試乗記

BYD、クロスオーバーSUV「シーライオン7」 RWDモデルの価格は500万円を切る495万円

BYDのクロスオーバーSUV「シーライオン7」

躍進するBYD

 今や世界第7位の427万台(2024年)を販売するBYD。バッテリから始まり現在は完成車メーカーとして急成長を続けている。8秒に1台が生産され、30秒に1台が輸出されるという活気あふれるメーカーだ。

 中国の進める新エネルギー車政策が追い風となり近年では特にPHEVで急成長を遂げた。実際の販売でも41.5%がBEV、58.5%がPHEVという構成になっている。

RWDモデルで495万円、4WDモデルで572万円。BYDらしいバリューフォーマネーを実現とうたう
クロスオーバーSUVらしいスタイリング。写真は4WDモデルのため20インチタイヤを標準装着

 そして日本導入4番目のモデルがSUVの「シーライオン7(SEALION 7)」。先行した「ATTO 3」「ドルフィン」「シール」同様にバッテリEVでRWD(後輪駆動)と4WD(4輪駆動)の2種類の駆動方式を持つ。グレードはシンプルに1種類だがほぼフルスペックだ。

 ボディサイズは4830×1925×1620mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2930mm。レクサスRXなどと同等の外寸だ。最低地上高は4WDのシーライオン7 AWDで160mm、2WDのシーライオン7で150mm。これはフロントアームの位置によるためで実用上の地上高はもう少し高くなる。

堂々たるスタイリングのシーライオン7。レクサスRXと同等のボディサイズ

 デザインはシールのブーメランシェープを踏襲したノーズからリアのダックテールまで連続性のある面で構成されている。大柄のボディで前面投影面積は大きいがCd値は0.28に抑えられている。

 バッテリはBYDが得意とするリン酸鉄のブレードバッテリ。総電力量は82.56kWhでRWDも4WDも同じだ。航続距離はRWDで590km。4WDでは540kmの距離を走ることができる。徐々に各サービスエリアに整備が整ってきている急速充電器を考えるとキャパシティとして十分だ。

すっきりとしたコクピットまわり
ステアリングの品質感も高い
シフトのセレクトレバーは先進的なデザイン
4WDモデルのフロントシート
4WDモデルのリアシート

 装着タイヤはRWDと4WDでは銘柄/サイズが異なり、RWDはコンチネンタル エココンタクトでフロント235/50 R19、リア255/45 R19を履く。4WDはミシュラン パイロットスポーツEVで、フロント、リアとも245/45 R20となる。

 車重はRWDで2210kg(前後重量配分47:53)、4WDで2340kg(49:51)と重量級だが重心位置が低いのがBEVの特徴。前後重量配分も優れている。

SUVらしいステア特性を持つシーライオン7

クローズドコースで切り返しステア特性を確認

 厚いドアを開けると路面にウェルカムライトでBYDの文字が浮き上がり歓迎してくれる。タップリとしたナッパレザーシートはシートヒーターとベンチレーション付き。着座位置はSUVらしく高い位置になるがマニュアル操作で動かせるステアリングホイールのチルトとテレスコピック機能でポジションは無理なく取れる。直前視界はBEVらしい低くスラントしたノーズで見切りはよい。

 スタンバイもブレーキを踏んでスタータースイッチを押す手順。BYDはガソリン車から乗り換えても戸惑わないように普通であるように作られている。

 ダッシュボードに目をやるとシールと同じ15.6インチの大型モニタがある。同じサイズだが高性能チップの採用で反応速度が非常に速く、グラフィックスの動きもさらに滑らかなものになった。内蔵された多くのアプリに対応する進化でもある。

 モニタから操作する各種機能はタッチで変更でき、ナビゲーション、オーディオ、車両各部の調整、そして他に例を見ない多数のアプリを呼び出せる画面も用意される。車内で多彩なエンタテイメントを楽しむことも可能だ。

 中国でもポピュラーなカラオケ機能まで揃い、現状のクルマでは最大のアプリを揃えている。大抵の機能は直観的に操作できるが、必要なスイッチ、例えばオーディオのボリュームなどはアナログスイッチに任せられる。ちなみにウィンカーレバーは日本車と同じく右側だ。

 リアシートはレッグルームが広いだけでなく爪先が前席の下に深く入るために前席を後ろにスライドさせても余裕十分だ。ヘッドクリアランスの余裕がタップリあるシートはくつろげる。シートヒーターも装備されるのはEVならではだ。シートバックは40:60で可倒でき、サーフボードも収納できるほど容量は広い。さらにフロントトランクも深いので荷物の収納力は予想以上に大きい。

 出力はRWDモデルで230kW/380Nm、4WDでは前後モーターの総合出力は390kW/690Nmとなる。強大なトルクだ。

 ハンドリング上の両モデルの違いはフロントの軽いRWDは軽快な動きで応答性も素直だ。長いコーナーでも安定性は高く2.2tのRWDはよく踏ん張る。タイヤにエコタイヤをチョイスしたことで4WDよりも穏やかな動きだがフットワークはなかなかよい。

 対して4WDはステアリング応答では少しどっしりしたものだが、高いグリップ感は4WDらしい動きを示す。ステアリングの切り返しでの応答遅れはほとんどなく大きなボディが機敏に動く。非常に素直なハンドリングでロングコーナーでの安定性も高い。4WDではタイヤもEV用のスポーツタイヤを履き、しなやかに路面に接地する感触はまた独得でRWDとは異なる。

 加速力はRWDと4WDでは出力の違で4WDが速いが、RWDモデルでも十分以上の力強さがある。そしてBYDのよさは圧倒的なトルクを巧みにコントロールしていることで爆発的な加速力より自然な力強さにある。0-100km/hは出力のある4WDモデルで4.5秒(RWDで6.9秒)と俊足だ。安定性を重視した味付けが印象的だ。

 ブレーキは重量と出力に合わせてフロントは4ピストンキャリパー、大型ローターは冷却性に優れたドリルドディスクを採用する。ブレーキタッチは適度にストロークを持たせたものでコントロール性もわるくない。回生ブレーキも強弱が選べるが、制動力はいずれのモードでもそれほど強くなくワンペダルドライブは想定されていない。

 サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンク。ショックアブソーバーはシールでは4WDモデルに使われていた周波数感応型をシーライオン7では標準採用している。

 試乗コースにはクローズドコースも設けられ、スラロームや大舵角のコーナーもテストもできたが、両モデルとも素直なハンドリングで重心高が低くロールが小さい。またタイトコーナーではLクラスSUVらしいアンダーステアを見せるが破綻のないステア特性だ。

 ADAS系ではACC機能もブラッシュアップされ、自動車専用道での堂々とした直進性は質が上がった。ちなみにAピラーにあるドライバーモニタは視線や顔向きなどを検知して危険を察知した場合は警告を出す。ただACCとは連動していないのでトヨタのような渋滞時ハンズオフの手放し運転は許容していない。

 乗り心地は突起乗り越し時の突き上げが小さく、上下動の収まりも滑らか。連続した荒れた路面では少しリアがバタつくもののバネ上の動きはフラットで横揺れも小さく、LクラスSUVらしいどっしりした走りが好ましい。

 静粛性は遮音がしっかりして高級車らしいたたずまいだ。前席ではフロントと左右サイドウィンドウに遮音性の高いガラスが使われており風切り音も含めてBEVらしい静粛な室内だ。

 4WDでは低周波の音が抑えられているのが印象的で、タイヤの吸音効果も大きいようだ。RWDでもBEVならではでパワートレーン系の振動が小さい。ただ両モデルとも後席ではCピラーが乗員の耳のそばにあり、ロードノイズが少し入ってくる。気になることはあっても移動空間をリラックスに、というBYDらしいSUVのクルマ作りは十分に伝わってきた。プラットフォームをシールと同じくするシーライオンだが実際に乗るとまったく別のクルマになっていたのも印象的だ。

 BEVの命であるバッテリの保証期間は10年/30万kmと、バッテリを祖業とするメーカーらしい自信を持った設定で。4500回の急速充電を行なう試験でもバッテリのSOCは10%しか落ちないとしている。

 気になるプライスはRWDモデルではCEV補助金抜きで500万円を切る495万円。4WDでも572万円と驚異的な価格戦略だ。さらに先行したATTO 3とドルフィンも装備を見直して価格を下げておりBYDは価格競争力も高い。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛