試乗レポート

オーテックのコンプリートモデル「セレナ AUTECH」「エクストレイル AUTECH」に乗って感じる走りの違い

軽自動車のルークスからミニバンのエルグランドまで、統一感のあるAUTECHブランドが誕生

 日産のコンプリートモデルであるAUTECHは、2017年秋に新世代への移行を宣言した。この時より通称“湘南ブルー”をイメージカラーに与え、「プレミアムスポーティ」をコンセプトの柱にしたクルマ造りを展開。デザイン、走り、質感の高さを追求したその姿勢はファンを次第に拡大。2018年には「セレナ」「ノート」「エクストレイル」を、2019年には「リーフ」「ルークス」を市場に投入。新世代への移行がインパクトとなったのか、湘南ブルーを選ぶユーザーは半数以上にのぼる(ルークスのみ12%、ベースモデルは3%)というから驚くばかり。ベースモデルではブルーの比率が7~8%であることを考えると、湘南ブルー、そして新世代の移行がユーザーに響いたということだろう。

 確かに実車を見れば、さざ波をイメージしたというグリル形状やアンダースポイラーの造りは美しく、上質に感じさせてくれることも事実。インテリアに与えられたブルーステッチやブルーのシートなども、明らかにベースモデルとは違うプレミアムな感覚に仕上がっている。そのせいか、AUTECHを選ぶユーザーはダウンサイジング傾向の方々が多いという。例えばエクストレイルであれば「ムラーノ」や「プラド」から、セレナであれば「エルグランド」や「アルファード」から、ノートやリーフは輸入車からの乗り替えが多いそうだ。家族構成や使い勝手を考えて小さくはしたいが、チープなのはイヤという人にピッタリだということだろう。ここでもまたプレミアムスポーティコンセプトが支持されたというわけだ。このようなダウンサイジングユーザーは基準車よりも2~3倍AUTECHを選択する傾向があるらしい。

「セレナ e-POWER AUTECH SPORTS SPEC」(419万2100円)。内外装の専用装備に加え、専用サスペンションを装着。ボディ補強や電動パワーステアリングのチューニング、専用コンピューターチューニングを施している
「エクストレイル AUTECH i Package(2列シート車)」(358万4900円)。内外装の専用装備に加え、専用サスペンションとしてSACHS製ショックアブソーバーを装着。リアにスタビライザーを追加している
フロントグリルは湘南の海の波をイメージした専用のドットパターンを採用

 個人的にはかつてAUTECHが造った「エルグランド ライダー」に乗っていたこともあり、この手のコンプリートモデルは大好物。ベースモデルとは違うプレミアムな感覚はたしかに心地良い。ただ、かつてのAUTECHはライダーがあったかと思えば、一方でモードプレミアがあるなど、ブランドの統一感が無かったことが気になっていた。それが統一され、まさに上から下まで同じテイストが得られるようになったことは嬉しい変化だ。今回はそんな新生AUTECHの仕上がりを味わうべく、すべてをやり切ったと思えるセレナとエクストレイルの2台を試乗してみる。

内外装をトータルコーディネートした「ルークス AUTECH」。外装ではシルバーのサイドターンランプ付電動格納式リモコンドアミラー、アウトサイドドアハンドルのほか、専用フロントグリル、フロントバンパーシルバーアクセント、14インチアルミホイール(切削光輝)といったアイテムを装着する。ボディカラーは専用色のアトランティックブルー/ブラック 2トーン
内装では、本革巻ステアリングやレザー調シートがブルーステッチ入りのトワイライトロゼ/アイボリーコンビとなり華やかさをプラス。インパネもレザー調のトワイライトロゼ&ブルーステッチでコーディネートされる

車種専用チューニングでプレミアムスポーティに生まれ変わる

 まず、今年8月17日に追加された「セレナ e-POWER AUTECH」で注目したいのはSPORTS SPECが与えられたことだ。17インチタイヤ、専用のボディ補強、足まわり、チューニングコンピュータに加え、パワステ制御やVDCの制御までを変更したというから驚くばかりだ。かつてあったハイパフォーマンススペックと同じ感覚が得られるその内容には期待大だ。

 車体裏側に配されたボディ補強は、前側からフロントクロスバー、フロントサスペンションメンバーステー、センタクロスバー、センタサブメンバー、センターサブメンバーブラケット、センターアンダーブレース(S-HYBRID車のみ)、リアクロスバー、リアサブメンバー、リアサブメンバーサポートを装着。まさに前から後ろまでギッシリと補強をやり直している。今回追加となったe-POWERでは、継続設定されるS-HYBRID同様にフロントストラットの外筒径、ロッド径アップに加え、スタビブラケット強化、そしてe-POWER専用の強化トランスバースリンクを装備している。17インチタイヤをe-POWERに装着するために、ここまで丁寧な変更を行なっているところに良心を感じる。

 実際にそのクルマを走らせてみると、たしかにチューニングの効果は絶大で、直進安定性がかなり高まった感覚が得られる。ベースモデルではプロパイロットを補う逆運転支援が必要だと感じる場面も多かったが、このクルマにはそんな感覚がないのだ。対角に動く揺らぎが排除され、ピッチングも少なく常にフラットに走るのだ。全てに対して引き締めを行なったことは手に取るように感じられる。ちなみにスプリングレートはフロント約25%、リア約35%アップ。減衰力は30~50%アップとなる。それでいて乗り心地がハードになるわけではなく、うまく路面からの入力をいなしているところが好感触。リニアに切れドッシリと濃密なステアフィールが得られるパワステチューニングや、アクセルに対してリニアに機敏にトルクが立ち上がるe-POWERの仕上がりも面白い。全てに対して応答遅れを見事に低減した走りの質感はかなり高い。走りをちっとも諦めないミニバンといっていいだろう。

 続いて試乗したエクストレイルは11月5日より改められたが、その変更はシフトノブとブーツの形状のみ。乗ったのは1月に発売された19年モデルのガソリン車「AUTECH i-Package」だ。エクストレイルとしては初となる専用の19インチタイヤ、そしてSACHS製ショックアブソーバーが与えられるほか、フロントスタビライザー径をアップ。リアについては設定が無かったものを追加しているところがポイントだ。ちなみにハイブリッドモデルも存在するが、そちらはSACHSを奢ることは変わらないが、フロントのスプリングレートはダウン。ベースモデルでも前後に与えられているスタビライザーに変更はない。

 走れば19インチタイヤを装着しているとは思えないほどしなやかに駆け抜けて行く。上質でフラットな乗り味はAUTECHらしさか? ロールもピッチングも少なく、オンロードにおいてかなり乗りやすく仕上がっているところがポイントだ。試乗したモデルはM+Sのタイヤを装着していたが、オンロードでも不足はなく、直進安定性にも優れていた。悪路重視のベースモデルとは違った感覚が新しい。

 このように、AUTECHが提唱するプレミアムスポーティは、決して尖ったものではない。乗り心地を犠牲にせず、フラットで自然な乗り味を生み出すところに価値があるのだろう。そのために施すチューニングは車種によって違うのだろうが、目指す方向性は明らかに同じものだと感じることができた。いまはまだ全車種にこのような変更が行なわれていないが、いずれはどの車種に乗っても見た目だけでなく、走りの統一感が生まれることを期待したい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛