試乗インプレッション
日産「GT-R NISMO」2020年モデルに市街地&サーキットで試乗。ここで1つの完成形を見た
オーダー殺到で納車が今年度中に間に合わない?
2019年7月8日 14:00
未だ進化を止めないGT-R
デビューは2007年10月だから、すでに12年目になる日産自動車「GT-R」だが、まだまだその進化の道のりに終わりは来ない。最新の2020年モデルでは特に大きな跳躍を果たした「GT-R NISMO」を、今回は日本を離れドイツにてテストした。一般道、アウトバーン、そしてサーキットという絶好の舞台で、その実力を存分に確かめたのだ。
新型GT-R NISMOのエンジンスペックは、最高出力600PS、最大トルク652Nmと、現行のMY18から変わっていない。しかしながら新型ではボディ、サスペンション、ブレーキ、そしてそのエンジンにまで至る大幅な改良によって速さをさらに磨き上げ、そして一層、人の感性に響くクルマへと仕上げたという。
一番のトピックは軽量化だ。ルーフ、ボンネット、フロントフェンダーはカーボン製とされ、車重を10kg以上軽減している。また、フロントフェンダーにはGT3レーシングカーにヒントを得たエアアウトレットが開けられ、ダウンフォース向上、エンジン冷却性能の向上を実現した。
タイヤも新開発。コーナリングフォースを5%高めたというこのタイヤに合わせて、サスペンションも当然セットアップを変更している。ホイールはさらに軽くなり、その向こうにはフロント410mm、リア390mmという大径のカーボンセラミックローターを用いた新しいブレーキシステムが搭載されているのが見える。
出力は変わらないものの、実はエンジンではターボチャージャーを刷新している。新しい翼形状により効率を落とすことなく翼枚数を1枚減らし、ブレードを薄肉化。慣性質量を14.5%も減らしたことで、過給立ち上がりのレスポンスを向上させた。
クルマに乗り込もうとして気付いたのは、シートが新しくなっていたことだ。専用のレカロ製シートは、カーボンシェルにコアフレーム構造を追加することで剛性を20%向上させ、さらにサポート性もより強めているという。それが必要となるぐらい速さを増したに違いないと考えると、身震いしてしまう。
乗り心地が格段によくなった
ところが走り出してまず感じたのは、乗り心地が格段によくなっているということだった。スプリングレートは相当硬く、基準車の倍近いはずなのに、当たりは決してハードではなく短いストロークの中でしなやかさすら感じさせる動きをする。これには減衰力をやや柔らかめに振ったサスペンションはもちろん、カーボンブレーキの採用によるバネ下の大幅な軽量化……、具体的には4輪で16.4kgというそれも効いているのだろう。
しかも、このカーボンブレーキは低速域、低温域での効き、コントロール性が卓越していて、従来のカーボンブレーキのネガを一切感じさせないのが嬉しい。時折、ほんの少しだけ鳴きが出ていたが、それも敢えて言えばの話だ。
そしてエンジンも印象を大きく違えていた。圧倒的なパワーとトルクは変わらない一方で、踏み込んだ瞬間のレスポンスが鋭く、しかもそのまま軽々と吹け上がる爽快感が備わっているのだ。アウトバーンの速度無制限区間で前が開けた時など、まさに瞬時にフル加速に入れるし、街中でもピックアップのよさが扱いやすさに繋がっている。
サーキットでのパフォーマンスは?
そんなわけで物々しい外観とは裏腹に、新型GT-R NISMOは市街地や一般道でもきわめて快適、そして乗りやすく仕上がっているのである。さて、それでは肝心なサーキットでの走りはどうだろうか?
ベルリンの中心街から1時間半ほど走ってきてたどり着いたのはラウジッツリンク。2001年に完成したこのコースは現在DEKRAの持ち物であり、さまざまなテストに供されているという。三角形の変形オーバルとロードコースを組み合わせた個性的なこのコースで、新しいGT-R NISMOは圧巻のパフォーマンスを見せつけた。
まず鮮烈なのが、その加速である。従来とパワーやトルクは一緒とはいえ、アクセル操作に対する反応が圧倒的にリニア。そして鋭く、気持ちよく踏み込んでいける。中速域での力感、レスポンスにもシビレるが、トップエンドではさらにその勢いが高まっていくから、最初は思わずアクセルを戻しそうになってしまった。
しっかりと引っ張ってからシフトアップすると、6速DCTはパワーバンドを外すことなくシームレスに加速を持続させる。一般道や特に高速道路ではもう1段ギヤを追加したいと感じるが、サーキットでは不満を抱かせることはない。
そしてブレーキがこれまたよい。制動力は凄まじく高く、しかも何度フルブレーキングを繰り返してもフェードの兆候をまるで見せない。しかもコントロール性だって素晴らしく、微妙な荷重の出し入れなどにも繊細に応えてくれるのだ。これがあれば安心してアクセルを踏み込める。そんなブレーキである。
減速ののちターンインしていくと、その際の応答性も非常にリニア。まるでライトウェイトスポーツかと思うほどの軽やかさ、一体感を味わえる。確かに奥でさらに深くなっていくようなコーナーでは、リアがこれまでのGT-Rのイメージ以上の高い接地性で、じりじりと漸進的なスライドを可能としている一方で、ややラインが膨らみ舵角が大きくなる傾向も見られたが、この辺りはコースによって印象が変わるところだろうし、必要なら変更可能な前輪のキャンバー角調整などで改善できるだろうとのこと。それもまた、こうしたクルマの楽しみの1つだろう。
それにしても半ば仕事を忘れて、走りに没頭してしまったというのが正直なところである。クルマ全体におよぶ徹底的なブラッシュアップで、600PSをこれまでより格段にリラックスして堪能できるようになったのは、まさに進化。一般道ではADAS系の装備が10年前からまったく進化していないことが気になるとはいえ、ここで1つの完成形に至ったなという感はひしひしと伝わる。
その分、価格は決して安くはない。正式な発表はまだだが、どうやら2500万円前後というプライスタグが掲げられそうである。MY18のGT-R NISMOと比べても相当な値上がりになってはいるのだが、このパフォーマンスを考えればモーレツに安いということもできる。さらに言えば、本当にこのクルマを求めている人にとっては、多分そんなのは些細なことでしかないだろう。ただし、すでにオーダーは殺到していて、今から注文しても納車は今年度中には間に合わないようである。