試乗レポート
アウディの基幹モデル「A4」が大幅改良 さらに静粛性が高まってより上質なセダンに
2021年1月3日 09:00
A4が大幅改良を実施
前任の「80」シリーズまで遡れば、その誕生は1972年のこと。すなわち、実質的にはすでに半世紀近い歴史の持ち主となっているのが、アウディの基幹モデルでもあるA4シリーズだ。
現行型の登場は2015年で、翌2016年2月に日本での発売がスタート。そんな5代目のA4に、ドアパネルの形状にまで及ぶ広範囲でのデザイン刷新や、アウディ自慢の4WDシステム“クワトロ”の構造変更による効率のアップなど大幅なリファインの手が加えられたのが、日本ではこの10月に発売されたばかりの最新モデルである。
通常のフェイスリフトであればコスト面での制約などから、デザインに変更を加えるのはバンパーなど“費用対効果”が大きいとされる樹脂部分に限定されるのが通例。ところが、今回のA4の場合には前述のように大型の金属パーツであるドアパネルにも手が加えられるなど、いわゆるマイナーチェンジとしては異例の規模となっている。
インテリアでも、マルチメディア・システムを「操作レスポンスがより速い」と紹介される最新のアイテムへと入れ替え、「タッチパネル式として操作性を向上」というセンターディスプレイを採用するなど、さまざまな高機能化が図られることに。そのほか、日進月歩で性能が向上する運転支援システムにも最新のバージョンを採り入れるなど、デビュー後5年のハンディキャップを感じさせないスペックを並べるのが最新のA4シリーズである。
「フルモデルチェンジに匹敵する大幅なリファイン」と謳われる一方で、これまでのモデルを大切に乗ってきたユーザーを決して落胆させることがないのが、新鮮さをアピールしながらも従来型を陳腐に見せない、新型のアピアランスの巧みさでもある。
それでも、ライト類のグラフィックやリアフェンダーまわりのボリューム感、そしてテールパイプ周辺のデザイン処理などから、新旧2台を並べて「どちらが新しく見える?」と問われれば、恐らく過半の人はそれを正しく解答することにはなりそう。けれども、だからと言って従来型が決して古臭く見えないのもまた事実。多くの部分に手を加えてもなお、これまでの雰囲気を色濃く受け継いでいるのは、従来型の色褪せることのないデザインの優秀さを証明しているのかも知れない。
そんな新旧モデルに纏わるイメージの継承は、インテリアでも同様だ。ワイド化が進んだセンターディスプレイ周辺を中心に、より新しい雰囲気が演じられるのが新型。一方で、このタイミングで改めて見直しても特段の古さは感じさせないのが従来型のデザインでもある。
いずれにしても、そんな内外装の見た目質感の高さというのは、やはりアウディ車ならではの大きな特徴。こうして、ショールーム段階で見る人に対するアピール力にすこぶる長けているというのは、このブランドの作品に共通する強みに違いない。
力不足を感じさせられるシーンは一度もなかった
そんなA4シリーズの中から今回テストドライブを行なったのは、日本に導入されるセダンの中で最もベーシックな、最高出力150PSを発するターボ付き直列4気筒2.0リッターエンジンを、7速DCTと組み合わせて搭載する2WD仕様の「35 TFSI advanced」。
実は35 TFSIを名乗るモデルは従来型にも存在していたが、そこに搭載されていたのは同じターボ付きの直噴4気筒でも1.4リッターという排気量を備えていたユニット。
NEDCからWLTPへと排ガス測定法がより高い負荷領域を多用するモードへと切り替わったことを受け、実用燃費向上を目的に排気量アップを行なうというのは、実はいわゆる“ダウンサイジング”が行なわれてきた従来のターボ付きエンジンに対して実施されがちな処方。加えて、この新たな2.0リッター・ユニットはベルト式のスタータージェネレーターと12ボルトのリチウムイオン・バッテリーから成る、いわゆるマイルド・ハイブリッドシステムを採用する。
すなわち、これで日本に導入されるA4シリーズの心臓は、S4/S4 アバントに搭載される3.0リッターのV6ユニット以外はすでに電動化を完了させたことになる。今回のリファインの目的は、こうして心臓部を世代交代させることにもあったわけだ。
ちなみにA4の場合、今回のリファインのタイミングでグレード体系の見直しも行なっている。今回のテスト車であるadvancedは、サイドスカートやリアのコンビネーションライト内の“流れるウインカー”など、「従来のSライン並みにスポーティなデザインを標準採用」という点も特徴と謳われている。
ベースグレードとよりスポーティなデザインのボディキットや大径タイヤなどを採用するSライングレードとの間に挟まれて、恐らくはセダンの販売の主力になると目されるこのモデル。走り始めて最初に感心させられたのは、このクラスで間違いなく上位にランクできる静粛性の高さだった。そもそも、静かさには長けていたと記憶するA4セダンだが、その特徴にひと際磨きが掛けられた印象。中でも、ロードノイズが低く抑えられている点が好印象に繋がっている。
同じ2.0リッターエンジンでも、45 TFSIに積まれるユニットに対しては最高出力で99PSもの差を付けられている35 TFSI。だが、それでも現実には街乗りシーンから高速道路上での走りまで、力不足を感じさせられるシーンは一度もなかった。
アウディではSトロニックと呼ぶDCTを採用するが、微低速シーンでのアクセル操作に対する不快なショックも皆無。「これは6気筒」と言われればそのまま信じてしまいそうなスムーズな回転フィールに加え、アイドリングストップ状態から“音もなく再始動”という、スタータージェネレーター装備車ならではの穏やかな挙動もまた、A4ならではの走りの上質感を後押ししてくれることになっていた。
率直なところ、「これは硬質に過ぎるでしょう……」と感じさせられるテイストの持ち主も少なくないアウディ車の中にあって、このモデルのフットワークにはスポーツサスペンションを銘打ちながらも、そのストローク感に高いしなやかさが認められたことも美点の1つ。ただし、路面凹凸に対するタイヤの当たり感はやや硬め。もう少しトレッド面がソフトなタイヤを選択した方が、好ましい印象が得られるかも知れない。
いずれにしても、SUVの隆盛に淘汰されるように上質なセダンが数を減らしていく中で、長年のノウハウ蓄積によるセダンづくりの実力を教えられることになったのがこの1台。「最近、魅力的なセダンが少なくなっちゃって……」と、そんな思いを抱く人にぜひ試していただきたい1台だ。