インプレッション

日産「セレナ NISMO」(車両形式:DAA-GFC27/クローズド試乗)

セレナ NISMO、べース車からどう変わった?

 東京モーターショー2017の日産ブースでお披露目となった「セレナ NISMO」に、早くもテストコースで試乗する機会を与えられた。NISMO仕様と言えば、モータースポーツをイメージさせるスタイルと、それにマッチする走りを展開することで日産のスポーツグレードとして認知されてきたモデル。「GT-R」をフラグシップとし、「フェアレディZ」「ジューク」「ノート」、そして「マーチ」まで、現在ではあらゆるジャンルにNISMOのエンブレムを与えている。

 ミニバンの「セレナ」をNISMOがどう料理するのか? そこが今回の見どころだ。2016年8月にフルモデルチェンジを果たしたセレナは、運転支援システムのプロパイロットを搭載することで、自動車専用道路では自動運転に近い走りを展開。ハンドルに手を添えていれば、単一車線ながらクルマまかせに走行することも可能といえば可能ということもあり、かなりの話題を呼んだ。だが、直進安定性がやや劣る傾向にあり、プロパイロットを使わない状況であったとしても、直進時に修正操舵を必要とする。そのせいか、プロパイロットを使っている時でも左右にチョロチョロと動くこともしばしば。結局はプロパイロットを支えるために運転手が支援するという悪循環が生じていた。

 実はこのプロパイロットを搭載した後発の「エクストレイル」や「リーフ」に乗るとそのような傾向はなく、プロパイロットがかなり活かされているように仕上がっていた。すなわち、ベースとなるクルマの操縦安定性がプロパイロット使用時の走りにも影響するのは紛れもない事実なのだ。セレナ NISMOはプロパイロットを標準装備する。だからこそシャシーのチューニングは興味深い。

 セレナ NISMOの車体下部には合計9種類もの補強パーツが張り巡らされている。開口部が多く、ただでさえ車体剛性を保ちにくいミニバンなだけに、これはかなりの効果を発揮しそうだ。そこまでの対策をしながらも、日常の使い勝手に対して何ら影響を出さなかったのはさすが。NISMOのエンブレムを掲げたとはいえ、ミニバンの世界をきちんとキープしたことは当然のこととはいえ評価したい。

セレナ NISMOには合計9種類の補強パーツが装着される

 加えて15mmのローダウンを果たした専用サスペンションやリアの強化スタビライザー、17インチのアルミホイール、さらには高剛性のブリヂストン「POTENZA Adrenalin RE003」を投入したことも思い切った選択だ。スポーティなだけでは許されない“家族のミニバン”なだけに、こうした対策がどう出るかも気になるところだ。

11月21日に発売された「セレナ NISMO」は2WD(FF)の「ハイウェイスター」をベースとし、高速道路における単一車線での使用を前提とした自動運転技術「ProPILOT(プロパイロット)」、LEDヘッドライト、ハンズフリーオートスライドドア(両側)などを標準装備。ボディサイズは4805×1740×1850mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2860mm。価格は341万9280円。撮影車はガーネットレッド×ブラックルーフの2トーンカラー
フロントまわりでは専用設計のバンパー(エアダクト付)とともに専用品のLEDハイパーデイライト、フロントグリルを装着
ドアミラーはブラックのサイドターンランプ付電動格納式
足下は専用デザインの17インチアルミホイールにブリヂストン「POTENZA Adrenalin RE003」(205/50 R17)を組み合わせる。車高は専用サスペンションの装着により15mmローダウン
サイドシルプロテクター、リアバンパー、リアスポイラーも専用設計品。迫力のスタイリングを手に入れるとともに空力性能を高めることに成功
搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジン、「SM24」モーターともに最高出力と最大トルクはベース車から変更なく、エンジンは最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/4400rpmを、モーターは最高出力1.9kW(2.6PS)、最大トルク48Nm(4.9kgm)を発生。また、専用チューニングコンピュータ(ECM)や専用スポーツチューンドマフラーにより、心地のよい加速Gの持続、加速時の気持ちのよいサウンドなどを実現している

 エクステリアはNISMOバージョンの方程式に則ったエアロを装着。フロントバンパースポイラーやリアスポイラー、さらにサイドスカートも加えている。ちなみにサイドスカートはハイウェイスターのサイドスカートをベースに下部に付け加えたような形状となる。これにより、セレナのウリであるハンズフリーオートスライドドアのセンサーを活かすことで、その機能を利用することが可能になっている。これらのエアロパーツによって高速走行時の空気の流れを適正化し、安定性を生み出したという。

NISMOのアイコニックカラーであるレッドアクセントを随所に取り入れたインテリア。シートやドアトリムはスエード調仕上げとなる
メーターまわりには赤い加飾やNISMOロゴが入るとともに、アドバンスドドライブアシストディスプレイではエンジン始動時にセレナ NISMOの外観が表示される
各列のシート。レッドステッチでスポーティな印象を高めている
オプションで用意される専用開発のレカロ製スポーツシートは、サイドサポートを低めに設定ことで乗降性を犠牲にすることなくホールド性を高めた。なお、同シートでは標準装備の前席シートバックのテーブルと2列目用のUSBジャックはつかない。価格は2脚で25万5000円(税別)

乗り味を速攻チェック

 そんなセレナ NISMOに乗り込んでみると、室内が天井まですべてブラックアウトされていることに新鮮味を感じる。ドライビングに集中できそうな滑りにくいスウェード調のシートやアルカンターラ巻きの専用ステアリングが好感触。エンジンを始動すれば、アドバンスドドライブアシストディスプレイにセレナ NISMOの外観が浮かび上がってくるからなかなかの演出だ。

 走り出すと、アクセル操作に対してリニアに加速を重ねてくれるところが心地いい。専用チューニングのコンピュータとスッキリとしたサウンドを提供してくれるマフラーがスポーティ。ベースモデルよりも明らかに加速感がよくなっている。後にECOモードを試してみたが、こちらはスロットルの応答性も落とされ、イージードライブに繋がっている。ちなみにECOモードはベースグレードの制御と変わらないそうだ。だからノーマルモードとECOの落差はかなりのもの。メリハリがあっていいかもしれない。

 シャシーの印象は激変した。ピッチやロールがみごとに収められ、フル加速したときであったとしても無駄にクルマが上向くようなことはない。路面からの入力は若干硬さを感じるが、その後の収束がみごとであり、常にフラットに走ってくれる。NISMO仕様は一部モデルでかなりハードな印象の足まわりがあったが、セレナ NISMOにはそこまでは感じないちょうどいい感覚がある。これは2列目や3列目に座っていたとしても同様の印象であり、無駄に動かない分、身体が揺さぶられることが少なくなったように思える。これなら同乗者も納得だろう。

 それでいてステアリングの切りはじめから深く切り込んだ領域までリニアに応答し、コーナーでも背の高さをさほど意識しないで済む仕上がりを展開。電動パワステのチューニングもやり直しただけのことはある。確実な手応えを与えてくれるその走りは、パパが1人のときにアクセル全開にしても十分に楽しませてくれそうな懐の深さがある。

 そして、懸念材料だったプロパイロット使用時の直進安定性がかなり増していることを確認した。システムを介入させない時でもステアリングの修正操舵がいらなくなったこともあり、右に左にチョロチョロとプロパイロットが頑張る姿は消えた。これならプロパイロットも積極的に使えそうだ。これからの自動運転社会に向けていかにクルマの基本性能が重要か、これをきちんと示してくれたのがセレナ NISMOだと感じる。単なるチューニングモデルとして片付けるにはもったいない1台だ。

 とはいえ、ここまでスポーツテイストのエクステリアやインテリアを懸念する人々もいるだろう。走りはこのまま、それ以外はラグジュアリーな世界を持ったクルマがあってもよいような気がしてくる。次なる一手としてそんなバージョンを求めたい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛