インプレッション

日産「セレナ」(プロパイロットテスト/西村直人)

プロパイロットとは?

「同一車線自動運転技術」を搭載した新型「セレナ」がデビューしたが、この運転支援技術には「ProPILOT(プロパイロット)」というサブネームが与えられた。日産自動車は2016年、2018年、2020年へと段階的に運転支援技術を進化させていくと表明しているが、こうした運転支援技術を市販車に導入する大きな狙いは「交通死亡事故の低減」にある。そうした意味で、販売の主力であり多人数乗車となる確率が高く、走行距離や走行回数の多くなるミニバンに運転支援技術を最初に搭載してきたことは純粋にすばらしい経営判断だと諸手を挙げて賛成したい。

 これまで日産は、2016年末までに「混雑した高速道路上で安全な自律自動運転を可能にする技術を日本市場に導入する」と宣言していたが、これこそ、セレナが搭載しているプロパイロットそのものだ。セレナが搭載しているプロパイロットとは、アダプティブ・クルーズ・コントロール(追従走行支援機能)である「インテリジェントクルーズコントロール」と、レーン・キープ・アシスト(車線中央維持支援機能)である「ハンドル支援」の2大運転支援技術の組み合わせだ。プロパイロットは、所定の条件を満たしていればハンドル右側の操作スイッチを2回押すだけで起動させることができる。これは非常に分かりやすいインターフェイス(HMI)で、こうした運転支援技術に慣れていないドライバーでも操作に戸惑うことが少ないだろう。以下、具体的に説明したい。

今回試乗したのは新色「マルーンレッド×ダイヤモンドブラック」の2トーンカラーを採用した「ハイウェイスター G」(2WD)。価格は301万1040円。ボディサイズは4770×1740×1865mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2860mm。同一車線自動運転技術「プロパイロット」を含む、SRSカーテンエアバッグシステム&サイドエアバッグシステム(前席)、踏み間違い衝突防止アシスト、インテリジェントパーキングアシスト、進入禁止標識検知、アラウンドビューモニター(MOD[移動物 検知]機能付)、ふらつき警報、フロント&バックソナー、スマート・ルームミラー、電動パーキングブレーキ、オートブレーキホールド、LDP(車線逸脱防止支援システム)、ヒーター付ドアミラーなどをセットにしたオプション「セーフティパックB」を装着する
「ハイウェイスター G」のエクステリアでは、シグネチャーLEDポジションランプ付きのLEDヘッドライトやLEDリアコンビネーションランプ、16インチアルミホイール(タイヤサイズ195/60 R16)などを装備。スライドドアの下側につま先を近づけて離すというアクションを行なうことで、スライドドアを開けることができる世界初となる「ハンズフリーオートスライドドア」(ハイウェイスター Gは両側ドアに採用)も標準装備される
インテリアカラーはブラック。左右への広がりを表現した“ライディングウイング”と呼ばれるデザインをインパネに採用。空間的な広がりを感じさせる横方向の流れをテーマとし、メーターを薄型化して車両前方に配置することでパノラミックな開放感を表現した
室内寸法は3240×1545×1400mm(室内長×室内幅×室内高)で、先代から室内長が180mm、室内幅が65mm拡大。また、セカンドシートは横方向のスライド機構が追加されるとともに、サードシートは前後に120mmスライドできるなど居住性が向上
メーターまわり。メーターフード内の左側にレイアウトされる専用ディスプレイ「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」でプロパイロット作動状況などが確認できる

 2大機能のうち、より低い車速で機能するのがインテリジェントクルーズコントロールだ。これはすでに他の日産車に搭載されている追従走行支援機能と同じで、高速道路や自動車専用道路での使用を目的とした運転支援技術。前走車を車載の光学式単眼カメラが認識している場合、30km/h~100km/hの車速域でドライバーがセットした車速を上限値として、前走車との距離を一定に保つようにアクセルとブレーキの操作をシステムがコントロールするというもの。前走車との車間距離は、自車速度に応じたいわゆる車間時間を基準として3段階(短/中/長)に設定することが可能だ。前走車を認識できていない状態で30km/hを下回っているとシステムを起動させることができないが、前走車を認識している状態で、かつ30km/hを下回っている場合は起動する。

 この場合、ディスプレイ表示は30km/hを示しているが、前走車を認識している限り停止状態まで制御(ブレーキ保持)してくれる。また、停止後3秒以内ならドライバーのボタン操作で発進待機となってブレーキ保持が解除され、前走車の動きに合わせた再発進が可能。それ以上時間が経過した場合は、同じくボタン操作、もしくはアクセルペダルを軽く踏むことでインテリジェントクルーズコントロールが再開する。なお、ブレーキ保持が3分を越えると自動的に電動パーキングブレーキが作動し、インテリジェントクルーズコントロールは解除される。このあたりの動作は国土交通省の技術指針どおりだ。

ステアリング右側に配置されるブルーの「PILOT」ボタンでプロパイロット機能を起動できる

 一方のハンドル支援は、インテリジェントクルーズコントロールを起動させていて、車線を示す両側の白線や黄線を認識した状態であると使用可能。このとき50km/h以下の場合は前走車がいることが条件となるが、ここがこれまで国産車が採用していた車線中央維持支援機能と違う点で、プロパイロットならではの機能。50km/h以下の渋滞時であっても前走車を認識していればハンドル支援が働くことから、日産では先のインテリジェントクルーズコントロールと併せて「同一車線自動運転技術」という紹介を行なっている。

 プロパイロットが働いている運転環境は人と機械の協調運転ともいえるもので、正しく使いこなすにはある程度の慣れが必要だ。とはいえ、これはセレナに限ったことではなく、運転支援技術であるADAS(Advanced Driver Assistance Systems)を搭載している各車に見られる共通点。セレナの場合、メーターフード内の左側(インパネの中央部でナビゲーション画面の上部)に配置された専用のディスプレイ「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」が意思疎通を図る主たるツールとなり、必要に応じて警報ブザーなども併用することで適切な運転操作をドライバーに促してくれる。

セレナのプロパイロットではあえて弱めの操舵支援

 早速、高速道路でプロパイロットを試してみた。やはり2回のボタン操作でシステムを一度に起動できる点(1回目でプロパイロットがスタンバイし、2回目でプロパイロットの機能がスタート)は分かりやすく、ディスプレイ内の前走車を示すアイコンもサイズが大きく、今どのような状態でインテリジェントクルーズコントロールが働いているのか、さらにはハンドル支援の使用条件である白線や黄線を認識しているのかという情報伝達手法も分かりやすい。また、アイコンは配置だけでなく配色にもこだわり、プロパイロットが成立している状況では緑色(不成立時は白色)とするなど、優先的すべき表示内容(例:車間設定表示、ハンドル支援作動表示、車線検出表示)がドライバーに伝わりやすいのも美点だ。肝心のディスプレイサイズも7インチと、表示される情報の量からすれば適切だ。

プロパイロットが不成立のときは白色(左)、成立しているときは緑色(右)で表示

 しかし、このディスプレイはインパネ中央部にあり、また外光によって画面が遮られないようフードの奥に配置されていることもあり、ドライバーからすると遠く感じられる。筆者が遠視であることもそう感じる要因かもしれないが、ディスプレイ表示はブザー音を伴うことでプロパイロットが一時的に機能しなくなったことを伝えたり(例:使用条件から外れる)、ドライバーの回避動作を促したりする(例:前走車との間に他車が割り込みんだ際の「割り込み検知」)際の重要なツールとなる。現状でも主たる表示部のほかに、補助的にドライブセレクター位置を表示する上部にハンドルや前走車を示すマークを必要に応じて点滅させ、ドライバーへの注意喚起を行なっているため「クルマからのサイン」を見逃してしまう可能性は少ないと思われるが、たとえば注意喚起の表示だけでもヘッドアップディスプレイなどのサブ画面を利用してもう少し大きく表示できればよいかな、と試乗中に何度か感じられることがあった。また、ドライバーがステアリングに一定時間触れていないとシステムが判断すると表示される「手放し警告」については、7インチ画面の大部分に表示され、さらに警告ブザーも発報されるため安全性は高く保たれていることが分かった。

「手放し警告」の画面

 インテリジェントクルーズコントロールについては、追従側、つまり前走車の加速に追従する際の加速度が緩やかである点が終始気になった。いわゆるアダプティブ・クルーズ・コントロールの加速度と減速度にも国土交通省による技術指針があるため、それぞれ既定値を超えないよう設定されているが、その加速度と減速度を生み出す時間的制約には「速やかに」という文言しかない。よって、そこは各社・各車のシステムに委ねられている部分である。またハンドル支援に関しても、しっかりとステアリングを握っている、つまりドライバー自らが能動的に運転操作を行なっている際の支援は滑らかであると感じられる一方で、ステアリングに手を添えている状況では終始ピクピクとした操舵支援が気になった。なお、車線の中央を維持する機能は直進路のみならず緩やかなカーブであっても精度が高く(横方向の加速度が0.12Gを超えない範囲)、肉眼では白線などの認識があやふやになる薄暗いトンネル内での操舵支援には一定の信頼感を抱くことができた。

「ドライバーの過信を防ぐために、あえてセレナのプロパイロットでは弱めの操舵支援としています」(セレナ開発者談)とのことで、セレナ以降のプロパイロット搭載車では支援の方法にも変化が生じる可能性がある。

ミニバンとしての美点満載

パワートレーンは先代セレナからのキャリーオーバーとなる直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴「MR20DD」エンジンとCVTの組み合わせとなるが、ピストン形状の見直しなどを実施して3PS増/1.0kgm減の最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/4400rpmを発生。「ハイウェイスター G」のJC08モード燃費は16.6km/L(最高燃費は17.2km/L)をマークしている

 さて、セレナのセールスポイントはプロパイロットだけではない。走行性能や使い勝手も大幅に進化している。こちらは別のレポートに詳しいが、筆者が感心したのはパワートレーンの造り込みだ。エンジンやCVTといった主たるハードウェアは先代セレナに改良を加えたもので、これはシャーシにしても同じ。しかし、アクセルの操作量に応じた加速感や躍度の演出には先代から大きな方針転換が図られている。

 これまでのセレナは発進時からグッと車体が押し出されるようエンジンを軽やかに上昇させ、頼もしい加速感を演出していたが、新型では同じアクセル操作量での発進を試みると想像よりも20~30%程度、加速力が弱いように感じられる。故に試乗開始2~3分は「なんか線が細いな」という印象が強かった。しかし、そのアクセルを踏み込む量をゆっくりと増やしていくと、CVTとの連携が強まったかのように想像どおりの加速感を生み出すことができた。ここでのエンジン回転数は2000rpmを大きく超えることはなく、エンジン透過音も小さくキャビンはとても静かだ。開発者によると「こだわりをもって変更した部分」だという。

「ミニバンという性格上、多人数乗車が多くなることから3列目シートに座る人の頭がなるべく動かないようなジワッとした発進加速が意識することなくできるようなセッティングを心掛けた」(同)そうで、しばらく試乗していくと、アクセル操作量を意図的に発進時からゆっくり深めていけば0.15G程度の発進加速を保ったまま法定速度までスムーズに車速を上げることができた。別の取材日には成人男性6名で試乗したのだが、先のアクセル特性を使いこなせば高速道路の合流路であっても満足のいく加速力を得られることが分かった。

 乗り味はフロント側ダンパーの縮み側がソフトであるため、ゆったりとしたステアリング操作であってもロールが若干大きく、また凹みを通過する際の衝撃も強めだが、3列目シートでも不快なピッチングは抑えられているのでトータルでの快適性は高い。それよりも、試乗した「ハイウェイスター」のシート地には織物として前後方向のステッチが入っているのだが、これがどうもズボンとの摩擦力を弱める傾向にあり、長時間座っていると腰が若干ながら前に出て乗車姿勢が崩れてしまう。強めのブレーキをかけた際にも前にずれることがあった。後にディーラーの展示車で確認したところ、「ライダー」のシート地は横方向のステッチとなっていた。試乗はしていないので正確な判断はできないが、乗車姿勢の点ではライダーのシート地に分がありそうだ。

写真は日産自動車の関連会社であるオーテックジャパンが手掛けるカスタムカー「セレナ ライダー」。シートにベースのセレナとは異なる横方向のステッチを施している

 そのシートはミニバンの評価軸であるが、セレナの場合は使い勝手も良好だ。筆者は過去にステーションワゴン/ミニバンの専門誌に籍を置いていたこともあり、「オデッセイ」や「イプサム」、もちろんセレナにしても初代から触れてきたが、新型セレナの2列目シートの構造は特筆もの。前後左右へと移動可能なシートは他車にも存在するが、セレナでは稼働領域にボールベアリングを採用したこと、さらには操作レバーを大きくした上でレバー比を考慮したことにより、適正な乗車姿勢を保ったまま軽い操作力で動かせる。また、その状態でセンターコンソールも前から後まで移動させることができるので、気後れすることなく思った時にシートアレンジが行なえる点もよい。3列目にしても2列目と同じく座ったままの状態でスッと手が届く位置にスライドドアの開閉スイッチがあり、多人数乗車でも気を遣うことがない。ハンズフリーオートスライドドアや、デュアルバックドアも使い勝手を最大限考慮した設計がなされている。

3列目シートの側面にスライドドアの開閉スイッチが用意されるので、3列目から降りるときに便利
1列目~2列目間の中央前後にスライドする「スマートマルチセンターシート」。1列目間のセンターにも2列目間のセンターにも置ける利便性の高いもので、必要に応じてレイアウトすることで2列目~3列目間のウォークスルーも容易に行なえる
2列目シートのシートベルトは内蔵式を採用。これにより、例えば2列目にチャイルドシートを装着していてもシートベルトを気にせず3列目シートへの乗り込みなどができる
セカンドシートは横方向のスライド機構が追加されるとともに、690mmのロングスライドを実現。車内の居住性は良好
2列目に座る人向けとして、フロントシート背面にトレーとカップホルダーを用意
移動物検知機能付のアラウンドビューモニターは「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」に表示。リアビュー用のカメラはテールゲートのガラス面(写真右)に設置される
新型セレナに全車標準装備される「デュアルバックドア」は、鋼板製のバックドア上半分に樹脂製ドアを備える2ドア構造を採用。車両後方にスペースがなくても、上半分を開けて荷物の出し入れができるスグレモノ。樹脂製ドアはひもを引っ張ることで簡単に閉められる
日産初採用となる「キャップレス給油口」も全車標準装備。燃料キャップのない新構造を採用し、給油キャップの締め忘れや置き忘れといったトラブルを無縁とした
写真左はエマージェンシーブレーキ/踏み間違い衝突防止アシストのスイッチ。スイッチで機能ONにするとスイッチ内の表示灯がアンバー色で点く仕組みだが、その一方でメーター内では機能OFFで警告灯がアンバー色で点灯する。ここは分かりづらい部分であるかも

 初期注文の約70%がプロパイロット付きと、運転支援技術が最大の飛び道具のように評価される声もあるセレナだが、今回の試乗を通じ、ミニバンとしての基本設計がとてもしっかりとしている点に好印象を抱くことができた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:堤晋一