試乗インプレッション
DSブランドの“フレンチプレミアム”SUV「DS 7 クロスバック」に試乗
20インチホイール仕様の「グランシック」ガソリン/ディーゼル・モデル
2018年8月22日 00:00
「より強い個性を追求したシトロエンの派生バージョン」――そんな以前の位置付けを改め、完全に独立したフレンチプレミアムへと“改宗”を行なったのが、個性的なデザインとユニークな採用メカニズムからフランス史上屈指の名車として知られる、1955年のデビューからおよそ20年にも渡って販売が続けられたシトロエン車の名称にちなんだ、ずばり「DS」という名の新しいブランドだ。
これまでこのブランドで扱われてきた複数のモデルたち、すなわち「DS 3」や「DS 4」、そして「DS 5」は、いずれも当初はシトロエン・ファミリーに属していながら、あるタイミングを持ってシトロエンのバッヂが外され今日へと至ってきたもの。
けれども、ここに紹介する「DS 7 クロスバック」は当初からDSブランドのために開発が行なわれてきたというのが、前出の他ラインアップとは異なる大きな特徴だ。
「高らかにフレンチラグジュアリーカーの復活を謳うフラグシップSUV」と、自らをそのように紹介して鼓舞するこのブランニューモデルは、ボディの3サイズが4590×1895×1635mm(全長×全幅×全高)。
すなわちそれは、2730mmというホイールベースの値を含めて「マツダ CX-5より全高のみが5cmほど低く、それ以外の寸法はわずかずつ大きい」というスケール感の持ち主である。
現在のパワートレーンは2種類。2019年半ばにプラグインハイブリッドを追加
18もしくは20インチという大径のシューズに、185~200mmという高い最低地上高を採用したボディの組み合わせ。率直なところ、過去をさかのぼってもなかなか成功事例が見当たらない“フレンチプレミアム”という高みに新たな挑戦を仕掛けたこのモデルが、いわゆるSUVのカテゴリーへと打って出たことは、今という時代を鑑みれば当然と言えるかもしれない。
そんなDS 7 クロスバックに搭載されるパワーパックは、それぞれが8速ステップATと組み合わされた、ターボ付きの1.6リッター4気筒ガソリン、もしくはやはりターボ付きの2.0リッター4気筒ディーゼルという2タイプ。
いずれも2WD仕様に限られる点が1つの弱点という見方も考えられるが、実は後輪をモーターで駆動する4WDシステムを採用して、2.0リッターのガソリンエンジンと組み合わされたプラグイン・ハイブリッド仕様が、2019年半ばには追加となることがすでに予告済みだ。
現時点では国内わずか7店舗の展開にすぎず、そもそも東北や北海道地方には用意のないディーラーネットワークを整備することが先決の課題ではあるものの、そんな4WDバージョンが日本にも導入された暁には、積雪地帯に対してSUVパッケージングを持つことの強みが、より大きくアピールできることになりそうだ。
とことん“フランス”にこだわったデザイン
直立した大きなグリルに高くフラットなフードの組み合わせから成るDS 7 クロスバックのフロントセクションは、SUVならではの力強さがしっかりと演じられた印象。上側ラインが弧を描いたサイドのウィンドウグラフィックは、いわゆるクーペ流儀なデザインではあるものの、実際にはルーフラインそのものは水平近くのまま後方へと引かれ、後席の居住性にも配慮をしていることが伺える。
前出フロントグリルの、一見は通常のメッシュ調にも思える細部の仕上げ部分を含め、テールランプのグラフィックやインテリアの各部に見られるのは、何と「ルーブル美術館のピラミッド部分のトラス構造をモチーフにした」という、ダイヤモンド型の造形。
そもそもインテリアのバリエーションに、“オペラ”に“リヴォリ”に“バスティーユ”と、首都であるパリの場所や建造物にちなんだ愛称が与えれた点にも、このモデルがいかにフランスという国への強いオマージュに基づいて開発されたかを伺い知る、大きな手掛かりと言えそうだ。
パワーウィンドウのスイッチなどが配された高く幅広のセンターコンソールや、バーチャルディスプレイに表示されるメーター類のグラフィック。さらには、中央にワイドなディスプレイをレイアウトしたダッシュボードそのもののデザインなどにもこだわりがいっぱい。
極めつきは、ヘッドライトと時計にそれぞれ盛り込まれた“反転”のギミック。いずれもイグニッションONによって動作を始めるそれらは、前者は外から眺める人に、そして後者はドライバーを筆頭としたパッセンジャーに、他車では得ることのできない強烈な見た目のインパクトを提供することになる。
20インチホイール装着の「グランシック」の乗り味は?
テストドライブを行なったのは、ガソリン/ディーゼル・モデル共に2グレードが設定されるうちの、いずれも上級の「グランシック」と名付けられたモデル。それゆえ、2台の違いはパワーユニットのみに限られ、装備類は同一。足下にも、共に大径の20インチ・シューズを履くことになっていた。
両モデルの価格差はピタリ20万円。が、ディーゼル・モデルに与えられる補助金やその後の燃料代の差などを勘案すると、その差はグンと縮まって大きな悩みどころとなりそう。
圧倒的に大きな最大トルク値を発生するディーゼルは、“ツボ”にはまった際の力感が明確に大きい一方、前軸にかかる荷重だけでも100kg軽いガソリン・モデルの方が、ハンドリングの感覚はもとより走りの軽快感全般がより高い仕上がり。
ちなみに、いずれも静粛性には長けているし、シフトプログラムが日本の環境に違和感なく、実際にシフトの動作も滑らかなATの仕上がりも高得点。それゆえ「こちらで一択!」とはなかなか言い難いのが、この両仕様ということになってしまうのだ。
一方、率直なところ“プレミアムブランド”の作品としての期待値に届かなかったのは、そのフットワークのテイスト。ばね下が重く、荒れた路面でひとたびバタ付き始めるとそれがどうにも収まらないという感覚は、「前方の路面状況をスキャンしてダンパー減衰力を瞬時に最適化」と謳う自慢の“アクティブスキャンサスペンション”をもってしても、拭い去ることができなかったのだ。
こうして、まだ幾ばくかの課題は残されてはいるものの、これまでのフランス車とは異なる価値観を提案してきたこのモデルと、「DS」のブランドは大いに気になる存在。
「ドイツ車ばかりでつまらない!」……そんなプレミアム・ブランドの世界に、ぜひとも“アバンギャルド”で楽しい新風を送り込んでほしいものだ。