インプレッション
フォルクスワーゲン新型「ポロ」(車両型式:ABA-AWCHZ)、8年ぶりのフルモデルチェンジでどう進化した?
6代目になった本格ハッチバックは3気筒1.0リッターターボ&7速DSGの組み合わせ
2018年3月20日 14:30
約8年ぶりにフルモデルチェンジ
先代「ポロ」が登場した当時の試乗レポートを読み返すと、私はこう記していた。「小さなクルマに欠けがちなものが、何も欠けていない」と。それは内外装の質感だったり、高速走行性の高さ、ロングドライブでの疲れにくさといった点が、国産同クラスのモデルと比べて驚くほど優れていたからだった。
だからこそ、1975年の初代発売以降、累計生産台数1400万台以上という世界的なベストセラーカーとなり、日本でも輸入車販売台数の上位をキープし続けてきたのだろう。そんなポロのフルモデルチェンジは、約8年ぶりとなった。
初対面の印象は、VWエンブレムを起点に水平なラインが薄型のヘッドライトまで一体となる、最新VWデザインでキリリとした大人顔になったなぁというもの。車格もアップしていて、走ってくる姿を遠くから見ると、「ゴルフ」とよく区別がつかないほどだ。
実際にボディサイズも全高が10mm低くなった以外は、全長、全幅、ホイールベースとすべて拡大。アウディ A1やMINI 5ドアよりもやや大きくなっている。これは今、先代が出た当初は存在しなかった「up!」がラインアップしており、キャラクターを差別化する必要があったことも1つの理由のはずだが、やはりフォルクスワーゲンが進めているモジュラー戦略「MQB」を採用したことが大きい。これによってダイナミックなプロポーションを手にしたばかりか、パッケージングの最適化や強靭なボディ構造、高い衝突安全性やボディ重量のむやみな増加を抑えるなど、ユーザーにとっても嬉しい効果が盛りだくさんとなった。
とくに室内空間の広さや乗降性、ラゲッジスペースの積載性は大きな進化を見せている。前席の頭上まで余裕のスペースとなっているのはもちろん、後席に座ってみても膝まわりにゆとりがあって頭上の圧迫感もなく、かなり快適。クッションが厚めの座面には傾斜がついており、深く腰掛けてすっぽりと包まれるような座り心地も好印象だ。
そして運転席からの眺めが大きく変わったのは、やはり急速に進む車内のデジタル化に対応し、これまでセンターパネルの一等地にあったエアコン吹き出し口に代わり、インフォテイメントシステムのディスプレイがドンと大きく置かれたところ。デザインも水平基調を採用しつつ、フォルクスワーゲンのどのモデルにも共通するシンプルさ、直感での分かりやすさは健在だ。
ちなみに新型ポロではテレマティクス機能を初採用。新世代インフォテイメントシステム「Discover Pro」とスマートフォンを接続すれば、ナビ機能の精度が上がるほか、PCでキーワード検索をするようにほしい情報が手に入るようになっている。モバイルオンラインサービス「Volkswagen Car-Net」にも対応し、最新の施設検索や運転に必要な情報の取得もできる「つながるコンパクトカー」となっていることも魅力の1つだ。
クラスレスな実力に感心
さて、そんな新型ポロに搭載されたパワートレーンは、ダウンサイジングエンジンをいち早く取り入れた先代の直列4気筒1.2リッターからさらに小排気量化され、直列3気筒DOHC 1.0リッターターボ+7速DSG。それでも先代の90PS/160Nmよりパワフルな95PS/175Nmとなり、最高速は187km/h、0-100km/h加速は10.8秒だ。これは初代ゴルフ GTIに匹敵するパフォーマンスだという。JC08モード燃費は19.1km/Lで、これは先代の22.2km/Lより劣っているが、広報担当者曰く実用燃費への影響はほとんどないとのこと。グレードは15インチタイヤを履くベーシックなTrendline(トレンドライン)、中間のComfortline(コンフォートライン)、16インチタイヤ装着で装備充実のHighline(ハイライン)の3タイプが用意され、今回はHighlineに試乗した。
運転席&助手席はHighlineにのみ備わるスポーツコンフォートシートで、適度な張りとフィット感のあるクッション、膝裏まで支えられる座面で、ゆとりがあるのにしっかりと包まれている感覚。前を向くとスッキリとした視界が広がり、邪魔なモノが何1つない空間はいつものフォルクスワーゲンらしいところだ。スタートボタンを押すと、静かなアイドリングが始まった。
アクセルペダルを軽く踏み込んで走り出すと、初期応答からグイっとトルクの波が押し寄せてくるような感覚はなく、いたってソフト。シーンによっては少し非力に感じてしまうほどだが、すぐにスーッと伸びやかな加速フィールに変わっていく。市街地を40~60km/hあたりで走る分には、その伸びやかさが何度も味わえて気持ちがいい。7速DSGの制御もずいぶんと滑らかさがアップし、発進から低速域でのギクシャク感がまったくないので、これならATやCVTに慣れた人でも違和感なく乗れるはず。よくよくスペックを見てみると、出力のピークが5000-5500rpm、トルクのピークが2000-3500rpmと、先代の4400-5400rpm/1400-3500rpmより高くなっており、出足がやや物足りなく感じるのはその影響もありそうだが、DSGとは思えない滑らかさを手に入れたことは、日本のユーザーにとっては歓迎すべきポイントだ。
そして何より、4輪がしっかりと路面に落ち着き、何重にも守られているようなガッシリとした剛性感が常に感じられるところは、このボディサイズからの予想を超えている。しかも操作感には重さやかったるさがなく、むしろ軽やかなのも驚きだ。これは高速道路に入ってからも変わることなく、安定感が増すばかり。レーンチェンジや高速コーナーも実にフラットで、改めて新型ポロのクラスレスな実力に感心したのだった。
追い越しなどでガバッとアクセルを開けた時の応答性もほぼ遅れなく得られるし、実は試乗日は大雨だったのだが、シャーシャーというフロア下からのノイズが抑えられ、静粛性が高いことも確認できた。ただ、どんなに加速しても心を揺さぶるような感覚や官能的なサウンドといったものを出す気はないようで、常にこちらの意図に的確に応えてくれる優等生。もう少しドキドキさせてほしい、という人にはちょっと単調に感じられるので、ここは好みが分かれるところかもしれない。
とはいえ、こんな大雨の日でもまったく不安にさせず、リラックスしながら高速巡行ができたのは、そんな新型ポロだったからに違いない。全車速追従機能付きACC(Highlineに標準、Comfortlineにオプション)をはじめ、プリクラッシュブレーキシステム「Front Assist」(全車標準)、駐車支援システム「Park Assist」(Highline、Comfortlineにオプション)など、安全&運転支援装備も豊富に設定されており、そうした面での安心感も高くなっている。
さて、最後にもう1つ大きく進化したポイントを見てみよう。先代より通常で71Lも容量アップし、351Lとなったラゲッジスペースだ。これは1つ上のゴルフクラスにも迫る大容量で、後席を前倒しすると最大で1125Lにもなる。しかもバックドアが大きく開き、開口部はほぼ凸凹のないスクエア形状、フロアの深さや奥行きも申し分ないので、大きな荷物の積み込みやすさなども含め、数値以上に使い勝手が向上しているはず。ファミリーユースやレジャーユースなど、1台のコンパクトカーですべてをこなすユーザーが増えているなか、これは大きな強みと言えそうだ。
こうして各部をチェックしてきた新型ポロは、やっぱりどこもかしこも期待以上の出来栄え。広さやシートアレンジ、軽快感ではフィットが上だし、モダンでオシャレなインテリアならデミオが魅力的と、国産コンパクトもそれぞれ抜きん出たところはあるものの、総合点では新型ポロを推したい気持ちになる。使う人が誰でも、乗る場所がどこでも、きっと要求にしっかり応えてくれる。そんな万人に寄り添うコンパクトカーが新型ポロなのだ。