試乗レポート

SUVタイプのアウディ「e-tron 50 クワトロ Sライン」試乗 クーペタイプのスポーツバックとの違いとは?

車名にある「55」が「50」になった違いとは?

 2020年秋に日本に上陸したアウディ初のピュアBEV(バッテリー電気自動車)である「e-tron スポーツバック」は、その先進性や完成度の高さが認められ、2020-2021 日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて「テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

 Car Watchでも筆者が試乗記を担当したが、その後に早くも新しい動きがあった。SUV版の「e-tron」が加わったほか、件のe-tron スポーツバックのファーストエディションは95kWhのバッテリー容量のグレードで「55」だったところ、2021年モデルではすべて「50」となった。今回お伝えするのは、まさしくその新しいSUV版のe-tronの「50」のほうだ。

試乗したのはe-tron 50 クワトロ Sラインで、インテリアパッケージ(23万円)、アルミホイール15スポークデザインコントラストグレー(15万円)、バーチャルエクステリアミラー(26万円)、サイレンスパッケージ(33万円)の合計97万円分のオプションを装着した仕様で1108万円
フロントまわりはスポーツバックと同じデザインとなる
Sラインに付いてくる15スポークデザインコントラストグレーのアルミホイール。サイズは9.5J×21でタイヤはブリヂストンのALENZAでサイズは265/45R21を履く
フロント配置されているカメラは単眼タイプを採用
左はe-tron スポーツバック、右はe-tronのリアまわり。後部席の頭上まわりに余裕ができ、ラゲッジスペースは44Lほど容量が増えている

「55」の優れた走行性能を引き継ぎつつ、より小型のバッテリーを搭載することで軽量化と低価格化を実現したのが「50」とのことで、数値面での違いを整理すると、バッテリー容量は95kWh→71kWhとなり、最高出力は300kW→230kW、最大トルクは664Nm→540Nmとなり、2560kgだった車両重量は、e-tronスポーツバック50が2400kg、e-tron50が2410kgと150kg以上軽くなり、満充電でのWLTCモードの走行距離は405kmからそれぞれ318kmと316kmとなった。価格もe-tronスポーツバックと同様に200万円近くもグンと下がり、ベースモデルとなるe-tron 50 クワトロの933万円に、1069万円の「アドバンスド(advanced)」および1108万円の「Sライン(S line)」の3グレード設定となる。

 e-tronスポーツバックにもSUV的な要素が盛り込まれているが、e-tronでは最低地上高が15mm高くされたのは、よりSUVとしての使われ方に配慮したということだろう。4900mmの全長と1935mmの全幅はe-tronスポーツバックと同じ。両車ともスペシャルティ感に満ちた容姿は同じでも、e-tronはより積載性を重視したSUVらしいルーフラインによる高いユーティリティがポイント。荷室容量はe-tron スポーツバックの616Lでも十分に広いところ、660Lとより大きくなっている。後席の居住性にも優れ、e-tronスポーツバックよりもウインドウ面積が広く、頭まわりにも余裕を感じる。

センターコンソールのディスプレイなどは、すべてドライバーのほうに向けられ、ドライバーファーストな作り込みがなされている
後だけでなく前後左右にあるカメラの指定した映像を表示することが可能
センターコンソールのMMIタッチレスポンスディスプレイ
ステアリングセンター下部には「S line」のロゴが小さく入る
シフトレバーはシルバーの飛び出している部分を前後に動かすだけ。パーキングのPボタンは側面にプッシュスイッチで配置されている
センターディスプレイの下にはデュアルエアコンの操作パネル
メーター内のディスプレイにもナビを表示可能

 Sラインのスポーティに仕立てられた内外装は、目にした誰もがスタイリッシュだと感じること違いない。鮮やかなアンティグアブルーメタリックのボディもひときわ目を引く。見た目のバランス的にもボディに対してタイヤが大きく、地に足が踏ん張っている感じがする。ホイールのデザインも印象的だ。各部に配されたシルバーとブラックのアクセントも効いている。ブラックを基調にロックグレーステッチを配するなどした精悍なインテリアも、このクルマの雰囲気によく似合う。

リアシートにもデュアルエアコンを完備
Sラインはブラックのアルカンターラ/レザーのスポーツシートが採用される。アドバンスドはパーシャルレザーとなる。また、身体に合わせてカスタマイズした位置を記憶させるメモリー機能も付いている
660Lの容量を誇るラゲッジスペース。リアシートは40:20:40の分割可倒式。真ん中だけ倒せば長い物も積める
フラットで使いやすいラゲッジスペース。ネットを固定するフックも搭載
床下にも収納スペースがあり、チェーンや三角表示板などを積むには十分な広さがある
ラゲッジスペース両サイドにはネット付きの小物入れ。上にはリアシートを倒すレバーを配置

気持ちのよい走りは今あるEVの中でピカイチ

スムースでリニアな加速フィーリングが気持ちいい

 完成度の高さは、やはりピカイチだ。加減速のマナーや回生時のブレーキフィール、走りと乗り心地を両立した足まわりや車体の作り込み、上質なインテリアの仕立てと充実した装備、先進運転支援装備の機能など、いま世にあるEVの中でもっともそれを感じさせる1台に違いない。今回の車両には、遮音性に優れるアコースティックガラスを含む「サイレンスパッケージ」が装着されていたこともあり、車内はいたって静かだった。

 0-100km/h加速は「55」の5.7秒から6.8秒となっており、比べるとやや控えめになった感はあるものの十分な速さを実現している。リニアなレスポンスとスムーズな加速フィールによって、市街地から高速道路までシーンを問わず気持ちよく走ることができる。

車両重量は2420kg(カタログ値の2400kgに、4ソーンオートマチックデラックスエアコンディショナー、エアクオリティパッケージ、Bang&Olufsen3Dサウンドシステム16スピーカーが付いて+20kg)で前軸重は1270kg、後軸重は1150kg

 ドライブモードは、上からオフロード、オールロード、エフィシェンシー、コンフォート、オート、ダイナミック、インディビジュアルとなっており、全車に標準装備されるアダプティブ エアサスペンションの5段階が設定された車高がモードに応じて自動的に調整されて、快適性と運動性能、空力性能を最適化する。

 前回スポーツバックは箱根と高速を主体に乗ったので、今回はあえて市街地のシチュエーションでも試したところ、さすがに4900mmの全長と1935mmという全幅の大きさはそれなりに感じ、狭い駐車場に止めるのはちょっと避けたくなりそうだが、今どきこのクラスは2mに達する車種も珍しくなくなったことを思うと、これぐらいならまだなんとかなるという気もする。

ドライブモードを切り替えると車高も自動的に変更する機能を搭載している
車高が上がった状態
標準状態の車高
車内の静粛性も極めて良好

バーチャルエクステリアミラーは慣れとコツが必要

 オプションのバーチャルエクステリアミラーは、もちろんメリットも多々ある半面、こうした類いのものは慣れるまで戸惑うのは仕方がないとして、デメリットだと感じたのは、バックしてミラーを見ながら壁や柱にギリギリ寄せたい際に間隔が掴みにくいことだ。ひょっとすると何かコツがあるのかもしれないので、今後もわかったことがあればおいおいお伝えしていきたい。逆に、移動中にいきなりあられが降ってきたときがあったのだが、それでもクリアな後方視界を得られたのはよかった。

 充電口は、右側が普通充電、左側が急速充電(チャデモ)で、ボタンを押すとリッドがゆっくりと上品に開くあたりもコダワリを感じる。海ほたるパーキングで30分、残量約50%の状態から急速充電したところ、430Vの出力電圧と、出力電流は90A超がコンスタントに出て、18.9kWh入った。同じ充電器で他の車種で試したときには、こんなに出なかったように記憶している。高い剛性と高度な熱管理が自慢というバッテリーモジュールは、やはりスグレモノに違いない。

海ほたるパーキングエリアにある急速充電器を試してみた。30分の急速充電で、航続距離が118kmから180kmまで増えた
運転席側が普通充電ポート
助手席側が急速充電ポート(チャデモ)
ボンネットを開けると充電コードが格納してある。その下にはパンク修理キットも装備する

 アウディらしい緻密なクルマづくりの知見が注ぎ込まれた新世代EVの完成度の高さを、あらためて思い知った次第である。もしe-tronを買うとしたら、このSUV版にするかスポーツバックにするか、本気で迷いそうだ。

みなさんはスポーツバックとSUVとどっちを選びます?

 なお、e-tronスポーツバックの試乗記は「アウディ渾身のEV「e-tron スポーツバック」 車両重量2.5t超を感じさせない圧倒的パフォーマンス」を参照いただきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一