試乗インプレッション

フォルクスワーゲンの新型「ポロ GTI」は大人だけどやんちゃ。この楽しさは手にする価値あり

200PS/320N・mの2.0リッターターボに6速DSG搭載

200PS/320N・mを発生する新型ポロ GTI

 フォルクスワーゲンが誇るコンパクト3モデル「up!」「ポロ」「ゴルフ」に、ホットハッチ「GTI」シリーズが一斉に登場し、すでに完売モデルが相次ぐという盛り上がりを見せている。up! GTI、ゴルフ GTIはすでに試乗レポートをお届け済みだったが、残る1台、「ポロ GTI」にようやく試乗する機会が訪れた。

 この春に約8年ぶりとなる新型へとスイッチしたばかりのポロは、フォルクスワーゲンが進めているモジュラー戦略「MQB」を採用したこともあり、全高こそ先代より10mm低くなったものの、全長・全幅・ホイールベースはすべて拡大。MINI 5ドアよりもやや大きいサイズとなり、キリリと大人っぽいフロントマスクやダイナミックなプロポーションで、車格もアップした印象を受けた。

 しかしエンジンだけは、先代の直列4気筒1.2リッターからさらにダウンサイジングされ、直列3気筒1.0リッターを搭載。95PS/175N・mというスペックから想像するよりは、一般道から高速道路まで万能な走りを見せてくれたが、シーンによってはやや非力さを感じてしまったのが正直なところだ。とはいえ、高速域でのレーンチェンジやコーナリングをフラットにこなし、常にしっかりと4輪の接地感が感じられる安定性は、クラスを超えた上質感で満たしてくれるものだった。

 そんな新型ポロをベースとしたGTIは、いったいどんな仕上がりになっているのか。up! GTIが、1970年代の初代ゴルフ GTIのような「めいっぱいまで操る楽しさ」を持ち、最新のゴルフ GTIが「大人のスポーツドライビング」を手にしているなか、ポロ GTIはどっちに球を蹴ってくるか? 手を広げて待つゴールキーパーのようにドキドキして乗り込んでみる。

7月3日に発売された新型「ポロ GTI」(344万8000円)。同時発表の「up! GTI」と合わせ、GTIシリーズは13年ぶりに3モデルを展開することになった。ポロ GTIのボディサイズは4075×1750×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm
エクステリアではGTIを象徴するラジエターグリルの赤いストライプやレッドブレーキキャリパーをはじめ、専用17インチアルミホイール(タイヤはミシュラン「プライマシー 3」でサイズは215/45 R17)やデュアルエキゾーストパイプ、リアスポイラーを装備

 身体を受け止めるのは、GTI伝統のチェック柄を配したスポーツシート。座面から背面まで肉厚のクッションでサポートされ、バケットシートのようなゴツゴツした感触ではないところが、実用性も大事にするフォルクスワーゲンらしい。そして前を向けば真っ赤なインパネと、フルデジタルのメーターパネルがなんともゴージャス。このメーターパネルを含む最新世代のアクティブインフォディスプレイはオプションだが、ポロとしてもGTIとしても初採用となっている。そのおかげもあって、室内全体から感じるのはスポーティな印象よりも、ちょっと未来的で艶っぽい、小粋な空間。これなら女性ウケもいいのではないだろうか。

インテリアでは伝統のタータンチェックのファブリックシート柄に加え、レッドステッチの入ったマルチファンクションステアリングホイール、ベルベットレッドのダッシュパッドを採用するなど、随所に赤色が用いられるデザイン。純正インフォテイメントシステム“Discover Pro”では走行モードの選択も可能
オプションの「テクノロジーパッケージ」に含まれるデジタルメータークラスター“Active Info Display”の表示例

 そういえば初代ゴルフ GTIのころから、「小さくてオシャレなクルマが大排気量スポーツカーを追い回す」というのがGTIの得意技だったはずで、新型ポロ GTIもその路線を踏襲するのであれば、インテリアのオシャレ度はGTIシリーズピカイチ。ならばパワートレーンはどうかというと、なんと驚きの2.0リッター直噴ターボ+6速DSGが搭載され、200PS/320N・mに到達。先代より8PS/70N・mアップだが、車両重量が1290kgと80kgほど増えているのが気になるところだ。

ポロ GTIは日本初導入の「ミラーサイクル方式」を採用する高効率な直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載。最高出力147kW(200PS)/4400-6000rpm、最大トルク320N・m(32.6kgf・m)/1500-4350rpmを発生する

GTIシリーズ3モデルでもっともトンガっているのは?

 いよいよ走り出してみると、いきなりの上り坂で強めにアクセルを踏み込んだ途端に、グワッと大きな波に連れ去られるような加速感。あとはペダルに触れているだけの感覚でも、スルスルと湧き水のようなトルクが途切れず流れ出してくるようで、4気筒らしい上質感もしっかりある。

 さらに上質感を高めているのが、低速からとても滑らかなDSG。頻繁な加減速でもまったくギクシャクすることなく、まさに思い通りの反応で操らせてくれる。専用デザインのアルミホイールを履いた17インチタイヤは一般道でもゴツゴツと硬めだが、ガッシリとボディをフラットに保つ剛性感はゴルフ GTIに近いほどで、予想以上の大人っぽさだ。

 そしてワインディングに差し掛かると、その大人っぽさは何処へやら、ヤンチャ坊主な一面が顔を出した。カーブ進入でチョンとブレーキペダルを踏めばコロッと向きを変えて、オットットとなりそうだと見せかけておきながら、しっかり体勢を保って抜け出していく。今回は公道なのでまったく攻めた走りはしていないが、一瞬でもちょっとギリギリな感じをかすめてくれるところは、最近のスポーツモデルではあまり味わえない、どこか懐かしい楽しさ。

 それに加えて、標準装備のドライビングプロファイル機能で「ノーマル」「エコ」「スポーツ」「カスタム」のモードが用意されており、スポーツを選択すれば「Sport Selectシャシー付スポーツパフォーマンスキット」によってショックアブソーバーのダンピング特性が切り替わり、ステアリングやエンジン特性、ギヤボックス制御も変わって、一気にレーシングカーのような本気モードへ。明らかにレスポンスは速く、コーナリングは無駄なく、勇ましいエキゾーストノートで高揚感まで煽ってくれる。

 しかも贅沢なことに、高速コーナリングなどでIN側のグリップ不足を検知すると、瞬時にブレーキをつまんでトラクションを回復させ、アンダーステアを抑えてくれる「電子制御式ディファレンシャルロック“XDS”」まで標準装備。一般道ではなかなか使うことはないだろうが、サーキットではかなり効果があるはず。こうした本物志向も、新しいポロ GTIの大きな魅力となっている。

 そして最後に運転を代わってもらって、後席でも試乗してみた。結果は予想通り、低速からずっと突き上げが絶えず、お世辞にもいいとは言えない乗り心地なのだが、不思議と「早く降ろして~」というほど不快でもない。もう少し足まわりがなじんでくれば、そんなにわるくない感触になるのでは? という印象さえ受けたのだった。

 こうして新型ポロ GTIを走らせてみて、いろんな一面を持つという点ではup! GTIに近いと感じた。そしてクラスを超えた上質感を手にしている点では、ゴルフ GTIにも通じるものがある。でも、コーナリングを楽しむならポロ GTIが一番ではないだろうか。懐かしさのある昔ながらのギリギリ感、速さ。そしてXDSでより高度な次元にもトライできる余裕。そうした意味では、今回のGTIシリーズ3モデルの中で、もっともトンガっているのはどれか? と聞かれたら、私ならポロ GTIと答える。ヤンチャなホットハッチが減りつつある今、この楽しさは手にする価値があるはずだ。

橋本夫婦の試乗後記

 今回の試乗会にはモータージャーナリストの橋本洋平氏、カーライフ・ジャーナリストであり橋本氏の奥さまでもあるまるも亜希子さんの両名に参加いただいた。

 ご夫婦がポロ GTIをどのように感じたのか、感想を語っていただいたので試乗後記として紹介する。


まるも氏:すごい雨の中での試乗だったけど、どうだった?

橋本氏:まったく不安なく走れたよね。ボディもエンジンも大きくなったし、安全装備も万全だからってのもあるけど、やっぱりちゃんと煮詰めて作られてるなぁと感じるね。

まるも氏:でも、結構ヤンチャな面もあるところがまた、うまいんだよね。こちらがその気になれば、ハラハラドキドキできるっていうか。

橋本氏:そうだね。ノーマルでもいいけど、スポーツモードにすると足まわりからパワステ、そしてスロットル特性まですっかり変わって、1粒で2度美味しいって感じ。サーキットでも走らせてきたんだけど、ちゃんとパワーもあるから本気で攻められる。

まるも氏:ほお。スイフトスポーツとかカローラ スポーツなんかと比べてどうなの?

橋本氏:どっちも楽しいけど、やっぱりポロ GTIにはもう1段階上の速さがあるのが強みかな。

まるも氏:そうなんだ。街乗りの印象ではDSGのなめらかさにビックリ。ちょっと乗り心地は硬いけど、サイズも小さめで扱いやすいし、リアビューカメラとか運転支援技術もたくさん付いてるし、これなら普段はママが乗って、たまにパパが走りを楽しむっていうファミリーにもよさそうじゃない?

橋本氏:後席にシッカリ、チャイルドシート用のISOFIXも付いてたしな。うん、アリだな。

まるも氏:エッ? ウチはダメだよ! 買うなら86売ってからにしてね~。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:安田 剛