試乗インプレッション

“武闘派911”の急先鋒、ポルシェ「911 GT3 RS」をニュルブルクリンク GPコースでテスト

水平対向6気筒自然吸気エンジンは、回すほどに官能的なサウンドで真価を発揮

911 GT3 RSをニュルでテストドライブ

 かつて“西ドイツ”の時代に首都が置かれていたボンの街から、クルマで南に1時間ほど。そんなドイツ北西部はアイフェル地方の地形をそのままなぞった結果、高低差が300mにも達してアップダウンが激しく、ブラインドコーナーも無数に存在。加えて1周が20km以上という尋常ならざる長さゆえ、コース半ばに差し掛かるとスタート地点とは異なる天候へと急変! と、そんな出来事さえもが日常茶飯事という、ニュルブルクリンクの旧コース。

 そうした難攻不落で知られる舞台で、6分56秒台というラップタイムを連続してマークしたと報じられたのが、今春開催のジュネーブ・モーターショーで発表された「RS」の文字が加えられたポルシェ「911 GT3 RS」だ。

 日本きってのスーパースポーツカーとして知られる日産自動車「GT-R NISMO」の、このサーキット攻略のために開発された専用のアイテム「N Attack Package」装着車のタイムが7分8秒台だから、ここでの“7分切り”というデータがいかに凄まじいかが想像できようというもの。さらに言えば、ポルシェきってのスーパーモデルである「918スパイダー」ですら、そのデータは6分57秒台。それを上回る速さというのは、本当に驚愕のレベルなのである。

 かくして、そんな圧倒的スピード性能を誇る“武闘派911”の最新急先鋒を、聖地ニュルブルクリンクでテストドライブした。

 もっとも、今回走行したのは同じニュルブルクリンクでも、通称「グランプリコース」と紹介される新しい舞台。2000年代に入ってから数度のF1レースも開催された1周が5.1km強のこちらのコースは、旧コースに比べれば起伏も穏やかでエスケープゾーンも広大と、「より常識的」なキャラクターの持ち主。

 ピットレーンに並べられた色とりどりのGT3 RSは、まさにこうした場所こそが最高に似合う。ベースのGT3に比べてもその戦闘態勢がより明白というのは、フロントフェンダー上部に新設されたエアヴェントや、より高い位置にレイアウトされたさらに巨大なリアウイングなど、さらなるダウンフォース獲得のためのさまざまな空力デザインが醸し出す印象でもある。思わず目を引かれるフロントフード上のNACAダクトは、空気抵抗係数を増すことなくより効果的にフロントブレーキへとエアを導く、こちらもGT3 RSならではのアイテムだ。

 そもそも軽量なGT3をベースに、さらなる軽量化が推進されたのもGT3 RSならではで、リアリッドやリアウイングなどGT3で既採用の部位に加え、フロントリッドやフロントフェンダーなどにも、CFRP素材が奢られている。ルーフパネルにマグネシウム材が用いられたのもニュースの1つ。リアとリアサイドに「樹脂製同様に軽い一方、傷や破損に対する耐性は遥かに上」と紹介される“軽量ガラス”が採用されたのも、見逃せないポイントだ。残念ながら今回テストドライブは叶わなかったが、オプションで用意される「ヴァイザッハ・パッケージ」を選択すると、さらに30kgの軽量化が図られる。

日本では3月28日に予約受注を開始した新型GTスポーツカー「911 GT3 RS」を、ニュルブルクリンク グランプリコースでテストドライブ。ボディサイズは4557×1880×1297mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2453mm。「911 GT3」から20PSアップとなる最高出力383kW(520PS)/8250rpm、最大トルク470N・m/6000rpmを発生する水平対向6気筒の4.0リッター自然吸気エンジンを搭載。デュアルクラッチトランスミッション「7速PDK」を組み合わせる
バイザッハ・パッケージでは、「PORSCHE」のロゴ入りリアスポイラーやカーボン織り目仕上げのルーフやフロントリッドを採用

 バイザッハ・パッケージの場合、チタン製ロールケージは、無償オプションとして設定される「クラブスポーツパッケージ」に含まれるスチール製に対して約12kgも軽量。前後スタビライザーやカップリングロッドなど、より広範囲な部分にCFRPが採用されると同時に、フロントリッドやルーフ、リアスポイラーのアッパーシェルなどにカーボン織り目仕上げが用いられ、軽量化の徹底ぶりが見た目上でも演出されている。

インテリアではカーボン製フルバケットシート、収納ネットやオープニングループ付きの軽量ドアパネルなどを採用するとともに、遮音材の縮小、軽量リアリッドの採用といった軽量化が図られた
無償オプションの「クラブスポーツパッケージ」には、ドイツ・モータースポーツ連盟(DMSB)認定のリア・ロールケージが含まれる

 そんなGT3 RSが履くのは、フロントが265/35の20インチ、リアが325/30の21インチと、「911史上で最もワイド」と謳われるシューズ。特にGT3比でリアに2サイズ幅広で1インチ大径なアイテムの装着を可能にした一因には、よりワイドなターボグレード用のボディを採用したことが挙げられる。同時にこれは、「基本設計は同じ」とされるエンジンに20PSを上乗せする大きな要因でもある。“風当たり”が強くなったリアフェンダー部の前方にインテークを設けたことで、ラムエア効果がもたらす慣性過給の威力を利用できるようになったからだ。

タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ カップ2」が標準。さらに、ドライのサーキットでのグリップ力に照準を絞った「パイロットスポーツ カップ2R」が新たに2018年第3四半期からオプション設定される。ニュルで6分56秒台をマークしたのは、このアイテム装着モデル

9000rpmと回転数が高まるほどに官能的なサウンドとその真価を発揮

 グランプリコースでのテストドライブは合計8周。ポルシェ本社が主催するサーキットでのテストドライブの流儀に従って、一応は先導車が付くものの、今回その役目を担うのは、「ニュルブルクリンク旧コースを6分47秒台でラップ」する、最高出力700PS(!)を発生するツインターボ付きエンジン搭載の「911 GT2 RS」。もちろん、その引っ張り役(?)に不足はなし。しかも、マン・ツー・マン方式なので同じグループ内の“遅いクルマ”に足を引っ張られる心配もないので、事実上は自身の能力を出し切ってのフルアタックの様相だ。

 60km/h規制のピットレーンを抜け、本コースへと合流。アクセルを深く踏み込むと背後から大ボリュームで耳に届くのは、お馴染み“GT3エンジン”のゴキゲンな咆哮。

 ストレートを終え、右へとヘアピン状に回り込む1コーナーから左・左・右と連続するタイトな4つのコーナーまでを先導車へと食らい付いて行くと、当方への値踏みが済んだということか、ここで前を行くGT2 RSの700PSパワーが炸裂した。

 さすがに直線立ち上がりでは置いていかれるものの、そうは言っても「負けてなるものか」と、ここからはもはや意地のアクセルONの連続。5000、6000、7000rpm……と、生半可なエンジンであれば「そろそろ頭打ち」となる回転数に至っても、典型的な高回転・高出力型自然吸気ユニットの活きのよさは衰えを知らないどころか、ここからがこの心臓の真骨頂だ。

 パワフルさとレスポンスのシャープさは、8000rpm、そしてレッドラインである9000rpmと回転数が高まるほどに、高周波が効いた官能的なサウンドとともに、その真価を遺憾なく発揮。この感覚こそが、絶対的にはGT2 RSのそれにわずかに見劣りする加速力との引き換えに得られる、GT3 RSでの最大のプレゼントと受け取れる。

 率直なところ、GT3用ユニットに対する20PSの上乗せは明確には実感できなかった。しかし、空気抵抗値(Cd×A)が0.672から0.77へとわずかに増しながらも、GT3の11.0秒に対してGT3 RSが10.6秒という0-200km/h加速のタイムをマークしているという点からも、「その効能は確か」と評すべきだろう。

 最も南側に位置する180度のターンを抜けると、グランプリコースは後半の高速セッションへと差し掛かる。100km/h台も後半となるそうしたエリアで実感させられたのは、「200km/h時で144kgと、GT3の同69kgの2倍以上に相当」と報告される大きなダウンフォースがもたらす安定感だった。

 もちろんそこでは、軽量化を重視したモデルでありつつも省略されることのなかったリアのアクティブステアリング・システムや、ユニボールベアリンクの採用で精度の増した、専用セットアップが施されたサスペンションなどがもたらす印象も含まれているはず。

 だが、それにしてもわずかなステアリング操作をシャープそのものの挙動として反映させるハンドリングの特性を、オーバー200km/hコーナリング時の高い安定感と見事に両立させている点には、優れたエアロダイナミクス性能が絶大な効果を生み出していると実感できたことは間違いないのだ。

 ちなみに、従来型ではリスト落ちしていたMT仕様が、ドライビング・プレジャー追求の観点から現行型で復活を遂げたことが話題にもなったのが、ベースのGT3。しかし、より絶対的なスピード性能を追い求めたGT3 RSの場合、シフト時のタイムロスが存在しない「PDK」を謳うDCT仕様のみの設定だ。

 そんな“PDK”は、今回も「D」レンジのままレーシングスピードでの走行を、驚くほど理想的なシフト動作でこなしてくれることに。このアイテムが、筆者にとって初見参の今回のコースでも強力な助っ人となってくれたことは付け加えておきたい。

 ところで、すでにカレラ系全般にターボ付きエンジンが搭載されたことで、「現在のGT3シリーズが最後の自然吸気仕様の911になるのでは?」という声も聞かれるのが昨今の状況。けれども今回、エンジン開発の担当エンジニア氏からは、「何とか自然吸気ユニットを残すべく鋭意努力中!」という、嬉しくも力強いコメントを得ることができた。

 今や文字通りの“絶滅危機”に瀕しているのが自然吸気のハイパフォーマンス・エンジン。だからこそ、珠玉のテイストを備えるGT3の心臓には、何とか生き残りの道を模索してほしい。そうした動きも、このブランドに纏わる「世界屈指の技術者集団」という評価をさらに引き上げる、重要な実績となるはずだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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