試乗レポート
SUVタイプのアウディ「e-tron 50 クワトロ Sライン」試乗 クーペタイプのスポーツバックとの違いとは?
2021年2月23日 07:00
車名にある「55」が「50」になった違いとは?
2020年秋に日本に上陸したアウディ初のピュアBEV(バッテリー電気自動車)である「e-tron スポーツバック」は、その先進性や完成度の高さが認められ、2020-2021 日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて「テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。
Car Watchでも筆者が試乗記を担当したが、その後に早くも新しい動きがあった。SUV版の「e-tron」が加わったほか、件のe-tron スポーツバックのファーストエディションは95kWhのバッテリー容量のグレードで「55」だったところ、2021年モデルではすべて「50」となった。今回お伝えするのは、まさしくその新しいSUV版のe-tronの「50」のほうだ。
「55」の優れた走行性能を引き継ぎつつ、より小型のバッテリーを搭載することで軽量化と低価格化を実現したのが「50」とのことで、数値面での違いを整理すると、バッテリー容量は95kWh→71kWhとなり、最高出力は300kW→230kW、最大トルクは664Nm→540Nmとなり、2560kgだった車両重量は、e-tronスポーツバック50が2400kg、e-tron50が2410kgと150kg以上軽くなり、満充電でのWLTCモードの走行距離は405kmからそれぞれ318kmと316kmとなった。価格もe-tronスポーツバックと同様に200万円近くもグンと下がり、ベースモデルとなるe-tron 50 クワトロの933万円に、1069万円の「アドバンスド(advanced)」および1108万円の「Sライン(S line)」の3グレード設定となる。
e-tronスポーツバックにもSUV的な要素が盛り込まれているが、e-tronでは最低地上高が15mm高くされたのは、よりSUVとしての使われ方に配慮したということだろう。4900mmの全長と1935mmの全幅はe-tronスポーツバックと同じ。両車ともスペシャルティ感に満ちた容姿は同じでも、e-tronはより積載性を重視したSUVらしいルーフラインによる高いユーティリティがポイント。荷室容量はe-tron スポーツバックの616Lでも十分に広いところ、660Lとより大きくなっている。後席の居住性にも優れ、e-tronスポーツバックよりもウインドウ面積が広く、頭まわりにも余裕を感じる。
Sラインのスポーティに仕立てられた内外装は、目にした誰もがスタイリッシュだと感じること違いない。鮮やかなアンティグアブルーメタリックのボディもひときわ目を引く。見た目のバランス的にもボディに対してタイヤが大きく、地に足が踏ん張っている感じがする。ホイールのデザインも印象的だ。各部に配されたシルバーとブラックのアクセントも効いている。ブラックを基調にロックグレーステッチを配するなどした精悍なインテリアも、このクルマの雰囲気によく似合う。
気持ちのよい走りは今あるEVの中でピカイチ
完成度の高さは、やはりピカイチだ。加減速のマナーや回生時のブレーキフィール、走りと乗り心地を両立した足まわりや車体の作り込み、上質なインテリアの仕立てと充実した装備、先進運転支援装備の機能など、いま世にあるEVの中でもっともそれを感じさせる1台に違いない。今回の車両には、遮音性に優れるアコースティックガラスを含む「サイレンスパッケージ」が装着されていたこともあり、車内はいたって静かだった。
0-100km/h加速は「55」の5.7秒から6.8秒となっており、比べるとやや控えめになった感はあるものの十分な速さを実現している。リニアなレスポンスとスムーズな加速フィールによって、市街地から高速道路までシーンを問わず気持ちよく走ることができる。
ドライブモードは、上からオフロード、オールロード、エフィシェンシー、コンフォート、オート、ダイナミック、インディビジュアルとなっており、全車に標準装備されるアダプティブ エアサスペンションの5段階が設定された車高がモードに応じて自動的に調整されて、快適性と運動性能、空力性能を最適化する。
前回スポーツバックは箱根と高速を主体に乗ったので、今回はあえて市街地のシチュエーションでも試したところ、さすがに4900mmの全長と1935mmという全幅の大きさはそれなりに感じ、狭い駐車場に止めるのはちょっと避けたくなりそうだが、今どきこのクラスは2mに達する車種も珍しくなくなったことを思うと、これぐらいならまだなんとかなるという気もする。
バーチャルエクステリアミラーは慣れとコツが必要
オプションのバーチャルエクステリアミラーは、もちろんメリットも多々ある半面、こうした類いのものは慣れるまで戸惑うのは仕方がないとして、デメリットだと感じたのは、バックしてミラーを見ながら壁や柱にギリギリ寄せたい際に間隔が掴みにくいことだ。ひょっとすると何かコツがあるのかもしれないので、今後もわかったことがあればおいおいお伝えしていきたい。逆に、移動中にいきなりあられが降ってきたときがあったのだが、それでもクリアな後方視界を得られたのはよかった。
充電口は、右側が普通充電、左側が急速充電(チャデモ)で、ボタンを押すとリッドがゆっくりと上品に開くあたりもコダワリを感じる。海ほたるパーキングで30分、残量約50%の状態から急速充電したところ、430Vの出力電圧と、出力電流は90A超がコンスタントに出て、18.9kWh入った。同じ充電器で他の車種で試したときには、こんなに出なかったように記憶している。高い剛性と高度な熱管理が自慢というバッテリーモジュールは、やはりスグレモノに違いない。
アウディらしい緻密なクルマづくりの知見が注ぎ込まれた新世代EVの完成度の高さを、あらためて思い知った次第である。もしe-tronを買うとしたら、このSUV版にするかスポーツバックにするか、本気で迷いそうだ。
なお、e-tronスポーツバックの試乗記は「アウディ渾身のEV「e-tron スポーツバック」 車両重量2.5t超を感じさせない圧倒的パフォーマンス」を参照いただきたい。