試乗インプレッション

「ついに本物のメルセデス・ベンツになった」、第4世代の新型「Aクラス」海外試乗レポート

洗練されたエクステリア、クルマの未来を想像させるインテリア、車格が数ランク上がった快適な乗り心地

コンパクトカー市場の覇権を狙う準備完了

 全長を極端に短くしながら、ライバルたちと変わらない室内スペースを確保するべく用いてきた二重フロア構造のサンドイッチコンセプトから訣別し、オーソドックスなハッチバックのパッケージへと転換した現行メルセデス・ベンツ「Aクラス」は、3代目にしてようやくセールスを好転させることができた。しかも、MFAと呼ばれる前輪駆動モデル用アーキテクチャーを活用して、Bクラスのみならず「CLA」「GLA」などスモールカーのラインアップを大幅に拡大することにより、新たな、そして広範なニーズの喚起にも成功した。

 しかしながら、新型Aクラスは単なるキープコンセプトに安住せず、大胆なまでの進化を遂げて登場した。守りに入らず、アグレッシヴな姿勢でコンパクトカー市場に臨んできたその勢いは、メルセデス・ベンツのこのセグメントでもいよいよ覇権を狙うという意気込みを感じさせるのだ。

 ロングルーフの5ドアハッチバックフォルムは現行モデルと共通ながら、台形ラジエターグリルと、そこからの連続性を感じさせるヘッドライトなどを用いた新しいブランドフェイスを採用したフロントマスク、従来のやや煩雑な印象もあったキャラクターラインがきれいに消し去られたサイドビュー、テールゲートをまたぐ分割式のテールランプを用いたリアなど、実際にはどこから見ても印象は新鮮である。若々しさの一方で上質感も高まっているのは、パネル間の隙間の小ささ、面の連続感などクオリティが向上しているおかげだろう。

オランダ アムステルダムで2月2日(現地時間)に世界初公開された第4世代の新型「Aクラス」。ガソリン仕様では120kW(163HP)/250N・mの「A 200」、165kW(224HP)/350N・mの「A 250」、ディーゼル仕様では85kW(116HP)/260N・mの「A 180 d」を展開。全車とも7速DCTを組み合わせ、A 200のみ6速MT仕様も設定

 大きなインパクトをもたらすのは、やはりインテリアである。超薄型10.25インチスクリーンが2画面並べられたダッシュボードは、ガラス投影型のヘッドアップディスプレイ、タービン形状の円形エアダクト、センターコンソールに置かれた触感フィードバック機能付きのタッチパッドなどと相まって、先進的あるいは未来的と言いたくなる独特のムードが醸し出されている。

 スペースも拡大されていて、特に後席は肩まわり、肘まわりに余裕が生まれている。ラゲッジスペースの容量は通常時370Lと、先代に対して29L大きく、しかもテールゲートの開口部が拡大されて大きな荷物も容易に積み込めるようになった。

インテリアではタッチスクリーン制御の高解像度ディスプレイを2つ並べる新しいインフォテイメントシステム「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」を採用。タービン形状の円形エアダクトも特徴的
ラゲッジスペース容量は370L(通常時)と、先代から29L拡大

 先進感に満ちた運転環境は、操作感も期待を裏切らない。上級車種を差し置きエントリーモデルに初投入されたMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)と呼ばれる新しいユーザーインターフェイスは、これまでのクルマになかった使う楽しさを存分に堪能させてくれる。

 ドライバー真正面の画面は、各種車両情報やADASの動作状況、地図など運転に直接関係する内容を、自由にカスタマイズして表示させることができる。中央側画面はタッチスクリーン。スワイプ、ピンチなどスマホと同じ感覚で、オーディオや空調、ナビゲーションにネット接続等々、豊富な機能を直感的に呼び出すことが可能だ。

 もちろんタッチパッド、そしてステアリングホイールに設置されたタッチスイッチを使ってもいい。そして、何より使ってみたいという気にさせるのが最新のボイスコントロール機能だ。その特徴は、設定されたコマンドのみならず、AIの活用により人間の自然な発話をも理解すること。例えば室内温度を上げるのに「温度を1℃上げて」と言うのはもちろん「寒いよ」と言うことでも、ドライバーの望みを汲み取り、温度を上げてくれるといった具合である。

メーターまわりの表示例

 要するにGoogle AssistantやAmazon Alexaの車載版と言っていいMBUXは、「Hey,Mercedes.」と声をかければ起動する。「How can I help you?」と女性の声で返答があったら望みを伝えればいい。コマンドは車載のコンピューターと通信接続されたサーバーの両方で解析、判断される。サーバー側の方がより深く、正確な解析が可能だが、モノがクルマなだけにネット接続のできない環境で使われることもあり得るからだ。

 今回、国際試乗会に用意されていた車両はまだ英語でしか試せなかったが、最終的には23もの言語に対応する。日本仕様は当然、日本語対応となるが、起動は英語の「Hey,Mercedes.」となる予定だ。余談だが中国仕様は「ニイハオ、ベンツ」だそうである。これらの音声認識には、車載システムで豊富な実績を持つニュアンスのシステムが使われている。ただし、データ解析は自社のソフトウェア、サーバーにて行なわれるという。

 さらにMBUXには行動予測機能も備わる。例えば毎朝、ナビゲーションの行き先を会社に設定し、好みの局でラジオのニュースを聞くというルーティンがある時には、車両がそれを学習して、おすすめとして提案してくるという具合である。まるで有能な秘書のように働いてくれるのだ。

車格がイッキに数ランクアップ

 MBUXの話は尽きないが、新型Aクラスはその走りにも注目したい。MFA2と呼ばれる新しいアーキテクチャーの採用、Cd値0.25という優れた空力特性、普及モデルにはトーションビームが、18インチ以上のタイヤの装着車、あるいはA 250になるとマルチリンクが用いられる2種類のリアサスペンションの設定など、トピックは数多い。今回はA 200+18インチタイヤ+リアマルチリンク、A 250+19インチタイヤ+リアマルチリンク+可変ダンピングシステムという2種類の仕様を試すことができた。

19インチアルミホイール

 いずれにも共通するのが高い快適性だ。ボディは格段に剛性感が高まり、特にサスペンション取り付け部分のカッチリ感が増した印象。大きな入力に対しても騒音、振動が非常に小さく抑えられた、上質な乗り味に仕上がっている。なかでも可変ダンピングシステム付きのしっとりしなやかなタッチは絶品で、始終落ち着かない感のあった現行モデルを思うと、車格がイッキに数ランク上がったかのようだ。

 静粛性にも目を見張った。ロードノイズはきわめて小さく、風切り音も全く気にならない。こちらもまたコンパクトカーの水準を塗り替えるレベルにあると言っていい。しかも、上級車種と変わらない上々の手応えを手にしたステアリングフィール、意のままになる操縦性に確かなスタビリティなど、フットワークも格段に質が高まっている。今回試せなかったトーションビーム式リアサスペンションの出来映えは気になるが、現時点では「ついにAクラスが本物のメルセデス・ベンツになった」と評したくなる劇的な進化に感心させられたと言っておきたい。

 パワートレーンは、実用性能では新しい1.4リッターターボエンジンを積むA 200でも十分と感じられた。従来の1.6リッターより排気量は小さいが、不足していた低中速域のトルクが充実して、とても走らせやすい。それだけに2.0リッターターボのA 250で不足があるはずがない。引き続き採用される7速DCTの小気味よいレスポンスと相まって、スポーティな走りを楽しめる。

A 200に搭載される1.4リッターターボエンジン

 先進安全装備・運転支援装備も充実している。何しろSクラスでも搭載されたばかりの操舵支援、完全停止・再発進まで対応した「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」や、ウインカーレバーの操作だけで車線変更を自動で行なう「アクティブレーンチェンジアシスト」まで用意されているのだ。さらに、ガラスエリアの拡大やドアミラー装着位置の変更等々によって、全方位に視界が拡大していることも付記しておく。言うまでもなく、これは安全性の基本中の基本である。

 洗練されたエクステリア、クルマの未来を想像させるインテリアなど、新型Aクラスは実際に触れてみたい、操作してみたいと思わせるアピール力がきわめて高い。

 しかも走らせれば、クラスのスタンダードを塗り替えるほどの快適性と、質の高いハンドリングを堪能できる。もしかすると、Cクラスを喰ってしまうのではないかと思えるほど到達したレベルは高い。この驚愕の1台、日本導入は年末になる予定だ。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ」を主宰する。