試乗レポート

スバル「フォレスター」に追加された水平対向1.8リッター直噴ターボ、その乗り味はいかに?

FB20やFA20エンジンとの違いは?

 2020年秋に登場した2代目「レヴォーグ」には、いろいろ“初”の文字が並ぶ新しいものを採用したことが報じられた。そうなると既存モデルにも付けられるものは付けるのが当然だろうと思っていたら、即座に新しい動きがあった。

 そのうちの最大の目玉が、フォレスターに水平対向4気筒 1.8リッター直噴ターボ“DIT(Direct Injection Turbo)”の「CB18」エンジン搭載グレード「SPORT」がラインアップされたことだ。件のSPORTはさらに足まわりや内外装デザインも専用となる。内外装は予想以上に既存モデルと差別化されていて、他のグレードとは明らかに異質の雰囲気を感じさせるのは見てのとおり。どんなクルマなのか気になっている人も少なくないことだろう。

ボディサイズは4625×1815×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2670mm、最低地上高220mm。車両重量(メーカー装着オプション含む)は1590kg(前軸重930kg、後軸重660kg)
ブラック塗装のフロントグリル、フロントバンパーガードにはアクセントシルバー塗装が施される
グレーメタリック塗装の電動格納式リモコンドアミラーは、LEDサイドターンランプとサイドビューモニターが付く
SPORT用マフラーカッター付きデュアルマフラー。リアバンパーガードはシルバー塗装されたディフューザータイプを装着
グレーメタリック塗装のルーフスポイラーとシャークフィンアンテナを装着
ダークメタリック塗装の18インチアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは225/55R18でオールシーズンタイヤを装着するが、撮影車両は冬季のためスタッドレスタイヤを装着している

 また、大改良を機にe-BOXER搭載グレードが「X-BREAK」と「Touring」に拡大され、2.5リッター車は廃止となったほか、乗員認識技術「ドライバーモニタリングシステム」が全グレードに設定され、X-BREAKに新制御モーターアシスト「e-アクティブシフトコントロール」が搭載されたことも併せてお伝えしておこう。

 まずは最大の関心事であるエンジンについてお伝えすると、SPORTのCB18は177PSで300Nmというスペックのとおり、e-BOXER車のエンジンがFB20の145PSと188Nm、モーターが13.6PSと65Nmという数値に対しては圧倒的に上まわる。一方で、多くの人が気になっているであろう4代目SJ系にあったFA20は280PS、350Nmと差は小さくないのも一目瞭然だ。これにレヴォーグと同じワイドレンジでATのようにステップ変速するリニアトロニックが組み合わされるのも新しい。

SPORTに搭載される水平対向4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ“DIT”(CB18)エンジンは最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生。燃費はWLTCモードで13.6km/L

効率を最重視して、環境対応に配慮したターボエンジン

 SIドライブは「S#モード」のない2モードのタイプで、ドライブした第一印象としては、「Iモード」と「Sモード」で走りのキャラクターがずいぶん大きく変わるように感じた。それはIモードとの差別化を図るためSモードがレヴォーグ STI sportでいうS#モードに近い特性とされているからと知って納得した。

 とはいえ本命のSモードでも、それほど速いわけではない。従来のFA20に対しては、スペックの数値でも明らかなとおりで、あの力みなぎる加速感にはとうてい及ばない。エンジンサウンドは軽い感じ。100km/h巡行時のエンジン回転数はIモードで約1650rpm、Sモードで約2700rpm。高速巡行からの再加速はもう少し伸びてほしい気もする。

 件のFA20も、EJ20時代にあったような、あの胸のすくような吹け上がりはなりをひそめ、高回転では頭打ちな感もあったものの、低~中回転域はなかなか力強く、EJからFAになってつまらなくなったなどと言わせないための意地のようなものを感じたものだ。それに比べるとCB18は全体的に線が細いのは否めず。かつてのフォレスターの象徴的な存在だったターボモデルのような走りへの期待に応えているかというと、見方は分かれそうだ。

 むろんIモードはさらに控えめで、e-BOXER車に近いフィーリングとなる。ただし、Sモード、Iモードとも発進加速をある程度は鋭く立ち上げているあたり、ドライバーにストレスを感じさせないようにという配慮を感じる。

 e-BOXER車は低回転域のトルクが薄く、そこをモーターで補っているものの、走りに少なからず物足りなさを覚えたのと比べると、CB18はターボならではのトルクの上乗せ感もあり、そこは印象がだいぶ異なる。素早く加速したいときでも、e-BOXER車はあまり応えてくれないところ、CB18はシフトダウンするとそれなりに力強く加速できる。

 そういえばレヴォーグの試乗会の際にも、CB18はあくまで効率を最重視したエンジンだと開発関係者は述べていた、かつてのターボパワーでならしたフォレスターとは生まれた時代が違って、求められるものも変わり、厳しさを増す環境対応に対して、フォレスターとして精一杯のことをやったのが今回の「SPORT」という認識でよいかと思う。

 そんなことを考えつつ、いろいろなアクセルの踏み方を試しながらドライブていたところ、しばらくすると心なしか走りはじめよりも加速がよくなったような気がした。ひょっとして学習機能をかなり効かせているのかもしれない……。

SPORT専用装備の数々

 専用開発のダンパーとコイルスプリングを採用した足まわりがどうなのかも気になるところだが、取材車両にはスタッドレスタイヤが装着されていたものの、ひきしまっていながらもよく動いて、フラット感のある走りを追求したことがうかがえた。

 アシスト特性を専用設定とした電動パワステも、スタッドレスタイヤを履いていながらもしっかりとした手応えがあり、応答性のよさも感じられた。おそらくサマータイヤを履いて本領を発揮させると、「SPORT」を名乗るに相応しい、本来のスポーティなハンドリングをより楽しめることだろう。

ステアリングは本革巻でシルバーステッチが施される
寒い時期に重宝するステアリングヒーター搭載
電動パーキングブレーキを自動で解除してくれるオート・ビークル・ホールド機能も搭載

 スタイリングは見てのとおりで、インテリアも各部が専用の仕様とされている。中でも擦れる部分と滑ると困る部分に上手くウルトラスエードと本革を組み合わせたシートは見た目だけでなく着座感も上々で、適度に確保されたホールド感も心地よい。

 また今回、全車にドライバーモニタリングシステムが設定されたのも大歓迎だ。登録しておけばそのとおり確実にシートポジションやドアミラー角度、空調などを自動的に再現してくれるので、複数のドライバーで1台を共用するような使い方をするユーザーにももってこい。最大5人まで登録できるなど、画期的な装備である。

赤外線を利用した個人認識機能「ドライバーモニタリングシステム」は、シート位置などを記憶するだけでなく、走行中に一定時間以上目を閉じていたり、顔の向きを前方から大きく外したりするなど、ドライバーに眠気や不注意があるとシステムが判断した場合、警報音や警告表示で注意を促す機能も搭載している

 ひさびさにフォレスターをドライブして、あらためて実感したのは視界のよさだ。角度を立てた面積の広いウィンドウガラスとアップライトなポジション、適度に高めのアイポイントにより見晴らしがよく、死角を極力つくらないように配慮したことがうかがえる。

 後席も開放的でニースペースやヒール段差が十分に確保されているほか、リアシートヒーターや空調はもちろん、使いやすい位置にUSB電源があり、フロントシートの裏面にはいろいろなものを収納しやすいよう二重にポケットを配するなど、本当に使う人の身になって各部が設計されていることにも感心する。

 販売の主軸はe-BOXER車だが、スバルでは「SPORT」の販売比率は30%を見込んでいるとのこと。この価格でこの内容はなかなか魅力的であることには違いなく、やはりフォレスターともなればなおのこと、こうしたスポーティ仕様を心待ちにしていた人も少なくないことだろうが、その期待にはそれなりに応えることはできているように感じた。その意味では、待った甲斐はあったといってよいかと思う。

シートはウルトラスエードと本革で、シートやドアトリムにはステアリングと同様にシルバーステッチが施される
開放的な大型サンルーフや、パワーリアゲート、ルーフレールなどはメーカーオプションとなる
スタッドレスタイヤの装着と合わせてラゲッジスペースには冬の装備を搭載していた取材車両。敷いているSTIのラバーマットは8580円(税込)で購入可能
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一