試乗インプレッション

“超高性能ロードゴーイングカー”として進化する日産「GT-R 2018年モデル」

日常使いでの快適性はAMGやMをしのぐ水準に

より上質に洗練された2018年モデル

 思い起こせばセンセーショナルなデビューからはや10年あまり。日産自動車「GT-R」は毎年のように進化を重ね、ニュルブルクリンクでのタイムにまつわる諸々や、市販車として世界最速レベルを誇る0-100km/h加速タイムから、開発責任者の発した言葉にいたるまで、海外の名だたる列強も一目置く存在であり続けている。

 筆者もこれまでことあるごとにGT-Rをドライブして進化の過程をつぶさに見てきたが、当初に開発責任者を務めた水野和敏氏が日産を離れ、代わって田村宏志氏がその立場に就いて以降は、路線を変えて超高性能ロードゴーイングカーとしての性格を強めているように思える。

 最新の2018年モデルをドライブしてまず感じるのは、まさしくそれだ。近年のモデルイヤーでもすでにだいぶ改善されていた乗り心地がさらによくなり、とても乗りやすく、上質に洗練された乗り味に仕上がっている。万人向けというと語弊はあるが、より誰でも臆せず乗れるクルマになったことに違いない。

 しなやかさを増した足まわりによりタイヤの路面への接地性も向上していて、アンジュレーションの影響を受けにくく、修正舵が減ってスタビリティが増していることは明らか。これには2017年モデルにおいて、より高められたボディ剛性や、それに合わせてチューニングを最適化したサスペンションなどが効いていることに違いない。終始ビタッと安定していて、車速を高めてもその印象がほとんど変わらないことにも驚く。

 さらには、同じく2017年モデルで吸音材や遮音構造が見直されたことでロードノイズや風切音が大幅に低減し、静粛性も高まっている。かつてはあらゆるところからいろいろな音が聞こえたのとは大違いだ。

 かくしてGT-Rは日常使いでの快適性が飛躍的に高まった。加えて操縦感覚も全体的に動きが軽くなったように感じられる。従来はそれなりに重さを感じたものだが、その印象が薄れて一体感が増し、“乗せられている”感覚が払拭されている。

 かつてのGT-Rはパフォーマンスこそ高いものの、快適性に欠けることはよく指摘されていたとおりで、筆者もそのように感じていた。たとえばAMGやMあたりに対して、絶対的な性能では上まわってもGT-Rが及んでいなかった部分が快適性だった。それが遜色なくなったどころか、彼らをしのぐ水準に達したと思えたほどだ。

 なお、2017年11月に登場した2018年モデルは、大がかりな変更のあった2017年モデルからはあまり変わっておらず、それまで上級機種のみに与えられていた車両防盗システムを全車に標準設定としたほか、「Apple CarPlay」が全車に対応したことが変更点として挙げられる。

今回試乗した日産自動車「GT-R」のボディサイズは4710×1895×1370mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2780mm
ホイールはレイズ製アルミ鍛造。タイヤサイズはフロント255/40 ZRF20、リア285/35 ZRF20

加速感とサウンドがさらに向上

 GT-Rといえばもちろんエンジンを抜きには語れない。もともと強力なV型6気筒 3.8リッターツインターボエンジンはさらに力強さが増し、吹け上がりもよりスムーズになり、トップエンドにかけてもうひと伸びする印象になった。思えば当初は480PSで登場し、それでも十分にインパクトはあったのに、いまや570PSなのだから、その実力たるや推して知るべしである。加えて、エキゾーストサウンドもこもりがなく抜けた感じのクリアなサウンドに洗練されている。これにはアクティブ・サウンド・コントロールの採用も寄与していることに違いない。

最高出力419kW(570PS)/6800rpm、最大トルク637N・m(65.0kgf・m)/3300-5800rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.8リッターツインターボエンジンを搭載。トランスミッションに6速DCTを組み合わせ、4輪を駆動する

 圧倒的な高性能を2ペダルによるイージードライブで楽しめるのもGT-Rならでは。2017年モデル以降は、より円滑なシフトチェンジと変速時のノイズ低減を図ったという改良型6速DCTが組み合わされたことで、ドライバビリティはさらに高まっている。

 ただし、ちょっと気になったのがタイトコーナーブレーキング現象だ。これを緩和するため一時的に後輪駆動になる機構を採用したはずなのに、個体の問題かもしれないが実際にはややガクガクした。ふだん使いでの快適性を高める上でも重要な部分なので、さらなる改善に期待したいところだ。

GT-Rのインテリア。撮影車は「Premium edition」モデルのみ選択可能なオプションの「ファッショナブルインテリア」により、シートやインパネ、ステアリング、シフトノブなどが通常のブラックからタンカラーに変更されている。また、全車に標準装備される「NissanConnectナビゲーションシステム」は2018年モデルから「Apple CarPlay」に対応した

特別な感情は今も変わらず

 GT-R自体のモデルライフが終盤に差しかかっていることには違いないが、ひさびさにGT-Rに触れて、日産はよくぞGT-Rのようなクルマを世に送り出し、しっかりと育ててくれているものだとあらためて痛感した次第である。

 レースエンジニアだった水野氏が手がけた初期のGT-Rは、ユーザーに納車されるクルマがニュルブルクリングでタイムを出した仕様と基本的にイコールである点に大きな価値があった。それがGT-R自体も成熟し、技術畑出身ながらストリート派である田村氏がバトンを受け継いでロードゴーイングモデルとサーキット向けを明確に分けたことで、ロードゴーイングモデルの日常使いにおける快適性が飛躍的に高まったことは、GT-Rの進化のストーリーとしてよかったように思っている。

 これほど究めたクルマというのは、この先もう出てくるかどうか分からない。のちのち振り返っても、日本の自動車史に深く刻まれる1台であることは言うまでもない。筆者自身もGT-Rに乗れる機会が訪れるたびにいつも特別な気持ちになる。それは、登場したばかりの初期型GT-Rを初めてドライブした10年あまり前からずっと変わることはない。もうしばらく現役でいてくれることだろうが、できるだけ長くその時間が続くよう願ってやまない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛