試乗レポート

「MAZDA3」公道試乗 改良版SKYACTIV-Xは従来とどう違いがあるのか?

改良を受けたクリーンディーゼルエンジンのSKYACTIV-D 1.8にも乗った

MAZDA3が商品改良

 改良版であるSKYACTIV-X(SPIRIT1.1)を搭載した「MAZDA3」に初めて公道で試乗する機会を得た。試乗グレードはセダンの最上級グレード「X L Package」(前輪駆動モデル/6速AT)である。さらに、同時期に1.8リッターディーゼルエンジンであるSKYACTIV-Dを搭載したファストバック「XD L Package」(4輪駆動モデル/6速AT)の公道試乗も行なえた。

 ちなみに、すでに実施が公表されている従来型SKYACTIV-Xユーザーに対する無償アップデートの内容は、「エンジンとAT、それぞれの制御ソフトウェアの変更です」とMAZDA3主査である谷本智弘氏より伝えられた。本稿ではその点も考慮してレポートしたい。


※2月19日、マツダはe-SKYACTIV X搭載車に乗っているユーザーを対象とした無償の制御プログラムアップデートを発表した。その内容は以下の3点(CTSとMRCCのアップデート内容は本文に記載のある通り)。

①e-SKYACTIV XのエンジンとATトランスミッション制御プログラム (2019年11月8日~2020年11月27日生産のe-SKYACTIV X搭載車対象)を最新版へ。
②クルージング&トラフィック・サポート(CTS)の制御プログラムを変更し、作動上限車速を約55km/hから高速域まで引き上げる。
③マツダ・レーダー・クルーズコントロール(MRCC)の制御プログラムを変更し、追従走行における加減速制御を、より人間特性に合わせより滑らかにする。


 SKYACTIV-XSPIRIT1.1に関する技術の詳細はCar Watchに寄稿した過去の筆者のレポートに譲るとして、今回の公道試乗では改良を受けたSKYACTIV-Xが従来型と比較してどこに、どれだけ違いがあり、それは誰にでもスグに実感できるものなのか……、この1点に絞り取材に臨んだ。

 いわゆる第6世代商品群のトップバッターである初代「CX-5」の発売開始以降、マツダが主催する商品改良版のメディア試乗会では、進化の体感を目的に従来型を比較試乗車として用意頂いている。

 今回も従来型のSKYACTIV-XとSKYACTIV-Dが用意され、それぞれグレード、駆動方式、車両重量、オプション装備品、そしてボディカラーに至るまで改良型とまったく同一であった。「比較するなら徹底的に、同一条件でどうぞ!」という計らいに開発陣の意気込みを感じる。

 さて、改良型SKYACTIV-Xだが公道での走りはどうなのか? 筆者は、「動力性能や乗り心地については明確な違いがあり、心底すばらしいと思う一方で、誰でも違いを美点として実感できるのかといえばそれは難しく、課題が残る」という結論を出した。以下、具体的に紹介したい。

今回試乗したのは2020年11月に商品改良した「MAZDA3」。写真はセダンの「X L Package」(2WD/338万463円)で、ボディサイズは4660×1795×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2725mm。今回の改良で外観ではフロントフェンダー部に「SKYACTIV-X」バッヂを、リア部に「e-SKYACTIV X」バッヂを装備。足下は18インチホイールにブリヂストン「TURANZA T005A」(215/45R18)を組み合わせる
白革内装で明るい印象を受けるX L Packageのインテリア

SPIRIT1.1、明確な違い

 従来型のスペックは132kW(180PS)/6000rpm、224Nm(22.8kgfm)/3000rpm。対する改良型は40kW(190PS)/6000rpm、240Nm(24.4kgfm)/4500rpm。数値にすれば10PS/1.6kgfmの向上なので、動力性能の絶対値として大きな期待は寄せられない。

 しかし、乗ってみれば好印象で、改良型は発進直後からグッと力強く加速する。細かく見ていくと、およそ1200rpmあたりから加速力を決めるトルクが5%程度大きい。

 併せてATの制御ソフトウェアを変更して伝達能力を強化したことで、身体にまとわりつくような駆動力を発進時から体感できるようになった。試しに、従来型と同じようにアクセルペダルを踏み込んでいくと、改良型では従来型よりも少ないアクセル開度で必要とする加速度を生み出せる。

 これをトルクカーブ曲線で確認すると、改良型では低回転域から高回転域まで全体的に5~7%程度トルクが上乗せされている。よって、絶対値の向上は少ないけれど(+1.6kgfm)、発進時から高回転域に至るまで加速度を常に体感しやすくなっていることが分かる。

今回の改良でSKYACTIV X搭載車ではエンジンとトランスミッションを制御するソフトウェアをアップデート。SPCCIの燃焼制御を最適化するなどし、最高出力は132kW(180PS)から140kW(190PS)に、最大トルクは224Nmから240Nmにそれぞれ向上。WLTCモード燃費は17.2km/L

 高速道路ではATの変速プログラムの変更が功を奏した。アクセルペダル開度の少ない市街地でも感じられたことだが、ペダルを素早く、大きく踏み込んだ際にはシフトダウン(キックダウン)をスムーズに誘える。ここは従来型が苦手としていたシーンの1つで、従来型の右足に対する変速の追従性能を1とすると、改良型は1.5程度にまで向上した。

 反対に、市街地などで多用するじんわりとしたペダル操作では頻繁な変速が起きないような制御を基本としながら、より強い加速力を求めてドライバーが素早く踏み込んだ際にはしっかり応答する。

 SKYACTIV-DRIVEは誕生以降、前進6段ギヤのまま。競合他車の多段化(主流は8~9速)が進む中、SKYACTIV-DRIVEは中間速度域での緩加速において分がわるかったが、制御ソフトウェアの変更によって使い勝手は大きく向上。同時に信頼度もずいぶん高まった。

 乗り味も大きく異なる。これには①タイヤ、②足まわり、③GVC プラスの3点が主な変更点として関係し、それらの相乗効果として大きな変化を生み出した。

 ①タイヤ。MAZDA3の専用タイヤ(TOYO TIRE「PROXES R51A」)から改良型SKYACTIV-X搭載車のみブリヂストン「TURANZA T005A」へと変更を受けた。これは国内仕様のSKYACTIV-Xでは初採用となる。

 専用タイヤは、成分にシリカを多めに配合することで主に縦バネを柔軟にしてしなやかさを強調する。振動吸収能力には定評があり、とりわけ微速域ではステアリングやシートから伝わる角の取れた動きに上質さも感じられる。

 しかし、じんわりとした車体の動きを特徴とするSKYACTIV-Xが目指してきたキメ細やかな瞬発力を専用タイヤのしなやかさが吸収してしまうことがあり、差し引き帳消しに……。結果として、運転操作に対する反応の鈍さが助長されてしまう。このことは2017年のSKYACTIV-Xプロトタイプ試乗会でも報告してきた通りだ。

 MAZDA3の国内向けSKYACTIV-Xに新採用となったブリヂストンでは、総合バランスに優れたコンフォートスポーツ系タイヤらしく、縦バネの減衰力も一般レベルにまで高められた。同時にトレッド面も高剛性化されたことで、SKYACTIV-Xが生み出す微細な変化をしっかりと路面に伝えられるようになった。

 余談だが、TURANZA T005Aの純正装着車が増えている。MX-30にはじまり、ヤリス クロスやレクサス IS、MIRAI、カムリ、ランフラットタイプになるとレクサス LS、そして数々の欧州車などがそれだ。

 ②足まわり。こちらもSKYACTIV-Xならではの瞬発力を活かす特性へと変更を受けた。具体的には、スプリング、ダンパー、バンプストッパーの特性を変更(前サスのバネレートを向上&ダンパーの初期摺動性能を向上。前後サスのバンプストッパーを幅広い領域で有効活用)し、ドライバーの運転操作に対する車体の反応を早期化。同時に、路面の継ぎ目など大きな入力が加わった際の挙動も早期安定傾向となり、路面凹凸による悪影響も受けにくくなっている。

 ③GVC プラス。ここでの制御は2点。1つ目が空気力学との協調。エンジンルーム前に設けられたアクティブエアシャッターとの連動で主に100km/hを超える高速域での車両安定性向上を狙う。外気を積極的に採り入れる(=エアシャッターを開けた)状態では、前輪のリフト量が増えるため、ここに新たなGVC プラスの制御(=エンジン出力を落とすのみ。ブレーキ制御は行なわない)を追加。これにより前輪に掛かる荷重を5%程度高められるという。

 2つ目がATとのさらなる連携。スイッチ操作により切り替る「スポーツモード」選択時に、状況に応じてGVC プラスのエンジン出力制御を積極活用。これにより最大で前輪荷重を2%程度向上させ、ステアリングフィールをより確かなものへと進化させる。

 これまでスポーツモードでは、積極的なダウンシフトや、エンジンの高回転域多用が主な制御内容だったが、これにGVC プラスによる車体の動きを効果的に加えることで、ドライバーの意図した運転操作の実現を狙う。事実、今回の公道試乗でも都市高速の曲率のきついカーブでは幾度となくその効果を実感できた。

 また、公式な発表はないが、新旧の比較試乗では電子制御方式の回生協調ブレーキのペダル操作感も変わっていたことが確認できた。一般的にこうした回生協調ブレーキでは、「回生ブレーキ」の掛け方に応じてパッドでディスクを挟み込む「通常ブレーキ」のトルクを自動的に増減して、ドライバーが意図する制動力を生み出している。

 マツダがM HYBRID/SKYACTIV-X搭載車に採用している電子制御方式の回生協調ブレーキは、まずマスターシリンダーとストロークシミュレーターでブレーキペダルの剛性感(=ペダル操作感)を作り出し、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた液圧をリニアアクチュエーターで発生させて通常ブレーキの強さをコントロールしている。

 従って、ドライバーが操作するブレーキペダルと、液圧を生み出す部分が機械的に独立しているので、ブレーキを掛けている途中にコントロールモジュールが液圧を変化(=通常ブレーキの強さを自動的に増減)させても、ブレーキペダルのストロークは変わらず、ドライバーのペダル操作感も変化しない。

 改良型では、この回生/通常の両ブレーキに変化を与えない仕組みを活かし、踏み込み量に対して剛性感あるブレーキタッチに変更、同時に従来型よりも少ない踏み込み量から減速度が立ち上がるような変更が施されている。これはMX-30(M HYBRID/EVモデル)のペダル操作感にも通ずるもので、通常の走行シーンはもとより、駐車場や渋滞時で頻繁にブレーキペダルに触れるシーンでの使い勝手も大きく高まったと感じられた。

SKYACTIV-Xこの先の課題

 今回は厳しい言い方になる。マツダがSKYACTIV-Xで目指した走行性能はこの程度ではない。もっと高いところにあるはずだ。環境性能にしても80km/h巡航で22.8km/Lを今回の試乗時に記録したものの、国内外市場からは「一般的な値」と評価される時代だ。もちろん、今の値ではディーゼルエンジンにもとうてい及ばない。

80km/h巡航時に平均燃費22.8km/Lを表示

 究極のガソリンエンジンとして誕生したSKYACTIV-XはSPIRIT1.1へのステップアップを経て、意のまま走るという意味でMAZDA3主査の谷本智弘氏からは「4人乗りのロードスター」という立ち位置が与えられた。

 でも、残念ながら今回の公道試乗を通じ、SKYACTIV-Xは未だその領域にないと感じた。なぜなら、誰もがフツーに運転して、その気持ちよさや意のままの走りが実感できるかと言えば正直、難しいからだ。さらなるSKYACTIV-Xユーザーの獲得には「誰もが乗ってスグに実感できる明確な違い」が不可欠だと思う。

 今回、タイヤと足まわりに変更を受けた。メリットは前述したとおりで、外乱を受けやすい高速域での走行や、大きな凹みを通過する際など、強い負荷がイッキに車体に掛かりやすい状況になればなるほど、そのいなし方はスッキリとしていて心地良く感じられる。また、前輪駆動モデルよりも後軸荷重の増える4輪駆動モデルがよりしなやかである点も、改良型に受け継がれていることが分かった。

 しかし、これにはデメリットもあり、低速域、具体的には一般道路における40km/h前後までの乗り味には荒さが目立つことから、この領域に限っていえば筆者は従来型を好む。改良型は5~10Hzでの上下振動が増え、フロアやシート座面、背もたれ部分から身体に直接伝わるからだ。前席では極めて高い遮音性を誇るMAZDA3だけに、この上下振動は非常に気になった。

 つまり、現時点でSKYACTIV-Xが狙った世界は、針の穴に糸を通すような繊細な領域で、あちらを立てればこちらが立たず、そんな状況にあると公道試乗を通じて痛感した。

 狙いどころは心底すばらしいし搭載技術レベルは世界トップレベルだ。数々のテストコース試乗ではSKYACTIV-Xではない標準エンジン車との違いも明確だった。だからこそ、筆者はこれまで期待を込めて応援し続けてきた。

 繰り返しなるが、SKYACTIV-Xに求めたいのは「誰もが乗ってスグに実感できる明確な違い」。日本の公道で許された速度域や運転環境で分かりやすく体感できることができれば、意味的価値という商品購買力に直結するのではないか。

 ではその「明確な違い」とは何か。筆者は加速力の体感レベルを上げること、つまり“全域でのトルク向上”を提案したい。言うは易く行なうは難しだが、出力よりもトルクの向上、これこそSKYACTIV-X本来のキャラクターを際立たせることにつながると思う。台形を描く現状のトルクカーブ曲線を、その面積として20%程度大きくすることができれば、誰もが、どんな場面でも「おっ、いいな!」と感ずるのではないかと考える。

 もう1つの試乗車であるSKYACTIV-Dはどうか。85kW(116PS)/4000rpm、270Nm(27.5kgfm)/1600-2600rpmから、改良型は95kW(130PS)/4000rpm、270Nm(27.5kgfm)/1600-2600rpmへと改められた。出力は14PS向上したが、最大トルク値は変わらない。しかし、トルク曲線で確認すると違いは明確で、3000-4500rpmにおけるトルクの落ち込みを大きく減少させている。

 従来型のSKYACTIV-Dは、たとえば高速道路で本線に合流するシーンや多人数乗車で坂道を加速させていく際に加速力の落ち込みが激しかった。その際の躍度を計測すると、変速を伴わない加速途中であっても大きく減少する場面が確認できたほど。

 改良型ではその躍度の落ち込みがなく一定なので、ドライバーは得られた体感加速をゆとりとして実感しやすい。また、加速度を用いて計測すれば常に従来型を上まわる値を示すことから速さも同時に感じられる。加えて、SKYACTIV-X搭載モデル同様に足まわりやATの制御ソフトウェアが変更されているので、改良型SKYACTIV-Dが生み出した力は相乗効果として効率良く伝達される。

SKYACTIV-D 1.8を搭載するファストバックのMAZDA3「XD L Package」(2WD/297万3055円)。SKYACTIV-D 1.8搭載車では最高出力を85kW(116PS)から95kW(130PS)に向上させるとともに、より広いエンジン回転域で力強いトルクを発揮する制御を行なうことで、アクセルを踏み始めた瞬間の応答を大幅に改良したという

 とはいえ、CX-5などが搭載する2.2リッター版SKYACTIV-Dのような力強さは1.8リッター版にはない。細かなところは省くが、ディーゼルエンジンの有害な排出ガス成分にはNOxとPMがある。SCR触媒があればディーゼルエンジンの真骨頂ともいえる高温での一気燃焼が可能になるため、トレードオフで大量に発生するNOxを気にせず出力/トルク特性を追い込め、パワフルな走りと&クリーンな排出ガスの両立が期待できる。

 しかし、マツダはSCR触媒を用いずPM対策のDPFのみで国内外の厳しい排出ガス規制をクリアすることを選んだ。これこそ真の意味でのクリーンディーゼルだ。ただ、ディーゼルエンジンには排出ガスの相克する課題「NOxとPMのトレードオフ」がある。

 こうした課題に対して、2.2リッター版であればツインターボ化によって出力を補うことができるものの、シングルターボの1.8リッター版ではそれが厳しく、さらに燃費数値に対する要求も厳しいため、結果として1.8リッター版の出力/トルク特性はSCR触媒を用いた欧州ディーゼルエンジン(1.5~2.0リッタークラス)と比較して低かった。

 今回の改良は制御ソフトウェアのみで達成しているが、SKYACTIV-Dの開発を担当された走行・環境性能開発部の小野泰司氏によれば、「さらなる高効率化を目指します!」とのこと。なおマツダからは、すでにSCR触媒を用いたSKYACTIV-Dの次世代技術の開発も公表されている。

 最後に。パワートレーン以外にも、いくつかMAZDA3全車を通じて改良が施されたが、その1つにi-ACTIVSENSEがある。このうち、ACCである「MRCC」(マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール)では、前走車との車間距離制御が緻密になって追従性能が向上している。

 従来型では、システムによる減速中にドライバーがアクセルペダルを踏み足すオーバーライドを行なった際に軽いショックを伴っていたが、改良型ではブレーキアクチュエーターの制御を変更し、大きめの作動音は残るもののオーバーライドに伴うショックはほぼゼロになった。また、車線中央維持機能である「CTS」(クルージング&トラフィック・サポート)も55km/h以上でもステアリングアシスト機能が働くように改められた。

 先ごろ、MX-30 EV MODELの国内販売も開始された。SKYACTIV-Xに代表される内燃機関による電動化と、電気自動車によるフル電動化、これにレンジ・エクステンダー役としてロータリーエンジンの復活劇。2022年以降にはPHVや次世代6気筒内燃機関の登場も控えている。進化を続けるマツダのパワートレーン技術、筆者は引き続き応援したい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛