試乗レポート

オリジナルから72年を経て第2世代となったランドローバー新型「ディフェンダー」、オン/オフロードで実力をチェック

走り、乗り心地、居住性。感動ものの仕上がり

ディフェンダーとしては30年ぶり、オリジナルとしては72年を経て第2世代に

 やっと「ディフェンダー」に会えた。発表以来、世界中で大きな反響を呼んだところに新型コロナウイルスの流行で工場が止まり、発売が遅れに遅れたがようやく日本にもやってきたのだ。

 ディフェンダーの前身は第二次世界大戦直後に、ローバーが4輪駆動を発売したことから始まったランドローバーだ。ヘッドライトが奥に入ったシリーズ1、1948年のことだった。

 その後、連綿として作り続けてフラットフェイスになり、1983年にはホイールベースのロングとショートでランドローバー90/110となり、1990年に「ディスカバリー」が登場したのを機にディフェンダーと改名した。その後、排ガス、安全基準などでフェードアウトしていたものの、その武骨なデザインとタフな走りで根強い人気があった。

 そして満を持して2020年、ディフェンダーとしては30年ぶり、オリジナルから72年を経て第2世代となった。ディフェンダーには伝統に則ってショートホイールベース(2ドア+バックドア)の90と、ロングホイールベース(4ドア+バックドア)の110があり、最初の日本導入モデルは110になる。

 第一印象は、ランドローバーらしい伝統とディフェンダーのモチーフを巧みに取り入れたモダンな息の長いデザインだということだ。インテリアはシンプルにソツなく、しかもプレミアムブランドらしい質感があり、絶妙なところをついてきたという感じ。デザインの効果かそれほど大きく見えないが、実際には4945×1995×1970mm(全長×全幅×全高)のビッグサイズで、駐車するところも場所を選ぶ。

2019年9月のフランクフルトモーターショーで世界初公開され、日本では4月9日に受注を開始した新型「ディフェンダー」。オンロードで試乗したのは110の「ディフェンダー S」(663万円)で、ボディサイズは4945×1995×1970mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3020mm。車両重量は2240kgとなっている
新型ディフェンダーは、従来のラダーフレーム構造から軽量アルミニウムのモノコック構造に変更。全く新しいアーキテクチャー「D7x」により、従来比3倍のねじり剛性を確保するとともに、軽量化も実現。“ランドローバー史上最も頑丈なボディ構造”とのこと
新型ディフェンダーの車内では、最新インフォテインメントシステム「Pivi Pro」をジャガー・ランドローバーとして初採用。音声操作も充実し、Pivi Proがインターネットに常時接続することで、多種多様なオンラインサービスを車内で楽しめる。また、AIがドライバーの好みのルートを学習することで、ドライバーに合わせたルート案内をすることも可能
110では5人乗りと3列目を追加して5+2シートを選択することが可能

いかにも現代的なクロカンらしい味わい

 まずはオンロード試乗から。ランドローバーに共通した「コマンドポジション」と呼ばれるドライビングポジションで見切りがよく、オフロード車らしくハンドルはよく切れるので(と言っても最小回転半径は6.1mだが)狭い所も潜り込んで行けそうだ。

 プラットフォームはラダーフレームから他のランドローバー車同様、フルモノコックになった。最初のディフェンダーはラダーフレーム、リジットアクスルでどんな悪路も乗り越える走破性でファンの心を掴んだが、21世紀のディフェンダーはモノコックと4輪独立懸架で同様な走破性にチャレンジする。

 エンジンはガソリンの2.0リッターターボの4気筒。ジャガー・ランドローバーグループで使われているインジウムエンジンの出力は300PS/5500rpm、最大トルク400Nm/1500-4000rpmでアルミのボンネントフードの中にコジンマリと収まる。

直列4気筒2.0リッター“INGENIUM”ガソリンエンジンは最高出力221kW(300PS)/5500rpm、最大トルク400Nm/1500-4000rpmを発生。WLTCモード燃費は8.3km/L。駆動方式はランドローバー伝統のフルタイム4輪駆動を採用。路面状況に応じて最適なサスペンション、トランスミッション、トラクションなどの車両設定を自動制御する「テレイン・レスポンス2」を採用する

 8速のATセレクターをDレンジに入れると、重量2240kgのクロカン車は粛々と走り出す。すぐに感じたのは、これまで乗ってきた多くのクルマの中でこれほどガッチリとしたボディは初めてかもしれないということだ。頑丈な石造りの家にいるような静謐感に感触を受ける。

 約2.25tの重量に対し400Nmのトルクは力強く走らせるというより、必要なだけ出している感じで、街中や郊外路を走るにはちょうどいい。過剰なパワーがない代わりにゆったりと走れ、かつ急な加速が必要な時はグンと出る。いかにも現代的なクロカンらしい味わいだ。

 タイヤはグッドイヤーの「WRANGLER」(255/65R18)オールテレインで全天候型タイヤを履いている。わずかなパターンノイズはあるものの、耳ざわりな音域はよくカットされ、静かなキャビンにリラックスする。乗り心地もタップリしたストロークのサスペンションで、路面からの細かい突上げもよく吸収して快適だ。

 ディフェンダーは時代の流れと共にミリタリースペックの装備や性能から、伝統のタフネスを維持しながら高い質感を誇る誰でも乗れるクロカン車に進化した。

 適度な重さを持つハンドルはセンター付近が鈍くなっており、オフロードに適した味付けだがオンロードでも好ましく、リラックスした郊外路のドライビングを楽しめた。カーブが続く山道でも、どっしりとした安定性と穏やかなロールで、ごく自然体でコーナーする。タイヤの特性もあってカーブでグイグイと回り込むタイプではないが、重量級の背の高いクロカン車としてフットワークはかなりいい部類だと思う。強固なモノコックボディと4輪独立懸架サスペンションの恩恵だ。

 それにスクエアなボディと前後のオーバーハングが極端に短いレイアウト、高い位置にある独特のドライビングポジションで車幅を掴みやすく、サイズ感による圧迫感は少ない。2mに近い物理的な車幅はどうにもならないものの、意外と運転しやすい。市街地ではルームミラーでの後方視界は大きな後席ヘッドレストで限られるが、デジタルミラーでクリアな視界が得られた。どうしても遠近感のズレはあるが、これも親切な装備だ。

 前席、後席ともに広いスペースが確保され、これなら長距離ドライブも苦にならないと感じたのがオンロードでの印象だ。ちなみにエマージェンシ用だが3列シートもあり、旧ディフェンダーに備わっていたルーフサイドの小さなウィンドウも健在だ。

3列目はエマージェンシ用という印象

強固なボディ剛性は驚くばかり

 次にオフロードでは別のディフェンダーに乗り換えた。こちらは同じグッドイヤーでも255/60R20のオールテレインを履く。ディフェンダーのサスペンションは車高を3段階で切り替えられるエアサスで、コイルバネは90のベース車に設定されているのみだ。従って、今回の試乗車はすべてエアサスになる。ちなみにサスペンション形式はフロントがダブルウィッシュボーン、リアがインテグラルマルチリンクの独立懸架。

 ランドローバー定番のテレインレスポンスはさらにきめ細かく分けられており、①オンロード、②雪砂利モード、③泥/轍モード、④砂地モード、⑤岩場モード、⑥渡河モードが設定されていた。それぞれでエンジン、ギヤボックス、センターデフ、シャシーなどを路面に応じてクルマ側で選択する。

 また、エアサスはHiモードでは標準車高から75mmも上げることができ、さらに渡河モードではエクストラで70mmアップする。トータル145mmの車高アップはディフェンダーならではだ。逆に乗降のしやすいアクセスモードでは標準より40mmも下がる。

エアサスペンションの採用により、車高を標準高より-40mm~+145mmの幅広い範囲で設定でき、スムーズな乗り降りをサポートするとともにオフロードでの走破性を向上。最大渡河水深は900mmを実現している。写真は左から右に向かって車高を下げていったところ

 今回のオフロード試乗は泥轍モードで挑み、車高はHiモードだ。この車高だとクルマによじ登る感じで乗り込むことになる。本格派オフローダーらしいスタイルだ。

 試乗コースでは副変速機をLoにセレクトしてトラクションを優先したので、かなりの勾配でもよじ登ることができる。実際に登坂可能な角度は45°と、壁のような坂も上ることが可能だという。アプローチアングルは38°、デパーチャーアングルは40°と大きな角度があり、顎などを打つことは稀だ。

 用意されたオフロードコースは折からの暑さで乾燥したドライ路面。ディフェンダーにとっては楽勝の設定で、躊躇することなく走破できた。もしウェットならかなり滑りやすくなりそうな路面で、別の面白みを見出したかもしれない。

 コースに設定されていたクレストの頂点を急角度で曲がるポイントでは、3Dサラウンドカメラが死角を補ってくれ、ハンドルを切るポイントを的確に掴めるのはありがたい。

 また、ボンネットを透過するように路面が見える「クリアサイト・グラウンドビュー」も直前視界を可視化でき安心感がある。ちなみにこのカメラは「イヴォーク」から導入されているが、視界はさらにクリアになっている。これらの最新技術と視界のよさで、ビッグサイズのディフェンダーだが予想以上に取りまわしに優れていた。

ボンネットを透過するように路面が見える「クリアサイト・グラウンドビュー」

 下りの急勾配は、ヒルディセントで重い車重を気にせず下ることができるのもおなじみだが、ディフェンダーはさらに制御とコントロール性が向上しており、急勾配でも躊躇なく下ることができた。

 フラットなダートでは車高を通常位置に戻し、Loギヤも解除して走らせてみた。ウネリのある路面も難なく走破し、強固なボディ剛性は驚くばかりだ。アクセルに対する荷重移動も素直に反応し、突起乗り越しもドライバーの意思に忠実に動いてくれ、サスペンションはしなやかにショックを吸収する。

 ブレーキはガッチリとした踏み応えで、高速では適度だが、低速ではもう少しストロークがあった方がコントロールしやすい。21世紀のディフェンダーは高速走行も得意科目としている証だろうか。

 エンジン特性はオフロードではもう少し低回転でトルクがあり、いざという時にガツンと力が出るディーゼルとの相性がよさそうだ。本国には90シリーズにラインアップされているが、供給のプライオリティで日本への導入の否かが決まるだろう。

 低速時の走らせ方を考えると48Vハイブリットとの相性もよさそうだが、地球上、どんなところも行けるタフさを身上とするディフェンダーに合わないかもしれない。こちらは本国の6気筒モデルには設定されているようだ。それにしてもオンとオフの走り、そして乗り心地、居住性、ちょっと感動した。

 そして、ランドローバーのプレミアムブランドとしての魅力はそのヒストリーだけではない。きめ細かく目的別に設定されたパッケージオプションにも表れている。ディフェンダーには4つのパックオプションがあり、①ルーフラックやレイドエアインテークなどを備えた「エクスプローラーパック」、②ポータブルシャワーなどが準備された「アドベンチャーパック」、③同じくポータブルシャワーやマッドフラップを備える「カントリーパック」、④そして都会にマッチする「アーバンパック」で、それぞれに「アップグレードパック」が用意されている。

 果敢にオフロード性能にこだわった基本性能、そしてランドローバーならではのユニークで質の高いオプション。新しいディフェンダーの真骨頂を垣間見せてもらった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一