試乗レポート

乗り込むとそこはパリ? DSのラグジュアリーSUV「DS 7 CROSSBACK」の優雅な走りに満たされる

 クルマが身にまとうアヴァンギャルド、前衛の精神「Spirit of Avant-Garde」を受け継ぎ、フレンチブランドだけが成し得る「ラグジュアリー」をキーワードとしたフランスの自動車文化を復活させること。これが、シトロエンから独立したDSオートモビルの目指す道だということで、今回はそのフラグシップとなる「DS 7 CROSSBACK」にあらためて試乗し、DSワールドを堪能する機会をいただいた。

 試乗に先立ち、フランスがさまざまなジャンルで世界に影響を与えた素晴らしい技術をおさらいしてみる。まず建築/デザイン様式では、なんといってもアール・デコ。19世紀末にフランスで始まり、20世紀はじめにはヨーロッパ各地やアメリカの数々の建築物に取り入れられている。中でも有名なのは、ニューヨークにあるエンパイア・ステート・ビル。日本では帝国ホテルもアール・デコが花開いた建築物だ。

 そしてファッションでは、デザイナーが顧客のために完全なるオリジナルの洋服を仕立てる、オートクチュール。カルティエやヴァン・クリーフ&アーペルなど世界を代表するジュエラーや高級時計。また戦前にはフランス各地に存在したという、「Delahaye(ドライエ)」「Facel(ファセル)」「Delage(ドラージュ)」といった超高級車を製作していたコーチビルドも、のちの自動車文化に大きな影響を与えたと言える。

 これらに共通するのが、フランス独自の美学「サヴォアフェール」だという。日本語で最も近いニュアンスで訳すと「匠の技」ということになるらしいが、作品のクオリティを裏付ける経験や修練に加え、創造性やクリエイティビティ、それらを探求する気持ちをひっくるめて、「よりよいもの、美しいものを創造せずにはいられない」美意識と高いクラフツマンシップを指しているという。そしてそのサヴォアフェールを全身で体現してみせたのが、DS 7 CROSSBACKというわけだ。

 ボディラインは彫刻のようで、LEDヘッドライトはパヴェが並んだジュエリーのよう。DSウインググリルが大胆な表情を作りつつ、エレガントさも忘れない。

「DS 7 CROSSBACK GRAND CHIC」(589万円)。ボディサイズは4590×1895×1635mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2730mm
“TOKYO”と名付けられた20インチアロイホイールを装着。タイヤはグッドイヤー「EAGLE F1 ASYMMETRIC 3 SUV」の235/45R20サイズ
大ぶりにカットされた宝石のような印象をも与えるヘッドライト
テールランプはダイヤ型にカットされ、繊細な輝きを放つ

 インテリアはオートクチュールを連想させる、細部に至るまでのこだわりが行き届いている。まず目に入るセンターコンソールのトグルスイッチは、高級時計の文字盤加工に用いられる「クル・ド・パリ」をモチーフとしていたり、シートのみならずダッシュボードやドアトリムにまで贅沢に使われたナッパレザー、小さな真珠が並ぶような繊細なステッチなど、ほかのSUVではまず見当たらないDSの世界観に包まれる室内だ。

 このインテリアには、パリを象徴する記念碑的建造物の名が与えられた3つのバリエーションが用意されている。絢爛たる建築美を誇るオペラ座の「OPERA」、ハイファッションの発信地リヴォリ通りの「RIVOLI」、フランス革命発端の地であるバスティーユ広場の「BASTILLE」。試乗車はガソリンターボモデルの上級グレード「Grand chic」で、オプションとなるOPERAのインテリアだったが、スタートボタンを押すとインパネの一等地に現れるのは、B.R.Mクロノグラフ社とコラボした美しいアナログ時計。これを目にしただけでも、心はパリへと飛んでいきそうになる。

試乗車はオプションとなる「OPERAインスピレーション」を装着。B.R.M製の高級アナログ時計やクリスタルの操作ダイヤル、繊細なクル・ド・パリ文様、丸みを帯びたパールトップステッチなど、サヴォアフェールがふんだんに取り入れられている
職人技による腕時計のストラップをイメージしたデザインのシート。オペラではナッパレザー(バサルトブラック)のシート表皮となる

1つひとつに優雅さのある走り

 そんな夢見心地のインテリアに包まれたまま、市街地を走り出した。1.6リッターのガソリンターボは、225PS/300Nmというパワーを8速ATで賢く引き出してくれる。出足からモリモリとしたトルクで余裕たっぷりの加速を見せつつ、どこまでも伸びやかな気持ちよさが続いていく印象だ。

最高出力165kW(225PS)/5500rpm、最大トルク300Nm/1900rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッターガソリンターボエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせ、前輪を駆動する。WLTCモード燃費は13.9km/L

 しかもそれが、SUVということを忘れそうなほど、不快な振動などが抑えられ、どこかしっとりとした乗り味になっている。今回、リアサスペンションにはマルチリンクを採用したということだが、試乗車は20インチという大径タイヤにもかかわらず、荒っぽいところや硬さがないことに感心。カーブでのしなやかさもあり、ただエンジンがパワフルというだけではない、挙動1つひとつにも品のある感覚は、確かにフレンチラグジュアリーならではだ。

 DS 7 CROSSBACKには2.0リッターデーゼルターボエンジンのモデルもあり、これまではそちらの方がキャラクターに合っているのではないかと思っていたが、ガソリンモデルもなかなかどうして、同じ「Grand Chic」のディーゼルモデルよりも車両重量が130kgほど軽くなることによるものだろうか。どんなシーンでもバランスのよい身のこなしと、軽やかさと伸びやかさがどこまでも続く清涼感。そして、五感で優雅さに包み込まれるインテリアの見事なマリアージュ。ひと踏みごとに満たされた気持ちになる、真のラグジュアリーフレンチSUVにあらためて感動した。

 まだ時期はアナウンスされていないが、100%ピュアEVとなるDS 7 CROSSBACK E-TENSEの登場も近いとのこと。先に登場したDS 3 CROSSBACK E-TENSEが極上の出来栄えだっただけに、これでますます楽しみが増したのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z(現在も所有)など。

Photo:安田 剛