インプレッション

日産「セレナ e-POWER」(車両型式:DAA-HC27)、一般道でのフィーリングや燃費はどうか?

ACCや車線中央維持機能などの進化も確認

一般道と首都高での燃費

 前回のレポートではクローズドコースで「セレナ e-POWER」の特性を体感したが、今回は公道で堪能することができた。e-POWERのメカニズムについては前回のレポートに詳しいが、改めて少しだけおさらいしておきたい。

 シリーズ式ハイブリッドシステムであるe-POWERは、内燃機関であるエンジンを回転させて発電用モーターを駆動し、バッテリーに電力として蓄電、そして蓄えた電力を使って駆動用モーターを介してタイヤを回転させることから電動駆動車のカテゴリーに属する。セレナ e-POWERの基本的なシステム構成は「ノート e-POWERと同じ」(日産自動車発表)としながらも、エンジン出力の向上とそれに伴うオイルクーラーの追加、バッテリー容量の拡大、そして駆動力を生み出すモーターも出力を向上させている。

直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」エンジンに「EM57」モーターを組み合わせるセレナ e-POWER。エンジンの最高出力は62kW(84PS)/6000rpm、最大トルクは103Nm(10.5kgm)/3200-5200rpm。EM57モーターは最高出力100kW(136PS)、最大トルク320Nm(32.6kgm)で、JC08モード燃費は装備内容によって異なるものの、全グレードで26.2km/Lを達成している

 さて、待望の公道における試乗だ。春の好天に恵まれ交通量はいくぶん多かったものの、都市部と郊外路を含む一般道路と首都高速道路を150kmほど走らせることができた。試乗レポートに入る前に、読者の皆さんが真っ先に気になるであろう燃費数値から報告すると、都市部(平均車速約18km/h)では16~18km/L(Smartモード&チャージモード)前後、郊外路(同約35km/h)では18~19km/L(同)前後、制限速度80km/hの高速道路では19~21km/L(同+プロパイロット作動+車間最短)であった。試乗途中、東京湾を横断する東京湾アクアラインのトンネル区間(約9.5kmで4%の下りと上りの勾配路あり)では、1度燃費計をリセットして80km/h走行で計測してみたが、28.2km/L(同+プロパイロット作動+車間最短/計測開始時のSOC約90%)を記録した。

 1760kg(取材車)の車両重量に、1740mm×1865mm(全幅×全高)の大きな前面投影面積を持つボディとしては優秀な燃費数値だ。計測した値は、いずれも撮影区間を含むことから燃費数値が悪化する傾向にあり、加えてECOモードから33%ほど加速力が鋭くなるSmartモードで、なおかつバッテリーSOCを約90%に保ち続けるチャージモードを併用していた。つまりこの状況、簡単に言うとエンジンが始動している時間が長くなるのだが、それでもこれだけの数値を記録した。実用燃費の数値は想像よりもかなりよい。

今回試乗したのはセレナ e-POWERの最上級グレードとなる「e-POWER ハイウェイスター V」(340万4160円)。ボディサイズは4770×1740×1865mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2860mm。車両重量は1760kg。ボディカラーはカシミヤグレージュ/インペリアルアンバーの2トーン
セレナ e-POWERのエクステリアではブルーカラーのアクセントを採り入れたVモーショングリル、3本ラインのLEDストップランプなどを採用。また、e-POWER専用装備として切削2トーン塗装の15インチアルミホイール(タイヤは195/65 R15サイズのダンロップ「エナセーブ EC300+」)を装備するとともに、空力性能の向上を目的にピアノ調黒艶塗装のリアサイド・スポイラーなども与えられる
踏み間違い衝突防止アシストについて、従来のセレナではバンパー内のソナーで近距離のクルマや壁などを検知して約10km/hまで止まるという仕様だったが、セレナ e-POWERではソナーに加えてカメラの情報も制御に用いて対象を歩行者まで拡大。車速も約25km/h以下まで対応できるようになった

 肝心の走行性能はどうか? 都市部ではアクセルワークに対してイメージよりも少しだけ力強い加速力を生み出しやすく、前走車への追従も非常に楽。電動駆動車ならではの美点として、微妙なアクセルワークにも反応してくれる点はセレナ e-POWERでも体感できた。

 実はS-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド)であるMR20DD型エンジン(エクストロニックCVT)を搭載するセレナ(2016年8月発表)の試乗時、開発者からは「ミニバンという性格上、多人数乗車が多くなることから3列目シートに座る人の頭がなるべく動かないようなジワッとした発進加速を意識することなくできるようなセッティングを心掛けた」という説明を受けていた。事実、満足のいく加速力を発進時から得るには、「ステップワゴン」や「ヴォクシー/ノア」のガソリンモデルよりも20%近く多めにアクセルペダルを踏み込む必要があった。

 それが今回、e-POWERモデルを開発するにあたって「お客さまから加速力が弱いという御意見があったことから加速力を強めました」という。都市部では信号機が多いこともありストップ&ゴーが多くなることから、この加速力を強める方向はe-POWERの俊敏さを体感させるにはうってつけ。しかし筆者としては、3列目まで使われることを想定して作られたミニバンであるならば、S-HYBRIDが意図的に作り出したじんわりとした加速力でもわるくないな、とも感じていた。結論からして、e-POWERの加速力は確かに強力だ。しかし、心配には至らないことが確認できた。前述したとおり、電動駆動車は微妙なアクセルワークを受け付けてくれるので、それをドライバーがマスターしてしまえば「じんわりとした~俊敏な」加速力までの調整がやりやすかった。

ミニバン×e-POWERは大いなる可能性を秘める

 郊外路では2列目、3列目でも試乗したが、特筆すべきは2列目。2列目足下の下には1.8kWhのリチウムイオンバッテリーが搭載されているが、搭載にあたっての張り出しはなく、足下はいたって広く快適。しかし、改善していただきたい点が1つ見つかった。それは2列目での乗り心地だ。

 e-POWER化にあたって新設した2列目シートは、左右独立の2座キャプテンシートを採用する。これにより、腰を下ろした際の快適性は高く、シートそのもののスライド/可倒機構は絶妙なスプリングアシスト力も手伝って使いやすい。その際の操作力にしても大きめのレバーが手の届く場所にあってやりやすい。

 しかし、先のバッテリー搭載にあたってのボディ側の補強と、シートそのもので吸収する振動周期、そしてタイヤやダンパーなどで減衰するさまざまな要因が絡み、40~60km/hあたりで走行している際の突き上げ(上下方向)が強めに感じられる。ベースとなるS-HYBRIDの2列目シートは3人掛けのベンチシートだから単純比較はできないが、少なくとも2列目での乗り心地だけで判断すれば、e-POWERは若干劣る。

インテリアではシフトノブやスタータースイッチ、メーターまわりにブルーのアクセントを採用。静粛性の向上も図られ、フロントガラスに遮音中間膜を入れるとともに、日産初採用の4層構造のセンターカーペットの装備、ダッシュインシュレーターの構造変更などが行なわれている
セレナ e-POWERではバッテリーをほぼ満タン(約90%)にする「チャージモード」、バッテリー残量に関わらず可能な限りバッテリーのみで走行する「マナーモード」を新設定。その操作はカーナビ画面下のスイッチで行なえる。そのほか、ブルーライティングによる間接照明付きのフロントセンタートレイもセレナ e-POWERの専用装備となっている
試乗車はグラデーション織物/合成皮革を採用する「プレミアムインテリア」仕様

「その現象は我々も認識しています」と、セレナの開発責任者である中谷信介氏(日産自動車)は語る。もっともここは、セレナ開発時点でe-POWER方式のハイブリッドシステムを搭載することで決め打ちされていなかったことも要因(日産自動車 車両商品性実験グループ主担 菊池東寿氏)という。実はe-POWER化プランと同時に、日産が誇るハイブリッドシステムであり「エクストレイル」が搭載する「1モーター2クラッチ方式」でのハイブリッド化も検討されていたというが、走行性能/燃費性能/車両価格とのバランスを考えた際、結果的にe-POWERが選択された。もっともハイブリッド化による乗り心地の悪化は、例えばヴォクシー/ノアでも体感できる共通項として認識されている。

 高速道路でも十分な走りを披露した。残念ながら7名乗車での体感はできずドライバー(筆者)1人での評価になるが、80km/hまでの速度域であれば、かなりきつい登坂路でも不足なしであることは確認できた。「真夏の炎天下で7名乗車、エアコン全開でバッテリーSOCが低い、といった条件で中央自動車道の談合坂の上り坂、といったことも想定していますので万全です!」(前出の菊池東寿氏)というから安心だ。ちなみにこうした悪条件下でのアクセルペダル全開では、瞬間的にエンジン回転数は6000rpm近くになるというが、今回の試乗では5000rpmを越えることはなく平穏。ここは、ガソリン車に対して25カ所の遮音アイテム追加が功を奏していたようだ。

 e-POWER化にともない、プロパイロットの制御が変更されたことも確認できた。アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)機能では、前走車に対する追従性能(加速/減速性能)が格段に向上。電動駆動車ならではのリニアな駆動力の立ち上がり、そして回生ブレーキ制御のコンビネーションが生んだ結果だ。

 また、電動パワーステアリングに操舵力を発生させて車線の中央を維持するようアシストする「車線中央維持機能」も、操舵アシスト力の最大値が向上したことに加えて中央を維持する操舵制御も滑らか(2016年8月発売モデルでは中央を維持しようと終始ピクピクとステアリングを動かす制御をしていた)になった。

 今回の試乗を通じ、ミニバン×e-POWERは大いなる可能性を秘めていることが分かった。ただ、前回のレポートでも触れているように、e-POWER Driveによる減速性能をより使いやすくしていくには、さらなる昇華を望みたい。

 とくに交差点での左折時、e-POWER Driveの減速だけでは足りずにブレーキペダルへと足を踏み換えることがある。この時、ブレーキペダルでの減速を十分に得られるとドライバーはアクセルペダルへと再度足を踏み換えるのだが、踏み換えを行なっている間も速度域によってはe-POWER Driveの回生制御によって強めの減速制御が続いてしまう。つまり、必要以上の減速が続いている状況下でアクセルペダルを踏むことになるので、踏み方次第では車体が前後方向へと揺らぐピッチングが発生しやすい。しかも、左折するために操舵していることから、場合によっては必要以上のダイアゴナルロール(カーブ外側の前輪に向けたロール)が発生し、車内には大きめの遠心力が発生する。

 これを防ぐには①ウインカー操作時で一定速度以下の場合(右左折が想定される場面)では、e-POWER Drive回生制御→ドライバーのブレーキ操作の時点で一旦回生制御を弱くする。②システムに変更を加えずe-POWER Drive回生制御→ドライバーのブレーキ操作の次にくるアクセル操作を静かに行なってピッチングを誘発させないように心掛ける、といった策が考えられる。

 この点について、前出の中谷信介氏からは「こうした事象は確認できていませんが、もしそれが確認できるようであれば今後の課題にします」とのお言葉をいただいている。再度の発言だが、筆者はe-POWERの可能性を高く評価している。セレナではe-POWER化にともなう車内への張り出しがないことから、ライフケアビークル(福祉車両)である「チェアキャブ スロープタイプ」にもe-POWERがすでにラインアップされている。この点は素晴らしい。

 また、ストップ&ゴーの多い都市部での実用燃費数値の向上が見込めることから、乗用車だけでなく「NV200」などへの商用展開にも大いに期待したい。だからこそ、回生制御のメカニズムやブレーキペダルの形状や面圧特性、さらにはアクセルペダルの非線形度合いなど、さらなる高みを目指していただくのはどうだろうか。引き続きe-POWERの進化には注目していきたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一