インプレッション
日産「セレナ NISMO」(車両形式:DAA-GFC27/クローズド試乗)
2017年11月21日 14:00
セレナ NISMO、べース車からどう変わった?
東京モーターショー2017の日産ブースでお披露目となった「セレナ NISMO」に、早くもテストコースで試乗する機会を与えられた。NISMO仕様と言えば、モータースポーツをイメージさせるスタイルと、それにマッチする走りを展開することで日産のスポーツグレードとして認知されてきたモデル。「GT-R」をフラグシップとし、「フェアレディZ」「ジューク」「ノート」、そして「マーチ」まで、現在ではあらゆるジャンルにNISMOのエンブレムを与えている。
ミニバンの「セレナ」をNISMOがどう料理するのか? そこが今回の見どころだ。2016年8月にフルモデルチェンジを果たしたセレナは、運転支援システムのプロパイロットを搭載することで、自動車専用道路では自動運転に近い走りを展開。ハンドルに手を添えていれば、単一車線ながらクルマまかせに走行することも可能といえば可能ということもあり、かなりの話題を呼んだ。だが、直進安定性がやや劣る傾向にあり、プロパイロットを使わない状況であったとしても、直進時に修正操舵を必要とする。そのせいか、プロパイロットを使っている時でも左右にチョロチョロと動くこともしばしば。結局はプロパイロットを支えるために運転手が支援するという悪循環が生じていた。
実はこのプロパイロットを搭載した後発の「エクストレイル」や「リーフ」に乗るとそのような傾向はなく、プロパイロットがかなり活かされているように仕上がっていた。すなわち、ベースとなるクルマの操縦安定性がプロパイロット使用時の走りにも影響するのは紛れもない事実なのだ。セレナ NISMOはプロパイロットを標準装備する。だからこそシャシーのチューニングは興味深い。
セレナ NISMOの車体下部には合計9種類もの補強パーツが張り巡らされている。開口部が多く、ただでさえ車体剛性を保ちにくいミニバンなだけに、これはかなりの効果を発揮しそうだ。そこまでの対策をしながらも、日常の使い勝手に対して何ら影響を出さなかったのはさすが。NISMOのエンブレムを掲げたとはいえ、ミニバンの世界をきちんとキープしたことは当然のこととはいえ評価したい。
加えて15mmのローダウンを果たした専用サスペンションやリアの強化スタビライザー、17インチのアルミホイール、さらには高剛性のブリヂストン「POTENZA Adrenalin RE003」を投入したことも思い切った選択だ。スポーティなだけでは許されない“家族のミニバン”なだけに、こうした対策がどう出るかも気になるところだ。
エクステリアはNISMOバージョンの方程式に則ったエアロを装着。フロントバンパースポイラーやリアスポイラー、さらにサイドスカートも加えている。ちなみにサイドスカートはハイウェイスターのサイドスカートをベースに下部に付け加えたような形状となる。これにより、セレナのウリであるハンズフリーオートスライドドアのセンサーを活かすことで、その機能を利用することが可能になっている。これらのエアロパーツによって高速走行時の空気の流れを適正化し、安定性を生み出したという。
乗り味を速攻チェック
そんなセレナ NISMOに乗り込んでみると、室内が天井まですべてブラックアウトされていることに新鮮味を感じる。ドライビングに集中できそうな滑りにくいスウェード調のシートやアルカンターラ巻きの専用ステアリングが好感触。エンジンを始動すれば、アドバンスドドライブアシストディスプレイにセレナ NISMOの外観が浮かび上がってくるからなかなかの演出だ。
走り出すと、アクセル操作に対してリニアに加速を重ねてくれるところが心地いい。専用チューニングのコンピュータとスッキリとしたサウンドを提供してくれるマフラーがスポーティ。ベースモデルよりも明らかに加速感がよくなっている。後にECOモードを試してみたが、こちらはスロットルの応答性も落とされ、イージードライブに繋がっている。ちなみにECOモードはベースグレードの制御と変わらないそうだ。だからノーマルモードとECOの落差はかなりのもの。メリハリがあっていいかもしれない。
シャシーの印象は激変した。ピッチやロールがみごとに収められ、フル加速したときであったとしても無駄にクルマが上向くようなことはない。路面からの入力は若干硬さを感じるが、その後の収束がみごとであり、常にフラットに走ってくれる。NISMO仕様は一部モデルでかなりハードな印象の足まわりがあったが、セレナ NISMOにはそこまでは感じないちょうどいい感覚がある。これは2列目や3列目に座っていたとしても同様の印象であり、無駄に動かない分、身体が揺さぶられることが少なくなったように思える。これなら同乗者も納得だろう。
それでいてステアリングの切りはじめから深く切り込んだ領域までリニアに応答し、コーナーでも背の高さをさほど意識しないで済む仕上がりを展開。電動パワステのチューニングもやり直しただけのことはある。確実な手応えを与えてくれるその走りは、パパが1人のときにアクセル全開にしても十分に楽しませてくれそうな懐の深さがある。
そして、懸念材料だったプロパイロット使用時の直進安定性がかなり増していることを確認した。システムを介入させない時でもステアリングの修正操舵がいらなくなったこともあり、右に左にチョロチョロとプロパイロットが頑張る姿は消えた。これならプロパイロットも積極的に使えそうだ。これからの自動運転社会に向けていかにクルマの基本性能が重要か、これをきちんと示してくれたのがセレナ NISMOだと感じる。単なるチューニングモデルとして片付けるにはもったいない1台だ。
とはいえ、ここまでスポーツテイストのエクステリアやインテリアを懸念する人々もいるだろう。走りはこのまま、それ以外はラグジュアリーな世界を持ったクルマがあってもよいような気がしてくる。次なる一手としてそんなバージョンを求めたい。