【インプレッション・リポート】 日産「GT-R EGOIST」 |
2007年の登場以降、毎年改良が行われてきたNISSAN GT-R(以下GT-R)だが、今回は「マイナーチェンジ」だけに変更内容もかなり大がかり。
GT-Rが出て、もう3年経ったのかという気もするところだが、クルマの進化にとって3年という時間は小さくない。ましてやいちからスタートしたGT-Rのようなクルマの場合、なおさらのことだろう。
さて、2011年モデルのテーマは、「World of GT-R」の完成とのこと。その一環として、ユーザーがよりニーズに合ったGT-Rを選べるよう、従来からの「GT-R Pure edition(ピュアエディション)」「GT-R Black edition(ブラックエディション)」「GT-R Premium edition(プレミアムエディション)」および「GT-R Spec V」というラインアップに加え、新たに「GT-R Club Track edition(クラブトラックエディション)」と「GT-R EGOIST(エゴイスト)」という、非常に特徴的なモデルが追加された。
今回、日産より拝借したのはそのエゴイストだ。「造りの感動を提供する」ことを目的とし、1500万300円というSpecVなみの高額モデルである。エゴイストという名前を臆することなく付けたことにも驚かされたが、逆に言うと、このような名前を付けて絵になるのも、GT-Rならばこそだろう。
ボディーカラーは、エゴイスト専用色のアルティメイトオパールホワイト。ほかのGT-Rでは、白系だとブリリアントホワイトパールが用意されるが、このアルティメイトオパールホワイトは、印象がだいぶ違って見える。そのほか、外から見える部分としてはスペックVと同じデザインのホイールやリアルカーボン製リアスポイラー、チタン製マフラーなどが与えられている。
SpecVと同じデザインのレイズ製アルミ鍛造ホイールやリアルカーボン製リアスポイラー、チタン製マフラーなどが専用装備される |
もっとも大きな違いがあるのはインテリアだろう。詳細は「写真で見る」シリーズでも伝えているとおりなので、詳しくはここでは省くが、雰囲気はほかのGT-Rとまったく異なり、かつてのGT-Rの世界観では考えられなかった空間が構築されていて興味深い。
キルティングデザインを採用したシートは、見た目重視かと思いきや、触感や着座感も極めて良好だ。サーキット走行にも対応するグリップ力を持っているとのことで、さすがはGT-R、そこは譲れない部分だろう。
ちなみに、ボーズ・プレシジョン・サウンドシステムは、ユーザーのわがままに応えたいとのことから、ボーズがオーナーのドライビングポジションにあわせて専用の音質セッティングを行うという、これまたエゴイストならではのメニューが用意されている。
2011年モデルは、「世界最高のマルチパフォーマンスと意のままに操る快感」をテーマに開発されたとのとおり、従来モデルよりもさらに性能向上が図られるとともに、走りが格段に洗練された。
キルティングデザインのシートは高級感があるとともに着座感に優れる。オーナーのドライビングポジションにあわせて音質セッティングされるボーズ・プレシジョン・サウンドシステムもプレミア感の高い装備 |
まず、デュアルクラッチトランスミッションのクラッチミートの感触からして違う。GT-Rに使われるGR6型トランスミッションというと、2007年の発売当初のものはジャダーがひどいものだった。新しいものであることは分かるが、それにしてもどうかと思う仕上がりだった。それが年々改良されていき、2011年モデルでは勾配の途中から動き始めるまでの扱いやすさが洗練されている。また、パワートレーン系の音や振動感がかなり小さくなった。まったく聞こえないとそれはそれで寂しいわけだが、個人的にはちょうどよくなった印象だ。
低~中回転域のピックアップがよくなり、高回転域での伸び感もさらに上がったV型6気筒 DOHC 3.8リッターターボエンジン |
そしてエンジンも、フィーリングが大きく変わった。ターボチャージャーのブースト圧やバルブタイミング、空燃比を変更し、インレットパイプ径の拡大などによる吸気抵抗の低減と、エキゾーストパイプ断面の拡大などによる排気抵抗の低減を実現することで、一気に50PS近くもパワーアップしているわけだが、低~中回転域のピックアップがよくなり、高回転域での伸び感もだいぶ上がっている。SpecVと共通のチタンエキゾーストシステムによる、クリアなエキゾーストサウンドも心地よい。
しかもモード燃費が、従来の8.3km/Lから8.5km/L(10・15モード)に向上しているというから驚き。ちなみにJC08モードでは8.6km/Lと、10・15モードを上回っていることから、実燃費もだいぶ上がっているんじゃないかと思われる。
その一方で、「SAVEモード」が新設されたのがマイナーチェンジのポイントの1つ。駆動トルクを最適化し、シフトスケジュールを変更することで燃料消費量を「SAVE」するというものだが、市街地で乗るには走りやすく、かつ燃費もよくなって好印象に思う。
また、一時的に2WDに変更することが可能な2WDモードが追加された。これについて、任意に2WD状態を維持できるかのような誤解もあるようだが、これはあくまで一時的なもので、10km/h以下でかつハンドルを半回転以上切ったときに限定される。目的は、ハンドルを切りながら発進する際に発生するタイトコーナーブレーキング現象を緩和するためのものだ。限界性能とはまったく関係ないわけだが、こうした細かな部分の改良こそまさに「洗練」であり、クルマとしての上質感向上に一役買っていると思う。
2011年モデルのエゴイスト(写真左)はこれまでのモデルと比べ、乗り心地やステアリングの中立付近の遊びなどが改善された |
シャシーもかなり多岐にわたって手が入れられている。詳しくはプレスリリース等を参考にしていただきたいのだが、ドライブフィールもこれまで雑さを感じられた部分が洗練され、格段によくなっている。乗り心地の粗さもそうだが、筆者がGT-Rでもっとも気になっていたことの1つとして、ステアリングの中立付近の遊びがあった。おそらく直進安定性を確保するため仕方なくこうなっているのだと思っていたのだが、遊びがある上に、轍に取られてワンダリングする傾向も強かった。
ところが、今回のマイナーチェンジのはるか前、SpecVが登場した時にかなりよくなっていたので、開発陣はすでにどうすれば改善されるのかこの時点で掴んでいたんだと思う。そして2011年モデルに乗るにつけ、そのあたりが改善されていることを実感した。以前感じた遊びがなく、切り始めからステアリング操作に反応するので、走りに一体感が生まれている。直進性も高く、ワンダリングも小さい。
乗り心地についても、3段階の減衰調整機構を持つダンパーは、従来モデルではどこにもスイートスポットのない印象で、最弱のコンフォートに合わせても減衰力だけが抜けてドタバタ感が残る印象で、まったくコンフォートではなかった。フリクションが強く、突き上げ感もあり、結果的にタイヤが路面から離れてしまう時間の長い印象があった。
ところが2011年モデルでは、ちゃんとコンフォートな乗り味になっている。ダンパーのフリーピストンを軽量アルミにしたことで追従性がよくなり、フリクションも低減されて滑らかな乗り心地となっている。しかもコンフォートのままで、ワインディングを攻める程度ならまったく不満なく走れる按配がよい。さらに、スプリングやダンパー、ブッシュだけでなく、サスペンションジオメトリーも見直されている。数字でいうとわずかな調整なのだが、その小さな違いが大事。フィーリングがずいぶん変わっている。
具体的には、フロントでいうとスプリング、ショックアブソーバー、スタビライザーのレバー比の変更およびキャスター角の変更など。リアは、ロールセンターの高さを下げるとともに、トー特性が変更されている。言葉ではよく分からないかもしれないが、結果的によりタイヤが路面に対して最適な角度、形状で接地するようになり、面圧も均等にかかるようになったというわけだ。おかげで、4つのタイヤが路面を捉えている感覚が増すとともにフロントの舵の利きがよくなり、限界域でリアが不安定になる印象もなくなった。
また、2011年モデルからはブリヂストン製タイヤがラインアップから外され、ダンロップ製「SP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT」のワンメイクとなったのも、絶対的なグリップ力の向上と乗り心地や直進安定性の向上に一役買っているようだ。
ちなみに、ホイールはSpecVと同じレイズ製アルミ鍛造で、その他のグレードのものよりもだいぶ軽い。バネ下重量の軽さも、フットワークのよさに貢献しているはずだ。
登場間もないGT-Rエゴイストを堪能したひとときだったが、もちろん走りに関する改良は、その他のモデルでも行われている。価格はピュアエディションで869万4000円と、2010年モデルの標準車より8万4000円アップ。3年前に下限が777万円でスタートしたことを思うと、GT-Rもさらに高くなったなという気もするところだが、中身も進化しているので、まあ納得しよう。
そしてブラックエディションも装備が充実し、約50万円近くアップの930万3000円。プレミアムエディションは約20万円アップの945万円。そしてSpecVに価格の変更はなく、1575万円のまま。SpecVの2011年モデルもけっこう変わっているらしいので、機会があればぜひ乗って見たいところだ。ちなみに、発表会の場で「SpecVが新車で買えるのは今年限り」と水野氏が述べていたのも気になる。
少々大げさかもしれないが、これでようやくGT-Rが本来あるべき走りを手に入れたかなという印象。それは、初期モデルが未完成品だったという意味ではなく、その時々で最善をつくしていたはずだが、まったく新しいところから生まれたクルマであり、しかも開発陣が手を休めることなく、少しでもよくなるようにと日々努力を重ねた結果、2007年当時に精一杯だったところが、わずかな期間でこれほどよくなったんだと思う。そして筆者は、いつもながらGT-Rというクルマに乗るたびに欲しくなってしまうのだが、今回もやはりそうだった。
GT-Rというクルマに、「官能的でない」「速いだけのクルマ」といった声もあるようだが、個人的には絶対的な高性能というのは、それだけで大きな価値があると思う。さらにエゴイストのようなモデルまで登場したわけで、「World of GT-R」=世界のGT-Rとして新たな一歩を踏み出したわけだ。価格は高いが、夢があっていいじゃないか!
日本にこんなクルマが存在することを、誇らしく思う次第である。
■インプレッション・リポート バックナンバー
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2011年 2月 25日