試乗レポート

レクサス「LS500」だけが搭載するV6 3.5リッターツインターボ、その進化幅をレポート

大幅改良モデルの中から“F SPORT”に試乗

 2020年11月に大幅なマイナーチェンジを行なったレクサス「LS」。標準モデル3グレードと「“F SPORT”」の大きく2本立てとしたグレード構成は新型にも踏襲されている。

 標準モデルとの差別化は数多く、“F SPORT”ではフロントサイドラジエターグリルの大型化とスピンドルグリルのマットブラック化に加え、リアコンビネーションランプを囲うモールをピアノブラック化(光沢のある黒色)した。足下の20インチアルミホイール(ランフラットタイヤを装着)は“F SPORT”専用形状とし、ブラックスパッタリング塗装(黒色の蒸着塗装)を施している。内装では、本革/ウルトラスエードのスポーツシートと8インチTFT液晶メーターを採用したほか、ステアリングのディンプル(穴開き)加工など数々の専用品を用いた。

 過去に筆者は、V型6気筒3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」型エンジンを搭載した「LS 500」に試乗し、公道とクローズドコースの走行性能をレポートした。今回は公道のみだが、一般道路と高速道路を合わせて50分ほど走らせることができたので、従来型との違いと新型が得た新たな魅力を報告したい。

今回試乗したのは2020年11月に発売されたレクサス(トヨタ自動車)のフラグシップセダン「LS」。ガソリンモデルのLS500とハイブリッドモデルのLS500hに、それぞれ“EXECUTIVE”“version L”“F SPORT”“I package”を設定し、この中から試乗車としてチョイスしたのはガソリン仕様の「LS500“F SPORT”」(2WD/1234万円)。ボディサイズは5235×1900×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3125mm
ボディカラーは新規開発となるシルバーの外板色「銀影(ぎんえい)ラスター」。“F SPORT”ではサブラジエーターグリルのガーニッシュをサイドまで回り込ませることで、ワイドなスタンスを強調。これに加え、専用色のスピンドルグリル、20インチホイール(タイヤはブリヂストン「TURANZA T05HAZ」で、サイズはフロントが245/45RF20、リアが275/40RF20)などのアイテムを採用
インテリアカラーはフレアレッド

LS500のみ搭載するV型6気筒3.5リッターツインターボ

 試乗したのは、LSきってのスポーツモデル「LS500“F SPORT”」(2WD)。従来型からカタログスペックに大きな変更はなく、最高出力310kW(422PS)/6000rpm、最大トルク600Nm(61.2kgfm)1600-4800rpmを発生する。

 ただ、細かくみると燃費数値が向上している。従来型のターボエンジンはJC08モード値で10.2km/Lだったが、新型ではWLTC値で10.2km/Lだ。従来からの測定方法であるJC08モードは日本独自の試験方法だったが、WLTCモードは国際的な試験方法として国内外の車両に適応されている。市街地モードや高速道路モードなど、各走行モードを平均的な使用時間配分で構成したのがWLTCモードだ。

 つまり、実際の運転環境に則した試験方法がWLTCモードなので、これまでのJC08モードでの測定値よりもカタログ上の燃費数値は低くなる。一般的にハイブリッドシステムをもたない純粋な内燃機関の場合は、7~9%程度WLTC値が低くなる。新型LS500にはJC08モード値の記載はないものの、その法則に則れば従来型から7~9%程度、実質的な燃費数値が向上したことになる。

 こうした数値の向上もさることながら、じつはこのターボエンジン、昨今のレクサスの中では非常に贅沢で、貴重な内燃機関であるといえる。なぜならば、現時点で「V35A-FTS」型を搭載するのはLS500のみだからだ。

 今のところ、LS500専用のV型6気筒3.5リッターツインターボエンジン。レクサス初となるツインターボ(トヨタ初は1985年の「1G-GTEU」型)を搭載し、同じくレクサス初となる電動ウェイストゲートバルブの採用や、サーモスタットを廃してモーター方式に切り替えた冷却系多機能制御などを導入し、熱効率は38%を誇っていた。

LS500が搭載するV型6気筒3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」型エンジンは、最高出力310kW(422PS)/6000rpm、最大トルク600Nm(61.2kgfm)1600-4800rpmを発生

 今回、丸3年を迎え早くもエンジン各部に手が加えられた。まずはターボチャージャー。トヨタ内製である点は変わりなくタービンそのものも同じ、そして電動ウェイストゲートバルブ制御による過給圧コントロールも従来型と同様だが、新型では制御方法を変更して応答性を大幅に向上させている。

 具体的には、アクセルペダルを踏み込んだ直後、いわゆる加速の初期段階ではアクセルペダルの応答性能を最大化し、そのアクセル開度に求められる目標過給圧への到達時間を短縮。同時に、ウェイストゲートバルブアクチュエーター回転角の全閉時間を長くとり制御を統一し、目標過給圧に到達した時点で素早く必要分だけ開放する。

 体感加速はずいぶんと変わった。大排気量NAエンジン、たとえばレクサス「LC」が搭載するV型8気筒5.0リッター「2UR-GSE」型エンジンのような遅れのない初期応答が得られ、その後、高まった躍度を一定に保ちながら力強い加速が続くようになった。

 ここは従来型と大きく異なり新型が得た魅力の1つ。踏めば速くて力強いが、そこに至るまでには多少のタイムラグがあり、じんわり滑らかな加速感に終始した従来型に対して、新型はアクセル操作に対する応答性が一定かつ素早くなり、軽快さと力強さが増している。

 それは規制速度が40km/hの一般道路であっても、120km/h区間の高速道路であっても同じ。走行状況に寄らずドライバーの操作に対する車両の反応が一定で分かりやすい。こうしたことから、“F SPORT”を名乗るスポーツモデルとの相性も高まって感じられた。

 組み合わされるトルクコンバーター方式の10速ATはシフトスケジュール全般を見直し、出力特性を進化させたターボエンジンとの相性を高めている。レシオカバレッジ8.23と幅広い値が特徴の10速AT(一般的な値は6~7程度)は、クロスギヤレシオと高応答クラッチ制御により従来から評価が高く、「LC500」にも搭載(最終減速比はLS500のAWDモデルと同一)されている。

 新型はギヤ比をそのままに、ドライバーが意図しない運転状況でのダウンシフトが頻繁に発生しないような制御を加えた。走行中のギヤ段の粘り強さとでも表現できる特性で、レクサスではこれを「余裕加速度」と呼んでいる。この制御変更によって、従来型よりも0.75~0.4mm/s 2 、余裕加速度を向上させた。同時に、アクセルペダル操作に対する応答時間を従来の約半分程度にまで短縮し、必要とされるダウンシフト時には素早く対応するようになった。

 こうしたターボチャージャーとトランスミッションの制御変更に加えて、エンジン内部ではコンロッド自体の形状を見直し、ボルトの径を小さくして軽量化を図り、吸気側可変バルブを油圧化するなど応答性を向上。また、静粛性を高めるためにクランクピンの径を拡大してクランクシャフトの剛性を高め、外部に漏れ出すエンジン音そのものを低減させた。

エアサスも変更

 全車標準装備のエアサスペンションにも手が入った。従来型に比べて前輪は減衰力を15%程度弱めつつ、可変ダンパーであるAVSの可変幅を45%程度広めた。後輪では減衰力を8%程度弱めつつ、AVSの可変幅は前輪とは逆に若干狭めた。合わせてスタビライザーのバネ定数をほぼ全域で若干弱めている。これらの変更により、前後席での乗り心地が向上し、前輪では可変幅が増えたことで操舵初期からの応答性が向上している。

 さらに前輪のサスペンションアームを鉄鍛造からアルミ鍛造へ変更してバネ下重量を40%以上も低減させ、同時に前後サスに取り付けられているバウンドストッパの剛性も最適化を図った(AWD全車/2WDはリアサスペンションのみ)。

 こうしたパワートレーンやサスペンションの変化によって得られた“F SPORT”の乗り味は、ドライバーとの高い一体感が特徴で、車体の動きが把握しやすくなったことから、ボディが従来からひと回り小さくなったように感じられた。

 言い換えれば、アクセルペダルに対する反応時間と、ステアリングを切り込んでいった際の車体の反応、そして走行性能向上に特化した20インチランフラットタイヤ、これらの動きが統一されているのが“F SPORT”。中でもツインターボエンジンの大幅な改良は、“F SPORT”の個性を上手に引き出している。

 乗り味は、標準モデルと“F SPORT”で大きく異なるが、今回は時間の関係で“F SPORT”のみの試乗となった。快適性をうたう標準モデル3グレードでは、2019年秋に行なわれたLSの年時改良で19/20インチともにランフラットタイヤの縦バネが低減されたという。

 筆者による標準モデルの過去レポートでも触れているように、ランフラットタイヤの履きこなしはLSの課題であった。今回施されたサスペンションやダンバー特性変更によって相性はどこまで高められたのか、いずれ取材を行なってみたい。

 最後に、先進安全技術。LSには時代の最先端技術が搭載されてきた。2006年の初代には、複眼光学式のステレオカメラ、ミリ波レーダーセンサー、近赤外線センサーと、前方には4つの眼を常に光らせつつ、後続車からの追突に関してもミリ波レーダーセンサーを働かせ、ドライバーのムチ打ち症状を軽減する「プリクラッシュセーフティシステム」を搭載。2代目となる現行の従来型では「Lexus Safety System+A」の1機能として、ブレーキ制御だけで衝突回避が困難で、かつ操舵制御によって回避ができるとシステムが判断した場合に自動でステアリングを制御する「アクティブ操舵回避支援」を実装した。

 新型では、「Lexus Teammate」の一貫として「Advanced Drive」を2021年中に実装する(現在、開発中)。これはドライバーによる運転操作と、システムが構築する安全な運転環境を共存させる「Mobility Teammate Concept」という考え方に基づいた先進安全技術だ。

「高速道路などの自動車専用道路での運転において、ドライバー監視のもと、実際の交通状況に応じて車載システムが適切に認知、判断、操作を支援し、車線・車間維持、分岐、レーンチェンジ、追い越しなどを実現します」とプレスリリースにあるように、SAE自動化レベル3相当の支援が得られる「条件付自動運転車(限定領域)」であることが分かる。

 ご存知の通り、ホンダ「レジェンド」がレベル3の型式認定を受けており、2021年3月末までには実装車が発売される。自動運転技術の開発は協調領域と競争領域、2つの側面で昇華すると言われているが、トヨタ(レクサス)とホンダの競争領域はどんな結果を生み出すのか、今から興味津々である。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。