試乗インプレッション

ニュルブルクリンクで鍛えたという“ニュルクラウン”。15代目の新型「クラウン」(プロトタイプ)速攻試乗

ニュルブルクリンクで鍛えたという15代目の新型「クラウン」(プロトタイプ)。“ニュルクラウン”と呼ばれてもよいほどのハンドリングマシンとなっていた

 2018年、期待の一台でもある新型「クラウン」(プロトタイプ)の試乗ができた! 新型クラウンはすべてを一新し、これまでマジェスタ、ロイヤル、アスリートと3車形あったものが、大胆に1車形にまとめられることになった。目指すは広い層に魅力あるクルマにして購買年齢層を下げることだ。力の入ったFMC(フルモデルチェンジ)で、ニュルブルクリンクで鍛え上げられるなどプラットフォームから作り直された。

 プラットフォームはTNGAに基づいたレクサス「LS」の流れを汲むFR用のGL-Aプラットフォームを、国内専用のクラウンのために全幅を1800mmに抑えたGL-Aナローとなっている。サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーンでフロントはLS用、リアはGSのそれをベースとして、ホイールベースはこれまでより70mm長い2920mmのロングホイールベースだがLSよりは約200mmほど短い。

新型クラウンがラインアップする3つのパワートレーンに試乗した
新型クラウンの3つのパワートレーン

 デザインは6ライトを特徴として、ロングノーズでルーフラインからリアエンドにかけて流れるような造形が特徴だ。実際のサイズよりはギュと締まって見える。いかついだけではなくスマートに変身した。

 試乗できたグレードは、エンジンは直4 2.0リッターターボと直4 2.5リッターハイブリッド、そしてV6 3.5リッターのマルチステージハイブリッドだ。

CROWN CONCEPT -Nurburgring ver.-

 2.5リッター ハイブリッドのRS Advanceに試乗した。エンジンはA25A-FXS型で、2017年FMCの新型「カムリ」に搭載されたダイナミックフォースエンジンをFR用に縦置きにしたものだ。縦置きにすることでオイルポンプの位置を変更するなどしており、結果的に腰下は新設計となっている。

2.5リッター ハイブリッドエンジンの確認中

 このモデルはタイヤサイズ 225/45 R18のブリヂストン REGNOを履く。ゆっくりとコースに乗り出すが、オヤ?と思ったのはハンドルのスワリなど非常にクリアな印象。切り始めの微小な動きでもしっかりと反応し、ダイレクト感が高い。過敏というのではなく、しっかりと反応するのだ。さらにハンドルを追い切りしても操舵力の変化は一定の流れに沿っており、スッキリと応じてくれる。欧州車の味とも違い、もちろん日本車でもこのような味付けのクルマにはお目にかかったことはない。

 徐々に速度を上げていくが、クラウンはコースに沿ってストレスなく走る。コースはタイトなワインディングロードでハンドルを切る量は多くなり、必然的に横Gも大きめとなる。そんな場面でもロールはよく抑えられており、一定のコーナリング時に突然ロール量が変化するような感じは皆無だ。

 また、S字コーナーのようにハンドルを切り返す場面でも応答遅れが小さく、スムーズに姿勢変化ができ、ドライバーはクルマとの一体感を強く感じる。かと言ってスポーツカーのようにクイックで過敏な動きではないので、気持ちにゆとりが生まれる。

 フロントとリアの接地バランスがよいのもクラウンの美点で、今回のようなタイトコーナーから中速コーナーまで織り交ぜた難しいコースでも安定性が高く、ドライビングが楽しいと感じさせてくれる。前後重量配分は大まかに言って51.5:48.5で、重量バランスが優れているのもクルマのレスポンスにつながっている。

 次に3.5リッターのマルチステージハイブリッドのG Executiveに乗る。パワートレーンはLSに搭載されているのと同じもの。パワフルで急な上りのコースでもぐいぐいと引っ張ってくれる。余力のあるエンジンはアクセル開度が小さく、マルチステージハイブリッドもステップ感のある変速をしてくれ、リズムよく加減速する。パドルシフトを使うとさらにコントロールしやすく、下り坂でも快適にドライブできる。

 ハンドリングは2.5リッターハイブリッドとそれほど変わらないが、フロントが重い分、若干反応が鈍くなる。ただマイナスばかりではなく、どっしりとした安定志向なので、パワートレーンのキャラクターに合っている。特にG Executiveと相性がよい。

 話はちょっと逸れるが、ドライバーは何気ない運転でも意外と大きな負担を強いられている。山道でのハンドリングのよさが好印象のクラウンだが、市街地や郊外路を想定した走りでちょっと角を曲がる場面でも、スーとクルマが曲がってくれるのはドライバーの負担を大きく軽減してくれるに違いない。

 次に215/55 R17を履いたGに試乗する。快適性はクラウンの伝統だ。特に静粛性はよく練りこまれており、3000~4000rpmぐらいの籠り音もよく遮断され、安定した心地よさを満喫できる。

 乗り心地もフラット感の高いもので、サスペンションはよく動いて、バネ上の動きは少ない。ただ、荒れた路面では225/45 R18ではリアサスから少し鋭角的な連続したショックがあったが、突き上げ量は大きなものではなかった。これもまろやかな乗り心地だ。サスペンションがタイヤの性格を正直に反映している。ちなみにこちらのタイヤでは、ステアリングレスポンスがやや遅れるもののグリップ力はわるくない。

 後刻、現行クラウン アスリートと乗り比べたが、ハンドリング、乗り心地ともその差は歴然で、改めて新型クラウンの実力に感銘を受けた。また、2.5リッターハイブリッドに設定されているメカニカルタイプの可変駆動トルクAWDのG Fourのハンドルも握ったが、こちらは振動がよく吸収され、まったりとしたよいフィーリングだった。降雪地帯のドライバーだけでなく積極的に選択する幅が広くなったと思う。

 さて、乗り心地やスッキリしたハンドリングについて取材を重ねると、TNGA GL-Aプラットフォームの高ボディ剛性やLS譲りのダブルウイッシュボーンサスペンションが路面からのショックや振動をうまく消化しているのが分かった。新型クラウンではさらにフロント部に補強ブレスを6本配置し、これまでボディパネルの合わせ部に使われている接着剤の長さを、現行の8mから新型では80mにまで伸ばし、振動減衰と剛性アップにつなげている。さらにフロントサスペンションが細かい振動を吸収していることに着目し、ステアリングシャフトに使われているゴムカップリングを省いた。これによりステアリングレスポンスのダイレクト感を高めているということだった。実際にウェットや雪などの低ミュー路ではさらに効果が高いという。

新型クラウン開発陣に開発の詳細を確認。左から、トヨタ自動車株式会社 Mid-size Vehicle Company MS製品企画 ZS チーフエンジニア 秋山晃氏、同 MS製品企画 ZS 主幹 加藤康二氏、筆者

 シャッキとしたアスリートのような運動性能と、クラウンならではのスッキリとした安定性はこのような積み重ねで生まれている。

 ドライブモードはモデルによって通常ダンパーでエンジンとステアリングのレスポンスが高くなるSPORTと、可変ダンパー付きでサスペンションもHARDになるSPORT+を持つモデルとがあるが、いずれも違いは明快でメリハリがあり、通常はNORMALのみでさまざまな場面に対応できるが、さらにプラスαの魅力を得ている。

 最後に8AR-FTS型の2.0リッターターボを搭載したRSに乗った。タイヤは225/45 R18だ。これがさらに高い運動性能を持っていたのにまたびっくりだった。乗り心地ではリアからの微細な振動がマイルドになっており、ハンドルの手応えもしっかりして、リアの接地がさらに上がっている。安定性とハンドリングに磨きがかけられているのだ。

 新型クラウンは運転して飽きが来ないクルマだが、この2.0リッターターボのRSは、さらにいつまでもハンドルを握っていたいと思わせるに十分だった。チーフエンジニアの秋山氏はこのモデルをクラウンの走りの訴求モデルにしたいと言っていたが、それも十分頷ける。2.0リッターターボのRSに振りかけた調味料は、リアサスメンバーの剛性アップとそこに配置したパフォーマンスダンパーだという。

 エンジンは中間トルクを大切にした新時代の省エネターボで、トップエンドの伸びや爆発的なパンチ力はないが、使いやすく、結果的にボディ、サスのゆとりと合わせてドライバーの手のウチに入るクルマになっている。今回のクラウンのイチオシモデルだった。

 クラウン、国内専用にしておくのはちょっと惜しい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学