試乗インプレッション

クローズドコースで新型「MAZDA3」に試乗。超低速走行で感じた個性の違い

“人間の体”を徹底的に研究したクルマ作りがもたらしたものとは

 すでに北海道などで先行試乗した人たちから「いい、いい!」と聞いていた新型「MAZDA3」。これから始まるマツダの快進撃第2幕の訪れを予感させる前評判に、どれほどこの日を待ち望んだことだろう。ようやく、と言ってもまだクローズドコース内ではあるが、セダンとファストバックそれぞれに試乗する機会に恵まれた。しかもセダンに搭載されるのは、初披露となる2.0リッターガソリンエンジンの「SKYACTIV-G 2.0」だ。さっそく試乗コースへ……と吸い寄せられるように歩き始めると、「まずはコチラです」と呼び止められた。試乗の前に、少しお勉強タイムがあるようだ。

 それは、この新型MAZDA3がどのような哲学に基づいて開発されたのか。その“基本のキ”を体験する時間だった。「Be a driver」をブランドテーマに掲げるマツダは、運転席だけでなくすべての席で同じように走る楽しさ、快適さを味わえるクルマを目指し、その一環として人間の体や感覚を研究している。そして、人間は自らが意図した行動によって引き起こされた違和感や不快感は感じにくいこと。それが、人間が本来誰でも持っていて無意識に行なっているバランス保持能力によるものであることを確認。例えば、自分の足で歩いている時には、頭が揺れていても目線や感覚では大きな揺れを感じないように、無意識のうちにバランス保持能力を発揮しているのだという。

 もしそれが、クルマの挙動でも実現できたなら、人間にとって不自然な揺れがなくなり、もっと快適に思い通りに走れるはず。そのためには、まるで自分の足で歩いているような自然な運転感覚を実現しなければならない。というのがMAZDA3開発のベースとなり、そのために全ての部品を一新したのだという。そして、タイヤ、サスペンション、ボディ、ステアリング、シートと、それら全てが時間軸で連携して動くことで、人が自分の足で歩くような運転感覚を実現しているのだそうだ。

 その技術の核となる1つが、座ると骨盤をしっかり立てて背筋にS字カーブができるように開発したシート。なぜ骨盤を立たせるのが重要なのか、実際に違いを体験できるという。目の前には、グラグラと前後左右に揺れる椅子の座面だけがあり、座ってみるとまるでバランスボールのように、気を抜くとすぐにゆら~っと回転して、意図しない方向を向いてしまう。でも骨盤をしっかり立たせて座ると、左右に揺れても視線はほとんど動いていない。それが背中を丸めてダラッとした姿勢にすると、視線もユラユラと大きく動いてしまう。この違いこそが、まさに人間のバランス保持能力を引き出せるか、出せないかの違いで、人間は骨盤が動いた方向とは逆に、無意識に頭を傾けるようになっているのだとか。だから、まずは人間がバランスをとりやすいシートに座り、同じくバランスがとりやすく動くクルマをつくる。そうすることで、ドライバーは操作に集中できたり疲労が軽減したり、同乗者も快適性が増すという。これはとても分かりやすく、いったいどんなクルマに仕上がっているのかますます興味が湧いたところで、ようやく試乗タイムとなった。

MAZDA3にまるも亜希子が初試乗!

 ただし、今回の試乗タイムにはフィギュアスケートで言うところの規定演技とフリー演技があるという。規定演技は、マツダが指定したコースを指定した速度で走り、先にお勉強したようなMAZDA3に注がれた哲学の部分を味わってほしいということ。おおむね、速度は10km/h~50km/hくらいの低速で、クランクやS字カーブ、高速道路のIC(インターチェンジ)でETCレーンを抜けるシーン、幹線道路へと合流するシーンなどがパイロンで再現してある。

今回は2種類のパワートレーン、2種類のボディタイプに試乗。こちらは「20S L Package」に搭載される直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジン。最高出力115kW(156PS)/6000rpm、最大トルク199Nm(20.3kgfm)/4000rpmを発生する
ディーゼルモデルとなる「XD PROACTIVE Touring Selection」に搭載される直列4気筒DOHC 1.8リッター直噴ディーゼルターボエンジン。最高出力85kW(116PS)/4000rpm、最大トルク270Nm(27.5kgfm)/1600-2600rpmを発生する

ステアリングを握ると、自然と丁寧な走りに

セダンタイプの「MAZDA3 20S L Package」(マシーングレープレミアムメタリック)。ボディサイズは4660×1795×1445mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2725mm。車両重量は1350kg

 まずは2.0リッターガソリンエンジンを搭載したセダンに乗り込むと、さっそくシートの驚くほどのフィット感にビックリ。ほかのシートでは背中全面にシートバックが添うことはあまりないが、このシートでは隙間なくピタリと支えられている感覚が強い。そのせいか、自分の感覚でいつも通りしっくりくる運転ポジションだと納得するまで、各部の調整にやや長めの時間を要した。身体にピタリとフィットするウェットスーツが、着るのに時間がかかるのと同じような感覚だろうか。スライド、リフター、サイサポート、リクライニング、ランバーサポートが全て電動で無段階調整できるようになっていたので、微妙なところまで細かい調整が可能だった、ということもあるだろう。

人間工学に基づいたシート形状で、これまでにないフィット感で運転できた
ベースグレードを除く全車で、今回から新しくサイサポートにも対応した10ウェイパワーシート(運転席)を採用

 そしてスタートボタンを押すと、とても静かで上質なアイドリングが始まる。規定コースを10km/hほどで走り始め、ステアリングを右へ左へ。すでに、手足の延長にMAZDA3が繋がった感覚が芽生え始める。頭も身体もピクリともおかしな動きはせず、呼吸さえも規則正しくなっていくようで、30km/h、40km/hと少しずつ速度を上げていくのも、50km/hから20km/hへとゆっくり減速するのも、まったくギクシャクするところのない滑らかさだ。1周回ってみて強く感じたことは、いつも通り普通に運転しているのに、すごく丁寧に運転しているように動いてくれること。そもそも、ダラッとした姿勢でラフに運転しようと思わせない運転環境に身を置くよう、仕向けられているというのも一因だと思うが、それにしても、クルマの粗が目立ちやすい低速域で、これほどまでに雑な動きが排除されているとは驚きだった。

 こうして規定演技を終えたら、自由に試乗できるフリー演技の時間。少し速度を上げ気味に、外周路では120km/hに達するまで踏み込んで走ってみた。SKYACTIV-G 2.0はどこまでも上質でなめらかで、逆に言えば高揚感を煽るような盛り上がりがない冷静さがちょっと物足りないような気もしたが、高速道路をロングドライブするようなシーンでは、かなり心地よく走れるのではと感じた。

 フロントは従来からのマクファーソンストラット式を継承、進化させ、リアには新開発のトーションビーム式を奢ったというサスペンションは、中速域ではやや固めで路面の段差を拾うようだが、そこから高速域に入るにつれて柔軟さが強まり、エレガントな乗り味に。コーナリングでのバランスもよく、荷重移動が唐突にこないので扱いやすい。まさに、複雑な挙動が一本の線上で途切れなくつながって伝えられてくるようだった。

 そして次に、クリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」のファストバックに乗り換える。SKYACTIV-G 2.0のハッチバックと比べると重量が60kgほど重くなるので、出足の重さを予想していたが、それほどでもなく少し穏やかなくらいで走り出す。規定演技での乗り味は、やはり不快な振動や揺れがなく、一体感がずっと続くものだった。しかも低速域での足まわりにもセダンよりしなやかさが感じられ、より路面に沿うような印象だ。タイヤは215/45R18でセダンと同じだったので、足まわりのチューニングで味付けを変えているのかな、と思うほどだったが、のちにエンジニアに聞いたところ「味付けを変える意図はなく、目指した着地点は同じ」とのこと。セダンとファストバックのボディ形状の違いが、何らかの影響をおよぼしているのではないか、ということだった。

ハッチバックタイプの「MAZDA3 FASTBACK XD PROACTIVE Touring Selection」(ソウルレッドクリスタルメタリック)。ボディサイズは4460×1795×1440mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースはセダンと同じ2725mm。車両重量は1410kg

 そして加速フィールでは、1500rpmを超えたあたりから、エンジンがとてもイキイキとし始めるように感じ、高速域まで弾けるように吹け上がっていく。それが心踊るような抑揚で、官能的な部分さえある。ステアフィールも、セダンでは少しドッシリとした剛性感が強かったが、ファストバックではやや軽快感が加わってスポーティさもアップ。コーナリングでも素早く鼻先が向きを変え、タイトコーナーが連続するような場面ではボディもセダンより大きく振られるような感覚が出る。でも決してそれが不快ではなく、むしろ気分を高めてくれる面白さを演出していると感じた。これも、当初はガソリンとディーゼルのパワー特性の違いによるものかと思っていたが、エンジニアに聞いてみると恐らくボディ形状の違いによるものだろうとのこと。とすると、今回はロングドライブを心地よく流すならセダン、ワインディングを軽快に走るならファストバック、という感想を抱いたが、もしかしたらSKYACTIV-D搭載のセダン/SKYACTIV-G 2.0搭載のファストバックという、今回とは反対の組み合わせだったら、感想も入れ替わることになるのかもしれない。そこはこの先、一般道での試乗解禁を待ってまた確かめたいと思う。

MAZDA3がこだわった、静粛性とブレーキフィール

 そのほか、セダン、ファストバックともに素晴らしいと感激したのは、静粛性の高さとブレーキフィールのよさである。やはりこの2つには開発時に並々ならぬこだわりを持って進めてきたようで、全て説明すると大学の講義のようになってしまうので、ここではかいつまんでお伝えしたい。

 まず静粛性については、従来は「音圧レベル」を指標として防音・吸音対策を行なってきた。それが今回から「音の到来方向」、「音の時間変化」という新たな指標を設け、音の減衰によるコントロール、固体伝播、空気伝播によってそれを調整したという。例えば、振動が起こりやすいドアまわりでは、溶接か所を増やして振動を止めるのではなく、ある1点に振動を集めて熱エネルギーに変える、という新たな発想から、Bピラーの上部に「減衰節」と呼ぶ小さな樹脂を使ったパーツを採用したという。

 また、ボディにたった1%の穴が空いているだけで30%の遮音機能を失い、10%の穴では70%の遮音機能消失になることを突き止め、外部から侵入する音を徹底してシャットアウト。とはいえ、穴を塞いでいくと今度は空気が逃げなくなり、ドアが閉まりにくくなるなどの弊害が出るため、エアマネジメントも同時に行なっている。フロアマットの吸音力を上げるなど、重量増にならない遮音技術にも磨きをかけてきたようだ。

セダンもファストバックも静粛性はかなり高い。後席も座り心地がよく、ロングドライブでも快適に過ごせそう
Bピラー上部に新しく採用した「減衰節」という小さな樹脂パーツ。ここに振動を集めて熱エネルギーに変換する
フロントドアのスピーカーホールをなくすため、スピーカー位置も変更されている

 そしてブレーキフィールについては、ドライバーがペダルを踏む時に、クルマの反応を予想して無意識に体のバランスを取ろうとしていることと、ブレーキペダルを操作する筋肉の動きに着目。筋肉の動きが連鎖するとバランスが取りやすくなるため、制動中にしっかり踏み応えが感じられる特性と、踏み応えに応じた減速感が得られる特性がカギとなる。従来のブレーキは、操作の際にスネの前側にある「前脛骨筋」を使ってしまうことが多かったが、その筋肉は弱く、スムーズな操作がしにくかったり疲労の原因となったりしていた。そのため、ふくらはぎの「ヒラメ筋」と太もも前側の「大腿直筋」という大きくて強い筋肉を使って操作できるよう、各部をチューニングしたのだそう。

 というわけで、あまりクルマの技術説明では聞いたことのない、“人体のヒミツ”的な話が多く、目からウロコが何枚も落ちた試乗会だったが、確かに新型MAZDA3は前評判通りにとてもいいクルマだと実感した。プロトタイプの現時点では、上質感がありつつも、ちょっと振り回して遊びたいヤンチャな一面をのぞかせたファストバックがお気に入りだ。ただデザインとしてはセダンの方が好みなので、搭載されるパワートレーンが入れ替わったら、セダンもちょっとヤンチャになるのかどうか? その点も楽しみに、公道試乗の機会を待ちたいと思う。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学