インプレッション

UDトラックス「クオン」(2017年フルモデルチェンジ/富士スピードウェイ試乗)

 UDトラックスの大型トラック「クオン」が、13年ぶりにフルモデルチェンジ(初代クオンは2004年11月18日発表、翌19日発売)を行ない2代目となった。乗用車と比較するとずいぶん長いモデルスパンだが、同時期にフルモデルチェンジを行なった日野自動車の大型トラック「プロフィア」は14年ぶり、三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」はじつに21年ぶりとさらに長い。商用車のフルモデルチェンジにも、乗用車と同じく新規ユーザー獲得のために行なわれる意味があるが、それ以上に対応しなければならない法規制や安全基準がある。

各社から新型が導入された理由

 今回、各社から新型車が登場した背景には大きく2つの理由がある。1つ目が排出ガス規制の変更だ。過去にもこの規制値は何度も厳しくなっていて、そのたびに各社の主力モデルはフルモデルチェンジや仕様変更が行なわれてきた。規制値はディーゼルエンジンの排出ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)に対して適用される。これまでの規制はNOxが0.7g/kWh、PMが0.010g/kWhだったが、新たに施行された「平成28年排出ガス規制」では、NOxのみ0.4g/kWhへと約43%もの削減が求められた。さらに試験モードも今回からWHDCに変更され、エンジンが暖まっていない段階でのコールドスタート時の試験も強化されている。

 フルモデルチェンジの背景にはこうした「平成28年排出ガス規制」のほかに、燃費性能を示す「平成27年度燃費基準+10%」「平成27年度燃費基準+5%」といったラベリング制度への対処もある。燃費性能は事業者にとって経営事情を直接響く要因であり、そのため商用車メーカーにとっても売れ行きに左右する死活問題でもある。

新型クオン(ダンプ仕様)に搭載される新開発の直列6気筒1万836cc「GH11」エンジン。360PS仕様の「GH11TA」、390PS仕様の「GH11TB」、420PS仕様の「GH11TC」が用意され、最大トルクは仕様によって発生回転に若干の違いはあるものの、いずれも1750Nm(178.5kgm)を発生
省燃費、パワフル、クリーンを特徴とする「GH11」エンジンでは新しい燃料噴射システムや従来から燃焼室の形状変更(ウェーブピストン採用)、吸排気系の変更、触媒システムの最適化によって全車重量車燃費基準+5%を達成。平成28年排出ガス規制にも適合する

 ところで、大型商用車は物流業や観光業を担っているのはみなさんご存知の通り。その物流業では近年のネットショッピングの普及を背景に取り扱い荷物量が格段に増えている。なかでも小口物流といって各家庭への宅配業務は増加が著しく、2015年度では37.5億個にまで膨れ上がった。この値は、直近5年で見ると約12%(約5.3億個)の増加であり、この統計手法が始まった1990年度(約11億個)と比べると3.4倍にもなる。

 ならば小口物流には小型商用車、いわゆる2tトラックが主体となっているのだから、小型商用車の排出ガス規制や燃費数値のラベリング制度だけを厳しくすればそれでいいのでは……、との考えも浮かぶ。事実、国土交通省の物流件数の推移をみても、0.1t未満の小口が75.1%であるのに対して、5t以上の貨物は全体の3.4%に過ぎないからだ(2010年)。しかし、小口に物流をさせる製品を生産するためには、大型商用車の存在は当然ながら不可欠。そのため、一定数の大型商用車は日本の物流における要であり、その意味ではこうした規制などにも理解を示す必要がある。

 各社から新型車が登場した2つ目の理由は、安全装備に対する義務化対応にある。衝突被害軽減ブレーキを始めとした運転支援技術の義務化が施行されたからだ。日本の公道で特別な許可なく運転できる大型商用車は、GVW(Gross Vehicle Weight/車両総重量=車両重量、最大積載量、乗車定員の3つを含めた数値)が25tに定められている。乗用車の約20倍にも及ぶ質量を持った車両が走るわけだから、大型商用車が関係する交通事故が発生してしまうと、その加害性は甚大だ。また、大型観光バスにしても60人以上の乗客を乗せて運行するため、万が一の際には被害がより拡大する可能性がある。

 今回の規制は2019年11月1日から施行されるもので、「AEBSフェーズ2」と呼ばれる。自車速度が80km/hのとき、静止車両に20km/h分減速できるか。10km/hで走行している車両に衝突せずに停止できるかといった内容だ。こうした運転支援技術は、単にミリ波レーダーの追加や制動力の強化だけで達成できるものではなく、あらゆる運転状況を想定した試験を繰り返すことで、ようやくロバスト性の高い運転支援技術として成立する。今回義務化された法律にしても2014年2月13日から公布されていたもので、およそ3年かけてAEBSフェーズ2に適合する衝突被害軽減ブレーキが実用化した。

新型クオンはミリ波レーダーをフロントグリルに搭載するとともに、キャブ内に設置されたカメラと合わせて実現する衝突被害軽減ブレーキ「トラフィックアイブレーキ」をはじめ、車間距離制御装置「トラフィックアイクルーズ」、ふらつき注意喚起装置「ドライバーアラートサポート」、「LDWS(車線逸脱警報装置)」といった先進のドライバーサポートシステムを搭載

 今回は一同に新型となった大型トラックのうち、UDトラックスの新型「クオン」に試乗するチャンスを得た。試乗ステージはなんと富士スピードウェイの本コースだ! もっとも、乗用車ではスポーツカーを筆頭にスポーツモデルの試乗を本コースで行なうことはあるし、欧州ではトラクターでレースを行なったりサーキット試乗も希に開催されたりするというが、筆者も長いこと交通コメンテーターをしているものの、国内では未だかつて経験がなかった(筑波サーキット2000で大型観光バスを用いたサーキットサファリのドライバーは務めたことがあるが……)。

 なんでまた国際格式のレーシングコースで試乗なのかといえば、安全性を確保した上で新型クオンの走行性能をしっかりと取材して欲しいといった、UDトラックスの強い想いがあったから。確かに近年の大型車はトラック/バスともに乗りやすくなったとはいえ、ボディ全長は約12m、車幅にしても約2.5mと大きく、ホイールベールが長いから内輪差(車両にもよるが約2.5m)もある。また、リアのオーバーハングも長く、大きくステアリングを操舵した際のはみ出し量も大きい(同1m以上)。そうしたことから、普段から公道で大型トラックや大型バスの試乗や燃費計測テストを担当している筆者からしても、安全に新型クオンの走行特性を体感させていただける貴重な機会となったことはとてもありがたかった。

 試乗車は「CGドライウイング」と「CD冷凍バン」の2台だ。どちらもエンジンは同じ「GH11TB」型を搭載する。スペックは強力そのもので、近年のダウンサイジングエンジンのなかでは大きな部類に入る直列6気筒1万836ccから、390PS/1600rpmの最高出力と178kgm/1200rpmの最大トルクを発生する。トランスミッションは「ESCOT-VI」とネーミングされた前進12速、後退2速のAMT(機械式トランスミッション)を組み合わせた。一部モデルには用途に合わせ3ペダル方式の6速ないし7速マニュアルトランスミッションの用意がある。

新型クオン(CD冷凍バン)の内外装。操舵輪が前1軸で、後2軸のうち前軸だけが駆動輪を受け持つことから「6×2」と呼ばれている。なお、新型クオンに搭載されるトランスミッションは「ESCOT-VI」と呼ばれる12速AMTとなるが、このAMTとGPSが連動し、1度走行した道路の勾配などを記憶して次回に走る際に省燃費運転に寄与する「Foretrack(フォアトラック)」機能を搭載。クルーズコントロールを用いて60km/h以上で走行している際、同じ登降坂路を走行したときに車速、エンジン回転数、補助ブレーキなどを自動制御し、ドライバーのスキルを問わずだれでも簡単にエコドライブが行なえるようになっている
新型クオンではコクピットまわりのデザインを刷新し、使いやすいストレート式のシフトパターンを採用。また、クルーズコントロールの操作が行なえるスイッチを4本スポークステアリングに備えたほか、視認性に優れたインパネなどを採用。さらに省燃費運転をアドバイスしてくれる「燃費コーチ」といった機能も備わる
長距離を走るドライバー向けに仮眠を取れるスペースも用意
こちらは展示車の「クオン CG」。操舵輪が前2軸で後2軸が駆動輪を受け持つことから「8×4」と呼ばれる。試乗車のCD冷凍バンと比べ、フロントまわりやミラー部がメッキになる上級仕様になる。ボディサイズは11,815×2,490×2,925mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは7,520mm
展示車の「クオン CG」のインテリア。CD冷凍バンよりも豪華な内装

本コースで「8×4」と「6×2」を体感

 最初に試乗したCGドライウイングは、操舵輪が前2軸で後2軸が駆動輪を受け持つことから「8×4」と表記される。車両重量1万865kg、積荷1万3900kgで、乗員2名を含めたGVWでは2万4875kgだ。2回目に試乗したCD冷凍バンは、操舵輪が前1軸で後2軸のうち前軸だけが駆動輪を受け持つことから「6×2」と表記される。車両重量1万1030kg、積荷1万3700kgで、乗員2名を含めたGVWでは2万4840kgだ。しかし今回の試乗では、GVWは20tちょうどになるように設定された。新型クオンを含めて、特別な規定や許可なく公道を走行できる大型車のGVWは25tまでだが、物流業で活躍している大型トラックはおおよそGVW20t前後での走行が多い。よって、今回の試乗車はすべてGVW20tに統一されていた。

 本来であれば、同じパワートレーンとはいえ「8×4」と「6×2」には軸数の違いから走行性能は別ものなので、それぞれレポートしなければならないのだが、その内容はかなりマニアックになってしまうため(現時点で十分にマニアックかもしれないが)、詳細は別の機会でレポートしたい。ここでざっくり両車の違いを解説すると、これまで通り直進安定性では高速輸送用に設計された「6×2」が優れている。タイヤの直径が大きいこともその理由だ。では、なぜ「8×4」が存在するのかというと、車体の全高を低くして、その分高さのある積荷を積載するためにある。つまり、偏平タイヤを履かせることで車高を低くし、荷台の容積を確保する狙いがあるのだ。よって、新型クオンでも小径タイヤ(「6×2」の275/80 R22.5から「8×4」の245/70 R19.5へと小径化)を採用し、全高は3070mmから2915mmへと155mmも低くなっている(数値はいずれも試乗車の場合)。

新型クオンの富士スピードウェイ走行シーン(4分19秒)

 本コースのグリッドに並べられている新型クオンの姿は圧巻だ。エッジの効いたフロントマスクとサーキットのミスマッチ感はハンパない! 足の運びを考慮して配置された2段ステップと、運転席へ乗り込む時点で手が届く「ロンググリップ(手すり)」を使って地上から約2.5mの高い位置にある運転席へと乗り込んだ。真っ先に目に飛び込んでくるのは、一新されたメーターまわり。アナログ式のスピードメーターとタコメーターの間にカラー表示対応の「マルチディスプレイ」(TFT液晶画面)と、その下段にモノカラー表示対応の「単色モニター」の上下2段モニターを配置した贅沢な造り込みだ。直感的に分かりやすいだけでなく、使っているフォントがとても見やすく文字サイズも乗用車のそれと比べるとかなり大きい。このあたりは母体であるボルボ・トラックスのよい部分を吸収したのだろう。ちなみに、2007年より世界的な商用車メーカーであるボルボ・トラックスの一員となった当時の日産ディーゼルは、2010年にUDトラックスへと社名を変更している。

 早速エンジンを始動する。キャブ全体のバイブレーションにはじまり、運転席から身体に伝わる振動は多め。これは「GH11TB」型エンジン固有の振動特性に加えて、キャブの振動を吸収するダンパーやシートの減衰特性との相乗効果によるものだが、ここで感じるちょっと硬質な振動は、北欧をはじめとした欧州車全般にいえる特性だ。生産財である商用車の場合、アイドリング付近での居住性を考慮するよりも、大部分ドライバーが過ごすことになる走行時の快適性を向上させる方向で設計がなされている。これが1度に走る距離が長くなる大型トラックなればなおのことだ。

 AMTであるESCOT-VIのシフトノブは乗用車とほぼ同じ位置にある。感覚的には、背中をシートバックに着けたまま左手を伸ばした先にシフトノブがあり、かつ手首の動きだけの軽い操作力でDレンジへいざなうことができるため、いわゆる操作性は優れているといえる。しかし、シフトノブが今どこにあるのか、ノブ位置を一見しただけでは分かりづらい。これが惜しい。位置を示す白線がノブと連動するのだが、いかんせん線が細く、また、ノブの位置の1段下に線が引かれているので、イメージする位置とノブがズレているのかと錯覚してしまうことがある。もっとも、メーター内の「単色モニター」にはシフト位置がデジタル表示されているし、手下を見ながら確実な操作を促すという点では1つのフェールセーフが貫かれていると考えるが、戸惑ってしまったことも事実。この点、三菱ふそう「スーパーグレート」はクリック感と操作量を大切にしたレバー式を採用しており、日野自動車「プロフィア」はセンターパネルに配置した大型ダイヤル式で対応している。

 貸切りのサーキットとはいえ、コース上にはスタッフがいることから周囲の安全を確認して走り出す。ここでは死角の位置や量、そしてミラーの視認性などを確認する。運転席からの視界や死角に関しては最新のUN/ECE規則が適応されるため、たとえばステアリングにスピードメーターやインパネ周辺のスイッチが隠れてしまうということもない。細かいところでは、助手席側のアウターミラー(乗用車でのドアミラーに相当)がもう少し大型化されるとよいなと感じたが、フロントウィンドウは下方まで切り込まれているから視界は良好だ。

 走り出した瞬間から新型クオンの目指した滑らかで力強い走行特性を実感する。具体的には1100rpm~1500rpmあたりまでの大型トラックが多用する領域のパワー/トルクを重視したエンジン特性で、GVW20t(試乗車の調整値)のボディがアクセルペダルの踏み込み量に応じて躍度をある程度変化させることができるから、例えば発進直後に登坂路に差し掛かった場合でもイメージ通りの加速性能を生み出すことができる。

 さらに細かく見ていくと、通常走行時のシフトアップポイントに近い1400rpm前後にパワーとトルクの盛り上がりポイントを重複させているため、ドライバーとしてはいっそう力強さを体感しやすい。こうした柔軟なエンジンを支えるトランスミッションも優秀だ。乾式単板のシングルクラッチ構造であるため、シフトアップ直後には避けられないトルク抜け(駆動力が抜けることを示す)が発生するものの、アクセルペダルを一定に保っている以上、トルク抜けが最小限にとどまるように素早いシフトアップ制御で加速力を維持しようとする。

 こうした両者のコンビネーションによるスムーズな加速特性には、それに見合う強力なブレーキ性能が必要だ。新型クオンでは総輪、つまりすべての車輪にディスクブレーキを装着。加えて新型クオンでは電子制御ブレーキ(UDトラックスではEBSと命名)を用い、踏み始めから滑らかな減速特性を生み出している。大型車のブレーキは圧縮空気を用いたウエッジ式エアブレーキ(いわゆるドラムブレーキ)が一般的だが、新型クオンは欧州のトラックが多く採用しているディスク式とした。乗用車と違うのは、油圧式ではなく空気式であること。

 メリットは①「フェードを発生させない限り強力な制動力を安定して発揮できる点」と、②「ブレーキペダルの踏力を一定にしたまま完全停止状態までもっていっても、キャブが“しゃくる”ことがほぼ皆無になったこと」だ。②の“しゃくり”とはキャブのピッチングのことで、これは同時に停止の度に乗員が大きく前後に揺さぶられることを示す。多くのウエッジ式エアブレーキの場合、とても敏感で、かつ強力であることから停止直前に踏力を緩める必要がある。とくにフル積載時の減速操作には積荷への加害性(減速時に前のめりとなり荷崩れすること)を考慮して、ミリ単位のペダルコントロールが不可欠だ。なかなかここはイメージできない部分かもしれないが、ブレーキペダル操作への気遣いがちょっとだけ減った分、ドライバーの運転操作は楽になり、それだけ周囲の安全確認に気を配れるようになる。よって、この点だけでもディスクブレーキ化の恩恵は大きいといえる。

 さらにディスクブレーキ化によって、圧縮空気を貯める大きな補機類を必要としない(圧縮空気でパッドを押しつけるため必要な小さな補機類は搭載する)ため車体の軽量化にもつながっている。事実、新型クオンではディスクブレーキ化によって数十kgに及ぶ軽量化を達成。デメリットはパッドの消耗が激しく、時にディスクローターへの加害性も強くなってしまうこと。車両重量がかさむだけに、ここはいかんともしがたいところだ。

 そこで新型クオンではディスクブレーキの摩耗対策として、補助ブレーキの積極活用である「ブレーキブレンディング」を行なっている。大型車の場合、一般的な足で操作するフットブレーキを「サービスブレーキ」と呼び、“車体を止めるブレーキ”として位置づけられる。対して以前からエキゾーストブレーキなどと言われている第2のブレーキを「補助ブレーキ」と呼び、“走行時の車速を調整するブレーキ”として使われる。つまり大型車の場合は、補助ブレーキを主体として減速操作を行ないながら、停止させるためにサービスブレーキを使う。もちろん、割り込みなど緊急を要する場合は最初からサービスブレーキを掛けるものの、通常走行では使い分けることでサービスブレーキであるウエッジ式のエアブレーキやディスクブレーキの消耗度合を抑制している。

 ちなみに補助ブレーキにも種類があって、いわゆる排気ガスを活用する前述した“エキブレ”のほかに、エンジン抵抗を利用したり、「リターダ」(新型クオンではMT車に採用)と呼ばれる永久磁石の抵抗や、液体(水)の抵抗を利用したりして減速度を生み出す「アクアリターダ」と呼ばれるものもある。また、1段下のギヤ段に入れて減速度を生み出す「エンジンブレーキ」も補助ブレーキと連動して活用するのが昨今の大型車のトレンドだ。新型クオンでは、サービスブレーキの操作だけで必要に応じて補助ブレーキを自動的に連動させる「ブレーキブレンディング」を採用することで、ディスクブレーキの弱点であった耐摩耗性を向上させた。

 大型車にとってもコーナリング性能は重要だ。“速く駆け抜ける“といったエモーショナルな部分を大切にした訳ではなく、積荷を積載した状態でのコーナリング性能は走行時の安全性を確保するうえで非常に重要だからだ。自重よりも30%近く重い約13tもの積荷を積載することで、走行中の車体はつねにあらゆる方向からの荷重がかかる。なかでも骨組であるフレームは“よじれること”が設計段階から加味されていて、そのよじれ具合が走行性能全般に大きく関係する。新型クオンの場合、メインフレームに高張力鋼板を使うことで剛性を確保しながら、板厚をこれまでの7.5mmから7.0mmへと薄型化した。新型クオンでは、こうしたフレーム軽量化やディスクブレーキ化によって最大で200kg、従来型よりも積荷を多く積載できるようになった。

 肝心の走行性能はどうなのかというと、しっかりとした安全性能を確認することができた。たとえば富士スピードウェイではコカ・コーラコーナー(左旋回80R)の先に、トヨペット100Rコーナー(右旋回178R→106R→100R→95R)があるが、ここは複合コーナーであるため右方向へとステアリングを徐々に切り込んでいくことになる。新型クオンでは、切り込んでいくに従って車体後部が微妙にしなりながら素直に追従してくることが手に取るようにステアリングを通して伝わってくる。

 このとき、路面の障害物を避けることを模して意図的にさらに右へとステアリングを切り込んでみたが、じんわりとタイヤの横方向への荷重が高まり、鼻先がスッと反応するとともに、車体後部はこれまでよりもゆっくりとした反応で追従を開始する。つまり、車体のコーナリング限界が段々に近づいていることをドライバーに教えくれているのだ。今回はサーキットであったため、舗装路面の表面が粗く摩擦係数は公道より高かった。こうしたことから、いつにも増してフレームがよじれる状況を体感できたのだろう。いずれにしろ、一気に破綻をきたす(大型トラックの場合は横転を意味する)のではなく、その限界点をドライバーに知らせる特性が与えられていることに好感を抱いた。

新型クオンを室内から(その1 8分57秒)
新型クオンを室内から(その2 3分7秒)

 ちなみに、前述したディスクブレーキ化による軽量化やフレームの軽量化は、GVWに上限が定められている大型車の場合、トラックでは軽量化しただけ積荷を増やす(バスでは乗員を増やす)ことができるため、TCO(トータルコストオーナーシップ)を大切にする事業者からは喜ばれる。また、フル積載時以外では車体そのものの軽量化によって燃費数値も向上する。今回、各社がフルモデルチェンジを行なった背景に軽量化があるのはそうした理由があるのだ。

 このほか燃費性能向上を目的に、エンジン始動時には走行モードが自動的に「ECOモード」となってエンジン常用回転数を抑制するとともに、7速ギヤ以上で巡航中にアクセルを戻すとニュートラル制御とし惰性走行を助ける「ESCOTロール」(詳細は動画にあり)、GPS情報を使って一度走行した道路勾配などを記憶し、次に同じ場所を走行する際に①クルーズコントロール使用、②自車速度が60km/h以上であると、道路状況を先読みしたシフト制御と補助ブレーキ制御を行なう「フォアトラック」など、先進技術を駆使して燃費性能を向上させる取り組みを行なっている。

 この先、三菱ふそうの大型トラックと大型観光バス、そして日野自動車の大型トラックの公道試乗が行なう機会があるので、追ってそれぞれレポートしたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛