インプレッション

メルセデス・ベンツ「Cクラス」(W205型)

ステアリングアシストの付いたディストロニック・プラス

 従来のW204型の日本導入からちょうど7年が経過したタイミングで、2014年夏にW205型へとモデルチェンジした「Cクラス」。

 デザインがフラグシップの「Sクラス」に似ていることは報じられているとおりだが、たしかにサイズ感の掴みにくい状況で遠目から見ると、本当に瞬時には判別がつかないくらい。単にデザインのテイストが似ているだけでなく、サイズこそ小さいもののディテールまで凝った造形ゆえ、そう見えるだけの風格を備えているからだろう。

 販売のメインは、パッケージオプションの「AMGライン」装着モデルとなるであろうところ、まずはあえて通常の「アバンギャルド」をチョイス。それも1.6リッターエンジンを搭載する「C 180 アバンギャルド」のほうだ。

C 180 アバンギャルド。C 180とC 180 アバンギャルドが搭載する直列4気筒DOHC 1.6リッターターボ「274M16」エンジンは、最高出力115kW(156PS)/5300rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1200-4000rpmを発生。JC08モード燃費は17.3km/L

 最初に北海道にあるボッシュのテストコースの高速周回路で、ディストロニック・プラスと日本の法規下では出すことの許されない速度域での走行を試す。

北海道にあるボッシュのテストコースにおける試乗会

 コースインして先導車についていくと、「Sクラス」や「Eクラス」でもすでに体験しているとおり、本当によくできたディストロニック・プラスの追従性能に感心しきり。新たに採用されたアクティブレーンキープ機能を試すと、けっこうな舵角まで的確に自動的に操舵することを確認。まさしく謳っているとおり「部分自動運転」である。

 動力性能については、先導車が「C 200」であったため加速時においていかれることもあったが、400cc排気量の小さい「C 180」もアクセルを踏み増すと、それほど大きく後れることなくついていけるという感じだった。

 高速走行時の安定感は、小さくてもさすがはメルセデス。180km/h近い速度域でもピタッとフラットな姿勢を保ち、車速を上げても静粛性は高いまま保たれるので、速度感が希薄になるほどだ。

これまでにも増して「アジリティ」を訴求

「C 180 アバンギャルド」の試乗に続けて「C 200 アバンギャルド」の「AMGライン」装着モデルに乗って、北海道ならではのスケールの大きな景色の待つ公道へと繰り出す。

フロントフェンダーにアルミニウムを採用しているのでマグネットがくっつかない

 W205型ではこれまでにも増して“アジリティ”を訴求しており、そのため車体の約50%にアルミニウムを採用するという、このセグメントではかつてないチャレンジをし、車体全体で約100kgもの軽量化に成功している。この軽量 高剛性ボディーがアジリティにも少なからず寄与していることは間違いない。

 W204型に対してひとまわり大きくなったことを感じさせながらも、動きは軽やか。ハンドリングは俊敏で一体感がある。個人的にはステアリング操作にやや鋭敏すぎる傾向もあるように感じたのだが、アジリティの演出の一環ということで納得しよう。

 インテリアもSクラス似のデザインながら、用いられている素材の質感はそれなりゆえ、さすがにSクラスのあのハイグレードな雰囲気には及んでいない。しかし、同クラスの競合車に対しては上まわったかと思う。

 COMANDシステムは最新世代にアップデートされ、よりグラフィックが精彩になり、アニメーションを駆使した表示もある。エアコンに空気清浄機能と芳香を拡散するパフュームアトマイザー機能を装備した「エアバランスパッケージ」がSクラスに次いで設定されたのも歓迎だ。

最新世代にアップデートされたCOMANDシステム

 もちろん、同クラスでもっとも機能が充実しているといえる先進安全装備「レーダーセーフティパッケージ」が設定されていることも、大きな魅力に違いない。

初採用のエアサスがもたらす上質な乗り味

「C 200 アバンギャルド」に乗る前の印象としては、その乗り味を知らなければC 180でも十分かな?というほどのものだった。

C 200 アバンギャルドが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「274」エンジンは、最高出力135kW(184PS)/5500rpm、最大トルク300Nm(30.6kgm)/1200-4000rpmを発生。JC08モード燃費は16.5km/L

 しかし、同セグメントで初となる注目のエアサス「AIRMATICサスペンション」を設定した「C 200 アバンギャルド」のAMGライン装着モデルで走り始めてすぐに、まず「C 180」とパワートレーンの印象の差が小さくないことに気づく。排気量が400cc大きいぶん出足のピックアップがよく、吹け上がりもスムーズで振動が小さい。ただ、“よく回る”という印象は、むしろ「C 180」のほうが一枚上。

C 200 と C 250に搭載する「274」エンジン。C 250 ではスペックが変更され、最高出力155kW(211PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1200-4000rpmになる

 この2.0リッターターボエンジンは成層燃焼リーンバーンを行うのが特徴で、同じエンジンを搭載する「E 250 スポーツ」をドライブしたときにはいささか物足りなさを感じていたところ、この「C 200 アバンギャルド」では車両重量が軽いせいなのか、あるいはエンジン制御が進化したせいなのか余力を感じるほどだった。

 シャシーの印象も、エアサスとコイルサスでは印象が大きく異なる。コイルサス+17インチタイヤを履く「C 180 アバンギャルド」は、これでも十分と思う半面、ランフラットタイヤに起因する硬さを感じる状況が多々あった。しかし「C 200 アバンギャルド AMGライン」では、同様にランフラットタイヤ特有の硬さは感じるものの、3段階のどのモードを選んでも当たりがマイルドで衝撃をやさしく包み込む感覚がある。このあたりはまさしくエアサスの得意とするところだろう。

 北海道の国道のような道を走るには「スポーツ」モードが最適で、フラット感も高い。「コンフォート」モードではややダンピング不足を感じる面もあったが、都市部ではそれが心地よく感じられることと思う。途中、運転を代わってもらい後席に乗ってみると、よりエアサスの恩恵が感じられた。とにかく、新型Cクラスにエアサスが採用されたことは、このセグメントにおいてこうした上質な乗り味を実現したところにも大きな価値があると思う。

 思えば、「Cクラス」として登場した初代のW202型や、続く2代目のW203型は、メルセデスの中でのヒエラルキーに則り、一番下のセダンとしていろいろなものを意図的に低く差別化していたように感じていた。それゆえ同クラスの競合車に対して後塵を拝する面も多々見受けられたように感じていた。

 ところが、W204型では考え方が変わり、勢いを増す競合車に対して、いかにすれば優位に立てるかを考えて開発されたように思う。そしてW205型は、「Sクラスのクオリティをそのままに、サイズだけ小さくしたようなクルマ」と高く評価された「190E」の境地に再び回帰したように感じられる。

 見た目が似ているだけではなく、新型Cクラスは中身もまさしくそのとおりなのだ。

専用デザインの特別仕様車が限定発売

特別仕様車「C 200 エクスクルーシブ ライン リミテッド」

 そして2015年3月、特別仕様車「C 200 エクスクルーシブ ライン リミテッド」が限定発売された。

 同モデルは、本国をはじめ海外では普通に販売されているが、日本仕様の現行カタログラインアップモデルには設定のない、ボンネットのスリーポインテッドスターマスコットと3本のルーバーを備えたラジエターグリルを持つ専用フロントデザインを採用しているのが特徴だ。

 さらに、細身のスポークを持つ専用の17インチアルミホイールを装備するほか、インテリアには上品な木目が映える2種類の専用ウッドトリムと専用デザインのシートを採用するなど、アバンギャルド系とはひと味違う魅力を身に着けている。こちらの導入を心待ちにしていた人も少なくないことだろう。

C 200 エクスクルーシブ ライン リミテッドのインテリア

 いわゆる“メルセデスらしさ”という意味では、アバンギャルド系よりも同モデルのほうが上と言えそう。ちょっと遠くから見たときには、フロントデザインがこのようになっている同モデルのほうが、よりSクラスと見違えそうだ。

 ドライブした印象も、同モデルではアバンギャルド系よりもコンフォート性を高めた「AGILITY CONTROL サスペンション」を採用しているのも特徴。ランフラットタイヤによる若干の硬さを感じるのは否めないものの、全体としては快適な乗り心地を実現している。

 同モデルの販売は限定590台。今後、正式にカタログモデルとなるかどうかはまったく未定。こちらの雰囲気のほうが好みという人は、このチャンスを逃す手はない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学