インプレッション

プジョー「3008」(2017年フルモデルチェンジ/公道&オフロード試乗)

プジョーの本気ぶりが伝わってくる

 世界的なSUV市場の伸長を受けて、プジョーもSUVラインアップの構築を進めている。マイナーチェンジでSUV色を強めた「2008」に続いて、このほどフルモデルチェンジした「3008」を日本導入した。秋には「5008」も登場予定だ。SUVユーザーの要求は高く、よいものでないと振り向いてもらえない。そう考えたプジョーは、競合車に負けないクオリティと商品性を念頭に、2代目となる新型3008の開発に臨んだという。

 その本気ぶりは内外装デザインから伝わってくる。丸っこいワンモーションフォルムの愛らしいルックスが印象的な初代3008も、非常にユニークなプジョーならではのSUVだと思っていたが、ちょっといかつい表情の顔つきになり、スポーティで躍動感のあるデザインとなった新型は、よりプジョーらしさが際立ったように見える。

2016年9月に開催されたパリモーターショーで世界初公開され、日本には3月に導入された新型SUV「3008」(写真は限定180台の3008 GT Line DEBUT EDITION)。ボディサイズは4450×1840×1630mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2675mmで、先代モデルから85mm長く、5mm広く、5mm低いサイズになった。ボディカラーはメタリック・コッパー。価格は400万円
これまでのハッチバックとSUVの中間的存在から「真のSUVへの明確な転換を図った」というエクステリアでは、直立したフロントエンドと大型フロントグリルを採用したほか、先進的なフルLEDヘッドライト&フォグランプ、「Lion’s Claw(獅子の鉤爪)」と呼ばれる3D LEDリアコンビランプなどを装備。足下は18インチアロイホイールにコンチネンタル「ContiCrossContact LX2」(225/55 R18)を装着

 インテリアもユニークだ。上下を平らにした小径ステアリングの上にメーターが見える独自の「i-Cockpit」は、「308」ではスイッチ類を極端なまでに廃したことを強調していたところ、3008ではより使いやすく見栄えよく作られた印象で、機能を表すイラストの下に横一列に並ぶスイッチを押すと、画面が表示されて即座にその機能にアクセスできるようになった。最新モデルらしくコネクティビティの強化も図られている。

 ドライバー側に向けられたインパネや高めのセンターコンソールにより、ドライバーを囲むようにデザインされた空間も、このクルマならでは。大胆に段差を設けたインパネのデザインや、シート地や各部に貼られたパネルの一見デニムのように見える新感覚の素材の質感も興味深い。初代では固定式だった大開口のパノラミックサンルーフは、前半分が開くようになったのも新しい。

 シフトバイワイヤのATセレクターは使いやすく、見た目にも新感覚。ポジションを目視しやすく、操作を直感的に自然にこなせる。一方で、相変わらずステアリングコラムから生えたクルーズコントロールの操作スイッチが少々分かりにくいのは否めない。

新型3008ではメーターパネル全面がデジタルディスプレイになる次世代の「i-Cockpit」を採用
包まれ感のあるコクピットまわり。ステアリングの上辺を水平デザインにすることで、デジタルディスプレイの視認性を向上させている
トランスミッションは6速ATを採用
特徴的なインパネスイッチ
撮影車はオプション設定のパノラミックサンルーフ(電動メッシュシェード付)を装着
テップレザー/ファブリックのコンビネーションシート
後席は6:4分割可倒式を採用
フロアボードの高さを変更できる
全グレードに標準装備される12.3インチの「デジタルヘッドアップ・インストルメントパネル」

プジョーらしさが帰ってきた

 少し遅れて2.0リッターのディーゼルエンジンが追加されることはすでに発表されているとおりで、今回試乗したのはガソリンの1.6リッターターボだ。165PS/240Nmというスペックは、ミドルコンパクトクラスではトップレベル。低回転域から力強い特性のエンジンにより、右側から左へとタコメーターの針が小気味よくまわる。「ドライバースポーツパック」をONにすると、走りがより快活になる。組み合わされるのがATであることも、筆者としては大歓迎。このクラスにはDCTを採用した競合車も見受けられるが、やはりATの方がスムーズで乗りやすく、エンジンとのマッチングがよい。パドルシフトも全車に付く。ただし、エコカー減税の対象ではないのは惜しい。

パワートレーンは最高出力121kW(165PS)/6000rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/1400-3500rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッターターボエンジンと6速ATの組み合わせ。JC08モード燃費は14.5km/L

 足まわりはプジョーらしさが帰ってきた印象だ。初代3008はロールを抑えるためか、やや突っ張った印象の乗り味になっていたが、新型は引き締まった中にもしなやかさのある、いわば“猫足の進化版”のような味付け。新開発のプラットフォームによる剛性感もあり、軽やかな身のこなしが心地よい一方で、直進安定性が高く、長めのホイールベースも効いてか高速巡行も得意だ。

 後席にも乗ってみたところ、平均的な成人男性の体格(身長172cm)である筆者が座って、頭頂部から天井までの距離はこぶしを縦に1つ分ぐらい。ひざからフロントシート背面までも十分に余裕があり、プロペラシャフトがないのでセンタートンネルの張り出しもなく、足下が広々としている。ただし乗り心地については、けっして不快というほどではないが、前席に比べるとやや路面の凹凸を拾ってコツコツ感があるし、外からの音も入ってきやすい。リアがビーム式サスペンションであることも影響しているのかもしれないが、むしろそれだけ前席が快適と捉えていただいてよいかと思う。

悪路走破性も相当なもの

 驚いたのは悪路走破性が想像よりもかなり高かったことだ。試乗会会場にはオフロードコースも用意されていたのだが、コースを目の当たりにして、本格的なオフローダーならいざしらず、こんなところを本当に走れるのかと思わずにいられないような状況。そこを、前輪駆動で地上高もそれほど高くないこのクルマが見事に走り切ってしまう。

 センターコンソールに「ヒルディセントコントロール」のスイッチと「アドバンスドグリップコントロール」のダイヤルがあることは乗り込んだときから気になっていたが、意外とそんな性格の持ち主でもあるということのようだ。

 アドバンスドグリップコントロールは、一般的なトラクションコントロールでは空転を抑えるところ、雪、泥、砂の各モードにおいて最適な制御を行ない、トラクションの確保を図るというもの。

シフトまわりには「SPORT」モードスイッチが備わるほか、ESCのON/OFFおよびノーマル/スノー/マッド/サンドのモード切り替えが可能な「アドバンスド・グリップ・コントロール」のロータリースイッチも用意
アドバンスド・グリップ・コントロールのモードはデジタルヘッドアップ・インストルメントパネルに表示される
急な下り坂でも約5km以下の低速で安定して下降できる「ヒルディセントコントロール」のスイッチを押したところ

 上の写真のようなコンディションに適した泥モードを選ぶと、普通のトラコンなら諦めてしまうところを、より力強く駆動力をかけて滑らせつつ最適に制御することで、もっとも高いトラクションを得ようと頑張る。これにより、上り勾配で荷重がかかりにくい状況でも、前輪だけでクルマをグイグイ持ち上げていくのだから大したもの。リアの片輪が浮いた状態のままクルマが前に進んでいくさまは、やはりインパクトがある。

 いとも簡単にやってのけてしまったのだが、よくよく考えるとFFでこれはすごい。このあたりには年初に1-2-3フィニッシュという快挙を達成したダカール・ラリーをはじめ、ラリーで培ったノウハウが活かされているという。また、フロントリップが初代3008ほどではないにせよ、やや前に出ているのも気がかりだったのだが、当たることもなく難コースを走り切った。

 ご参考まで、泥モードはあえて左右輪で差をつけて、グリップしている側に積極的に駆動をかけるのに対し、砂モードでは砂地にはまらないように、なるべく左右差を作らないように制御するそうだ。

 このように望外といえるほど悪路走破性にも優れる上、個性的な内外装デザインが与えられ、実用性や安全性も十分と、クルマとしての実力も相当なものであることがよく分かった2代目3008は、SUVへの注力を公言し、このクルマにかけたプジョーの心意気が伝わってくる入魂の作であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳