試乗レポート

新型「レヴォーグ」でロングドライブ 雪上でのフィーリングと「アイサイトX」のリアルワールドでの使い勝手

アイサイトXの進化を再確認

 新型「レヴォーグ」で雪の上を走るというミッションで、長野出身の編集担当氏から行き先を相談されたので、筆者と同じ富山出身のカメラマン氏と3人で実家チョイ寄りツアーしないかと提案。検討の結果、ルートはぐるっと富山を回る感じで、往路は富山県西南端の五箇山を目指し、そこから日本海側に向かい、帰路は上信越自動車道→関越自動車道で東京に戻ってくることとなった。

 初日の朝、スバルの恵比寿本社で編集担当氏と落ちあい、STI SportではなくGT-Hの車両を受け取ったその足でカメラマン氏宅へ向かって合流。まず中央道を西へ進み、岡谷JCTで長野道に入り松本に向かう。

 新型レヴォーグの目玉はいくつもある中でも、まずはその1つである「アイサイトX」について、すでにクローズドコースでその進化ぶりは垣間見ているが、今回はロングドライブでそれを再確認できるチャンスでもある。

アイサイト コアテクノロジー+アイサイトXを搭載する新型レヴォーグ GT-H EX(370万7000円)。ボディサイズは4755×1795×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm
GT-HとGT-H EXはダークメタリック塗装のフロントグリル
マフラーカッターはデュアルタイプ
タイヤサイズは225/45R18サイズ(18インチサイズのスタッドレスタイヤは銘柄によっては干渉してしまう可能性があるため注意が必要)
レヴォーグ GT-H EXのインパネ
運転席まわり
メーターは12.3インチのフル液晶
ステアリングスポーク左側にはオーディオ類の、右側にはアイサイト関連のスイッチを配置。パドルシフトも備える
センターインフォメーションディスプレイは11.6インチの大画面。エアコンなどの設定もこのディスプレイ内で行なう
物理スイッチはステアリングスポーク右側に集約。VDCなどの車両制御システムやアイサイト関連のON/OFFや設定などは、すべてセンターインフォメーションディスプレイから行なう
GT-H EXのシートはブルーステッチ入りのトリコット/ファブリック。センターコンソール背面にはリア席用のシートヒーターやUSB充電ポートを備える
最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生する水平対向4気筒 1.8リッター直噴ターボ“DIT”「CB18」エンジンを搭載。トランスミッションにはCVT(リニアトロニック)を組み合わせ、4輪を駆動する。WLTCモード燃費は13.6km/L

 実は取材日は、大規模な山火事が起こり延焼したニュースが報じられたほど風が強く、われわれも強風の中を走ることになり、車高の低いレヴォーグでもかなりステアリングを取られる状況だった。そんな状況でもアイサイトは巧みに制御してくれる。車線の維持をクルマに任せられるというのは本当に助かる。あるとないとでは疲れ具合がぜんぜん違う。さらには静電容量式パネルを仕込んだステアリングタッチセンサのおかげで、ちゃんと握っているのに持てと警告が出ることがなくなったのも当たり前だがありがたい。

アイサイトのフロントカメラ。かなり薄型化され、車内からでも視界のじゃまになることはほとんどなくなった

 見どころの1つであるアクティブレーンチェンジアシストも何度も試してみたが、人間よりもはるかに確実に後方の安全を確認してくれるのはやはり助かる。ただし、大丈夫なはずの状況で同じように操作しても車線変更してくれないときがあり、それがどういう理由なのかが分からないときもままあった。

 なお、イグニッションをいったんOFFにしたあとONにすると、走り始めてしばらくアクティブレーンチェンジアシストが作動しないのが気になって調べてみたところ、カタログによると「深夜帯の走行時に周囲に1台も車両が走っていない場合など、エンジン始動後、1度も左右両方の後側方レーダーが移動物を検知していない場合は作動しない」という仕組みとなっているらしい。確かにトラブル等なんらかの理由で後続車を正しく認識できない可能性がある場合に自動的に車線変更するのは確かに危険なので、スバルがそこまで配慮したことには納得の思いである。

アイサイトXの機能となるアクティブレーンチェンジアシストは、高速道路などの自動車専用道路で走行中に、ドライバーがウインカーを操作して車線変更の意思を示すと、システムが周囲の状況を確認して作動可能と判断するとステアリングを制御して車線変更のアシストを行なうというもの。走行車線から追い越し車線、追い越し車線から走行車線のどちらにも対応している
アイサイトXでは進入するカーブの曲率に合わせて車速を制御。急なカーブでも安全・安心にACCを使うことができるようになった

ACT-4は攻めた味付け……?

 松本からしばらく国道158号を西へ走っている途中、少し雪が残っているのを見つけたので、むろんテストコースでないのでほどほどに、まずはちょっとだけ雪遊びしたところ、かつて北海道での雪上試乗会で、初代レヴォーグのVTD-AWDとACT-4で違うのはもちろんだが、同じACT-4を搭載するフォレスターもターボと自然吸気ではハンドリングがぜんぜん違って、ターボはリアを流して振り回せるほど攻めているのに驚いたことを思い出した。というのは、VTD-AWDの設定はなくACT-4のみとなったこの2代目レヴォーグにも、おそらく件のフォレスターのターボと同じく攻めた味付けになっているであろう気配が感じられたからだ。いつか本当に振り回して楽しめる機会が訪れることに期待したい。

 そして、将来的には松本と福井を結ぶという中部縦貫自動車道を通り、飛騨清見JCTから東海北陸自動車を北上して40kmほど北上し、五箇山ICで下りて、合掌造りを見学。なんとか明るいうちにたどりつくことができてよかった。ところで、岐阜の白川郷はすっかりメジャーになったけど、富山の五箇山も、読者の皆さま、ぜひお見知りおきのほど(笑)。

 この道すがら、西日がきつかったり、いきなり激しくボタ雪が降ってきたりと、ひと昔前のアイサイトならシステムが落ちただろうなというシチュエーションも走ったのに、ぜんぜん大丈夫だったことにも感心した。

 やがてあたりはすっかり暗くなり、再び高速道路に乗って、富山県西部の滑川にある筆者の実家に立ち寄り、コロナ禍で年末年始も帰省できず会えていなかった母としばし再会。お互いマスクをつけっぱなしで侘しいものはあったものの、短い時間でも元気そうな姿を見られてよかった。そして、お米やお土産の入ったけっこう大きな袋を予期せず渡されたのだが、すでに撮影機材と3人分の旅の荷物と、万一に備えてスバルがあらかじめ用意してくれた雪道脱出セットをラゲッジに積んでいたにもかかわらず、すっぽり収めることができた。レヴォーグの積載能力はなかなか頼もしいぞ。

常時4輪を駆動する強み

 滑川のとなりの魚津に宿泊し、目覚めて窓から景色を眺めると、雪が降っているじゃないか! とはいえ、すぐに溶けてしまいそうな感じの雪だったので、朝食後そそくさと雪のありそうな場所を目指す。シートに座るとあらかじめ設定したとおり好みの運転環境を整えてくれるドライバーモニタリングシステムは、こんなときも実に重宝する。

 宇奈月温泉周辺は、交通に支障のありそうなところはすでに除雪されていたものの、ちょっと奥に行くと凍った上に雪が乗っているような滑りやすい路面に出くわしたが、車速にさえ気をつければレヴォーグにとってはなんてことはない。さらに長野県北部のスキー場付近は、場所によってはけっこう雪が残っていて、アイスのまざった圧雪路やシャーベット路もあったものの、それぐらいならぜんぜんものともしない。上り勾配の途中で止まってもあまり無駄にスリップすることなく発進でき、左右に振られることもなく挙動が安定しているのは、常時4輪に駆動力を配分するスバルのACT-4の強みにほかならない。

 スキー場から野尻湖に向かうと、期待したほど雪はなかったが、せっかく来たのでパチリ。そういえば中学生だった約40年前の夏に湖畔をぐるり1周歩いたことがあるのを思い出した。このあたり、その頃とあまり雰囲気が変わってない感じがする。上信越道に戻り東京を目指すと、以降の路面はほぼずっとドライ。藤岡JCTで関越道に入ると、一気に交通量が増えた。

 アイサイトXは加減速の制御が本当に上手い。前走車との距離をできるだけ素早く短くしてくれるほうが好みなのだが、けっこう攻めたところまで詰めてくれるのでストレスを感じない。また、前方に障害物を検知した際にやたら早い段階で減速しはじめてしまうものも他車では見受けられるところ、アイサイトXはそんなこともないし、ACC作動中のアクセルのオーバーライドへの対応も上手い。

 ACCの加速レベルが、1=エコ、2=コンフォート、3=スタンダード、4=ダイナミックと4段階も選択できるようになっているのも特徴で、低速ではどのレベルでもあまり変わらないのだが、車速が高くなると相応の違いを感じる。1は本当にエコを意識した印象で、反対に4は加速重視となり、実燃費もそれなりに違うはず。

 ご参考まで、Iモードにセットして100km/hで巡航したときのエンジン回転数は約1650rpmで、WLTC高速道路モード燃費の15.3km/Lのとおり、燃費の表示は15km/L台をいったりきたり。エコドライブを意識してなんとか16km/Lに達するという感じ。もう少し伸びるとありがたい気もする。

 このまま順調にいくと、アイサイトXのキモとも言えるハンズオフ機能を試せないなと思っていたら、おあつらえむきにちょうど鶴ヶ島JCTの手前で渋滞が始まって、メーターの表示が変わった! 2台前の前走車を捉えている表示も出た! このチャンスに撮影を! ……と思っているうちに、しばらく走ると「制御対象外エリア」に入ってしまった。そういえばジャンクションだった……。

 ちょっと気になったのは乗り心地だ。すでに他記事でもお伝えしているとおり、電子制御ダンパーが唯一与えられたSTI Sportはなかなかよい味を出している。そんなスグレモノがすでに手元にあるのだから、あのしなやかな走りをほかのグレードでも味わえるよう、オプションでもよいからぜひ選べるようにすべきと思わずにいられない。

 むろんそうした気になるところも見受けられるものの、安心、安全にかけるスバルの思いは重々伝わってきた。レヴォーグの雪上性能とグランドツーリング性能の高さをうかがい知ることのできた1000kmあまりのロングドライブ、冬の終わりの北陸の旅であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸