試乗インプレッション

電動パワートレーン搭載の「リーフ」「エクストレイル」「セレナ」「スカイライン」に試乗して、日産の“今”を再確認

「ニューモビリティコンセプト」など個性派揃いの「インテリジェント」を体感

 日産自動車がブランドコミュニケーションの1つとして、長いこと使い続けている「インテリジェント」というキーワード。最初のころは、「アラウンドビューモニター」のような新しい装備に冠されていたように記憶しているが、今やクルマのみならずそれを取り巻くサービスまでをひっくるめて、「ニッサン インテリジェント モビリティ」という、日産のクルマに乗ることで手にできるエクスペリエンス、大きな価値、というところまで広がってきている。

 今回は、そんな日産の現行モデルたちが大集合する「オールラインアップ試乗会」ということで、存分に日産の“今”を堪能させてもらう気マンマンで向かった。のだが、1台あたりの占有時間や撮影場所の制約などを考えると、じっくり堪能するというよりは、「短時間の試乗でもニッサン インテリジェント モビリティの世界を感じることはできるのか?」「それぞれの車種ごとに、どんな味わいの違いがあるのか?」といったところがテーマとなった。

インテリジェントで人への優しさを感じる「リーフ」

試乗車は「リーフ G」の2WDモデル(399万600円)。ボディサイズは4480×1790×1540mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2700mm。最高出力110kW(150PS)/3283-9795rpm、最大トルク320Nm(32.6kgfm)/0-3283rpmを発生する「EM57」型モーターを搭載

 まず最初に試乗したのは、やはりインテリジェント モビリティの象徴的存在となっている100%EV(電気自動車)のリーフ。初代は2010年に登場し、2017年に現行モデルの2代目へとスイッチしたが、グローバルでの累計販売台数が34万台を超え(2018年6月末時点)、世界で最も売れているEVとなっている。

 現行モデルはバッテリーが40kWhに拡大し、常にEVの懸案事項として挙がる1充電あたりの航続可能距離がJC08モードで400kmを達成。今や全国で約3万か所に増えた充電スポット(2018年3月現在)と相まって、実用性がアップしている。デザインも賛否両論あった初代とは違って、多くの人に好感をもたれるものとなったことや、先進安全運転支援技術の「プロパイロット」、アクセルペダルを離すだけでブレーキペダルを踏むのと同じような減速ができる、通称「ワンペダル走行」が可能な「e-Pedal」といった新時代を実感できる走りも、人気を後押ししていると感じる。

 試乗した「G」グレードはプロパイロットをはじめとする先進の運転支援技術が標準装備となるトップグレードで、17インチアルミホイールを履く足下、本革巻きステアリングや電動パーキングブレーキとなる室内など、先進感と上質感がバランスよく融合している印象だ。

 インパネのデザインなどは、良くも悪くも奇抜さが影を潜め、パッと見て未来的な感覚に浸れるような演出がなくなったのが寂しくもあるが、EVはもはや特別な乗り物ではなく、普通の人が普通に乗れるクルマを目指した、という観点からすれば成功なのだろう。

 走り出してみても、e-PedalをOFFにしていれば、スーッと滑らかな加速フィールはとても普通で、モーター特有のビュンッと飛び出す感覚はほとんどない。ブレーキフィールも、ハイブリッドやEVには踏み加減と効き具合のリニア感が薄くて、ちょっと違和感を覚えるモデルもまだあるが、リーフは自然に近くなっていて扱いやすい。

 ただ、e-PedalをONにするとその操作感は驚きの変化を見せる。最初にアクセルペダルを離した時には、予想以上の減速Gに面食らってしまう人もいるだろう。でもその操作感をモノにしようと、いろいろと試す課程は意外にも面白く、そうして慣れてくれば思い通りの操作がペダルの踏み替えナシにできるのだから、当然ラク。もう少し速度が高くなればスポーティな走りも楽しめるのだが、今回のような低速走行のみでも、その面白さ、快適さはちゃんと味わえるものだなぁと実感した。

 乗り味を変えられるクルマというのは、ガソリン、ハイブリッド、PHVなどを問わずいろいろと出ているが、ほとんどが運転の気持ちよさを増すためのものか、燃費をアップするためのもの。運転の負担を減らし、ラクにしてくれるというのは珍しい。そんなリーフで、人への優しさをもたらすインテリジェントを実感したのだった。

インテリジェントでみんなの休日を応援する「エクストレイル」

 続いて試乗したのは、「エクストレイル 20X HYBRID」。早くからインテリジェント4×4を謳った先進的な4WD性能を備え、タフな走りが手に入るコンパクトSUVとして安定した人気を誇っている。現行モデルはすでに登場から5年目を迎えているが、2017年6月のマイナーチェンジでフロントマスクが新しくなり、プロパイロットの搭載などでライバルたちを一歩リードする存在となった。

 先代の角張ったデザインからは少し丸みを帯びたものの、ワイドに張ったボンネットは車両感覚が掴みやすく、視界も広くて運転しやすさをしっかり感じられる運転席。2.0リッターハイブリッドは発進時から重厚感があり、2.0リッターガソリンモデルのよさである軽快感は薄まってしまうが、巡航中の静粛性の高さや素直で丁寧な挙動は、扱いやすさと同時に上質感もあるものだ。後席の乗り心地も落ち着いていて、これなら長距離移動もラクだろう。

試乗車は「エクストレイル 20X HYBRID」の4WDモデル(309万8520円)。ボディサイズは4690×1820×1730mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2705mm。最高出力108kW(147PS)/6000rpm、最大トルク207Nm(21.1kgfm)/4400rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター「MR20DD」型エンジンと、最高出力30kW(41PS)、最大トルク160Nm(16.3kgfm)を発生する「RM31」型モーターを搭載。トランスミッションにCVTを組み合わせる

 さらにエクストレイルのよさは、アウトドアレジャーをとことんサポートしてくれるユーティリティ。保冷だけでなく保温もしてくれるドリンクホルダーや、水分や汚れに強い防水インテリア、小物を整理して収納しやすいラゲッジボックスなど、子育て世代にもありがたい機能が盛りだくさんだ。アクティブな休日を思い切り楽しんだ後は、プロパイロットをONにして疲れた身体を癒しながら帰路につく。エクストレイルのインテリジェントには、みんなの休日を応援する頼もしさがあると感じた。

インテリジェントのe-POWERでミニバンを大きく進化させる「セレナ」

 そしてお次は、日産車として初めてプロパイロットが搭載されたMクラスミニバンの「セレナ」。試乗車は先ごろ投入された「e-POWER ハイウェイスターV」だ。これまでS-HYBRIDではJC08モード燃費が17.2km/Lだったところを、e-POWERでは26.2km/Lにまで高め、なおかつモーターによる気持ちのいい加速フィールが持ち味。それを、3列7人乗りの室内空間を何一つ犠牲にすることなく実現しているのがすごい。

 1.2リッターエンジンを発電専用に搭載し、モーターの力で走行するという基本的なシステムは「ノート e-POWER」と同じだが、セレナ e-POWERが独特なのは「マナーモード」と「チャージモード」が任意に選択できるところ。「チャージモード」でバッテリーを増やしておけば、わずかに2km程度ではあるものの、発電用のエンジンを停止して電気による静かな走行が可能な「マナーモード」が使える。深夜や早朝でご近所に迷惑な音を出したくない場合などに嬉しい機能だ。

試乗車は「セレナ e-POWER ハイウェイスターV」の2WDモデル(340万4160円)。ボディサイズは4770×1740×1865mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2860mm。最高出力62kW(84PS)/6000rpm、最大トルク103Nm(10.5kgfm)/3200-5200rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」型エンジンと、最高出力100kW(136PS)、最大トルク320Nm(32.6kgfm)を発生する「EM57」型モーターを搭載。トランスミッションにCTVを組み合わせる

 走らせてみると、セレナ e-POWERの1番のよさは上り坂でのスムーズさだと感じる。人や荷物を満載にすると、2.0リッター程度のガソリンモデルではどうしても失速感が出てきて、強めにアクセルを踏んで騒がしくなるものだが、それがまったくないのが爽快。これなら高速道路の合流や追い越しなどでも、欲しい加速が瞬時に手に入ってストレスフリーとなるはずだ。

 ミニバンは便利だけれど、ドライバーにとっては「もう少し改善してほしい」というポイントがあるもの。セレナはe-POWERによってそれをクリアし、ミニバンを大きく進化させていると感じたのだった。

インテリジェントで優雅に大人の心を満たす「スカイライン」

試乗車は「スカイライン 350GT HYBRID Type SP」の2WDモデル(555万9840円)。ボディサイズは4815×1820×1440mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2850mm

 そして、最後に試乗したのは「スカイライン 350GT HYBRID Type SP」。306PS/350Nmというさすがのパワーを発する3.5リッター V6エンジン+モーターは、7速ATによって実に悠々と走り出した。実は今回、試乗コースの関係でスカイラインの速度は30km/hを超えることがなかったのだが、それでもステアリングやペダルから伝わる機械としての丁寧な作り、所作の優美さ、走りに対するこだわり、そうしたものがひしひしと感じられて驚いた。

 その要因となっている1つには、電動化技術がもたらすメリットがありそうだ。クルマそのものが持つ魅力を、低速での無駄なノイズや振動がかき消すことがないから、よりじっくりと感じることができるのではないか。ダイムラー製となる2.0リッターガソリンモデルのスカイラインと比較試乗できなかったのが残念だが、高速域を走らなくても低速のみで「いいクルマだな」と思えたのはハイブリッドだからこそかもしれない。日産の「インテリジェント」は、大人の心を満たすためにも欠かせないものなのだとスカイラインが教えてくれた。

スカイラインは日産のモデルラインアップの中でも搭載モデルが限られる最高出力225kW(306PS)/6800rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/5000rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35HR」型エンジンを搭載。最高出力50kW(68PS)、最大トルク290Nm(29.6kgfm)を発生する「HM34」型モーターを組み合わせる。トランスミッションは7速ATを採用

「リーフ」で日産の技術を再確認

リーフで「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」を体感

 そんなわけで、あらためて一気乗りしてみると、いろんな世界観・方向性を感じることができた日産の今。会場内にはリーフで「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」や「プロパイロットパーキング」を試せるコーナーも設置されており、今一度その信頼性、利便性をチェックした。

 前方の車両や歩行者との衝突回避をサポートする「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」は、衝突する恐れがあると判断した第1段階の時点で、警告や音とともに軽いブレーキが自動的にかかり始めるのが特徴。それでもドライバーによる回避操作が行なわれず、衝突の危険が高まると、さらに強いブレーキが衝突直前に自動的に作動する。

 今回は3回ほど試して全て衝突を回避してくれた。2段階目でも最終的な操作はドライバーに委ねる、という考えを持つメーカーもあるが、万が一、ドライバーが気を失っているなど何らかの事情で操作できない場合を考えると、私はやはり日産の考え方を支持したいと感じた。

まるも亜希子の日産「リーフ」に採用の「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」を体感

 そして、指1本でスイッチを押し続けているだけで、ステアリング、アクセル、ブレーキを全て自動で操作し、縦列・並列(前向き、後ろ向きとも)駐車を完了してサイドブレーキまでかけてくれる「プロパイロットパーキング」は、動作の速さ、確実性ともに現時点でもっとも実用性の高い駐車支援システムだとあらためて実感。駐車はできれば自分で上手にできた方がいいが、障害を持つ方が運転する場合など、こうしたサポート機能が役立つ場面はもっとたくさんあるのではないかと思う。

自動で駐車を行なうプロパイロットパーキングは、駐車したいスペースの近くでプロパイロットパーキングスイッチを押して駐車スペースを認識させ、並列駐車の場合はナビ画面上で前向きか後ろ向きかを選択。プロパイロットパーキングスイッチを押し続けると、ステアリング、アクセル、ブレーキ操作の全てをクルマが行ない、駐車完了時にはパーキングブレーキをかけてPレンジに入れてくれるスグレモノ
まるも亜希子の日産「リーフ」に採用の「プロパイロットパーキング」で前向き駐車を試す!
車両に搭載されているカメラやソナーの実物も見ることができた

 さて、最後の最後にもう1台、次世代のシティコミューターとしてすでに横浜市などで試験的に導入されている、2人乗りのEV「ニューモビリティコンセプト」で未来のインテリジェントを体験。以前にも横浜の市街地を走ったことがあるが、一度覚えれば誰でも簡単に操作できるところや、クリープがないのでアクセルとブレーキのメリハリある操作が必要なところなど、ちょっと古典的なバイクに近い感覚が面白い。

最後に試乗した「ニューモビリティコンセプト」のボディサイズは2340×1230×1450mm(全長×全幅×全高)。前後2人乗りで、最高速は約80km/h。1回の充電で約100km走行できる。販売はされておらず、2018年8月現在は「チョイモビ」として横浜市内でレンタルすることが可能

 でも、以前は走り出すと風が入ってきて気持ちよかった記憶があるのだが、この日は気温35℃を超える猛暑で、停止中からすでに汗ダク、走り出してもほとんど風が入らず暑さは増すばかり。おそらく雨避けや風避けのカウルがしっかりしているからだろうが、もう少し猛暑対策も施してほしいと、思わぬ弱点が見えてしまった結果となった。

 とはいえ、こうしたフットワークの軽さが魅力のモビリティを生み出すのも、日産の「インテリジェント」。電動化やコネクティッドでクルマは没個性化してしまう、魅力がなくなってしまう、と思っている人がいたら、それはまったく逆だ。これだけ多彩なクルマがすでに生まれ、人々に新たな楽しさ、豊かさをもたらしているのだから、もっと想像もつかない世界を見せてくれるに違いない。これからの「ニッサン インテリジェント モビリティ」にも、ワクワクしながら常に注目していきたいと思う。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学