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【インプレッション】日産「GT-R(2014年モデル)」「GT-R NISMO」
(2013/12/6 16:23)
開発責任者が田村宏志氏に
GT-Rに関心のある大半の方は、前回のリポートからの1年間に起こった出来事をすでにご存知のことと思うが、GT-Rの顔であった開発責任者の水野和敏氏が日産自動車を離れた。そのポジションに就いたのが、おそらく多くの方が知っているであろう田村宏志氏だ。正確には「返り咲いた」らしい。
R34型までの第2世代と呼ばれる「スカイライン GT-R」のイメージが強い田村氏だが、実は2001年の東京モーターショーでサプライズ披露されたGT-Rコンセプトの企画の立ち上げにも深く関わっていたという。ところがその後、諸事情によりしばらくGT-Rから離れていたところ、R35型GT-Rのモデルライフ終盤を担うこととなった。これに伴い、GT-Rの開発に関わるスタッフも大幅に刷新された。
新たな局面を迎えたGT-Rだが、もちろん毎年何らかの進化をさせるという方向性は変わらない。2014年モデルの変更点は既報(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20131119_624270.html)のとおりで、2013年モデルに対する視覚的に分かりやすい変更というと、外観ではランプ類の変更がある。稲妻の閃光をイメージしたという新デザインのヘッドライトはなかなかインパクトがあり、これからGT-Rの1つのアイデンティティになりそうだ。また、ボディーカラーにゴールドフレークを配合したという赤が追加された。こちらもなかなか印象深い色だ。
インテリアでは、メーターにカーボンが貼られられたのは一目瞭然。アイボリー色のレザーシートが設定されたのは、以降で詳しくお伝えするGT-Rのキャラクターの変化を象徴するかのようだ。
走行性能面でもシャシーを中心に多くの個所に手が入れられており、それについては以下で触れながらお伝えしたい。さらに究極の速さを追求し、標準車と大きく差別化を図った「GT-R NISMO」が新たに設定されたことも大きなニュースだ。
試乗会が開催されたのは、千葉県の袖ヶ浦レースウェイ。ただし、コースを走るのはGT-R NISMOのみで、標準車は公道での走行となる。
ロードゴーイングモデルとしてのハイレベルな走りを得た標準車
まずは標準車を拝借。走り出してすぐに、2014年モデルの変更点の1つであるパワーステアリングが軽くなったことが分かる。
GT-Rのステアリングフィールは、登場以来これまでも徐々に改善されてきた。2013年モデルも、我々が乗る分にはそれほど問題ないと感じるものの、誰が乗っても大丈夫かというと、「まだ重いだろうな」という印象を拭えなかったのは否めない。それが適度に軽くなり、まさに万人向けの味付けとなった。これぐらいの方が絶対的に扱いやすい。ステアリングフィール自体もより接地感が増し、リニアになったように感じる。
乗り心地もさらによくなった。モデルライフ序盤のGT-Rの乗り味は粗すぎたのは既報のとおりで、それが2011年モデルで大きく変わり、2013年モデルでさらに改善されたのだが、今回またしても劇的に変わった。段差を通過するときの当たりがマイルドになり、大きな衝撃を感じなくなったし、これまで感じられたビリビリ感が払拭されている。
R34 スカイラインGT-RのM-SPECに乗ったことのある人には、あの上質な乗り味が帰ってきたと伝えると分かりやすいかもしれない。これまでの印象からして、GT-Rがこの味になるのは不可能なのかと思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。ブレーキフィールも、これまで市街地ではややカックンブレーキ気味だったところ、初期のゲインが上手く落とされて、よりリニアでコントロールしやすくなった。
高速道路でも足まわりの仕上がりのよさをさらに実感する。これまでも路面状態のよいところでの印象はわるくなかったものの、荒れた路面では凹凸の影響を受けやすく、タイヤが路面から離れがちだった。それが徐々に改善され、2013年モデルではだいぶよくなっていたが、2014年モデルはまさにフラットライド。
車体が上下動せず、サスペンションのみ必要なだけ動いて瞬時に収束し、フラットな姿勢を保つようになった。また、従来に比べてずっとストローク感があり、入力のいなし方が上手くなったおかげで、全体のトラクションも高まったように感じられた。
パワートレーンについて、2014年モデルでの変更はないようだが、550PSを発生するV型6気筒 DOHC 3.8リッターターボエンジン「VR38DETT」の圧倒的な速さは相変わらず。また、2014年モデルでは静粛性が向上していることも明らか。余力ある動力性能と驚くほどのフラットで安定した走り、そして高い静粛性により、速度感が麻痺してしまうほどだ。
これまでのGT-Rは、市販状態のままサーキットでも速いことと、それを誰でも味わえることを訴求していた。そして2014年モデルは高い性能をそのままに、ロードゴーイングモデルとして相応しいハイレベルな快適性と上質な走りを身につけ、より万人向けの性格となった。このあたり、レース畑出身の水野氏に対し、ストリートへのこだわりの強い田村氏の意向が大いに反映されたものと思われる。AMGやMなどドイツ勢のハイパフォーマンスモデルが実現している、極めて高性能でありながら快適性も高く、普通に乗れてしまうという境地が、ようやくGT-Rにも訪れたのだ。
筆者は2013年モデルまでのGT-Rも好きだったが、GT-R NISMOのような存在があるのであれば、標準車は2014年モデルのような成熟した性格のほうが好ましいように思う。
究極的な速さを追求したGT-R NISMO
そして、いよいよGT-R NISMOを駆る。NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)の新たなブランド戦略に則り、NISMOが「GT-Rとはどういうクルマであるべきか」を追求して開発されたわけだが、その本質は言うまでもなく“絶対的な速さ”にある。そのため、GT500マシンに通じる空力デザインを採用したバンパーやリアウイングなど、標準モデルとは大きく印象の異なるエアロパーツが与えられていることが分かる。凄味を増したスタイリングは、見るからに速そうだ。かつて同じく1500万円級の価格で話題となったSpecVの外観が意外と控えめだったのに比べると、NISMOは大胆に差別化されている。
そんなGT-R NISMOを、わずか4周ではあるが、袖ヶ浦フォレストレースウェイ本コースのインフィールドを省いた外周を全開で走行した。当然すべてRモードだ(ニュルで7分8秒679のタイムを出した車両とは仕様が異なる)。
走ってみての第一印象として、まずクルマを軽く感じたことが挙げられる。実際にはカタログ値で1720kgと標準車と大差なく、決して軽くはない。しかし、全域にわたり非常にパワフルで、これだけ加速が鋭いとクルマが軽いように感じられる。550PSの標準車でも十分に速いところ、600PSに引き上げられたGT-R NISMOはさらに速い。5000rpmあたりからトップエンドにかけて、さらにひと伸びする印象だ。1コーナー手前やバックストレートでの終速は200km/hをゆうに超える。
そして、ターンインではノーズを入れやすく、前後輪が流れてもコントロール性に優れ、収束させやすい。これは標準車よりも前後のオーバーハングが軽くなっていることも少なからず効いているはず。このあたりによって軽さを感じたのかもしれない。ロール角は小さく、コーナリングの限界速度もかなり高い。ハンドリング特性は、もっともタイムを狙える弱アンダーステアを意識してセットされているようだ。さらに、速度を増すにつれてタイヤが路面に強く押し付けられるようなグリップの強さを感じる。おそらく先で述べたエアロパーツが効いているのだろう。コースには高速コーナーもあるのだが、そこも安定した姿勢のままハイペースでクリアできる。
わずか4周の走行は、まるで早回しの映像を見ているかのような感覚のまま、あっという間に終わってしまった。タイトコーナーのない外周のみの走行で、細かいところを見る余裕もなかったが、その圧倒的なパフォーマンスの片鱗をうかがい知ることができた。
価格は1500万円を超えており、販売比率はそう高くはならないだろうが、GT-R NISMOのようなモデルを待っていた人も少なくないはずだ。
このようにGT-Rは少なからず方向性を変え、進化を遂げた。冒頭でお伝えしたとおり、GT-Rに関する日産内部の体制も大きく変わった。その意味で2014年モデルは、残されたモデルライフがそう長くなくなってきたであろう現行GT-Rの歴史の中でも、1つの大きなターニングポイントを迎えたジェネレーションであり、注目すべきモデルになることと思う。