試乗レポート

新型「レヴォーグ」は「アイサイトX」だけじゃない 着実に進化した動力性能をサーキットで体感

大きく変わった足まわりとステアリングフィール

 家の近くのT字路は建造物のために左右の視界がほとんど塞がれている。ワンボックスカーでもない限り、身を乗り出しても見通しが効かず、いつもヒヤヒヤしながら曲がっている。このような危険な路地は日本中に多くあるのではないかと思う。

 しかし、新型「レヴォーグ」ではこのような交差点でも、見えないところから接近してくるクルマや自転車の接近を、バンパーの左右先端に取り付けたミリ波レーダーで検知して知らせてくれる。だからと言って自在に交差点に進入していいわけではないが、ドライバーは相当ストレスフリーになると思う。

 プリクラッシュセーフティも、対停止車両への自動ブレーキでの制動可能速度は従来の初速50km/hから60km/hに引き上げられた。これは電動ブレーキブースターの採用やカメラの解像度の向上によって可能となり、実際のテストでは60km/h以上からも余裕を持って停止できた。

 事故ゼロを目指すスバルは本気だ。そしてその真剣さこそスバルらしい。

前側方レーダーで接近車両を検知して、自車速約60km/h以下では警報を、自車速約20km/h以下では衝突回避をサポートする前側方プリクラッシュブレーキ・前側方警戒アシストをスバル初設定
右左折時は自車速約10km/h~20km/h以下であれば歩行者も検知してプリクラッシュブレーキが作動し、衝突回避をサポート
車両に対するプリクラッシュブレーキの制動可能速度が従来の50km/hから60km/hに引き上げられた
高張力鋼板の適用範囲を拡大したほか、事故の際にシートベルトが緩んでしまわないようにするロッキングタングを追加。フロントには歩行者の脚部を保護するためのエネルギー吸収部材や、歩行者用エアバッグ、助手席乗員の下半身を早期に拘束するシートクッションエアバッグなども採用

 冒頭に紹介したのは新型レヴォーグの安全装備の一部だが、アイサイトだけが新型レヴォーグではない。

 インプレッサで始まった新世代プラットフォーム「SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)」の2代目となる新型レヴォーグはボディ剛性の大幅アップができ、土台がシッカリしたことが大きい。

 試乗したのは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。試乗車は現行のレヴォーグ STI Sportと新型のSTI Sport、GT-Hの3車種。少し前に「アイサイトX」の性能体験と動的試乗も経験したが、この時「ただ者じゃない!」とビックリした。その再確認である。

 新型レヴォーグの試乗車はすべて横浜ゴムの「BluEarth-GT」、225/45R18サイズのタイヤを履き、現行型はダンロップの「SPORT MAXX」となる。

袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型レヴォーグの動的性能を体感
装着タイヤは横浜ゴム製「BluEarth-GT」(225/45R18)
ヘッドライトにはグリルとお揃いのヘキサゴンのモチーフがあしらわれていた
GT-Hの内装
最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生する、新開発の水平対向4気筒 1.8リッター直噴ターボエンジンを搭載

 ピットロードから出ていく時に感じたのは静粛性だ。遮音材の配置も巧みだが、ボディの共振が少ないのだろうか、ピンとした静謐感を感じる。水平対向エンジンの滑らかな回転フィールに加えて、前後タイヤから発するロードノイズも小さい。

電子制御ダンパーやドライブモードセレクトを備えるSTI Sport

 STI Sportは電子制御ダンパーを持つ。このダンパーは瞬時に狙った減衰力を出すことができ、場面に応じてセミアクティブ制御のような動きをする。また走行パターンを選べるドライブモードセレクトはCOMFORT、NORMAL、SPORT、SPORT+の4つのドライブモードとIndividualから選択でき、ダンパーの減衰力は基本的にはソフト、ノーマル、スポーツとなる。

 アクセルレスポンスの反応はSPORTでは鋭くなり、SPORT+になるとさらに低いギヤレンジをキープしながら、アクセルのツキもシャープになる。いずれのモードも変化幅を大きくとっていて分かりやすい。

 ドライブモードセレクトはアイサイトや4WDシステムのコントロールもできるなど、多くの領域に及ぶ。時間内で試せることは限られているが、それぞれのドライブモードでキャラクターの変わり方にメリハリがある。

新型レヴォーグ STI Sport

 一例を挙げると、Comfortでは揺れが少なくフラットな姿勢が気持ちいい。ピットロードに入る手前の凹凸路面でも突き上げ感をほとんど感じない。フロントタイヤが凹凸を通過すると、リアのダンパーの減衰力を下げてソフトな乗り心地としている。瞬時に減衰力を変えられるセミアクティブならではだ。

 コーナーではステアリング操作に対してスっと反応する。さらにステアリングを切ると、操舵力の変化もなくスーと曲がる。また、ステアリングを戻す時も素直で力が入らない。気持ちいい操舵感だ。現行レヴォーグではステアリングを切った時に一瞬待つことになり、またステアリングの切り角も大きい。シャシーの進化を感じる瞬間だ。

 操舵感としては、高速の直線道路ではステアリングのスワリもよいので緊張感が少ないのも好感だ。

 ドライブモードセレクトを変えると、それぞれにメリハリのある味付けだが、SPORT+ではしっかりした操舵フィールになる。しかしどのモードでも基本的に新型レヴォーグが持っている優れたハンドリングは共通する。

 このスッキリとしたハンドリングの実現には次の3点セットがある。まず、ジオメトリーの変更だ。ステアリングを切った時の入力点が外側にずれるように設定しているので、タイヤ/ブレーキなどの大きな重量のモノを振り回すマスが小さく、応答性の高いステアフィールとなる。

 考え方としてはフロントサスペンションのロワー側ピボット位置を外側に置くというもの。そのままだとピボットがブレーキキャリパー/ローターに干渉してしまうため、これも外側に置く。今度はホイールと干渉してしまうので、こちらはスポークを薄くして干渉を防ぐ。薄くなったスポークでホイール剛性が低下しそうだが、リムとディスクの接合面を工夫することでホイール全体の剛性を確保したとされる。まったく新しいジオメトリーではないが、スバルらしく地道に検証した結果が生きている。

 また、クロスメンバーの取り付けでは車体側にウェルディンナットを埋め込み、今まで点で接合していたものを面で受けるようになり、ステアリングを切るなどの入力があった時の歪みが極めて小さくなった。これによってもステアリングの応答性、舵の効きが確実になった。

 2ピニオン電動パワーステアリングも素晴らしい。以前、シングルピニオンと2ピニオンを比較したことがあるが、その差は歴然だった。ステアリングを切った時に、シングルピニオンではモーターがコラムと同軸にあるため振動や入力信号の遅れが出るが、2ピニオンではラック側にモーターを置くので入力信号に対する遅れがなく応答性が高い。動き出しのヒステリシスが少なく、滑らかで切れ味がよいのが特徴だ。

 新型レヴォーグはSGP+3点セットで、これまでのワゴンにはなかった正確で滑らかなハンドリングを手に入れた。

新採用の2ピニオンパワーステアリング

完成度の高い素のレヴォーグを味わえるGT-H

 一方、GT-Hは電子制御可変ダンパーはではなく通常のダンパーになる。こちらもバルブ精度の向上、新規オイルの採用など新規技術を採用している。好感度だった正確なハンドリングは変わらず、コーナーでのロールも一定リズムで行なえて爽快だ。路面に張り付くようなコーナリングを望むなら電子制御ダンパーのSTI SPORTを選ぶことになるが、GT-Hは素のレヴォーグを堪能でき、完成度は高い。

新型レヴォーグ GT-H

 荒れた路面を通過した際の突き上げでは、電子制御ダンパーのCOMFORTモードほどにはショックを吸収しないが、乗り心地はシャキッとしており、ガッチリした車体とよく動く足の好感度は高い。

 アクセルレスポンスについては、GT-Hにはドライブモードセレクトはなく従来のSIドライブとなる。スイッチ1つでアクセルレスポンスが異なり、変化は明快。メリハリがあって使いやすい。

 新開発の希薄燃焼1.8リッターターボは滑らかで低速トルクがある乗りやすいエンジンだ。300Nmあるトルクは1500rpm付近から最大トルクを出し、4000rpm付近まで高いトルクを維持できる。しかもレギュラーガソリンが使える。また小型ターボでレスポンスはすこぶるよく、低回転から最小のタイムラグで粘り強い加速ができる。現行の1.6リッターターボと比べると、力強くレスポンスに優れて、さらに振動も小さく感じられる。

 名機EJ型ようなスポーツエンジンではないが、実用エンジンらしく、低速から中速回転域の広い守備範囲で使いやすいエンジンだ。

現行レヴォーグにも比較試乗した

 スバル独自のCVTは日常的なアクセルワークではCVTのラバーバンドフィールはほとんど感じない優れものだが、高回転からのアクセルOFF時に回転落ちが鈍く、少し物足りない場面もある。

 ブレーキにも新機軸がある。スバル初の電動モーターのブースターを採用している。モーターは大トルクで反応が早いので、コンマ秒を争う急グレーキを要求されるアイサイトでは非常に有効で、進化するアイサイトにはマストのものだった。電動ブースターと聞いて心配だったのは踏んだときのフィーリングだ。ペダルのストロークセンサーで制御しているためコントロールが難しいのではないかと思ったが、低速でのブレーキタッチも良好で、高速ではコントロール性もよくて、油圧ブレーキと比べて違和感のないレベルまで完成されていた。

 新型レヴォーグの試乗は気持ちを爽快にしてくれた。その魅力はスッキリとしたハンドリングやレスポンスのよいエンジン、静かな室内だけではない。進化したアイサイトなどスバルの安全思想にも触れたことで有意義な時間を共に過ごすことができた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学