試乗インプレッション

“最小GTI”フォルクスワーゲン「up! GTI」は楽しいか否か? 公道&サーキットで乗ってみた

重量、サイズ、価格帯ともに「よくぞやってくれました!」

219万9000円はバーゲンプライス

 重たく大きく、そして高価にゴージャスになるクルマが多い中、この「up! GTI」ときたらサイズは初代ゴルフ GTIと同等で車重はピッタリ1t! 車両価格は219万9000円と、GTIのエンブレムを掲げる割にはかなり安い! 「ポロ GTI」が実はゴルフ5当時と同等のサイズ、価格だったりすることを考えると、up! GTIは「よくぞやってくれました!」の設定。コンパクトホットハッチなら絶対守ってほしい重量、サイズ、価格帯をキッチリ抑えたところが乗らずしてすでに合格点か!?

 エンジンは直列3気筒DOHC 1.0リッターのターボチャージャー付き直噴ガソリンエンジンTSI。ポロやゴルフにも搭載されているユニットだ。最高出力は116PS/5000-5500rpm、最大トルクは200N・m/2000-3500rpmを発生。それにイマドキ珍しい6速MTが組み合わされている。そんな仕様を日本に導入してくれるとは……。なんてマニアに優しいんでしょう?(笑)。

6月8日に600台限定で発売された「up! GTI」は直列3気筒DOHC 1.0リッターターボエンジンを搭載。最高出力は85kW(116PS)/5000-5500rpm、最大トルクは200N・m(20.4kgf・m)/2000-3500rpmを発生する

 ちなみに1976年に登場した初代ゴルフ GTIのスペックは最高出力110PS/6100rpm、最大トルク140N・m/5000rpm、車重は820kgだった。かなり近いというか、トルク値が上回っていることは明らか。それで重量増を補えればイマドキか? ただ、最大トルク発生回転と最高出力発生回転の間に開きがあるから、伸び感が得られるかどうかが不安なところではある。初代のようにそれが近い場合、高回転へ向けてスカッと突き抜けるような爽快感が得られるものが多いが、そこまでは初代を真似できなかったのかもしれない。

 けれども、このエンジンにはもう1つの見どころがある。それはガソリンエンジン用粒子フィルターを装着した最初のフォルクスワーゲンだからだ。粒子の排出量が最大95%も削減され、現在ヨーロッパで施行されているEuro 6 AG排ガス基準をクリアしているとのこと。次の世代にもスポーツを残そうと必死に立ち向かっている姿はエライ!

ディープブラックパールエフェクトカラーのup! GTI。ボディサイズは3625×1650×1485mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2420mm。
エクステリアではラジエターグリルにGTIならではのハニカムパターンを採用するとともに、専用の17インチアルミホイールやクロームエキゾーストパイプなどを装備。専用サスペンションにより車高は10mmローダウンされ、タイヤはグッドイヤー「EFFICIENT GRIP」(195/40 R17)を装着する
GTI専用のレザーマルチファンクションステアリングホイール、レザーシフトノブ、ドアシルプレートなどを装備するup! GTIのインテリア

ドライバーにスポーツさせる1台

 だが、実際に走らせてつまらないクルマだったら認めるわけにはいかない。早速ワインディングを走らせてみる。走り始めれば低速からシッカリとトルクフルで、とても1.0リッターエンジンとは思えない俊敏な加速を展開してくれる。ギュイーンと吹け上がる感覚はいかにも3気筒といったところ。ややハイギヤードな設定の6速MTでも不満なく加速を重ねてくれる。

 ただし、予想通り高回転の吹け上がりはもう少しパンチがほしいような気もしてくる。逆に言えば、それだけ低速トルクが豊か過ぎるということ。下があり過ぎるおかげで上が目立たないというのが実際のところだろう。使い切る楽しみも十分に感じられるし、これはなかなか面白い。もし自分のクルマにできたなら、吸排気で音をもう少し出して、さらにファイナルギヤでも変更してやりたいな、なんて思う。そうすれば大化けしそうな気配はかなりある。

 シャシーは車重1tが相当に効いているらしく、とにかくキビキビと鼻先の向きを変えてくれるイメージ。195/40 R17サイズの薄いタイヤもダイレクトな応答を示してくれるから面白い。荒れた路面だと動きにぎこちなさもあるようにも感じるが、それはコンパクトホットハッチというキャラも考えて許せる範囲内。それよりも元気溢れる身のこなしが、ちょっと愛らしく思えてくるのだ。それでいてリアのスタビリティは高く、絶対に破綻させないように仕立てられている。

 後日、富士スピードウェイのショートコースを走らせる機会に恵まれたのだが、そこでもup! GTIの走りは光っていた。タイトなターンではスッと向きを変える身軽さを展開しつつも、高速コーナーではドッシリ安定。どんな状況でもクルマの全ての性能を引き出せる環境が整えられているのだ。おかげでドライバーはとにかく必死にいつまでも走ることができる。絶対的な速さを追求するというよりは、むしろドライバーにスポーツさせる1台、そんな感覚がこのクルマには存在するのだ。

 ポロ GTIやゴルフ GTIの速さがどんどん増し、そのすべてを引き出すにはハードルが上がったいま、このup! GTIの使い切り感覚を味わえる状況はどんな人にも優しい。ビギナーからエキスパートまですべての人が笑顔になれることは間違いない。インテリアの造りをはじめ豪華さは決してないが、気分はちっともチープじゃない。むしろ心がとても豊かになる。up! GTIはまさにそんな1台だった。

橋本夫婦の試乗後記

 今回の試乗会にはモータージャーナリストの橋本洋平氏、カーライフ・ジャーナリストであり橋本氏の奥さまでもあるまるも亜希子さんの両名に参加いただいた。

 ご夫婦がup! GTIをどのように感じたのか、感想を語っていただいたので試乗後記として紹介する。


橋本氏:イマドキ珍しい軽さと使い切り感覚が面白すぎて、思わず走りに夢中になっちゃったよ。

まるも氏:たしかにup! GTIは久々に自分主導で乗れるクルマだったよね。MTも操りやすいし、見た目も可愛いし。街中で乗っていたら、トラックの運転手さんなんかも優しくてさ、みんな合流とかで譲ってくれるのよ。

橋本氏:それを利用して速く走れるってわけか。なんだか腹黒いな(笑)。

まるも氏:そういうわけじゃないけれど、女性でもきっと楽しく走れる1台だと思う。サイズ感もいいし、取り回しもしやすいし。でもさ、ウィンドウの自動開閉機能がなかったり、収納が少ないところはバツかな。細かいところがもう少しほしくなる。

橋本氏:たしかに最近のクルマと比べちゃうと見劣りするところはあるよね。俺が不満だったのは、エアコンの吹き出し口が中央になかったこと。身体の右側は冷えるんだけど、左側は暑いんだよね。ただ、サーキットでエアコン全開にしていてもキッチリ冷えるところはマル。ポロやゴルフもそうなんだけど、体力がないオッサンにはありがたいんだよね。

まるも氏:エアコンの吹き出し口は変更できないかもしれないけど、それ以外は色々と後でイジッて補っていくこともできそうじゃない? 私は音がもう少しだなって思うから、マフラーとか変えちゃうかも。

橋本氏:嫁さんがマフラー変えたいって言うなんて、フツーじゃないけどイイネ!(笑)。さすがは元○○!

まるも氏:コラー!

※決して元ヤンではありません(笑)

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛