試乗レポート
19インチを履いたフィアット「500X スポーツ」の走りはいかに?
500の足りない部分を補いつつ日本ベストなパッケージング
2020年8月29日 08:32
誰にも愛されるフィアット500のデザイン。そのスタイリング・モチーフを活用しつつ、リアドアをプラスしたふたまわりほど大きなボディと、ジープ・レネゲードが先行採用のメカニカル・コンポーネンツを用いて2015年に誕生したのが、日本では同年の秋から発売をされている500Xというモデル。
ここに紹介するのは、これまで“スモールSUV”としてのキャラクターをアピールしてきたそのラインアップに、よりスポーティなルックスと走りを備えるバリエーションとして追加設定をされた、ずばり「スポーツ」を名乗る新しいグレードだ。
テストドライブを行なったのは、このグレードの専用色であるセダクションレッドに彩られたボディの持ち主。既存ラインアップに比べると、なるほどSUVらしさがやや影をひそめる一方、軽快で活発な雰囲気が増して感じられるのは、そんなボディ色に加えてこれまで下部がアンダーガード風に処理されていた前後のバンパーに、新たなデザインが採用されたことや、ブラックだったホイールアーチモールがボディ同色に改められたことなどの効果であるはず。
さらに16、もしくは17インチだったホイールが一気に19インチへと大径化され、それを受けてタイヤがグンと低偏平化したことなどによる影響も大きく寄与したと考えられる。
そんな外装に比べると変更幅は小さいものの、その中でも「オッ! 変わったナ」と印象に残ったのはメーターまわりの雰囲気だ。最も目立つのは、フード部分にアルカンターラ素材があしらわれたこと。これにより、全体の上質さが思いのほか大きく向上を遂げることになっているのである。
“10時10分”位置から“8時20分”位置にかけての日常的に最も重要視をされるグリップ部分に、やはりアルカンターラ素材が奢られたレザーステアリングも、このグレードならではの専用アイテム。ダークグレー仕上げのダッシュボードパネルやステアリングベゼル、マットグレー仕上げのエアコンベゼルなど、ブラック基調でありながら随所にダークなアクセントカラーが配された内装は、既存モデルと一線を画するスポーティな雰囲気を醸し出すことになっている。
前述のシューズの変更は、必然的に走りのテイストにも変化をもたらす理屈だが、それは別としてもより積極的に走りのスポーティさを演じようとしていることが理解できるのが、専用のチューニングが施されたと報じられるサスペンションやステアリングシステム。
一方、「マルチエア」の愛称が与えられた1.3リッターのターボ付きエンジンと6速DCTという組み合わせから成るパワーパックには、既存グレードからの変更は見られない。151PSの最高出力と270Nmという最大トルクも、もちろん同様値となる。
19インチ化で走りはどう変わった?
そんな500Xの新グレードモデルでいざスタート。前述のようにパワーパックに変更はなく、また車両重量も大きく変わることはないので動力性能の印象は同様だ。
アクセル操作に対するレスポンスは必ずしもシャープではなく、またターボチャージャーの効きも昨今の心臓の中では「メリハリのあるタイプ」なので、実は全域でパワフルとは言い難い。もっとも、「そうした分だけ美味しいゾーンを探りながら操る楽しみがある」と表現ができそうなのも、特徴と言って良いかも知れないが。
19インチのシューズを履いたことで硬さを心配した乗り味は、路面へのタイヤの当たり感が予想よりも“優しい”というのが第一印象。それゆえ、凹凸に対するシャープな突き上げ感はさほど気にならない一方で、路面によっては時に揺すられ感がそれなりに強く表れる。正直、もう一歩のフラット感を望みたくなるところだ。
ロールが気にならないハンドリング感覚が実現されている点は、このグレードの狙い通りと言えそう。一方で、タイヤの変更によって路面からの入力が増したこともあってか、ボディ振動の減衰はやや甘めという印象。このあたりをさらに引き締めるため、アバルト・マーク入りのボディ補強パーツなどが用意されれば、またフィアット車ならではの新たな楽しみが増えることになりそう…… と言ったら、それは欲張り過ぎだろうか。
圧倒的なコンパクトさは何よりも大きな特徴ではあるものの、それ故のキャビンやラゲッジスペース容量の小ささや、リアにドアを持たないことは、自身の希望とは相容れないもの…… と、フィアット500というモデルにそんな印象を受けていた人にとって、500Xが備える「後席にもきちんと大人が座れるパッケージング」は大きな魅力に映るはず。
ふたまわりほど大きくなったとはいえ、それでも4.2m台に留まる全長や1.8mを下回った全幅などと共に、相変わらず「日本での扱いやすさには定評アリ」と言えるのが、500Xシリーズのパッケージング。加えれば、タイヤ幅が215から225サイズへと拡大されながら、それでも5.5mという最小回転半径には変更はなく、相変わらず“日本ベスト”とも言えそうなさまざまなディメンションをキープするのが、今回新たにバリエーションに加えられたスポーツのグレードでもある。
そんな新たな500Xが、既存の「クロス」グレードのわずか3万円プラスという価格で設定されたと知れば、こうした選択肢の拡大を歓迎しない人はきっと皆無であるに違いないだろう。