インプレッション

フォルクスワーゲン「up! with beats」(2017年発売)

新興ブランド「beats」とのコラボ

 この業界に入る前は、本気でミュージシャンになることを考えていた。2歳下の弟とのユニットで、デビューの一歩手前までいったのが、まだ学生だったバブルの終わりのころの話。頑張っていたのだが、いろいろ思うところがあって、もともと音楽と同じくらい好きだったクルマの世界に身を投じた。ちなみに弟はそのまま音楽業界に進み、メジャーデビューせず裏方として今でも頑張っている。

 そんなわけで、基本的に音楽が大好きな人間なので、今でもよく聴いている。どんな音楽も好きだけど、イチバンはというとやっぱりギターの効いたハードロックだ。高校生だった1980年代のハードロック全盛期に音楽に目覚めて、友達とバンドを組み、勉強そっちのけで音楽にのめり込み、上京してからも音楽を続けていた。

 それから30年経った今でも、自分にとってはやっぱり1980年代の印象が強くて、思わず1980年代の音楽を聴いてしまう。ラジオで流れてくる曲だって、今でもかなり高い比率で1980年代のヒット曲がかかることをちょっとうれしく思っていたりする。

 もちろん仕事柄、クルマの中にいる時間が長いから、できればいいサウンドで音楽を楽しめるに越したことはない。そんな音楽好きにもってこいのクルマが、“もっとも小さなフォルクスワーゲン”である「up!」の特別限定車としてラインアップされた。それが「up! with beats」だ。

 ご存知ない方のためにちょっと紹介すると、「beats」というのは2008年にスタートした、アメリカ カリフォルニアに本拠を置く新興オーディオ機器ブランドで、とくにヘッドフォンが有名だ。老舗のメジャーブランドではなく、あえてbeatsとしたところが心憎い。

力強い低音とクリアな高音域

プレミアムサウンドシステム「beats sound system」を搭載するup! with beats(2ドアモデル)のインテリア。200台限定の2ドアモデルの価格は172万3000円で、400台限定の4ドアモデル(192万3000円)も用意する。ベースモデルはmove up!

 300W、8チャンネルのパワーアンプとDSP(デジタルシグナルプロセッサー)、6スピーカー+サブウーハーを含む計7つのハイエンドスピーカーを組み合わせたサウンドシステムは、「音楽を愛し、サウンドにこだわるあなたに。」という直球なメッセージのとおり、力強い低音と高音域までクリアなサウンドを聴かせてくれる。もっと高価な本格的システムにあるような、いかにも上質なサウンドとは毛色の異なるパンチの効いたサウンドは、筆者が好きなハードロックや今どきのヒップホップ系にもピッタリな感じで、up!のキャラによく似合う。

 クルマというのはどこよりも音楽を楽しめる場所。新しくなったup!に設定された、スマホとの連携を強化し、専用アプリによりさまざまな機能を利用可能とした純正インフォテイメントシステムをはじめ、スマホのホルダーやiPod/iPhone/USBデバイス接続装置もとても使い勝手がよくて重宝する。僕らの若かったころは、まあ曲をセレクトしたり順番を考えたりするのも楽しみのうちではあったものの、少なからず手間はかかったものだが、今ではずっと簡単にクルマで音楽を楽しめるようになったのはありがたい。

 インテリアに、このクルマのために特別にデザインされた専用ダッシュパッドやドアシルプレート、専用ファブリックシート、レザーのマルファンクションステアリングホイールやハンドブレーキグリップが与えられているのも嬉しい。

up! with beatsでは専用のファブリックシートやドアシルプレート、レザーのマルチファンクションステアリングホイールやハンドブレーキグリップなどとともに、ダークティンテッドガラス(リア/リア左右、UVカット機能付)、スマホとの連携を強化した純正インフォテイメントシステム「Composition Phone」、スマートフォンホルダー(iPod/iPhone/USBデバイス接続装置)を特別装備
300W、8チャンネルのパワーアンプにデジタルプロセッサーを搭載するとともに、6個のスピーカーとサブウーハーの合計7個のハイエンドスピーカーをレイアウトするプレミアムサウンドシステム「beats sound system」を標準装備。専用ダッシュパッド、ドアシルプレートやAピラーのスピーカーに「Beats」のブランドロゴである“bマーク”をデザイン
後席は6:4分割可倒式

限定販売台数は計600台

 見た目もさりげなく特別感がある。ノーマルとの外観の違いは、ドアミラーやサイドのデコレーションフィルムは一目瞭然。よく見るとホイールも違うし、前後にクロームのモールが付いている。撮影車は白地に赤が映えるカラーリングだが、ほかにも赤/黒も選べる。音楽に特化した特別限定車ながら、パッと見では走り系のモデルにも見える。こういう商品企画は、「ゴルフ」や「ポロ」よりもup!のほうがずっと似合う。

 2ドアも4ドアも選べるのだが、むろん4ドアのほうが何かと便利であることには違いないものの、2ドアのほうがカッコイイことをあらためて実感。20万円も安いし。後席に人を乗せる機会のあまりない人だったら、個人的にはぜひ2ドアを選んでほしい、と勝手に思ってしまう。

ボディサイズは3610×1650×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2420mm。ボディカラーは写真のピュアホワイトのほかトルネードレッドも用意する
エクステリアではデコレーションフィルムやドアミラー、アルミホイールキャップがカラーコーディネートされる。6ツインスポークの15インチアルミホイール(タイヤサイズ:185/55 R15)も専用装備。パワートレーンは最高出力55kW(75PS)/6200rpm、最大トルク95Nm(9.7kgm)/3000-4300rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.0リッターエンジンに5速シングルクラッチAT「ASG」の組み合わせ

 新しいup!自体の走りに関する変更点はアナウンスされていないが、乗ると全体的によくなっているように感じる。出た当初にさんざん指摘された「ASG」も、シフトチェンジ時に駆動抜けする時間がまあ許せるぐらいに短くなっているし、動作もよりスムーズになり、ずいぶん乗りやすくなった。

 とはいえATやCVTのようにはいかないわけだが、そのあたりの理解のある人なら大丈夫だ。持ち前の素直なハンドリングは、高速スタビリティや剛性感が微妙に高まった気がする。これだけ小さなサイズなのに、乗ると狭さをあまり感じさせないところも、相変わらずup!のよいところだ。

 up! with beatsの販売台数は全部で600台。価格も控えめで、付加価値高し。興味のある方は迷っている暇などない!

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳