試乗インプレッション

見た目は変わらずも中身は進化。フェイスリフトしたメルセデス・ベンツ「C クラス」をドイツで試す

変更箇所は実に6500。C 200、C 220 d、AMG C 43に試乗

4年目にして初のフェイスリフト

 世界4拠点で生産され、2017年の世界販売台数はセダンとステーションワゴンだけでも41万5000台に達したというメルセデス・ベンツ「Cクラス」は、今や同ブランドにとって押しも押されぬ屋台骨と言っていい。そのCクラスが、現行モデルの登場4年目にして初のフェイスリフトを敢行。ルクセンブルク~ドイツで開催された、その国際試乗会に参加してきた。

 もっとも、その外観はまさにお色直し程度の変更に留まる。デザインが改められたのは、まずは前後ライトの内部。オプションとして、左右それぞれに84個のLEDを使ったマルチビームLEDヘッドライトも用意された。前後バンパーのデザインにも手が入れられて、アバンギャルドとエクスクルーシヴの違いが強調されたが、これは日本仕様ではあまり関係がないかもしれない。ホイールも新意匠となり、さらに空気抵抗低減を狙いつつもデザイン性を損なわないエアロホイールが用意された。

 率直に言って、見た目の違いは“分かる人には分かる”という程度。実際、ジュネーブ・モーターショーでCクラス プロダクトマネージャーのミハエル・クリストフ氏は「現行Cクラスは世界で非常に支持されているモデルですので、内外装は変え過ぎず、全てを進化させたかったのです」と語っていた。しかしながら、単なる意匠変更には留まらないのが今回のフェイスリフトである。

直列4気筒1.5リッターターボエンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み合わせる「C 200」。ボディサイズは4686×1810×1442mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2840mm。エンジンの最高出力は135kW(184PS)/5800-6100rpm、最大トルクは280N・m/3000-6100rpm。0-100km/h加速は7.7秒、最高速は239km/hというスペック

 インテリアも、パッと見には大きな違いはないように思えるが、実際には従来と変わらないメーターナセル内に組み込まれる12.3インチTFTを使ったデジタルインストルメントクラスターが新たに用意されている。スポークにタッチスイッチを配したステアリングホイールと相まって、装着車はずいぶん先進的な雰囲気を感じさせるようになった。

 センターディスプレイも10.25インチにまで拡大されている。ただし、これはタッチパネルではなく、また音声認識機能も従来通り。つまり新型Aクラスに設定されたMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)が未採用となるのは、ちょっと惜しいところではある。

 最も大きく変わったのは、これも見た目には分からないパワートレーンだ。目玉の1つが「C 200」。新たに直列4気筒1.5リッターターボエンジンと、48V電装系の採用により減速エネルギーの回生、駆動力のアシストなどを行なうベルト式スターター/ジェネレーターが組み合わされたマイルドハイブリッドシステム“EQブースト”が搭載された。

 また、「C 220 d」のディーゼルエンジンも、先にEクラスに搭載されている2.0リッターの最新ユニット「OM654」型に置き換えられている。こちらはアルミブロックの採用でエンジン重量を約16%削減する一方、最高出力を24PS増の194PSに向上させた。

直列4気筒2.0リッターディーゼルエンジンを搭載する「C 220 d ステーションワゴン」。ボディサイズは4702×1810×1457mm(全長×全幅×全高)。最高出力は143kW(194PS)/3800rpm、最大トルクは400N・m/1600-2800rpm。0-100km/h加速は7.0秒、最高速は233km/h

 当初はAMGスポーツとして登場し、のちに「C 43」と改名して大きな支持を得た「メルセデスAMG C 43 4MATIC」も当然用意される。そのV型6気筒3.0リッターツインターボエンジンは、最高出力を367PSから390PSまで引き上げている。

 シャシーにはセットアップを含めて大きな変更はない。目新しいのは、コイルスプリング式サスペンションに可変ダンピングシステムを組み合わせた「DYNAMIC BODY CONTROL」が設定されたこと。AMG C 43もやはりファインチューン程度とのことだが、ESPのSPORT+モードは、よりスライドを許容するように変更されたという。そこはAMG、少なからずそういう要望があったのだろう。

V型6気筒3.0リッターツインターボエンジンを搭載する「メルセデスAMG C 43 4MATIC」(セダン)。ボディサイズは4702×1810×1429mm(全長×全幅×全高)。最高出力は287kW(390PS)/6100rpm、最大トルクは520N・m/2500-5000rpm。0-100km/h加速は4.7秒、最高速はリミッターで250km/hに制限される
メルセデスAMG C 43 4MATICのインテリア

C 200、C 220 d、AMG C 43に試乗

 一番の注目株であるC 200のドライビング体験は、なかなか興味深いものだった。エンジンは音も回り方も味気ないが、発進は滑らかだし、その後の加速も十分に力強い。9速ATはこまめな変速でトルクバンドをキープするが、素早い変速の際にもショックなどは皆無で快適性も高い。

 実は、こうした走りを可能にしているのはEQブーストである。エンジンが最大トルクの280Nmを発生するのは3000-4000rpmという回転域であり、それより下では単体ではそれほど力強いわけではない。EQブーストはここを補い、クルマを滑らかに発進させるのだ。

 また、このベルト式スターター/ジェネレーターはシフトアップ時には抵抗となってエンジン回転を素早く落とし、逆にシフトダウン時には回転数を高めるべくアシストすることで、速くスムーズな変速を可能にしている。さらに、減速時には最大12kWのエネルギー回生を行ない、発進時だけでなく加速時にも最大10kWでモーターアシスト。さらにさらに、ECOモードではアクセルOFFでのエンジン停止、そこからのスムーズな再始動にも威力を発揮するなど、まさに大活躍である。

 つまりエンジン、電気モーター、9速ATが渾然一体となって、凄まじく高効率な走りを可能にしているのがこのパワーユニットである。決して情感あふれるフィーリングというわけではないが、この徹底ぶり、あるいは健気な仕事ぶりにはどこか愛おしさすら抱いてしまった。

 C 220 dの質感高い走りっぷりにも感心させられ通しだった。騒音、振動のレベルは極めて低く、アイドリング付近から速やかにトルクが立ち上がるため、ドライバビリティも上々なのだ。巡行中のエンジン回転数が低く抑えられることもあり、C 200よりも静かに感じられたほど。しかも燃費も、燃費計を見る限りはざっと3割はよさそうとなれば、もはや脱帽するしかない。

 AMG C 43については、さすがに単体で乗って23PSの差を実感することは叶わなかったが、相変わらず走りはスムーズかつパワフル。専用のプログラムが与えられて、多少のショックは厭わず素早い変速を行なう9速ATも痛快で、アウトバーンの速度無制限区間を存分に楽しめた。

 シャシーもさまざまな組み合わせを試すことができた。中でも、最も好印象だったのはエアサスペンション仕様。足下には19インチの、しかもランフラットタイヤを履いていたのだが、乗り心地は終始しっとりとしていて、快適に過ごすことができた。すでに日本仕様のCクラス、当初とは異なりランフラットタイヤの標準装着はほとんどなくなりつつあるが、この組み合わせなら不満なしと言いたい。

 新設定のDYNAMIC BODY CONTROL+18インチタイヤという仕様も、普段はカドの丸められた上質な乗り味を、そしてSPORT+モードなどでは引き締まったキビキビとしたフットワークを楽しませてくれた。コストパフォーマンスで選ぶならこれになりそうだ。

 当然、運転支援システムも最新版とされている。内容はSクラス、Eクラスなどとほぼ同様で、アクティブレーンチェンジングアシストも初めて搭載された。試乗中にはアウトバーンで渋滞にも遭遇したが、そんな時にはアクティブディスタンスアシスト・ディストロニックは本当によい助けになると改めて実感した。

 デザインの変更は確かに最小限に留められているが、この通り中身はどこを取っても隙間なく手が入っている。実は変更箇所は、全部で実に6500にも及ぶという。これは構成パーツの半分以上が新しくなったということを意味する。

 まさにフェイスリフト以上の進化を遂げた新型Cクラス。日本での発表も、もう間近の予定である。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ」を主宰する。