試乗レポート
最高の贅沢に浸れるレクサス「LC500 コンバーチブル」、開けても閉めても美しいスタイリング
ハイブリッドモデルのコンバーチブル化の可能性は?
2021年1月5日 17:01
コンバーチブルで採用されたレクサス初の技術
2017年の国内デビュー間もないころ、クーペボディのレクサス「LC」に乗り、長距離取材を行なう機会をいただいた。道中では、当時の開発メンバーからLCを開発するにあたっての課題や、その克服方法を伺い理解を深めた。
LCを製造するトヨタの元町工場(愛知県豊田市)では、LCの専用ラインの取材も行なった。外光を積極的に採り入れ、床から天井まで白を基調とした明るい建屋内で、LCはゆっくり時間を掛け丁寧に作り上げられていく。一連のトヨタ車がスピーディに効率よくラインを流れていくのは真逆の世界だ。
いわゆるアッセンブリーとなった大きな構成部品もあるが、他車では見られない専用の工具や治具を使った手作業も多い。完成後にはレクサスが“匠”と称する技師により最終検査が行なわれる。全方位からLED照明に照らされたLCを鋭い眼差しで見つめ、白手袋をはめた手で確かめながらLCは1台ごと送り出されていく。
今回試乗した「LC500 コンバーチブル」(設定はV型8気筒5.0リッターエンジンモデルのみ)も、この元町工場で製造される。クーペボディであるLCとの混流生産方式で、やはり丁寧な作業工程を経て作られる。そのLC コンバーチブルでは、クーペに対して次の5つがレクサス初の技術として採用された。
①4層(布材3層+吸音材)構造のソフトトップルーフ
②油圧式の全自動ソフトトップ
③前席左右シートに内蔵された首元を暖めるネックヒーター
④ルーフ開閉を判別して適した制御を行なうコンバーチブル専用のアクティブノイズコントロール
⑤万が一の横転時にキャビンの生存空間を確保するアクティブロールバー
注目のソフトトップは本社をオーストリアに置き、トヨタ「スープラ」の製造でも知られるマグナ・シュタイヤー製。開閉に掛かる時間はオープン時15秒/クローズ時16秒で、50km/hまでなら走行時であっても開閉可能。ルーフの開閉状態はマルチインフォメーションディスプレイでCG及び4段階の進行バーグラフで確認できる。
シフトノブ左下の小さなカバーを開けると、ソフトトップ開閉用のルーフスイッチが顔を出す。スイッチを操作してから、あえて0.2秒の間を置いてソフトトップが動き出す演出を織り込みつつ、その右隣には前後左右の窓を同時に開閉できる全窓操作スイッチを並べ利便性を高めた。ちなみに、左右のウィンドウを下げた状態でソフトトップを閉め、そのウィンドウが上がりきるまでには筆者の計測で+7秒ほど掛かった。
ソフトトップの作動は油圧式。油圧ポンプはクーペボディの「LC500h」ではハイブリッドバッテリーなどを搭載するリアシートの後部スペースに置かれ、ソフトトップ本体もここに格納される。
開けても閉めても美しいLC コンバーチブルだが、オープンカーを愛車にする1人としてはオープン走行時に巻き込む風の低減や、あえて聞かせるエンジン音などの演出が気になった。
クーペ以上に優雅な走りを堪能できる
ソフトトップをクローズした状態で乗り込む。クーペと同じくGFRP(ガラス繊維強化樹脂)をインナー素材とするドアは、サイズからすればやや軽め。乗り降りする度にGFRP特有の素材柄がさりげなく個性を主張する。
運転姿勢を合わせて改めて車内を見まわす。ここからの景色はクーペと同じ。筆者(身長170cm)にはダッシュボードの高さと長さが気になり、やはりボディ先端の把握に気を使う。シートの高さ調節機構で若干上げ気味座れば多少見通しがきくものの、運転姿勢を崩してしまうのも気が引ける。
試乗車の内装色「オーカー」はとても上品で美しい。ソフトトップはこのオーカーを選択した場合にのみ、「サンドベージュ」(取材車の色)が選択可能だ。
筆者は、この色合いに特別なこだわりがある。トヨタ「ソアラ」が2代目(1986年登場)で採用したベージュ内装を思い起こさせるからだ。本格的にクルマ好きとなり数年が経過したころにデビューした2代目ソアラは数々の先進技術とともに、その優雅な内外装デザインが好評だった。
試乗を行なう前に、4人乗りのオープンカーなので後席にも座ってみた。前席はなんとか筆者が座れる位置なのだが、ご覧の通り足下はきつい。シートは座面こそ面積が確保されているが、ソフトトップの格納スペース確保のためシートバック(背もたれ)は立ち気味。やはりここは、最高に贅沢な鞄スペースとして使いたい。
ソフトトップを閉めた状態で走り出す。静粛性はとても高い。前述の4層(布材3層+吸音材)構造のソフトトップルーフによって、天井を抜けていく走行音も非常に小さく一般道路をゆるゆると流しているとクーペボディと遜色ない。
続いてオープン走行を堪能する。包み込まれる内装デザインと一気に開放された空とのコントラストは気持ちがいい。TFT液晶メーターには光の反射を抑えるAR(アンチリフレクション)コートがコンバーチブル専用に追加されていて、オープン走行時でも見やすかった。
V型8気筒5.0リッターエンジンはグッと踏み込めば咆哮を轟かせるが、477PS/55.1kgfm×10速AT(LS500のAWDとギヤ比/最終減速比は同一)は2000rpmも回せばほぼすべての走行シーンでこと足りる。
意外だったのは、キャビンへ巻き込む風が想像よりも強かったこと。後席中央部分に透明アクリル素材のウィンドウディフレクターが標準で装備され、全窓を上げきった状態で走らせたものの、40km/h付近からキャビン内にそよ風が渦を巻く。この点、クラスや価格、そしてボディサイズが大きく違うが現行型マツダ「ロードスター」は優秀だ。
ラゲッジルームには30Lのスーツケース2個(60Lは1個)や、9.5インチのゴルフバッグが入る。取材車には、そこにディーラーオプションとなるウインドスクリーンが収められていたのでモノは試しにとサッと装着してみると、さきほど感じたキャビンへのそよ風は見事に消え去り、ネックヒーターからの温風も確実に首元へと届いた。ちなみに、このウインドスクリーンを装着したまま前席は倒せ、ソフトトップの開閉もできる。
景色を楽しみながらゆったりと走らせて気付いたのがシート形状の違い。クーペよりもシートに対して身体が沈み込むのだ。調べてみると、座面では13mm、バックレストでは左右7mm、それぞれ深吊り構造がとられている。これにより身体とシートの一体感が高められた。包み込まれるような内装デザインと専用のシート構造によって、LC コンバーチブルはクーペ以上に優雅な走りを堪能できる。
今回は取材時間の関係で、ゆっくり走らせるだけの短時間試乗だったが、じつはクーペ同等の激しい走りを許容するコンバーチブル専用のボディ設計が随所になされている。
サイドステップ位置のパネルはクーペの3層構造からコンバーチブルでは4構造へと補強され、ボディ全体ではパネルの結合をより強固にするため構造用接着剤の使用箇所を増やしている。さらに、スポット打点に工夫を凝らし、クーペよりも打点ピッチを短くしつつ、4枚のパネルを同時に接合するなど新たな技術も採り入れた。
加えて、フロントピラー部分とセンターピラー下部にはガセット(補強版)を追加して曲げ剛性を高め、ソフトトップ格納部位には左右とアンダーのそれぞれのボディパネルを結合するトーションボックス、後輪左右をつなぐリアサスペンションタワーブレースとV字ブレースによるタワーブレース構造で上下、左右、ねじりなど各剛性を一度に高めている。強固な上屋に合わせアンダーボディでは、フロント/センターリアサイド/リアシート下にブレースをコンバーチブル専用に追加した。
クーペで装備を揃えた場合、LC500 Lパッケージ相当になるLC500 コンバーチブルだが、これだけの専用装備(ソフトトップや補強類)を追加して100kgの重量増に留まる(2050kg)。
「ハイブリッドモデルへのコンバーチブル化の声がないわけではありませんが、ハイブリッドシステムを収めていた場所にソフトトップを格納するので難しいかもしれません」(LCチーフエンジニア/武藤康史氏)という。
この先、純粋な内燃機関であるV型8気筒5.0リッターエンジンと10速ATとの組み合わせはとても貴重で希少な存在になっていく。限りある人生、一度くらいは最高の贅沢に心底浸ってみたいものだ。