 これまで日本に導入された新世代ボルボ車のラインアップの中で、ディーゼルエンジン搭載モデルが用意されていたのは「XC60」と「クロスカントリー」を含む「V90」シリーズ。ただし、それらが搭載してきたのはいずれも「D4」と呼ばれるユニット。発生する最高出力は190PS、最大トルクは400Nmというスペックだった。

 一方、同じ2.0リッター4気筒というデザインでありながら、D5の最高出力と最大トルク値は、235PS/480Nmと明確に上。さらに、XC90に搭載された最新のD5用ユニットには、“パワーパルス”という主に発進時のターボラグを減少させる特別なデバイスが付くことが大きな特徴だ。

 これは、専用コンプレッサーで加圧したエアをあらかじめ専用タンクに溜めておき、それを発進時を中心としたまだ有効なターボブースト圧を得難い領域でEGRパイプ内に噴射することで、トルクの立ち上がりを早めようというアイテム。

 弟分であるXC60に対すると、200kgほど重さがかさむ大柄で重量級のXC90であるからこそ、なるほどその効果は大きく現れそう――そんな期待感も込めつつ、日本屈指の“米どころ”として知られる山形県庄内地方を基点に、東京に向けてのロングドライブへとスタートした。

XC90 D5に搭載される最高出力173kW(235PS)/4000rpm、最大トルク480Nm(48.9kgfm)/1750-2250rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボディーゼル「D4204T」型エンジンは、ボルボのクリーンディーゼルラインアップの中で最も高出力となる。WLTCモード燃費は13.6km/L
AdBlue補給口は給油口横に配置

ロングドライブで見えた“GTカーとしての資質の高さ”

 エンジンに火を入れると耳に届くのはディーゼル特有の音色。決してうるさいわけではないし、絶対的には「静粛性は高い」と躊躇なく表現できる仕上がりではあるものの、それでもその音質はやはりガソリンエンジンとは明らかに別もの。ひとたび暖気が済んでしまえばアイドリングストップ機構が働くので、基本的にはどちらのエンジンも「実質的に停車時は無音」ということになるわけだが、例外的にアイドリングが続く状態では車内でも車外でも「ディーゼル車であることはハッキリ分かる」というのが現実。住宅街での早朝の始動時などには、「ちょっと気になる……」というユーザーも居るかもしれない。

 もっとも、いざ走り始めればエンジン以外のノイズがボリュームを増していくので、そうした印象もたちまち霧散をしていくことに。さらに、ロードノイズや風切り音が一段とボリュームを増す高速走行時になれば、エンジン違いによる印象の差はもはや皆無。いずれにしても、キャビン内では「静粛性はすこぶる高い」と言えるのがXC90の実力だ。

 加減速が頻繁な街乗りシーンも含め、前述“パワーパルス”の効果を実感することは正直困難だった。走り始めの一瞬は、やや重々しい感覚は抜けきらないが、それでも2tを超える重量を2.0リッターのエンジンで走らせていると考えれば、その動力性能は「望外の水準」と言ってよいレベルに達している。ちなみに、“パワーパルス”はその動作時やエアポンプの作動時に、ショックやノイズなど一切の違和感を伴うことはなかった。

チャコールとブロンドで落ち着いたイメージのインテリア
ステアリングスポークには全車速追従機能付ACCなどのスイッチ類を配置
シフトノブまわり
タッチスクリーン式センターディスプレイは縦型9インチ
アクセルペダルはオルガン式
メーターのデザインは好みに応じて4種類から選ぶことができ、中央のディスプレイもナビ表示などに変更可能
XC90は3列シートの7人乗り仕様。2列目中央の席はシート座面を引き上げるとチャイルドシートとして使えるギミックが仕込まれている
XC90 D5 Inscriptionのシート表皮はパーフォレーテッド・ファインナッパレザー
シートベルトのタングには「SINCE 1959」というボルボが世界で初めて3点式ベルトを標準採用した年が刻まれる
2列目シートまで広がる「チルトアップ機構付電動パノラマ・ガラス・サンルーフ」は20万6000円のオプション装備
XC90 D5 Inscriptionでは、ドアトリムなどに計14スピーカーを搭載する「harman/kardonプレミアムサウンド・オーディオシステム」を標準装備
19スピーカーの「Bowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム」(35万円)もオプション設定

 今回は、コンベンショナルなサスペンション仕様とエアサスペンション仕様の双方のモデルを乗り比べできたが、実はこの両者での乗り味やハンドリング感覚の差は、意外なほどに少なかった。それも含めて、XC90の場合のエアサスペンションの主たる“効能”は、車高調整機能にこそあるという印象だ。特に、4WDシステムの搭載と相まって、路面との干渉を避けるべく地上高を上げた場合の“オフローダー”としての能力は、コンベンショナル・サスペンション仕様の場合よりもグンと高まるのは間違いない。

電子制御式4輪エアサスペンション搭載車はドライブモードを切り替えることで乗り味や空力性能を高めるほか、オフロードモードでは車高が40mm上昇して走破性を向上させる。写真は左が通常時、右がオフロードモード時
オフロードモードにするとヒルディセントコントロールがONになり、メーター内にアイコンが表示される

 一方、そんなこのモデルが備える“GTカーとしての資質の高さ”を存分に味わうことができたのが、東京へと向かう高速ツーリングのシーンだった。

 山形 庄内地域から東京都心までの距離は、ざっと450kmあまり。一方、XC90 D5の燃料タンク容量は71Lだから、この程度の距離であれば当然余裕をもって踏破できる計算だ。

 実際、今回記録したトータルでの平均燃費は、WLTCによるカタログ値の13.6km/Lをしのぐ、およそ14km/Lだった。前出タンク容量との関係で言えば、航続距離はあと1歩で1000km。すなわち、今回の行程であれば「楽に往復ができる」という成績でもあったわけだ。

 付け加えれば、100km/hクルージング時のエンジン回転数がおよそ1600rpmと、ちょうど間もなく太いトルクバンドに差しかかろうというポイントにあったことも、“GTカーとしての資質の高さ”に大きく貢献をしていた。そんな速度域からでもわずかにアクセルペダルを踏み加えれば、キックダウンに頼るまでもなく確実な加速力が得られたからだ。

 ディーゼルならではの優れた燃費と大容量の燃料タンクが実現させる長い走行レンジに加え、前述した静粛性の高さやフラットな乗り味、そしてリアシートのパッセンジャーに対してもフェイスレベルの空調が用意されるなど、まさに長距離・長時間の走行に対しての「至れり尽くせり」の用意がなされているというのが、新たにディーゼルエンジンを手に入れたXC90の実力。

 正直なところ、食事の場所を探しながら迷いこんだ山形市内の狭隘路や、まるで「軽自動車を基準とした」(?)かのような駐車スペースでは難儀をする場面もあったのは事実。

 が、5mまであとわずかという全長と1.9mを超えた全幅という堂々たるボディを受け入れてくれる大舞台が整っていれば、優雅な佇まいとそれにふさわしい上質な振舞いがいよいよ魅力的と受け取れそうな、そんなボルボのフラグシップSUVである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:高橋 学