インプレッション

日産「プロパイロット」(新型セレナ)

日産自動車のテストコースで自動運転技術「ProPILOT(プロパイロット)」の体験会が開かれた。試乗車は8月下旬に発売する新型「セレナ」

 日産自動車が公約どおり、自動運転技術につながる「ProPILOT(プロパイロット)」を8月下旬に発売する新型「セレナ」に搭載すると発表した。

 プロパイロットは高速道路の単一車線を想定しているもので、追い越しなどの機能は持たない。この機能は2018年に発表されるモデルから搭載される。

 新型セレナに搭載するプロパイロットは、単眼カメラとその情報からブレーキ、ステアリング、スロットルを制御するコントロールユニットから成る。画期的なのは単眼カメラだけで3次元的な映像を精密にとらえ、距離なども計測できることだ。レーダーなどは持たず、単眼カメラだけでこのレベルまで到達したことが素晴らしい。

 このカメラはイスラエルに開発拠点があるモービルアイ製のもので、欧州のメーカーでは広く使われている。もともとは軍事技術がベースとなっており、その高い技術力には定評がある。モービルアイの技術をもとに日産の開発グループがセレナに搭載したものだが、このカメラはクルマだけではなく2輪車、人まで見分けることが可能だ。

代々受け継がれてきたセレナらしさと次世代のミニバンとしての新しさを融合したというエクステリアデザイン。Vモーショングリルやトレードマークであるシュプールラインが特徴的なほか、新たに2トーンのボディカラーを設定した。なお、価格についてはプロパイロット搭載グレードでも300万円を切ることが予告されている
前方の車両や白線などを認識するための高性能単眼カメラはモービルアイ製のもの。フロントウィンドウ中央に設置される
撮影車のハイウェイスターが装着するアルミホイール。タイヤはダンロップの「エナセーブ EC300」を装着する。現行車でも採用される「スマートシンプルハイブリッド」を搭載することから、ボディサイドには「S-HYBRID」のバッヂが装着される。なお、エンジンを細部にわたって改善したことから、燃費性能は向上しているという

 発表されたプロパイロットは高速道路の前車追従や、渋滞時での前車追従によるドライバーの疲労軽減が主な目的だが、これまで経験している全車速追従機能のイージーさに加えて車線内での走行を的確に行なうことに驚いた。

 試乗はテストコース内で実施され、先行車に追従する形で行なわれた。システムの操作は簡単で、エンジン始動後にステアリングホイール右端に配置されたプロパイロットスイッチをONにする。正面のモニター上にスタンバイ状態に入ったことを知らせる表示が出て、作動状況が分かりやすい。

 次にクルーズコントロールのセットボタンを押すと、ステアリング表示と認識した車線がグリーンになり、プロパイロットが作動したことが分かる。同時に先行車も表示される。プロパイロットは車速が30km/h未満で、先行車がいない場合は作動しない。渋滞を再現した場面では、3秒以上停止した場合、電動パーキングブレーキが作動してクルマをしっかりと停止させるため、坂道でもずり落ちることを防ぐ。

 再スタートにはアクセルを軽く踏むかレジュームスイッチを押すと電動パーキングが解除され、ふたたび前車を追随する。さらに停止して3秒以内に先行車が動き出すと、自動的に追従して発進する。その際の加速はそれなりで、いわゆる急加速はしないので、実際の場面ではちょっとモッサリと感じるかもしれないが、穏やかで安心感がある。ちなみに減速は最大0.3Gまで作動するので、少し強めのブレーキのイメージになる。

ダッシュボードデザインは空間的な広がりを感じさせる横方向の流れをテーマとし、メーターを薄型化して車両前方に配置することによってパノラミックな開放感を表現したという
ステアリングの右側にプロパイロットの操作スイッチ類を集約。プロパイロットスイッチをONにすると、正面のモニター上にスタンバイ状態になったことを知らせる表示が出る
写真左はプロパイロット機能がOFFの状態、右がONの状態
新型セレナは電動パーキングブレーキを採用する
メーターまわり

 カメラは周囲のクルマや人、自転車の動きを検知して次の動きを判断する。先行車が車線を変更したり、割り込みをしたりした場合にすぐ反応できるのは、他車の動きを見て読んでいるからだ。

 驚きはこの次にやってきた。70Rほどのコーナーを先行車について走る。当然ステアリングに手を添えて走るのだが、車線の中央を走らせようとステアリングホイールに強めのトルク反力があり、少し手が緩んだ場合でも車線中央に戻される。車線中央を走らせるのは、コーナーだけでなく直線でも同様で、直進を維持することができ、車線逸脱を防止できる。不整路や路面が傾斜していても車線中央を遡行することができるので高い安定性がある。もちろん、これを認識するのは両側に車線がある場合で、プロパイロットが認識する車線はグリーンで表示されるので、ドライバーはプロパイロットの状態を把握しやすい。

 横Gは0.1~0.2Gまでの範囲でステアリングを切っているようだが、これ以上になるとワーニングが出て、積極的にハンドル操作をするようドライバーに注意を喚起する。実はコーナリングではプリベンションも入れており、必要な場合は内輪のブレーキをつまんで積極的に旋回を促進する技術も使われている。もちろんオーバースピードなどを許容するものではなく、裁量はドライバーに任される。

 もしドライバーが不注意でステアリングから手を放した場合は、10秒以内に音とレッドのワーニングが出てドライバーに注意喚起を促す。ステアリングはドライバーが手を添えている微妙なトルクを検知していることが分かる。

 全車速追従クルーズコントロールについて、設定速度をステアリング上のスイッチで行なうのはこれまでと同様だが、カメラの精度が高いのでレスポンスが早く、通常走行であれば車間距離は丁寧に保ってくれる。先行車との車間距離は3段階で設定でき、もっとも短い車間を設定した場合は、先行車との時間は約1.1秒に設定されるので、車間が必要以上に空く感じはない。

 ちなみに欧州で展開されるプロパイロットはレーダーと組み合わされる。これはスピードレンジが日本より高いからで、プロパイロットは地域に応じてシステムを組み替えることになる。

 このシステムが作動を中止する場面はドライバーが見えない時、例えば逆光や霧などだ。またワイパー操作でもLoモードではステアリング検知を中止し、ハイスピードモードではクルーズコントロールも中止する。

 プロパイロットは自動運転につながる技術だが、完全な自動運転ではなく、あくまでもドライバーをサポートするシステムに徹している。しかし、多くのユーザーが使うミニバンこそこのようなシステムが必要で、大幅に事故が減ることが期待される。

 自動運転につながる技術は注目されて当然だが、事故を減らすために開発された技術であり、多人数で走行する場面が多いであろうセレナに搭載されたプロパイロットの意義は大きい。やったな、日産!

プロパイロットの体験動画

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛