試乗インプレッション
マツダ「CX-3」、「SKYACTIV-D 1.8」搭載など初の“大幅改良”でどう進化したか
1.8リッターディーゼルと2.0リッターガソリン、ベストバイモデルはどれ?
2018年6月29日 07:00
発売から3年で4回目の商品強化
SUV人気が高止まりするなか、マツダのSUVである「CXシリーズ」はいずれも好調に推移している。中でも小型で扱いやすく、クラスで唯一ディーゼルエンジン搭載車が選べることなどから「CX-3」は老若男女を問わず選ばれているという。そうしたなか、2度目の大がかりな商品変更が行なわれた。発売から3年にして2回とは昨今では珍しい。しかも正確には過去に2回、小さな改良が施されていたので、発売から3年で4回もの商品強化が図られた。
今回の商品改良テーマについて、CX-3の開発責任者であるマツダ 冨山道雄主査は、「走り、デザイン、装備にまつわる全てにおいて上質さに磨きをかけた」と語る。冒頭に述べた通り、このクラスは世界各国を通じて競争が激化しているため、定期的な商品性の向上は不可欠だ。また、SUVは引き合いの強さを背景に、商品価値が高いと評価されていることもあり注目の的になりやすい。とはいえ、それがコンパクトクラスとなるとなかなか開発コストを価格に上乗せするのは難しく、“コストを抑えながら上質さを向上させる”という部分において、各自動車メーカーともに腕の見せどころとなっている。商品改良の具体的なポイントは次の3点だ。
①「SKYACTIV-X」と同時発表となった次世代車両構造技術「SKYACTIV ビークル・アーキテクチャー」の技術を部分的に採用することで、乗り心地と運動性能の両面を進化
②従来型が搭載していた1.5リッターのディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」の排気量を1.8リッターへ向上させ、同時に2.0リッターのガソリンエンジン「SKYACTIV-G」もさらなる変更を加えるなど進化
③内外に渡る意匠変更。なかでも内装は大きく進化
以下、ポイントごとに紹介していきたい。
進化は確実に体感。しかし……
①では、上質な乗り心地と高い運動性能の両立を目的に、2012年2月に発売された初代「CX-5」以降の新生マツダ商品群全車で培ってきた、人間を中心とした車両の設計思想を昇華させるべく、今回新たにSKYACTIV ビークル・アーキテクチャーの要素技術を採用した。具体的には必要な箇所へのボディ剛性強化策を採りながら、装着タイヤの縦方向の減衰力(縦バネ)を弱めることで路面からの衝撃を滑らかにいなしつつ、身体全体で感じる不快な強めの振動を抑制。また、車内ではエンジン透過音やロードノイズ、段差通過時の衝撃音など騒音が発生するが、そうした音の圧力や音量、さらには音の時間経過(騒音要素発生→空気の振動→耳での自覚)や到達方向(どこから騒音がやってくるのか)などを車体側でコントロールすることで、気持ちのよい車内空間を創造した。
この進化を分かりやすく体感するため、新型と従来型の2.0リッター(4WD)で比較試乗を行なったのだが、確かにその違いは劇的だった。エンジンスタート時から静粛性が高く感じられるのは音圧のコントロールがうまく働いている証拠。その後、アクセルを10%ほどゆっくり踏み込み、両車でジンワリとした加速度を体感してみたが、従来型ではアクセルONと同時に4000rpm前後まで発生していたステアリングへの高い周波数帯での微振動が、新型ではあるエンジン回転数領域(2000rpm±300rpm前後)のみとなるなど大幅に縮小されている。ここは2.0リッターのSKYACTIV-G本体が行なった改良との相乗効果だが、謳い文句どおりの上質さであると納得できた。
乗り味は走行フィール以上に変化量が大きい。今回の商品改良向けに新規開発を行なったトーヨータイヤ「PROXES R52A」(215/50 R18)は、サスペンションの動きと一体化を強めるように縦バネを弱めている。しかしながら、その減少量は「わずか数%」(マツダ技術者)というから極めて少ない。にも関わらず、滑らかな乗り心地という意味では驚くほどの変化があった。もっとも、こうした取材シーンでは新型と従来型を交互に乗り比べる恵まれた環境であるため、こうした特性を理解しやすい。しかし、今回の違いはその概念を大きく超えた。それこそ従来型オーナーであれば、ディーラーでの試乗開始直後から違いを感じ取れるはずだ。
ただし、個人的には課題も……。確かに、シートウレタンの減衰力を見直したことなどで身体が不快と感じる領域が大幅に減っているし、運転中に衝撃を感じやすい腰まわりへの振動が明らかに減っている。また、ボディ剛性の強化などによりフロアマットを通じて感じる足裏への微振動も、大げさではなく従来型の10分の1程度へと減少した。
しかし、SKYACTIV ビークル・アーキテクチャーの要素技術である、タイヤをサスペンションの一部とみなした乗り心地と走行性能の両立という点では従来型が好みだ。全体的に引き締め傾向にありながらも、ガシッとした乗り味と走行性能を両立する従来型の方が筆者には心地よいと感じられる。
細かく見ていくと、過去の小変更で追加されたG-Vectoring Control(GVC)との相乗効果もあり、高速道路ではカーブでいったん舵角を決めた後、クルマが自らそのラインをトレースしてくれる能力は従来型が高いと感じられるシーンも多々あった。車両の挙動が乱れやすくなる荒れた路面であっても、従来型のセッティングでは頑なまでにクルマ自らの意思で進路を決めていく、そんなコミュニケーションが図れていたように思う。
一方の新型では、タイヤとサスペンションの一体化は体感できるものの、身体全体の動きとしては常にフワッとした薄いオブラートに包まれているような浮遊感が残る。従来型と同じ高速道路でのカーブを同じ速度、同じ位置からステアリングを切りはじめても、どうも身体とクルマの一体感に欠けるような状況に陥りやすい。クルマが向かう進路と、身体が感じる横G(横加速度)との均衡点がややズレているように感じられるのだ。
しかしながら、ここは体感領域なのでドライバーの体躯やシートポジションとの関係もある。そこで、ものは試しにとシートリフターで座面を一番下、つまり身体全体の位置を最下点まで下げてみた。すると、筆者の体躯で適正であるとする若干高めのドライビングポジション(シート座面を下からではなく、上、つまり高い位置から調整して探り出せる最適位置)で感じていた先の浮遊感は、ざっくり半分程度にまで減少した。ここはSKYACTIV ビークル・アーキテクチャーの要素技術を従来の設計思想に当てはめた際に生じた、ちょっとした歪みなのかもしれない。いずれにしろ、この新しい理論はドライバーとの相関を突き詰めるポイントになる。
②では、20%大きくなった排気量の恩恵を強く実感。新たなVGターボ(可変ジオメトリー方式)の採用で過給特性が最適化され、アイドリング直上の回転数域から安定した躍度を気軽なアクセル操作でつくり出しやすくなっている。また、40km/h前後から高速道路における70km/h前後からの加速力にしても、従来型から1枚上乗せされた印象だ。3000rpmあたりから5000rpmあたりまでの中高回転領域での“あと1歩前へ”という要求にも応えてくれるようになった。もっとも、今回の排気量向上では加速力を決める最大トルク値に変更がないため、絶対値が向上したというよりも、アクセル操作との人馬一体感が強まったという印象か。
理想を言わせていただければ、全体的なエンジンパワーがあと10%ほどあるといい。CX-3の性格上、3名以上+ラゲッジルームに荷物満載といった使用シーンは希だと考えられるものの、とくに高速道路でのゆとりが加わるとさらに上質な走りになるのではないか。
③では、まさしくスケールダウンしたCX-5といった印象で、完全にコンパクトクラスを超えた質感だ。さらにEPB(電動パーキングブレーキ)に変更されたことで前席周辺の収納部が広がり、同時に開放感も大きく向上している。また、それに呼応するように高められた静粛性、こちらも新型のトピックだ。未だロードノイズが若干残るものの、高速道路では格段に静かになった。
マツダの先進安全技術装備群である「i-ACTIVSENSE」も機能強化されている。衝突被害軽減ブレーキである「アドバンスト SCBS」は、夜間における歩行者検知機能が加わり、アダプティブ・クルーズ・コントロールである「MRCC」ではEPB化に伴い全車速対応(完全停止型)となった。
最後に筆者なりのベストバイ。パワートレーンはガソリンエンジンで、駆動方式はi-ACTIV AWDを選んだ。残るはグレードだが、L Packageグレードの外観と装備が組み込まれた「20S PROACTIVE S Package」(265万6000円)。乗り心地ではFF方式が有利で、そうなれば6速MTも選べるのだが、雪道走行が多いことからこちらを一択とした。