試乗レポート
マイチェンしたホンダ「オデッセイ」、e:HEVの動力性能をチェック
2021年3月1日 14:28
室内での美点
1994年10月に誕生した初代「オデッセイ」は、日本で“ミニバン”を広く認知させた1台だ。同じく1990年代には、トヨタ「エスティマ/エスティマ・ルシーダ&エミーナ」、日産「エルグランド」、マツダ「ボンゴ フレンディ」、三菱自動車「デリカ スペースギア」など、たくさんのミニバンたちが人気を博した。
ステーションワゴンブームが落ち着いたころ、RV色を強めつつ高い居住性をセールスポイントに誕生した日本のミニバン勢。オデッセイはミニバンブームの中核を担ってきた。
5代目となる現行型は2013年10月に登場。標準グレードとアブソルートの2バリエーションで2WD(FF)と4WDをラインアップした。エンジンは直列4気筒DOHC 2.4リッター(175PS/23.0kgfm)を標準グレードに搭載し、通常タイプのCVTを組み合わせる。一方のアブソルートには、同エンジンの直噴版(190PS/24.2kgfm。4WDは185PS/24.0kgfm)に換装し、CVTは擬似的にレシオを設けた7スピードモード付とした。
2015年1月にはホンダとしてはいち早く、先進安全技術群「Honda SENSING」を搭載。そして2016年2月には一部改良とともに2モーター方式のシリーズハイブリッド「i-MMD」搭載車を標準/アブソルートともに設定した。
2017年11月には小規模の意匠変更を伴うマイナーチェンジを、そして2020年11月には大規模の意匠変更を伴うマイナーチェンジを行なった。ガラリと変わった外観とともに、標準グレードは整理されアブソルートのみのグレード展開に。パワートレーンはシリーズハイブリッド方式のi-MMDはe:HEVへと名称を変更(メカニズムは継承)し、2.4リッターのガソリンエンジンは直噴方式が整理され、一般的なポート噴射方式のみとなった。今回取材したのはこの大規模な意匠変更を行なった最新モデルの「e:HEV ABSOLUTE・EX」だ。
このクラスのミニバンでは全高の低い部類に属するオデッセイ。オデッセイの歴史には全高を1550mmに抑え、立体駐車場などでの利便性を重視した世代もにあったが、現行型は試乗グレードでで1695mmと高められた。もっとも、この値でもミニバン勢の中では依然として低い。
徹底して床面を低くした「超低床プラットフォーム」を採用したことで、室内高は1300mm(ガソリンモデルはFFで1325mm、4WDで1305mm)を確保する。ちなみに、売れ筋のミニバンであるトヨタ「アルファード」の全高は1950mmで室内高は1400mm(サンルーフ付だと1360mm)だ。
全高を抑えているものの、超低床プラットフォームのおかげで乗降性は良好だ。後席スライドドア部分のステップ高(地面からステップまでの高さ)は約30cmと低いので身体を屈めず乗り降りできる。7人乗り仕様の場合、2列目シートは独立型。前後だけでなく左右方向への移動もできるので、2列目シート間を通って3列目シートへ移動も容易。筆者の身長は170cmだが、ちょっと中腰姿勢になればすんなりと移動することができた。外観から想像する以上にキャビン内での移動自由度は高い。
3列目シートの快適性が高いこと、これもオデッセイの美点だ。シートサイズにもゆとりがあって座面は太もも部分の多くに触れているし、背もたれ部分にしても肩甲骨の下あたりまで覆う。また、座面/背もたれ部分ともクッション性に優れているので身体全体が適度に沈み込み、走行中でも安心感があった。2列目シート下に足を収めることができるのもうれしい。
しかも、これだけ座り心地がいいのに、深くえぐられたラゲッジスペースに回転させてすっぽりと格納させることができる。徹底してミニバンの使い勝手を考えた設計だ。また、1列目、2列目、3列目と後ろにいくに従って座面が高くなるシアターシート形状であるため、下の画像のように前方への見晴らしがとてもよい。さらにルーフ形状に広さを演出する工夫を懲らし、加えてルーフを形成する骨格を薄型設計にしたことで開放感にも優れている。
2列目シートも見た目を裏切らない素晴らしさ! 2017年のマイナーチェンジ時に大型化された「プレミアムクレードルシート」のヘッドレストレイントによって、まるで北欧の大型チェアのようなどっしりとした印象だ。足下スペースにしてもゆとりがあり、最後端にさげずとも足を組むことができる。コンパクトカー「フィット」にしてもそうだが、ホンダはこうした空間の演出がとても上手だ。
座り心地も快適。座面/背もたれ部分ともにクッションは厚く、しかも面圧分布もしっかり考えられているので、点ではなく面で身体が支えられる。調整機構も多岐にわたり、両側のアームレスト、そしてフットレストまで備える。アルファードのエグゼクティブラウンジに備わる「エグゼクティブラウンジシート」ほどではないにせよ、全高1700mm以下のミニバンでこれだけ優雅な気分に浸れるのだから上等だ。
1列目の運転席にしても、いい意味でミニバンらしくない。ドライビングポジションはスポーツモデルとはいかないが、それでも背の低いセダンやステーションワゴン並に落ち着く。ここは、ドライビングする楽しみを大切にしてきたオデッセイらしいところだと思う。
ボディ四隅の見切りもよい。ここはホンダのもう1つのヒットミニバン「ステップワゴン」とも遜色ないレベルだ。最小回転半径は5.4m(アルファードは5.6m)なので、この見切りのよさとの組み合わせで狭い道であっても取りまわしに苦労しないし、360度カメラである「マルチビューカメラシステム」を活用すれば狭い駐車スペースであっても難なくこなせる実力をもつ。
ステップワゴン e:HEVとの違いは?
e:HEVの動力性能はどうか? 試乗した「e:HEV ABSOLUTE・EX」の車両重量は1930kgだが、184PS/32.1kgfmを発する電動モーターからの駆動力は一般道路、高速道路ともに力強かった。
感染症対策として、ドライバーである筆者と乗員1名の2名乗車での試乗だったので動力性能に余裕が大きかったと想像できるが、じつは2017年にe:HEVと名乗る前のi-MMDモデルに成人男性5名+荷物を満載した状態で400kmほど走らせたことがある。高速道路での追い越し加速時にやや深くアクセルペダルを踏み込む必要があったものの、登坂路であっても絶対的な加速力に不満を抱かなかったことを覚えている。
直列4気筒DOHC 2.0リッター「LFA」型エンジンに、同じH4型電動モーターを使うe:HEVにはステップワゴンがある。ちなみに、セダンボディの「アコード」のパワートレーンもe:HEVだが、エンジン型式が「LFB」型となって圧縮比が13.5と0.5高められ、最大トルクの発生回転数が500rpm下げられている。いずれにしろ、e:HEVはシリーズハイブリッド方式なので、内燃機関であるエンジンは発電が主な役割。よって、発電時に使うエンジン回転域での熱効率を突き詰めた設計がなされている。
燃費性能はe:HEVの得意科目だ。WLTC総合値は19.8km/Lで、高速道路モード値(WLTC-H)では19.4km/L。これが8人乗りのe:HEV アブソルートになると総合値20.2km/L、高速道路値19.8km/Lまで伸びる。
同条件でのステップワゴン e:HEVは20.0km/Lと19.5km/L。オデッセイとステップワゴン、e:HEV搭載車での最軽量モデルで比較すると、オデッセイが30kg重い1840kg。さらに全長(+95mm)と車幅(+125mm)にしてもオデッセイが大きい。にも関わらず、カタログ上の燃費値は車高がステップワゴンよりも145mm低いオデッセイがわずかながら優勢だ。やはりここは車高の低さからくる前面投影面積の違いが逆転現象を生み出した。
ただ興味深いことに、空気抵抗係数が高速道路ほど関係しにくく速度の上下が頻繁に行なわれる市街地モード値では、オデッセイ19.7km/Lに対してステップワゴン18.8km/Lと、こちらにも大きな逆転がある。e:HEVの制御に違いがあるのかと広報部に確認してみたが、詳細は不明とのことだった。
今回は取材地の関係で高速道路と市街地での限定的な試乗となったが、これが山道などになればオデッセイのもう1つの得意科目の評価ができたはずだ。なにしろ、2013年に現行型が登場した際にホンダに用意いただいた試乗会の舞台は箱根のワインディングロードだったのだ。超低床プラットフォームの安定した走りと鋭いハンドリング性能に心底驚いたわけだが、居合わせた開発陣は皆、自信たっぷりの笑みを浮かべていたことを思い出す。
その経験から想像するに、今回のe:HEVは重量物である二次バッテリーを1列目シート下のホイールベース内のやや前輪寄りに、そして2列目シート下にはガソリンモデルと同じくガソリンタンク(容量は55L)が配置されているので、一層の低重心化とともに重量配分の上でもバランスがさらによくなっていることが伺える。次回は、過去に体験した箱根での驚きを思い起こさせる、そうしたシーンでの試乗も行なってみたい。