試乗インプレッション

日産「GT-R」2020モデル試乗。とどまるところを知らないGT-Rの進化を見た

GT-Rの生誕50周年を祝した「50th Anniversary」

とどまるところを知らないGT-Rの進化

 R35 GT-Rが登場して気づけばもうすぐ12年。ここまで長寿になると誰が想像していただろう? 競争が激しいスポーツカージャンルにいながら、同型で走り続けることはかなり厳しい。ちょっとでも力を抜けば、ライバルにタイムも乗り味もアッという間に置いていかれるからだ。だがR35は、着実な進化を積み重ねることで対処してきたことは周知の事実。今回もまたそれを実現してくれるか否かは気になるところだ。

 今回取り上げるGT-Rの2020モデルは、2017モデルの進化版だ。2017モデルはビッグマイナーチェンジという言葉が相応しいくらいの変更が行なわれたクルマで、実はボディ構造を見直すほどの改良を施していた。フロントのAピラーまわりの構造を変更し、ボディの前後バランスを適正化。その際、Cピラーに存在していた特徴的な折り目もなだらかになり、そこで発生していた空気の渦も解消した。つまり、キャビン上部は別物だったのだ。

初期型R35 GT-Rのオーナーだったモータージャーナリスト・橋本洋平氏が2020モデルをチェック

 また、GT-R NISMOが採用していた気筒別最適点火を取り入れ、6割の領域でトルクアップ。結果として今度は冷却が厳しくなり、フロントマスクを変更することでそれを解消。けれども、開口部を広げたそれはCd値を悪化させることに繋がり、それを取り戻すためにサイドスカートやリアエンドの形状を改めたという。プラスがあればマイナスもあるのがクルマの改良だったりするが、マイナスを最小限に留め、少しでも性能アップに努力する姿勢にはGT-R開発陣の意地が見えた。モデルチェンジしなくても、まだまだR35でいけるのだと。

 走れば確かにそれまでとは違っていた。2014モデルではコンフォート方向に振り過ぎ、2015モデルで走りをやや引き戻したかに思えていたR35は、コンフォートと走りをうまくバランスできるように進化していた。乗り味は明らかに洗練され、けれども一体感溢れるコーナリングも実現可能だったのだ。ステアリングインフォメーションが色濃くなったことも印象的。どの領域からでも意のままにレスポンスするエンジンもまた好印象だった。サーキットで乗っても思いのままに走れる仕上がりを見て、これは“R36”と言ってもよかったのではないかとさえ感じていたことを思い出す。もはやR35としては完成形といっていい。初期型オーナーだった僕からすれば、それはもう別のクルマのように感じたのだった。

 だが、まだ先があったわけだ。2020モデルは、NISMO仕様で採用していたターボチャージャー技術を採用。コンプレッサーハウジング内側に樹脂を射出することで、シール機能を持たせるアブレダブルシールを施した。これによりコンプレッサーブレードとコンプレッサーハウジングのクリアランスを50%も低減。吸入した空気の漏れを最小限に留めている。さらに、デュアルクラッチトランスミッションのAレンジ/Rモードも積極的に高いギヤを選択するようにシフトスケジュールが変更されている。

今回試乗したのはGT-Rの生誕50周年を祝した「GT-R 50th Anniversary」(1351万6200円)で、ボディカラーはワンガンブルー(特別塗装色)+ホワイトステッカー。ボディサイズは4710×1895×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm。車両重量は1770kg
ワンガンブルーのモデルでは、ボディカラーとコーディネートして設定した50周年記念ロゴ入りのブルースポークホイールを標準装備。タイヤはダンロップ「SP SPORT MAXX GT600 DSST CTT」(フロント:255/40ZRF20、リア:285/35ZRF20)
リアまわりに「GT-R 50th Anniversary」の文字をあしらったバッヂとステッカーを装着
搭載するV型6気筒DOHC 3.8リッターツインターボ「VR38DETT」型エンジンは最高出力419kW(570PS)/6800rpm、最大トルク637Nm(65.0kgfm)/3300-5800rpmを発生。WLTCモード燃費は7.8km/L

 また、サスペンションセッティングも改めたという。速さ、応答性、質感などを追求した2020モデルは、ステアリングを切ってからヨーが発生するまでの応答性を3%向上したそうだ。加えて、剛性を維持したままR35史上最軽量を達成した新デザインホイールも採用している。このほか、ブレーキブースターの特性も改め、初期の効きが分かりやすく、コントロール性にもこだわったとのこと。アクセルやブレーキペダルの操作性も人間工学に基づき改良が施されたようだ。

インテリアではミディアムグレーの専用内装色を採用するとともに、専用のステッチ付アルカンターラルーフトリム、50周年記念バッヂ(センターコンソール)、50周年記念ロゴ入りメーター&キッキングプレート、前席・後席セミアニリン本革シート(専用色、前席50周年記念刺繍入り)+ナッパレザーインストパネル、アルカンターラ前席サンバイザーなどを装備

あくまでオールラウンドで通用するロードゴーイングスポーツカー

 そんな2020モデルで走り始めれば、極端には変更されてはいないが、以前とは確実に違うクルマであることが感じられる。ステアリングをジワリと切り込んだ瞬間から一体感があり、手の内に収めやすい感覚に溢れていた。ボディとの一体感は高まり、まるで軽量化したかに思えるほどの仕上がりがある。乗り心地を悪化させることなく、ダンピングが良好になったことも付け加えておきたい。

 それらを後押ししているのがスロットルレスポンスやブレーキの扱いやすさだ。より意のままに操れるようにリニアな仕上がりとなっていることは明らかだった。右足のわずかな動きが即座に動きとなって跳ね返ってくる、今までよりもっと血の通った乗り味に生まれ変わっていたのだ。

 それだけでは終わらない。感心したのは、音の面での官能性がさらに引き上げられていたことだった。アクセルオフやダウンシフト時にエキゾーストノートをバラバラと言わせる欧州車がよくやる演出が盛り込まれていたのだ。

 ここまで進化したと聞けば、かなりスポーツ性に特化したかに思えるかもしれないが、そうではない。あくまでオールラウンドで通用するロードゴーイングスポーツカーという立ち位置を崩さなかったところはさすがだ。突出した性能を追求するのではなく、あくまでバランスを守ったその作りからは、GT-Rらしさが滲み出ていたようにも感じる。

 初期型と比べるとまるで違う世界に到達した2020モデルには、もう一度手にしたいと素直に言える完熟の仕上がりがあった。それを目の当たりにすると、12年もの長寿となったことも逆にわるくないとさえ思えてくる。ただ、そろそろ次の一手があってもいい気がすることも事実。完成度が高ければ高いほど、次が見たくなってくる。GT-Rの60周年が無事に迎えられる体制を望みたい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学