インプレッション

メルセデス・ベンツ「E 220 d 4MATIC オールテレイン」(車両形式:LDA-213217/公道試乗)

メルセデス初のクロスオーバーモデルはベースモデルと“ひと味違う”乗り心地

メルセデス初のクロスオーバーモデル

 SUVのラインアップもメルセデス・ベンツはかなり充実している方だが、そういえばこうした類いのクルマはこれまでなかったことにあらためて気付いた。Eクラスのステーションワゴンをベースに、全高を30mm増の1495mm、最低地上高を標準時で25mm増の140mmとし、ホイールの大径化や専用の内外装パーツで装飾したという成り立ちのニューモデル。現行型Eクラスとしてはセダン、ステーションワゴン、クーペに次ぐ第4のボディタイプとなり、メルセデス初のクロスオーバーモデルでもある。

 日本に導入されるのは、2.0リッター直列4気筒BlueTECエンジンを搭載した「E 220 d 4MATIC オールテレイン」のみで、Eクラスで唯一の4輪駆動クリーンディーゼルモデルとなる。861万円という車両価格は、同じエンジンを搭載する「E 220 d アバンギャルド スポーツ」の本革仕様車の852万円と近く、4MATICつながりでは「E 400 4MATIC エクスクルーシブ」の1088万円に対して200万円あまり安いことになる。

E 220 d 4MATIC オールテレインは最高出力143kW(194PS)/3800rpm、最大トルク400Nm/(40.8kgm)/1600-2800rpmを発生する直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載。JC08モード燃費は16.8km/L。トランスミッションは9速ATの「9G-TRONIC」を組み合わせる

 メルセデスのSUVには見慣れていても、オールテレインのようなクルマは初めてなので、目にするととても新鮮な感じがする。個人的には、ステーションワゴンの延長上とはいえもう少し地上高が高くて、ホイールアーチカバーの質感が高い方がなおよい気もしたのだが、何はともあれEクラスに加わった新しい個性の登場を歓迎したいと思う。いかにもSUVっぽいクルマよりもこちらを好む人も少なくないことだろう。

2017年9月に発売された「E 220 d 4MATIC オールテレイン」(861万円)は、Eクラスで唯一となる4WDとクリーンディーゼルの組み合わせで、専用の「All-Terrain」モードなどを搭載したクロスオーバーモデル。ボディサイズは4950×1860×1495mm(全長×全幅×全高)、最低地上高は140mm。Eクラスのステーションワゴンと比べ、10mm短く、10mm広く、30mm高いサイズ。最低地上高は25mm増となる
エクステリアでは2本のフィンが備わるラジエーターグリルをはじめ、前後バンパー下部のシルバークロームアンダーライドガードやブラックのホイールアーチカバーなどを採用。足下はオールテレイン専用の19インチ10スポークアルミホイールにブリヂストン「ポテンザ S001」(245/45 R19)の組み合わせ

 インテリアは本革仕様が標準で、写真の「ブラック」のほかに「マキアートベージュ」と「ナッツブラウン」という計3色から選べる。オールテレイン専用の「ブラッシュドアルミニウム」というインテリアトリムも新感覚でなかなかよい。

 地上高が適度に高まったことで、ちょうど乗降しやすい高さにシートの座面があり、アイポイントも高くなるので見晴らしがよいのもオールテレインならでは。一方で、SUVほどテールゲートの開口下端はそれほど高くないので、荷物の積み降ろしはステーションワゴンと同じように容易にこなせる。

 リアシートの背もたれは、ラゲッジルームの側面とシート脇のスイッチによりワンタッチで倒すことができるのも便利。最大で1820Lという大容量のスペースが出現する。40:20:40分割可倒方式のリアシートにより、長尺物を積載して快適に4人が乗車できる利便性はそのまま受け継いでいる。また、この車高であれば一般的な機械式立体駐車場にも問題なく収まるのもSUVに対するメリットの1つだ。

インテリアではトリムにオールテレイン専用の「ブラッシュドアルミニウム」を採用したほか、2つの高精細12.3インチワイドディスプレイを装備。本革仕様の内装では「ブラック」「ナッツブラウン」「マキアートベージュ」の3色を用意
「360°カメラシステム」ではフロントグリル、左右のドアミラー、リアライセンスプレート上方に4つのカメラを備え、合成処理された周囲の状況をモニターに表示。自車を真上から見ているような「トップビュー」画面も設定する

舗装路も雪道も優れたドライバビリティ

 Eクラス オールテレインは、走りの仕上がりも上々だ。大径の19インチタイヤを履き、セルフレベリング機構を備えた専用セッティングの電子制御式エアサスペンション「AIR BODY CONTROL」によるフットワークは素晴らしいというほかない。走行状況に応じてダンピング特性や車高を自動的に最適に調整するのだが、その味付けが本当に絶妙だ。Eクラスのセダンやステーションワゴンではやや気になった硬さ感もなく、足さばきはしなやかでフラット感があり、いたって上質な乗り心地を提供してくれる。高速巡行時には自動的に車高が15mm下がって、ステーションワゴン並みの空力性能と走行安定性を発揮する点もSUVとは別物だ。

 2tに達しようかという車両重量ながら、2.0リッターのクリーンディーゼルと9速ATの組み合わせによる走りに不満はなく、高速道路での再加速もストレスを感じることはない。車内にいるとディーゼルであることを感じさせないほど静かで振動も小さいことにも感心する。こうした性格のクルマであれば、むしろ少しぐらい音がしても許せる気がするところだが、乗り味はまるっきり高級車そのものだ。

 今回の車両には、横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤが装着されていたのだが、舗装路でのドライバビリティが高いことはお伝えしたとおりで、直進安定性に優れフラつきもない。せっかくなので雪道も走ってみたところ、舗装路で感じた乗りやすさは雪上でも変わらず。4MATICの高い走破性能と相まって、なんの不安もなく走ることができた。

雪上では横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「iceGUARD 6(アイスガード シックス)」を装着して走行

 多少段差のある路面でも、これだけ地上高があれば苦にすることなく越えていけるし、もっと過酷な状況に遭ったときには、専用のオールテレインモードを選択するとよい。トランスミッションとESPの制御がオフロードに最適な設定に切り替わり、35km/h以下の速度で車高が20mm高まり、雪道や悪路での走破性を高めてくれる。また、COMANDディスプレイの専用画面にステアリング角度や車高、前後および左右の車体の傾き、ブレーキとアクセルの状態、コンパスを表示させることもできる。一応オールテレインモードを試してみたものの、あえて選択しなくても今回はこのクルマの基本性能だけで十分に走破できたわけだが、もっと過酷な状況に遭ったときには本領を発揮してくれることだろう。

サスペンションには電子制御式エアサスペンション「AIR BODY CONTROL」を採用し、車速や走行条件に応じてダンピング特性や車高を自動的に調整。荒れた路面などではスイッチ操作で車高を0mmから35mmまでの範囲で3段階まで選択できる。写真は車高を下げた状態(左)と上げた状態(右)
エンジンやトランスミッションの特性を切り替える「DYNAMIC SELECT」では、オールテレイン専用の「All-Terrain」モードを追加。All-Terrainモードではトランスミッションがオフロードモードに切り替わり、AIR BODY CONTROLが35km/h以下の速度で車高を20mm高くすることで、雪道や悪路での走破性を高める。そのほか「Comfort」「Eco」「Sport」「Individual」からも選択可能

 さらには、お伝えした余裕のある動力性能や優れたドライバビリティに加えて、他のEクラスと同様の世界最先端をいく先進安全運転支援システムの搭載により、いざというときはもちろん、今回も高速道路や雪道を含めそこそこ長距離を走ったのだが、疲労感が極めて軽かったこともお伝えしておきたい。Eクラスに加わった新しい個性は、なかなかの実力の持ち主であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸

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