インプレッション

フォルクスワーゲン「up! GTI」(海外試乗)

南仏ニースでライトウェイトホットハッチの実力を体感!

初代ゴルフ GTIがベンチマーク

 ベンチマークは初代「ゴルフ GTI」。開発陣はそう言って憚らず、実際にプロモーション映像などでも2台が並ぶ姿が使われている。そのクルマはフォルクスワーゲン「up! GTI」。南仏ニースで開催された国際試乗会で試したその走りは、確かにライトウェイトホットハッチのピュアな楽しさを久しぶりに味わわせてくれたのだ。

 この2台、単にイメージを重ね合わせているだけではなく、確かに似通ったスペックを持つ。最高出力は初代ゴルフ GTIの110PSに対してup! GTIでは115PS。全長は10cmほど短いにも関わらず、車重は810kgから1070kgまで増えているが、0-100km/h加速は8.8秒で、初代ゴルフ GTIをコンマ2秒凌ぐだけ。最高速は182km/hに対して196km/hと差がつくが、それでも40年の時を隔てた両車の動力性能、ほぼ拮抗していると言っても間違いではないだろう。

 ホットハッチの元祖である初代ゴルフ GTIの存在は、デザインの面でも未だ強い影響を及ぼしている。3ドアのボディは、ラジエターグリルを縁取る赤いラインや、バンパーなどブラックアウトされた部分に使われたハニカムパターンなど、GTIを象徴するアイテムでコーディネートされて、ノーマルでは愛らしさすら感じさせるup!に精悍さをプラスしている。フロントバンパー下のスプリッター、ベース車よりも後方まで延長されたリアルーフスポイラーは、見た目だけでなく当然、空力特性を考慮に入れたデザインである。

初代ゴルフ GTIをベンチマークに掲げた「up! GTI」。ボディサイズは3600×1641×1478mm(全長×全幅×全高。全幅はサイドミラーを除く)と、初代ゴルフ GTIよりも105mm短く、13mm広く、88mm高いサイズになる。ボディカラーはソリッドの「ピュアホワイト」「レッド」「ダークシルバー メタリック」「ブラック」を設定し、ホワイト、レッド、シルバーを選択した場合はルーフをブラックにペイントするオプションが用意される。標準装備の17インチアルミホイールはVolkswagen Rが開発したもので、赤いキャリパーが特徴のブレーキシステムではup!シリーズ初の15インチを採用

 そして、ドアを開ければ、今度はお馴染みタータンチェック地のスポーツシートが出迎えてくれる。赤いステッチの入れられたDシェイプのステアリングホイールや、球形のシフトノブも心高ぶらせるポイント。ただし、黒地に赤のピクセル状のグラフィックスが施されたトリムパネルだけは、少々安っぽさを感じないではない。

up! GTIのインテリア。他のGTIシリーズと同様にタータンチェック柄のファブリックシートを採用したほか、GTIを表すデザインディテールとしてGTIのロゴ入りドアシルパネル、GTI専用のシフトノブ、赤いステッチなどを採用している

 GTIをGTIたらしめるパワーユニットは、直列3気筒1.0リッター直噴ターボエンジンと、6速MTの組み合わせとなる。新たにガソリン微粒子フィルターを装備したエンジンの基本部分は、新型「ポロ」に積まれるものと共通。最高出力は前述の通り115PS、最大トルクは200Nmを発生する。

up! GTIが搭載する直列3気筒1.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力115PS/5000-5500rpm、最大トルク200Nm/2000-3500rpmを発生。新しいWLTP(Worldwide Harmonised Light-Duty Vehicles Test Procedure)による型式認証を受けており、複合テストサイクルでは5.7~5.6L/100kmの値を達成している

 3ドアボディの骨格には特に変更は加えられていない。シャシーにはテネコ製大径ダンパーを使い、車高を15mm下げるスポーツサスペンションが装備され、オフセットを減らしてトレッドを拡大させる専用アルミホイール「ブランズハッチ」に組み合わされるタイヤは195/40 R17という細く、扁平率の大きなものが採用されている。ブレーキは15インチ。赤いキャリパーが目印である。

程よいパワーと意のままに操れるフットワーク

 軽いクラッチを踏み込み、小気味よく入る6速MTを1速に。クラッチを繋いで走り出すと、まずはその軽やかさ、そして剛性感高い乗り味に唸らされた。ボディはいかにもしっかりとしているのに重々しさはなく、何の抵抗感もなくスッと車体が前に出る。けれど段差などを乗り越える時も車体はミシリともしないのだから大したもの。しかもサイズはコンパクトだから、ニース周辺の狭い街中を駆け抜けるのも、まったく苦にすることはないのだ。

 街を抜けて、高速道路へ入る。6500rpmまで回るエンジンを、2速でリミットまで引っ張っても90km/hにも届かないから、思い切りアクセルを踏んでいける。低回転域では3気筒らしくややラフだが、高回転域に近づくにつれて勢いが増し、目が揃っていく回転フィーリングは痛快だし、サウンドアクチュエーターにより室内にスポーティなサウンドまで響かせるから、こうなるといよいよアクセルを踏み込むのが楽しくなってくる。

 ニースからモナコへと向かう高速道路A8号線は、この区間ではアップダウンとコーナーが連続する。up! GTIではハイペースを保つには6速から5速、時に4速辺りまで使う必要があるが、そうやって変速してはアクセルを踏み込む、その単純な繰り返しが理屈抜きに楽しい。

 シャシーの高いスタビリティも、こうした場面では絶大な安心感に繋がっている。雨の中、130km/hで曲がりながら下っていく高速コーナーに入っていく……なんてシチュエーションでも、鼻歌交じりでいられるのだ。中立位置からしっかりとした手応えを返してくる上々のステアリングフィールも、それに貢献しているのは間違いないだろう。

 ワインディングロードでのup! GTIは、さほど曲がりたがりというわけではない。けれども適度に硬めとされたサスペンションは、じわりとロールしてタイヤを路面に押しつけ、高い安定感とともに旋回していくことを可能にしている。タイヤの特性も合っているのだろう。軽いクルマでは難しいはずの、しっとりとした接地感、リニアなステアリングフィールが心地よい。

 掌にクルマの状態がよく伝わり、こちらの繊細な操作にクルマがしっかり応えるから、挙動が読み取りやすく、すべてを手の内に置いているかのような感覚が得られる。だから自信をもって攻められるのだ。

 思い切りアクセルを踏み込んでいける程よいパワーと、舞台を問わず意のままに操れるフットワークが絶妙にバランスしたその走りは、まさにホットハッチと呼ぶに相応しい、気持ちを高揚させるものに仕上がっている。どこにでも躊躇なく走って行きたくなるし、どこでだって楽しめる。こういう走りを味わったのは、とても久しぶりのような気がする。結局のところ40年の月日が経っても、人が楽しいと思う感覚は実はそんなに変わっていないのかもしれない。

 up! GTIの日本導入は、2018年後半を予定している。ヨーロッパでの価格は1万6975ユーロ、つまり約225万円。日本のライバルと目されるモデルたちに比べれば高めであることは否定できないが、しかしそれだけの価値は間違いなくある。フォルクスワーゲン ジャパンにはぜひ、ここからそう遠くない価格での発売を実現してほしいところだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、キャプション内のボディサイズ表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ」を主宰する。