試乗インプレッション

スバル、新型「フォレスター」。2.0リッター直噴ハイブリッド「e-BOXER」と2.5リッターガソリン直噴に試乗

新パワートレーンとSGPで上質な走りと、内装に

見た目も走りも上質になった

 グローバルでスバルの最量販車種と位置付けられ、日本でも人気の高い「フォレスター」がモデルチェンジとあっては、関心を持っている人も少なくないことだろう。SGP(SUBARU GLOBAL PLATFORM)の採用をはじめ全面的に刷新していることは既報のとおりで、従来型から外見のイメージをあえてあまり変えなかったようだが、インテリアは見てのとおり「インプレッサ」と共通性の高いデザインへと大きく変わった。また、インプレッサでも同じことを感じたとおり、従来型に対して大幅に質感が高められていて、車格がワンランク上がったかのように感じるほどだ。

 運転席からの視界がよく、すべての表示類やスイッチ類が見やすくレイアウトされているのはこれまでと変わらず。居住性についても従来型に対して各部のクリアランスが若干ながら拡大しているらしく、たしかに心なしか広くなったように感じられる。

荷室開口部の最大幅は1300mmと、従来モデルより134mm拡大した

 外見は従来型のイメージを踏襲しているが、走りは大きく変わった。試乗したのはおなじみ伊豆の日本サイクルスポーツセンター。インプレッサがSGPを採用したときと同じように、従来型と乗り比べることもできたおかげで、その変わりぶりをよりつぶさに感じることができた。加えて、2.5リッターガソリンの「Premium」と2.0リッターハイブリッドの「Advance」の走りにも予想以上に違いが見受けられたことをあらかじめお伝えしておこう。

新型フォレスター
従来モデルのフォレスター

上質な乗り味に仕上がった2.5リッターガソリン

2.5リッターガソリンの「Premium」

 また今回、ガソリンとハイブリッドのいずれのエンジンやCVTについても、よくよく話を聞くと従来から微に⼊り細にわたって⼿が加えられていることも念を押しておきたい。

 最初にドライブしたガソリンは、ことさら印象に強く残る感じではないものの、十分な動力性能と素直な出力特性により、とても扱いやすいところに好感が持てる。これにはエンジンの改良はもちろん、進化したリニアトロニックの恩恵も小さくないはず。もともと世にあるCVTの中ではよくできているほうだと思っていたが、よりリニア感が増して乗りやすくなっている。トルコンATとなんら変らない感覚でステップ変速し、回転の上昇が先行する印象も、よほど全開にしない限り、ほとんど気にならない。Iモードでも十分なところ、Sモードを選ぶと瞬発力が増し、より気持ちよく走れる。また、3000rpmあたりから上まで回すと出ていたノイズがかなり抑えられていて、クルマ全体の静粛性の向上もあって、とても上質な乗り味に仕上がっている。

Touring/Premium/X-BREAKに搭載される水平対向4気筒 DOHC 16バルブ デュアルAVCS 2.5リッター直噴「FB25」型エンジンは、最大出力136kW(184PS)/5800rpm、最大トルク239N・m(24.4kgf・m)/4400rpmを発生する
ピッチ幅を短くした新チェーン採用など、質感向上と環境性能向上をはたした新型リニアトロニックを採用

 今回、ターボの設定がないことを残念に思う声が多いようで、将来的にはどうなるか分からないが、ひとまずフォレスターにもこの2.5リッターになったガソリンがあれば、大半のユーザーは十分に満足できるのではないかと思う。

2.5リッターガソリンの「Premium」

注目度の高い「e-BOXER」の走りは?

2.0リッターハイブリッドの「Advance」

 対する注目のハイブリッド「e-BOXER」のシステムも、従来型「XV ハイブリッド」に対してバッテリーがリチウムイオンになったことをはじめいろいろと進化している。他社の本格的ハイブリッドカーほど、“いかにも”な感じがないのはXVのときと同様で、モーターは黒子に徹している。エンジンやCVTのフィーリングも大きな不満はない。ただし、前出のガソリンに比べるとやや線が細く、このコースに何箇所かある勾配がきつめの上り坂では、もう一歩に期待したくなることもなくはなかった。動力性能としてはガソリンのほうがだいぶ高いといえそうだ。

「e-BOXER」を採用する「Advance」
Advanceに搭載される「e-BOXER」は、最大出力107kW(145PS)/6000rpm、最大トルク188N・m(19.2kgf・m)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 16バルブ デュアルAVCS 2.0リッター直噴「FB20」型エンジンに、最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65N・m(6.6kgf・m)を発生するモーターを組み合わせる
最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65N・m(6.6kgf・m)を発生するモーター
バッテリーはリチウムイオンバッテリー採用

 ところが、ごく普通に街中や郊外を流すようなイメージで走ってみると、これが実に按配がよかった。アクセルワークへのツキがよく遅れなく応答し、タイトコーナーからの立ち上がりで車速を乗せたいときにモーターがアシストしてくれる感覚が心地よい。そうした日常的なシチュエーションでこそ、ありがたみを得られるハイブリッドだと思う。あえて協調回生を行なっていないというブレーキフィールにもまったく違和感はない。

回生ブレーキ時
モーターアシスト時
エンジンのみの走行時

 そういえば前作のXVでACCを試した際に、スペックから想像するよりもはるかに頻繁にEV走行して驚いた記憶がある。今回のe-BOXERもではさらにその点でも進化しているらしいので、いずれぜひ公道で試してみたいところだ。さらにはSGPとツーリングアシストの初めての組み合わせとなる点でも興味深く、どのような走りを見せてくれるのか楽しみだ。

 フットワークについても、インプレッサでも感じたのと同じくSGPのよさがよく表れていて、比較用として用意されていた従来型と乗り比べるといかに洗練されたかがよく分かった。しっかりした基本骨格に支えられて、サスペンションがよくストロークしながらもフラットな姿勢を保ち、このコースは路面が概ねきれいだが、ところどころ荒れている箇所でも4輪が路面をしなやかに捉える感覚を伝えてくる。従来型が軽快な走り味であるのに対し、新型はなめらかでしっとりとした上質な走りを追求したことがうかがえる。また、新型はステアリングに可変ギアレシオを新たに採用したのもニュースだ。

 その中でもガソリンとハイブリッドでは少なからず違いが見受けられ、ハイブリッドは車両重量が130kg大きく、それもリアに大きなバッテリーパックを搭載していることに合わせてチューニングされているせいか、同じタイヤながら乗り心地はやや硬めで、リアに重量物があるがゆえか揺りもどしも大きめ。現状ではガソリンのほうが4輪のグリップ感も高く、ハンドリングもニュートラルで、全体的にいくぶんまとまりがよいように感じた。

X-MODEがあればラクラク走破

 次いで特設のオフロードコースへ。十分な最低地上高と優れたAWD機構という基本素性のよさに加えて、X-MODEを「SNOW・DIRT」モードにセットして走ると、斜度が25度にも達する滑りやすい上り勾配やリアの片輪が浮いた状や長い下り坂でもラクに走破していけることを確認した。念のためノーマルモードでも走ってみると、フォレスターの基本性能があればこれぐらいのコースなら走れないわけではないのだが、ノーマルモードではアクセルを踏んでしばらくたってから動き出すのに対し、X-MODEオンではアクセルを踏んだ瞬間からクルマが前に進む。この差は小さくない。また、連動して作動するヒルディセントコントロールの速度調整が非常にしやすいことにも感心した。

 なお、新たにX-MODEに設定された「DEEP SNOW・MUD」モードは、前出の「SNOW・DIRT」モードのさらなる強力版というわけではなく目的が異なり、スタックして動けなくなったときに使うべきモードであり、トラクションコントロールがOFFになるため状況によってはかえって悪化させてしまうこともあるらしいので注意が必要だ。

「SNOW・DIRT」モード
「DEEP SNOW・MUD」モード

ドライバーモニタリングシステム」の“おもてなし”機能も体験

 また、新型フォレスターの特徴である「ドライバーモニタリングシステム」の中の“おもてなし”の機能を体験した。すでに一部高級車でも見受けられるが試すのは初めてで、これはいうまでもなく便利。ただし、「Advance」にしか設定がないというのが惜しい。ぜひ、そのほかのグレードでも選べるようになるよう願いたい。

展示された北米仕様の新型フォレスターで「ドライバーモニタリングシステム」のおもてなし機能を試してみる
日本国内では「Advance」のみに設定されるドライバーモニタリングシステム

 外見は従来の雰囲気を色濃く受け継いでいるが、中身は大きく変わった。インプレッサのときも強く感じたとおり、やはりSGP以前とSGP以後の差は⼩さくない。すでにオーダーした⼈は⼤いに期待してよいだろうし、筆者も次は公道で乗れる機会を楽しみに待つことにしたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛