試乗インプレッション

新型“FireFly”エンジンで走りも楽しめる個性的なフィアット「500X」

上質でかわいらしい見た目とは裏腹に、中身は意外とスポーティ

 2019年10月で日本導入4年を迎えるフィアット「500X」がマイナーチェンジされることになった。フィアット初のコンパクトSUVとして誕生したこのクルマは、ご覧のとおり“フィアット 500ファミリー”であることが一目で理解できるデザインを展開する一方で、後席の居住性をシッカリと確保した一台。2ドアのフィアット「500」では後席に乗ると筆者のような身長175cmの体格の場合、常に首をかしげる体制を求められたが、このクルマにはそんなガマンが一切ない。家族でも納得の使い勝手も備えることに成功していた。親しみのあるデザインと使い勝手のバランスは、なかなか絶妙な1台だったのだ。

 ただし、コンパクトSUVという割にはSUV感が薄く、どこか落ち着いたデザインであったことも事実。今回のマイナーチェンジではそんな部分にメスが入れられた。前後バンパーは刷新され、SUVらしさを強調するクロススタイルを採用。フィアット 500のロゴは上下に分割されたデザインだが、それをモチーフにしたLEDヘッドライトやドライビングランプ、そしてリアコンビネーションランプが盛り込まれることで、上質さも備わるようになった。

撮影車両は「500X Cross」(334万円)。ボディカラーは「アバター ブルー」。ボディサイズは4280×1795×1610mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2570mm。500X Crossよりシンプルな装備で受注生産となる「500X」(298万円)も用意。どちらもトランスミッションには6速DCTを採用して、前輪を駆動する
前後バンパーを一新してクロススタイルを採用。SUVらしさを強調させた。
17インチ 15スポーク アルミホイールに組み合わせるタイヤはブリヂストン製「TURANZA T001」(215/55R17)
ヘッドライトとテールランプは500のロゴをモチーフにして、中央で上下に分割される新デザイン
新旧500Xを並べてみた。ブルーのボディカラーの新型は、前後バンパーの意匠が変わりSUV色が強くなっているほか、ヘッドライトやリアコンビネーションランプのデザインがよりはっきりしたものとなっている

 そんな見た目の変更だけで終わらず、エンジンも刷新された。今回採用されたのは新世代のオールアルミ製直列4気筒1.3リッター“FireFly”ターボエンジンである。従来の1.4リッターターボエンジンに比べておよそ10%の燃費向上(欧州計測参考値)を達成する一方で、最大出力は11PSアップの151PS、最大トルクは20Nm増の270Nmを発生している。

最高出力111kW(151PS)/5500rpm、最大トルク270Nm(27.5kgfm)/1850rpmを発生する新世代のオールアルミ製直列4気筒1.3リッター“FireFly”ターボエンジンを搭載。独自技術のMultiAirを進化させ、従来の1.4リッターターボエンジンに比べて最高出力が11PS、最大トルクが20Nmそれぞれアップ。燃費は欧州計測参考値で約10%向上した

 駆動方式については従来あった4WDモデルを廃止し、FFのみのラインアップに改められた。これまで4WDとFFの販売比率はおよそ3:7であったこと、そしてFCA(FIAT CHRYSLER AUTOMOBILES)ジャパンのラインアップを考えれば、4WDを求めるならばジープ「レネゲード」も今は存在することもあり、4WDモデルの廃止に繋がったそうだ。シティユースを求めるユーザーが多い500Xの特性を考えればそれも頷けるところ。結果的にベースグレードの500X(受注生産)では300万円を切る価格を実現している。

フィアット 500シリーズに思い出があるという橋本洋平氏が試乗

 今回はその新生500Xのトップグレードとなる、装備が充実した「500X Cross」(334万円)を借り出し、都内の一般道から首都高速までを走ってみた。久々に乗り込む500Xのドライバーズシートは、ブラウンレザーで覆われた8ウェイパワーシートが奢られるなど、コンパクトクラスにしては上質な感覚。インパネまわりもエクステリアのカラーと同色とすることで、実用的でありながらも非現実的な遊び心のある空間が演出されており、“500ファミリー”らしさが即座に感じられる仕上がりにほっこりできる。いつもの街中がちょっとワクワクした世界に生まれ変わるところが嬉しい。

500X Crossのインテリア。ボディカラー同色となるインパネで室内のイメージが変わるのが個性的。インパネ中央の7インチタッチパネルモニター付きのインフォテインメントシステム「Uconnect」はApple CarPlay、Android Autoに対応する
500X Crossは8ウェイパワーシート付きのレザーシートを装着。ボディカラーによってシートカラーが異なり、アバター ブルーの場合はブラウンの組み合わせ
シフトノブまわり
“X”のモチーフがちりばめられたパネル
前席シートヒーターを全車標準装備
広々としたラゲッジルーム

 走り出すとややコツコツとした乗り味でキビキビとした動きを展開してくれるところは相変わらず。ユッタリとした上質な乗り味とは言い難いが、これもまたヤンチャなキャラだと思えば目をつむれるレベル。上質でかわいらしい見た目とは裏腹に、中身は意外にもスポーティなのだ。エンジンに関してはストップ&ゴーを繰り返すような状況だと、走り出しがやや鈍い感覚もある。最近の低回転からトルクフルなダウンサイジングターボとはやや違った味付けのように感じた。ひょっとして元気がなくなったのか!?

 だが、首都高速に乗りアクセルをグッと踏み込めば“Fire Fly”ターボエンジンが見事に目覚めてくる。高回転へ向けて爽快に吹け上がりつつ、トルクも盛り上がってくるのだ。まわりのフラットトルクで余裕の走りもよいのだが、それとは対極的に懐かしさも感じるほど高揚できる仕上がりがそこにある。豪快な吸気音と共にエンジンが盛り上がることで、ドライビングにより一層楽しみが出てくるから面白い。思わずパドルシフトを積極的に使いたくなる、そんな感覚なのだ。その状況になるとコツコツキビキビのシャシーも活きてくる。SUVであることを言い訳にせず、無駄な揺らぎを出さずにコーナーリングを展開していくのだ。一体感溢れるその走りがあるならば、タウンスピードにおけるコツコツ感も許せるというもの。どこに照準を合わせているのか? それが確実に伝わってくるのだ。

 このように、マイナーチェンジで排気量ダウンとなったが、目指す先は相変わらずだったところにはホッとするばかり。コンパクトSUVとは言っても、やはり“500ファミリー”の一員であることを忘れなかったところがマルだと思えた。ちなみに、日本で11年間販売されている500/500Cの総販売台数は約4万4000台で、2015年から販売されている500Xは約4300台。“500ファミリー”としてはまだまだ短い販売期間で、1割ほどしかいないレア度もまた500Xの個性と言えるだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学